婚約者が俺のことをバカ王子と呼んだ件
『王国の若獅子』の異名をもつ第三王子、ライアンには悩みがあった。
「婚約者が俺のことをバカ王子と呼んだのだ」
王子に悩みを相談された騎士ノウキンと魔術師レデンツは顔を見合わせた。幼少期からライアンの学友だった二人は、信頼できる側近だ。
「殿下、それは惚気でございますかなッ!」
騎士ノウキンは、声が大きい。
「声量を下げてくれ、耳が痛い。というか、バカ王子と呼ばれた話が惚気? え、どこが……?」
「あれです、『もう、殿下ったら。バカぁっ……♡』……的なッ!」
「もっと声量をおさえてくれ。話を戻すが、リミリアは俺をカエルでもみるような眼でバカと言ったのだ。しかもその後、気絶した」
リミリアというのは、ライアンの婚約者だ。
公爵家の令嬢で、ひとことで言うと可愛い。
婚約は、最近したばかり。
まだあまり互いを知らないが、リミリアがライアンを見る眼には、王族への敬愛の念があった。
それが急に「獅子だと思っていた生き物がカエルだった」みたいな眼になったのだ。目に見えて好感度が下がったのだ。
「殿下はその後いかがなさいましたかなッ!」
「リミリアを医者に任せた。そしてお前たちを呼んで、今に至る」
「バカですね」
魔術師レデンツがスパッと言い放つ。
「なっ、なんだと」
「おや殿下。ご気分を害されたのですか? ですが、言われた言葉を気にするのはいいとして、リミリア嬢のご体調は心配なさってないのですか? うわ、最低」
「し、心配もしてる! 当然ではないか!?」
「本当に? 行動で示してほしいですね」
ライアンは顔を赤くして拳を握った。
「お、俺は今から見舞いにいく!」
「うおぉ、ついて参りますぞッ、護衛ですからなッ!」
騎士ノウキンはちょっと暑苦しかった。
* * *
公爵令嬢リミリアは、公爵家の自室で休んでいた。
応接室で待たされながら、魔術師レデンツは微妙な顔になった。
「考えてみたら、王族が突然訪問して『病床の令嬢に会わせろ』と圧をかけるのってどうなんですかねえ。迷惑じゃね?」
「お、お前、止めなかったではないか」
「やだなぁ殿下。ご自分の判断で『あっ、相手に迷惑かな~』って考えたりしなきゃ」
「そ、それはそうだが、止めてくれてもよいではないか」
ライアンは凛々しい眉を下げた。両手の人差し指をつんつんと合わせながら。
「俺はお前を頼りにしているから、次からは頼むぞ」
それを見て、騎士ノウキンが邸宅中に聞こえそうな大声で吠える。
「しっかりなさってくださいバカ殿下ッ! それでは獅子ではなくワンコちゃんですぞッ!!」
やめてほしい。恥ずかしい。
「おい、ノウキン。お前、今俺のことをバカ殿下と言ったか? 罰するべきか?」
「殿下には耳掃除が必要ですかなッ? 若獅子殿下と申し上げたのですがッ?」
「いや、お前はぜったいバカと言った」
ギスギスした空気の中、リミリアがやってくる。
健気に身支度をととのえて、カーテシーと呼ばれる伝統的な礼を綺麗にして敬意を伝えてくれる彼女は、ライアンの心をふわふわと癒してくれた。
「殿下、お待たせいたしまして申し訳ございません」
あ~~、可憐な声だ。どうしてこんな可愛い声が出るのだ。ずっと聞いていたい。
宝石のように美しい瞳が自分を見ている。
ライアンはどきどきした。
しかし、気のせいか。その眼差しには昨日まではなかった「バカが来ちゃった。困る」という感情がチラチラしていないか? 気のせいかな?
「いや、リミリア。俺が突然訪問して困らせた。すまぬ」
ここだ。ここで伝えるべきだ。
俺のことバカだと思ってる?
