答え合わせ 1
いつもは目覚まし前に起きる習慣があるけど、今日は珍しく時計に起こされた。それだけ夢に夢中だったってことかな、夢だけに。
パソコンをつけっぱなしで寝てたか。スリープモードを解除すると俺が調べあげた東風晴海殺人事件のいくつかの記事。当時のSNSで上がった実際の写真。そして人気投票で二位になっていたやつが一位になって大炎上、ドラマの主演の話がなくなった件。結局実力のある風間さんがやることになったわけだ。
俺は予定通り出勤した。すると添田さんがまた休みだという連絡があったと総務の人からのメモが貼ってあった。俺には連絡来てないな。仕方ないので俺は一人で収録を始める。どうせこの後チェックが入るから収録は先に進めて問題ない。
そして一人でできるところまでは終わらせてこの先のスケジュールをチェックする。ゲスト出演も近い、この辺のやりとりは全部添田さんがやってる。今日ぐらいには先方との打ち合わせの調整をしなきゃいけないんだけど。アプリを使ってメッセージを送ってみた。
『お休み中すみません。ゲストの方との日程調整はお任せして大丈夫ですか』
午前中に送って返事が来たのは定時頃だった。アプリではなく電話だ。連絡が遅くなって申し訳ないということと、日程は明日朝一で自分がやるとの事だった。そしてその続き。
「悪い、ちょっと個人的にお前に相談したいことがあって。今日この後空いてる?」
「大丈夫ですよ」
「たいした話じゃないんだけど。じゃあ今から会社の入り口前まで行くわ」
「分りました」
来るって事は体調不良で休んだわけではないみたいな。
そりゃそうか。
タイムカードを切って会社の外に出る。少し離れたところに添田さんがいて手を振ってきた。
「ほんとに悪いな。ここで話ってのもアレだからそうだな。近くに公園があるからそこに行くか」
適当な話をしながらその公園に着くと、ベンチ以外ほぼ何もなかった。ブランコは枠組みだけ残されて漕ぐところは全て撤去されている。ベンチも結構な高さの雑草が生えていてとても使えたもんじゃない。
「公園の遊具で怪我をする子がいるから、ほとんど撤去されちゃってさ。今じゃ地元住民も誰も利用してない。廃墟みたいな雰囲気で不気味だから人通りも少ないし、話するにはもってこいかなって思って」
「なるほど。それで話って?」
俺の問いかけに添田さんはちょっと言い淀んだ。話しづらい話題だから言葉を選んでるって感じ。
「お前がどう思ってるのかは知らないけど……俺は結構明石さんの件がショックで。恨まれる人じゃないしなんで殺されたんだろうなと思って」
「一応聞きますけど、お前が犯人だろっていう展開じゃないですよね?」
「まさか。ただなんて言うかその。もうぶっちゃけるとさ、俺明石さんのことが好きだったんだよね。だからあの人が死んだのが信じられなくて。本当に何も変わったことなかったのか聞きたかったんだ。俺は休みだったから最後に会話したのでお前だろ」
「そうですね。六年前の東風晴海殺人事件について話してましたけど、本当にそれだけです」
「具体的にどんなこと話したんだよ?」
「聞いてたでしょ」
「え」
俺の言葉に添田さんはポカンとする。はい、と総務からもらったお土産を手渡した。賞味期限が昨日で切れた饅頭。
「俺と明石さん、二人分貰ったら総務の人に言われたんですよね。三つ取っていいですよって。添田さん休みです、って言ったら驚いてました」
"え、そうなんですか? さっき見た気がするんですけど"
「聞き耳立てるなら盗聴器でも置いてくださいよ、行動がアナログ過ぎるでしょ。今時盗聴器なんて千円もあれば買えますよ、アキバとかネットで」
脳筋か、と呆れる。何で人目につく行動をするかな。会社に入れば記録が残るだろうに。夕方だけ出勤するつもりで来て、慌てて帰ったりするから。何食わぬ顔でそのまま出勤すりゃいいのに。
「な、なん」
「蒸し返して欲しくないのに明石さんと俺がその会話してた。本当に何もなかった明石さん殺して、何やってんですか」
呼び出すのは簡単だったと思う。なぜなら恋愛感情を抱いていたのは明石さんの方だったからだ。好きな男に呼び出されたらどこにでも行くだろう。
「三人で六年前の事件話した次の日休みましたけど。仲間の殺人犯と連絡でも取ってたんですか、何か身の回りで変わったことはなかったか、って」
「待てよ、お前」
「特にSNSは一日がかりでチェックしないと大変なことになりますからね。余計な波風が立てばまた事件の真相を解明しようなんていう探偵気取りのファンが出てくる。って事は結構いい線までいった推理が当時あったってことですか?」
「だから待てって! なんでそういう話になるんだよ!?」
スマホを取り出して写真を見せる。昨日風間さんから送ってもらった二人で撮った写真だ。帰るふりをしてぐるっと回ってもう一度店の中に入って写真をもらった。