1-2.※挿絵あり
っておーい!
裏口からすんなりと屋敷に入れちまったぞ……!
鍵くらいちゃんと掛けろよ、不用心だなぁ。
勢いで来ちまったけど、引き返すなら今だぞ俺。
いや、これは千載一遇のチャンスなんだ。
ここまで来たら行くっきゃない!
とりあえず、後で“戸締りはちゃんとしましょう”って置き手紙で忠告してあげよ。うん。
照明が消えた屋敷内は、天気の悪さもあって薄暗い。カーペットの敷かれた床。装飾品や調度品類で彩られた、重厚感のある壁。
俺は初めて見る貴族の屋敷ってやつに、圧倒されていた。
それにしても人の気配が全然ないな。
やっぱり使用人とかも全員不在なのか?
でも、人目を気にせず物色出来るなら好都合だ……!
とはいっても、何から手をつけて良いのか分からず、2階廊下から適当に選んだ部屋に入ってみる。
そこの大きな部屋には、ウッド製の分厚いテーブルや茶革のソファ、キングサイズのベッドがあった。どうやら寝室っぽい雰囲気だ。
火を消したばかりの暖炉もあり、室温はとても暖かい。
この部屋にも色々と飾られてるなぁ。
壁にある絵画や銀製の燭台など、目を凝らして眺める。新品の感じはないが、どれも高価そうだ。
そして気付いたことがある――どれが50ポンドくらいの品なのか、サッパリ分からん。
あまり高価過ぎるものを盗むのは避けたかった俺。しかし、品定めする目がなきゃ、悩むのも当然。
すると、腰くらいの高さの棚上に、額縁に入れられた一枚の写真を発見する。
麦畑を背景にバスケットを抱える、とても可愛らしい長髪の女性だ。
ん〜、なんか見たことあるような気もするけど、この屋敷の娘さんかな?
そんな時――ふと女性の悲しむ顔が思い浮かんできて、無性に自分のしていることが情けなくなってきた。
……何やってんだろ、俺。
俺が財産を失ったことと、この女性や家族は何も関係ないじゃないか。
ダメだ。
やっぱり、空き巣なんて辞めて帰ろう。
正気を取り戻して、邪念を振り払うように首を振り、部屋を立ち去ろうとした。ところが。
「だ、誰かいるの?」
扉の廊下側から聞こえてきた女性の声に、思わずピシッと身体が硬直する。
な、何ーッ!
誰かいたのか!?
え、ヤバい、どどどどうしよう……!?
“何も盗らずに帰るつもりだった”なんて言い訳、今更通用するワケねーぞこれ!
窓から逃げるか!?
ってここ2階だわ!
高鳴る鼓動と震える手先。部屋内を右往左往しながら、どうするか必死に考える。
「誰かいるんでしょ? 開けるよ?」
再び声が聞こえた途端に、俺は反射的に答えてしまう。
「……い、いません!」
うん。
テンパリすぎて終わったわ。
我ながらアホすぎる返答に呆れ返っていたら、部屋の扉がキィという音を立ててゆっくりと開き始めた。
ドクンッ、ドクンッ――迫り来る危機に、心臓がより一層脈打つ。
そして扉の隙間から、箒を両手で握りしめた女性が、こっちを恐る恐る覗いてきた。
よく見ると、その人は写真の女性だった――。