バカでごめんね、心配したんだよ、俺のこと嫌いになった? って。
「俺はしししし」
心配という言葉が出ない。これはだめだ。ライアンは視線を逸らした。別な言葉でいこう。
「おおおおお」
「殿下? 塩でございますかッ? 俺は塩ッ? 殿下は塩になりたいと?」
「塩対応を詫びると仰りたいのかも」
側近二人がうるさい。
リミリアは眉をよせ、三人にカモミールティーをすすめた。
「気持ちが安らぐお茶でございます、どうぞお召し上がりください」
お茶はおいしかった。でもこれ、遠回しに「落ち着け」と言われてないか?
「はぁっ、……俺は心配したのだ。塩対応を詫びるのだ。俺を嫌わないでほしいのだ。お茶は美味なのだ」
ライアンは気持ちを落ち着かせながら言葉を選んだ。
「殿下、バカっぽくていいですよ」
「頑張ってお話なさっているのですなッ!」
側近二人が面白がっている。リミリアはというと、驚いた様子だ。
「貴き殿下にご心配をおかけして申し訳ございません。殿下の気持ちを曇らせてしまうなんて、わたくしは婚約者失格ですわ」
「あっ、これ『ですから婚約者やめます』ってなる流れですよ」
魔術師レデンツが小声で怖いことを言う。やめて。ライアンは哀しい気持ちになった。
「そのようなことはない。リミリアは婚約者として合格だ!!」
「その言い方は偉そうで好感度下がりません? 合否判定するのは殿下ではないのですよ。殿下たちの婚約は国王陛下が定められたのですから。そういうところバカって言われるポイントですよ」
魔術師レデンツがすかさず口を挟んでくる。
「はい、失格なのは俺でしたっ!!」
思わず丁寧語になるライアンに、リミリアはびっくりしている。
「はい。あ、いえ」
今の「はい」、さては本音だなリミリア? ライアンはショックを受けつつ、見舞いの品とメッセージカードを渡した。
『俺がバカですまない』
側近二人と相談して書いた直筆メッセージを見て、リミリアが笑顔を凍らせている。笑顔が崩れないのは、優れた令嬢教育の賜物だな。素晴らしい――ライアンは感心しつつ内心で詫びた。リアクションに困らせてごめんね。
「わ、わたくしがバカと申し上げたのを気になさったのですね。失言でした」
「い、いや。俺がバカですまぬ」
「いえいえ、わたくしがすみません」
「いや俺が」
「いえわたくしが」
はー、この謝ってくれる優しさが全身の毛穴から大腸まで届く。寿命が伸びそうだ。ライアンは思った。婚約者は俺に効く。幸せにしてくれる。健康にいい。万病が治る。すごく良い。
魔術師がカンペを見せてくる。
『あんまり謝罪合戦してても良い印象つきません。ここはひとつ甘い言葉でグッと迫りましょう』
カンペを出すならもっと具体的に書いてほしい。
甘い言葉でグッと迫れと言われても困る。ライアンは心底困り果てながら頑張った。
「リミリア・マイエンジェル。俺を捨てないでほしい。俺、頑張るから」
「まあ、殿下……捨てるだなんて……マイエンジェルって。懐かしい。殿下のセリフがちょっとダサいってネットで笑われてましたっけ」
リミリアが俺に理解できないことを言っている。
ダサいって、ネットって、なに。ライアンは困惑した。
「マイエンジェルだって」
「精いっぱい格好つけたのですなッ!」
側近二人の反応はイマイチだったが、リミリアは笑ってくれた。なので、このお見舞いは成功です! ライアンはそう結論付けた。
自室に引き上げての反省会で、ライアンはニマニマした。
「リミリアは可愛かった」
いい匂いがした。令嬢ってなんであんなにふわふわキラキラしていて可愛いのだろう。砂糖菓子でできたお花のようだ。
あの綺麗で可愛いお花は、俺のなんだ。やったぜ。
「俺のお花、マイフラワー・リミリア……俺、頑張るよ……!」
側近たちには、生暖かい目で見られた。
* * *
後日。
「俺はバカ王子をやめたい」
側近を呼びつけ、ライアンは切なくため息をついた。
上品に座すライアンの部屋は、足の踏み場もないくらいの本が置かれていた。
「知性とは何か。人間の品格。5歳でもわかる道徳。紳士の振る舞い入門。もて男テクニック」
魔術師レデンツが本を拾い上げてはタイトルを音読する。
「やめろ、恥ずかしくなる」
「努力を恥じてはなりませんぞッ、殿下ッ! ですが、この汚部屋っぷりは侍女に『あのバカ王子、だらしない。片付ける側の立場にもなってほしい』と嫌われますぞ!」
