答え合わせ 2
そこには俺たち二人の後ろにうっすらと映る添田の顔。明るさを変えてはっきりと見えるように調整してある。隠れているようで、顔が丸見えだ。「よく撮れてるでしょ」、「確かに」
二人で写真を見ながら、はっきりと写っている添田の顔を眺めていた。
あの時風間さんが「壁に耳あり障子に目ありってね」という話をしてから写真を撮ろうと言われたからピンときた。要するにすぐ身近に変な奴がいることに彼は気づいていたんだ。
明石さんを殺して俺がどんな行動するか気が気じゃなかったんだろう。完全なサイコパスでもない限り人を殺してしまったら動揺するに決まってる。たぶん今回は突発的で証拠隠滅もままならない状態だ、警察がこいつを犯人と特定するのはたぶんあっという間な気がする。
「明石さんを殺した理由、当ててあげましょうか」
普段無口で雑談をしない俺がペラペラ喋るのが信じられないのか黙り込んでしまった。
「推し活と違って恋愛は一対一のコミュニケーションが成り立つ。だから当然生まれるのは駆け引きですよ、自分にもっと興味を持って欲しい。だからこんなこと言ったんじゃないですかね」
「六年前の事件犯人はまだ捕まってないけど。意外と身近なところに居るもんよね。え、こいつ? みたいな」
「明石さんからしたら本当に何の気なしに言っただけ思います。他人の不幸を笑い飛ばす話題の方が盛り上がりますから。でもあんたは気が気じゃなかった。お前のことわかってるから、って言われてるように捉えたでしょうから」
なんで今更むし返すんだ、やっとみんなの記憶から消えてきたのに。アイドルの人気投票なんてやれば何度でもこの手の話題は上がるけど、いつかみんなが忘れていくと思ってるのに。こんな身近にわざわざ掘り起こす奴がいるなんて。って、思うのが普通だ。その程度のことでもう一人殺そうなんて普通は考えないけど。
「なんなんだよお前、さっきから何言ってるんだよ。結局お前何が言いたいんだよ!?」
呼び出したのそっちなのに。人気のないところにわざわざ。
「俺が知りたいのは、東風晴海を殺したのは一体誰なんだってことなんだよね。俺と明石さんの会話聞いてたなら、俺に芸能関係の知り合いがいるっていうのも知ってるだろ。これ、晴海のことだから」
意外な事実だったんだろう。添田は面白いくらいに目をまん丸にしている。そして何かを叫ぼうとしたらしく大きく口を開けたが、俺が先にしゃべった。
「殺したのはあんた、じゃないんだよなこれが。東風の腹にナイフをブッ刺したのはお前だけど。死んでないんだよ。だからお前がやったのは殺人『未遂』だ」
「は? え?」
俺はTシャツをめくって腹を見せる。そこには今でもナイフの跡が残っている。ちゃんとした治療してないから、はっきりと残ってしまった。
「改めてこんにちはクソ野郎。六年前よくも俺を殺しにかかってくれたよな」
アイドル、東風晴海の声。こっちが地声なんだけどな。派遣としての俺はいつも少し低めの声で喋ってたから。
「わけわかんねえよ! 俺は確かに東風晴海を殺した !パニクって一回逃げたけど、戻ってきた時はちゃんと死んでた、心臓も止まってた、確認した! お前のわけねえだろ!?」
「自白ありがとう。録音しといてよかった」
ポケットに入れていたボイスレコーダーを見せながらそう言うとやっと顔面蒼白になった。遅すぎるだろ、どんだけ鈍感なんだこいつ。
「戸籍上の本物の東風晴海が首だけになった奴、晴海の指示でアイドル活動してたのが俺」
前髪を上げてウェットティッシュで顔につけていた暗めのメイクを落とす。漫画みたいに別人のようになったわけじゃないが、前髪で目元を隠してメガネしてメイクで陰影つけるだけで人間の印象が変わる。まして日本人は相手の顔を見てしゃべるのが苦手だ。俺の方が身長も低いからこいつは俺の顔なんて見ちゃいない。仕事はパソコンを見ながらやってるからだ。
アイドル好きな明石さんだって気が付かなかったくらいだからな。まあテレビに出てた時は、アイドルらしく見えるメイクをしていたってのもあるけど。誰も他人に興味なんかないんだよ。相手の顔を見ているようで全く見ていないし、記憶にも残ってない。
俺の顔を見て添田は怯えて尻餅をついた。リアクションすごいな、そりゃそうか。殺したと思っていたやつが目の前にいるんだから。
「デビューして二ヶ月目まではあいつが活動してた。でもアイドルグループをどこまで上に持ち上げられるか、ゲーム感覚でマネジメントする方が面白くなったらしい。それで活動休むかさっさと脱退するか迷っているときに俺と会った」




