4-2.
「どういうことだ?」
「だって、私のお腹には……すでに“新しい命”が宿ってるんですもの」
あまりの衝撃的な言葉に、目を見開いて尋ね返す。
「……な、何!? いつわかったんだ!?」
「生理が来なくなった、つい最近よ」
そう言って、にんまりと笑うグレイス。
眉間に力を込めて「確かに俺の子なのか?」と念押しで問う。彼女は深い吐息を漏らして、ガックリと肩を落とした。
「貴方以外に誰がいるのよ……」
「そ、そうか」
粗悪品が紛れていたのが、今となって仇になったようだ。不本意ではあるが、こうなった以上は責任を取らなければならない。
「……産婦人科の診断もちゃんと受けたわ。いいじゃない。ポグバ家にとっても、うちとの婚約なんて願ったりでしょ?」
「まぁ、確かにラクラル伯爵家となら、父からしても申し分ないけどな」
両手を後ろについて投げやりな言葉を放る。すかさず眉を顰めたグレイスが、見下ろすように冷たい視線を送ってきた。
「ねぇ、何なのその態度? けどって何よ? まさか、まだ『マエルに未練がある』とか言いたいわけ?」
「……彼女を愛してたのは事実だ。裏切られたこの悲しみは、お前なんかに解らないさ」
執拗に探ってこられることに苛立ちを覚え、睨みつけてくる視線から顔を背けた瞬間だった。
「知らないわよそんなのッ!」
とグレイスが叫び、俺の両肩を強く掴んで強引に向き直させてきた。
「いい加減、あの女に幻想抱くのやめてッ! 言ったでしょ!? あいつは“私の男を奪った小悪魔”だって!」
「が、学園時代の話だろ……! そんな昔の話、持ち出すなよ」
「昔だろうと関係ないわ! 貴方が私を抱いたのは、マエルに愛想を尽かしてたからなんでしょ!?」
「それは違う。元はといえば酔っていた時に、お前から誘ってき――」
「ふざけないでッ! 私をその気にさせてきたのは、貴方の方じゃない! 大喜びで私の身体を散々グチャグチャにしてきたクセに、今更『酔った勢いで』なんて言わないでくれる!?」
徐々にヒートアップしていく彼女の腕を掴み、軽く押し返す。
「お、落ち着けよ! もう、わかったから……」
「何にもわかってないッ! 何度も何度も……人目を盗んでまで、身体を重ね合わせてきたのに」
突然グレイスが手で顔を覆ったかと思いきや、今度はしくしくと泣き始めた。
「キリアンの頭に、あの女がいることに我慢出来ないの。今話した妊娠のことだって、貴方の喜ぶ顔が見たかったのに……『俺の子か?』なんて……酷過ぎるわ……」
「すまん……。も、もう、マエルのことは忘れるよ」
「私、貴方のことが愛しくて愛しくて、たまらないの……だからお願い、私だけを見てよ……」
「グレイス……」
「頭がおかしくなるくらい、いっぱい愛してよ……! そしたら、誰もが羨むこの身体で……一生貴方のこと、癒してあげるから……」
潤んだ瞳で切望してくるグレイスを、手繰り寄せて強く抱き締めた。
小刻みに震える彼女の頬に手を添え、濡れたまつ毛を親指でゆっくりと拭う。そして、開いた彼女の眼を見つめながら、俺は小さく囁いた。
「愛すると誓う……だ、だから、結婚しよう」
涙目でコクリと頷くグレイスと唇を重ね、濃密に絡ませ合う。
首筋に舌先を這わせると、力みの抜けたグレイスが、俺の顔へ胸を押し付けるように上半身を預けてきた。
その滑らかな肌触りと、いつまでも埋めていたくなる柔らかさが、再び俺の下半身に活力を与えてくれる。
「あん……」
グレイスが艶やかな声を上げると同時に、彼女のくびれた腰に腕を回し込んで、力強く引き寄せた――。




