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15-1.人生訓(マエル)

「タイミング悪いんだよアンタはッ! 今マエルと大事な話してんだから寝てなッ!」


 即座にテレさんの怒号が鳴り響く。

 突然の大声に驚愕した私を他所に、目が33になっまているスティーブさんは寝ぼけているのか、「ムニャ」と呟いて、再び寝てしまった。


「テ、テレさん、良いんですか?」


「いいんだよ寝かせときゃ。ここからはダイニングに移動して話そう。正座してんのも辛いだろ」


「は、はい」


 けっこう脚が痺れていたので、彼女の心遣いは有り難かった。

 寝室の扉を開けて、テレさんをダイニングへ通す。テーブル席に着いた彼女は「まだビーフシチューは温めなくていい」と指示してきた。「はい」と返事をして私も着席し、話題に戻る。


「あの、さきほど『気に入らない』と仰っていたのは……?」


「モリス卿のことさ」


「お父さん、ですか?」


 少し間を置いたテレさんがコクリと頷く。


「貴族社会での醜聞を嫌って、カスカリーノ家が無実のマエルを海外にトンズラさせるってのは、安直過ぎやしないかい? 男爵位が聞いて呆れるわ」


「いえ、でも、相手方の誤解を解くことが出来ないから――」


「だからって泣き寝入りすんのかいッ! それじゃ相手の()()()やろがい!」


 遮ってきたテレさんがアイスブルーの大きな瞳を、これでもかと見開いている。


「お、思う壺って、何を仰りたいのですか……?」


「話を聞く限り、どうも“きな臭い”感じがプンプンして仕方がないんだよ。どんな思惑かなんてのは知ったこっちゃないが、明らかにポグバ家の対応には裏があると見たね」


 と、自信満々の表情で応えてきた。

 彼女はまず、今回の婚約破棄騒動が新聞沙汰になってないことへの疑念を抱いていたらしい。


「アンタがうだつの上がらない男爵令嬢だとしても、ポグバ子爵家のキリアンは『セントラルフーズ』の次期社長を担う御曹司だ。最低でも現時点で、地元新聞社が取り上げてても不思議じゃない」


「それに関しては、お父さんが『ポグバ家も世間に恥を晒したくないから、金で穏便にしたんだろ』って推測してたんですけど……」


「世間に知られないよう取り繕ったところで、結局社交界で噂は広まってるんだろ? 妙だと思わんのかい?」


「確かに、そうですね……」


 写真を持ち込んだホテルの受付であるトーマスについても、テレさんは怪しいと踏んでいた。

 不倫をしていた貴族が、不貞現場となったホテルの従業員からリークされる案件は過去に何度かある。私を含めた家族は、今回もその類だと思っていた。


「リークしたトーマスが退職して行方不明ってのも、偶然にしちゃ話が出来過ぎてる。第一、パパラッチとして不貞現場を抑えたいなら、もっと人目に付きずらいホテルを狙うはずだ。そんな駅近のホテルに居たって、簡単にスキャンダルなんか抑えられないだろ」


 彼女の言うことは最もだった。

 さらにトーマスがパパラッチでなかったとしたら、撮影器を受付で所持してることも不審な点だと挙げてきた。

 そうなると泥酔した男性までもが、私をホテルへ誘導するための工作員だったのかも知れない。

 

「とにかくポグバ家がこの件について、第三者からの深掘りを避けてる可能性は高いね。真相を探られる前に、アンタが海外へ行っちまえば有耶無耶で済んじまうが」


 民主化が進んでも、未だに伝統を強く重んじる貴族社会では、婚前性交に対する嫌悪感が根強く残っている。ましてや浮気をやらかした令嬢なんて、娼婦になるか海外に転身する他、生きる道はない。

 そして、私が海外へ行くということは“もはや浮気を認めるも同然だ”、とテレさんが指摘する。


「突然婚約破棄を突きつけられたアンタらは、相当冷静さを失ってるようだね。家族揃って浮き足立ってるようじゃ、色んなことを見落としちまうよ」


 痛烈なアドバイスを受けた私は、反省するように俯いた。

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