騎士ノウキンは散らばった本をせっせと拾い上げ、本棚におさめてくれた。自分も一緒になって本を本棚におさめつつ、ライアンは側近と作戦を練った。
「殿下、お相手の好みや地雷を把握しましょう」
「そうだな!」
「殿下、贈り物をしすぎです。それより直接お会いになってコミュニケーションを取ってください」
「そ、そうだな」
「会って好感度を下げるのが怖い、みたいな怯えと逃げの姿勢が感じられますよ」
「くっ……そ、そんなことないのだ」
ライアンはせっせと公爵邸に通った。
「ライアン様、目の下に隈ができていますわね」
「リミリアに会う時間を増やそうと思って、政務をガッと片付けてきた」
「睡眠時間を削られたのですか? ご無理はいけませんわ」
リミリアは純白のシルクのハンカチを冷やして目元にあててくれる。優しい。
「わかった。俺、無理しない……それに、浮気もしないぞ」
「あら、構いませんのよ」
「しないっ」
「殿下は可愛い方ですわね。王子様なのに女性に耐性がない感じで、ちょろいとネットでも評判で……こほん」
リミリアは時折、意味不明なことを言う。過去形で思い出を語るようにする。
「君のことをもっと理解したい」
ライアンは好奇心をそそられた。
すると、リミリアは不思議なことを語り始めた。
前世で異世界人だったとか。男子たちとの仮想恋愛を楽しむゲームがあったとか。
「わけがわからなかった。お前たち、わかるか」
自室に引き上げて側近二人と情報共有すると、騎士ノウキンは「わかりませんッ!」と胸を張る。では魔術師レデンツは?
「殿下、異世界うんぬんは重要ではありません」
「なにっ? 異世界、重要ではないのか」
「未来予知したようなものだとイメージなさってください」
「ほ、ほう。前世が未来。頭が痛くなる」
「小難しく考えないでくださーい。要は、殿下がこれからやらかすんですよ。それを知っているので、リミリア嬢は『殿下がバカだ』と思っておられたのです」
「おおっ、……なるほど?」
魔術師レデンツは紙に情報を書いていく。
「彼女が知っている未来の出来事をひとつひとつ考察しようではありませんか」
ライアンは「ふむふむ」と騎士ノウキンと一緒に紙を見た。
レデンツが語る。
「秋。収穫祭でリミリア嬢と喧嘩して腹いせに聖女とデートをする。リミリア嬢といると疲れるが聖女といると癒されると発言する。……絶対だめです、なんでそんなことしちゃうんですかバカ殿下」
「だめだな、俺」
「聖女とやらは、これからオレが召喚するらしいですが。研究中の魔術を試したら召喚できちゃった、ってオレ天才ですかね」
「レデンツ、聖女が原因で破局するのだろう? 召喚やめてほしい」
「やめときます」
聖女の召喚を未然に防ぎつつ、話は続く。
「冬。戦争がはじまり、なぜか殿下は聖女と前線に行って仲を深める。なんで? バカ殿下? なんで?」
「俺にも俺がわからん。とりあえず戦争が起きる前に外交で解決したいな」
「戦争は、北方の国が貧困で冬を越せなくて追い詰められて南下してくるのがきっかけだそうですよ」
「北方かあ……援助しよう。助け合おう。というか、攻めてくる前に頼ってほしいのだ……人道支援するからさ……友好的にしようよ」
「急いで手配しますね」
戦争を回避しつつ、まだ話は続く。
「春。戦地から戻った殿下、なんと聖女を孕ませている。はあ? そしてなぜかリミリア嬢に『聖女に暗殺者を手配したのはお前だな』と言いがかりをつけて一方的に婚約破棄……う、うわぁ……最低」
「そ、そんな目で俺を見るな!? それ、俺ではない……よな? あれ? 俺?」
ライアンは混乱した。そこに、手袋が投げつけられる。ぺしっと。
「殿下ぁあああ、見損ないましたぞおお!! その腐った性根、叩き直してくれましょう!!」
騎士ノウキンだ。とても怒っている。
「俺ではない!」
「ご自分の罪を認めようともなさらぬとは、このクズ!」
「お、お前、主君をクズ呼ばわりするとは……許すけど!」
「許すんですか」
二人は修練場で剣を交え、夕暮れまで汗を流した。
「殿下への忠誠も本日限りッ!! 実は以前からリミリア嬢に憧れておりましたッ! かくなる上は、殿下を弑して駆け落ちいたす!!」
「お、お前、リミリアに懸想していたのかっ、ノウキン――――!!」
衝撃の真実、発覚!
