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八月の紫陽花  作者: aqri
ファンの心理
4/19

「どうしたんですか」

「最近ウチんところも増えたんだよね、自分の推しじゃない相手の悪口とか」


 ほら、とスマホを見せてもらうと想像でしかないようなプライベートに関する悪口がたくさん書かれている。どうせ彼女いるんだろうとか、内容が稚拙すぎるもの。これ書いてるの小学生かよと思うくらい幼い。


「こういうのは嫉妬だよねって思うようにしてるんだけど。さすがに……さっさと死ねばいいのに、とかそういうのはちょっと見過ごせないよなぁ」


 チラリとみれば確かに、結構過激な内容も書かれている。その中にチラッと見えた「東風を殺した死神に」という一文。死神?


「今ちらっと見えたんですけど、死神って何です?」

「ほら、昨日話したじゃん。東風晴海の事件」

「首だけで見つかって、犯人捕まってないやつですよね」

「そうそう。実はこれには続きがあって。メディアとかでは触れずに水面下で噂されたことなんだけど。アイドルを殺す死神がいるって話」


 なんだか一気にオカルトっぽくなったな。それが顔に出たわけでもないのに、明石さんは苦笑いする。


「当時アイドルとか芸能人が亡くなるケースがちらほら増えてたみたい。だからみんなの妄想が膨らみに膨んで、こんな噂が立つようになったの」


 人気があるアイドルは殺される。推しを殺す死神がいる。


「私から言わせると芸能界で自殺者が出るのってそんなに珍しいことでもないよ。SNSが発達して一般人からの罵詈雑言が本人に直接届くようになっちゃった。そりゃ精神もおかしくなるでしょ」


 聞けば亡くなっていた芸能人やアイドルは別にそこまで人気が高かったというわけでもないらしい。ごく普通、売れているわけではないがそこまで下火というわけでもない。たまにドラマで見るよね、という程度だ。

 共通するのはテレビではなくSNSの活動に力を入れていたということ。動画配信や会員制のグループなど事務所の許可がおりる範囲で個人活動をやっていたらしい。テレビで見るよりも素顔っぽいものが見れると、そちらのファンが多い傾向だったみたいだ。なおさらファンとのつながりが濃いから、ってことか。

 それが東風晴海の死によって無理矢理自殺者等を結びつけて、アイドルを殺している殺人鬼がいるんじゃないかという妄想にたどり着いたわけだ。そうすると違う願望が生まれる。


自分の推しが人気ナンバーワンになれるよう、その上にいるアイドルを殺してくれないかな。


「人間の欲望って尽きないですね」

「まあね。あったらいいな、じゃなくてこうじゃなきゃおかしいっていう決めつける考え方になるみたい」


 明石さんは推し活をしていてもこの辺が冷静だと思う。自分が推し活に使う限度額は決めているらしいし、理想と現実の線引きがきちんとできている印象だ。


「悪用しないけどこういう仕事してると、他のアイドル事情とか情報が見られてちょっとラッキーだわ。マイナスの情報多いけど、私のタカみんは頑張ってるんだなあってわかるからね」


 ウキウキと楽しそうに語る。彼女にとって天職なのかもしれない、プライベートと仕事きっちり分けている人だから。明石さんは俺をチラリと見るとこんなことを聞いてきた。


「ちなみにさ、推しとかいないの?」

「俺は特にないです。なんかみんな同じ化粧して同じ格好して特に区別がつかないから」

「おじいちゃんじゃないんだから」


 ケラケラと楽しそうに笑うと休憩時間が終わったので再び二人で黙々と仕事に取り掛かる。さっき言った事は俺の中ではゆるぎない真実だ。化粧も同じ、体型も同じ、同じような衣装を着て同じような声で歌う。皆同じだ、区別なんてつかない。そこら辺を歩いていても気づかない。一番売れている奴のコピーが量産されているだけ。


『大人数のアイドルグループなんてカラオケレベルで十分だ。プロのアーティストの歌唱力に勝てるわけないだろ、そこで勝負なんてするだけ無駄だ。最初は歌で売ってバラエティに出て、人気がある奴だけを芸能界で仕事させるための大人数だ。ランクが低い奴らなんて最初からあてにしちゃいない』


 耳に残るあいつの言葉。アイドルのプロデュースなんてしてるんだからそりゃそうなんだろう。最初からそれが狙いで十人以上の大人数でアイドルグループ複数作っていたのだから。


「どうしたの、手止まってるよ」


 指摘されてはっとする。


「すみません、ちょっと昔のことを思い出して。俺の知り合いで芸能事務所で働いてる奴がいたんです。そいつはマーケティングとかマネジメントがうまくて、この辺の事情も詳しかったなって」

「そうなんだ? その人から六年前の事件とか聞かなかったの?」

「俺がアメリカに行く前喧嘩別れしたもんで、全然連絡とってないです」

「そっか。その人とまだ連絡取ってるならアイドルに関してちょっと勉強してみたらって言おうかと思ってたんだけど」


 言っている意味がわからず「はい?」と言うと明石さんは少し苦笑いを浮かべながら自分のスマホを見せてくれた。そこには過激な推し活についての記事が載っていた。

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