「なにやってんだ」
魔術師レデンツがリミリアを呼んで観戦している。
「リミリア嬢、焼きトウモロコシいかがですか? 小皿に盛りますね」
「あ、ありがとうございま……?」
「あんなバカ王子ですが、良いところもあるんですよ。捨てないでやってください」
「あっ、殿下は可愛らしい方だと思っております……今も一生懸命で……」
「アホの子カワイイってタイプでしたか」
「まあ、そうですわね」
焼きトウモロコシの香ばしいタレの匂いがする。美味しそうだ。
「レデンツ! お前なに抜け駆けしてるんだ! あっ、おい、肩を抱くな。処刑するぞ!?」
「レデンツ! 裏切ったなッ!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎながらも戦いをつづけて、やがて二人は並んで修練場に倒れ込んだ。勝負は引き分けであった。
「はぁ、はぁ」
「ぜえ、ぜえ」
汗まみれで荒い息を繰り返しつつ、視線をあわせて拳を突きだせば、土まみれの拳がコツンと軽く合わされる。
殴り合いで深まる男の友情というやつだ。
「良い勝負であった。マイ・ソウルフレンド・ノウキン」
「殿下……見事なパッションでございましたッ!! これよりこのノウキン、改めて忠誠をお誓いいたします……!」
「お、おつかれさまです」
見守っていたリミリアが一生懸命に拍手して、ハンカチで汗をぬぐってくれる。
ふわりと鼻腔をくすぐる、甘やかな匂い。
澄んだ瞳が自分を見つめている。近い。呼吸してはいけないのではと思ってしまうほどの距離感だ。
「殿下。何があったのか、魔術師レデンツ様からお伺いしましたわ。わたくしの言動で殿下のお心を乱してしまい、申し訳ございません」
「えっ、ああ、いいのだ。おかげで戦争も回避できるのだ」
ライアンは慌てて言葉を選んだ。
「無知は罪である。我が国は北方の苦境を知らず、戦争が起きるところであった。戦争が起きると、互いの民が最も被害を受ける。かけがえのない命を散らすところであった」
そう考えると、リミリアの前世だか未来予知だかの知識はとても素晴らしい。
ライアンがそう語ると、リミリアはうるうると瞳を潤ませた。
「ああ、殿下。あなたは本当に、民を守ろうとして前線で休戦を呼びかけ続けたライアン王子殿下なのですね……」
「なるほど、俺はそんな理由で前線に行ったのか。しかし思うのだが、そのゲームとやらは乙女の娯楽のために創られたという割りに随分と重い内容で、殺伐としているのだな」
「アールジュウハチでしたから」
「また知らない単語がでてきた」
「殿下と聖女は媚薬を盛られてはじめての関係を……」
「待ってくれ。そういう話はやめよう」
なにを言い出すのか。ライアンは赤くなった。異世界の乙女たちは俺の房事を楽しんでいるのか?
その先は聞いてはいけない気がしてならなかった。
「俺が愛しているのはリミリアだ。た、例え薬を盛られても、俺は他の女性に手を出したりしないと誓うっ……ぜったい。必ずだ……!」
視界の隅で側近二人が謎のハンドサインを送っている。
なんだあれ。
見ていると、二人は抱き合ってキスをする仕草をしてみせた。
な、なにい! 俺に一線を越えろというのか!
「……!!」
「殿下?」
ムードとか、あるだろう。段階とかあるだろう。
キスなんかしたら、歯止めが利かなくなって押し倒しちゃったりしそうではないか。
『いきなり強引に迫るなんて、ケダモノ!』と嫌がられたら生きていけないぞ!
でも、したい。
ライアンは悩みに悩んで、飢えて困り切った野獣のような眼を向けた。
「き、キスしたいが、構わぬか! 嫌ならしないっ……!! いや、する……!! 嫌がっても俺は、もう――、するっ!!」
「おおっ」
側近二人が盛り上がる中、ライアンとリミリアのシルエットがひとつに重なる。
ぐい、と顔を寄せてキスをした先は……頬だった。触れた瞬間、甘美な喜びが全身を駆け抜ける。
キスした。キスしてしまった!! 頬に。ちゅって。やってしまった!
「好きだ、リミリア」
リミリアは頬を上気させ、春花のように初々しく微笑んだ。
「わたくしもです……一生懸命でまっすぐなライアン殿下を、慕っております」
リミリアが神聖な祝福を授けるように額にキスをしてくれる。
う、うわあああああっ! 彼女が俺にキスを……!!
ライアンは幸せでいっぱいになった。感激のあまり、目と鼻から汁が出そうだ。
「へたれ」
「微笑ましくてよいではございませんか」
夕映えの中、側近二人がそうコメントしていた。
* * *
そして、季節はめぐる。
「お父様~! お兄様と一緒に花冠をつくったの」
リミリアによく似た幼い娘が、息子と一緒に可愛らしい花冠を差し出してくれる。
「ふたつ作ったんだな。とても綺麗だ」
「お母様とお父様に、おそろいでプレゼントしようねってつくったんだよ」
「そうか、ありがとう」
「では、頭にかぶせてくださる?」
父になったライアンが妻リミリアと一緒に頭を低くすると、娘と息子が「せーの」で同時に花冠をかぶせてくれた。
「父上! おれは泥人形をつくりましたッ」
「僕が一緒につくりました。この泥人形、魔法で操って踊らせたりできるんです」
騎士ノウキンと魔術師レデンツの子供たちが元気いっぱいに報告している。側近の子供たちは、主君の学友なのだ。
聖女は召喚されず、戦争も回避できた。戦争を回避するための未来予知をしたリミリアが、今は聖女と呼ばれている。
この国は平穏で、彼女との仲は良好だ。
「お父様~、バカ王子のお話、して」
「よし、よし」
ライアンは親しい家族と友人にかこまれて、子供たちが大好きなバカ王子の話をする。
半分以上が作り話のその王子は、よき友人を持っていて、可愛い婚約者がいる。
本人は未熟で、ちょっと情けなかったり格好悪かったり、考えの足りない部分があったりする。
けれど友人や婚約者のおかげで、王子は大切な道を踏み外すことなく進むことができて、兄である国王を補佐するお仕事をしながら、あたたかい家庭を築くという幸せな結末を迎えるのだ。
「王弟になった王子は、大切なみんなに言いました。……ここにいる全員が、お父様の宝物だよ」
心をこめて読み上げて、ライアンは父の顔で微笑んだ。
やわらかな風が吹きあがり、子供たちの笑い声と花の香りを高い空へと運んでいく。
人の手が届かない高い場所。
抜けるような青空の頂点では、眩い太陽が地上を明るく照らして、人間たちの日々をあたたかに見守っていた。
めでたし、めでたし――Happy End!
もしもこの作品を気に入っていただけた方は、お気に入りや広告下の評価をいただけると、創作活動の励みになります。最後まで読んでくださってありがとうございました!