第1章 第2話 生まれ持ったもの
「あ、世売様。コンでーす」
「なんだ、リムか」
史郎の死を確認するために中庭に下りてみると、そこには死体はなく代わりに見知った顔が指でキツネを作って出迎えてくれた。
赤い血がよく目立つ純白のブレザー制服に身を包む、キツネの毛並みのような綺麗な金色の髪を尻尾のように横で結んだ美少女。当然こんな目立つ制服が普通の高校の制服なわけがない。
「まさか外の世界で会えるとは思ってなかったよ。デスゲームのスタッフと」
この僕と同年代くらいの正体はデスゲームのスタッフ。それ以上でも以下でもない。司会者であるカボチャ頭のギルのサポートをしたり、僕たちが円滑に殺し合いができるように動いたり。それだけのために生まれ育てられ生きている存在だ。
「史郎は死んだよな? 感覚的には八割方死んでると思うけど」
「世売様の感覚こそ正確なものはないですよ。確認します?」
「いやいいよ。死体は僕を殺さないからな。興味ない」
リムの足元に転がっている白い袋。あの中に史郎の死体が詰まっているのだろう。
「ていうかやっぱり監視役いたんだな」
「監視役だなんてひどいなー。私は世売様のサポートとして遣わされたんですよ。どうせ世売様人殺しまくるし、このまま家に帰ったらご家族も殺しちゃうでしょ? だからマンション借りてきましたよ。私が一緒に暮らして全面的にお世話するので安心してくださいねー」
「人を無差別殺人鬼みたいに言うなよ。邪魔しなければ僕は誰も殺さないよ」
「きゃはは! それって会ったらご家族殺すって言ってるようなもんじゃないですかー。そういう劇的なシチュエーションはふさわしい場所があるでしょ? ちゃんと私たちが用意してあげますからね」
何を勘違いしているんだか。僕は別に人を殺したいわけじゃないんだ。確かに学校の奴らにも家族にも恨みはある。でも恨みがあるからって普通人は殺さない。あくまでも僕の普通の人生の邪魔をする奴だけだ。まぁほぼ間違いなく、会ったら殺してしまうだろうが。
「ていうか一緒に暮らすんだな」
「私は世売様のサポート役ですから。自由に使っていいですよ? 家事に殺しに慰み者にもどうぞ。奴隷のようにしてくれていいですからね」
「家事は自分でできるし殺す奴は僕が選ぶ。最後のもありえない」
「えー、いいじゃないですか。今彼女いないでしょ? だって彼女は自分で殺したんだし。きゃはははは!」
リムの馬鹿みたいな笑い声が脳に響く。一瞬脳が沸騰しそうになるが、一時の怒りで人を殺すほど愚かではない。
それにこいつを殺したところで意味がない。リムの発言には二重の意味で心がない。ただ与えられた役目を全うしているだけだ。それが使い捨ての道具として生まれ育てられたこいつらスタッフ。脅したところで個人の生死に拘らないし、殺したところで代わりの奴が来るだけ。意味のない殺人はしない。僕の邪魔さえしなければ何でもいい。
「史郎っ!」
わざとらしく僕に抱き着いて指で突いてくるリムにどうしようもない感情を覚えていると、茶髪の男が中庭に走ってきた。確か教室で史郎の名前を教えてくれた奴。こいつの名前は……やっぱり覚えてないな。
「おい……史郎をどこへやった……! お前が突き落としたんだろ……!? どこにやった……!」
「さぁ、僕は知らないな」
「とぼけてんじゃねぇよ!」
男がリムを突き飛ばして僕の胸倉を掴んでくる。無駄な殺生は勘弁だ。適当にごまかしたいが……さすがに状況的にごまかしきれないよな。じゃあこれだ。
「僕が殺した。悪いとは思ってるよ。で、君はどうする? 僕の邪魔をすれば君も殺すけど」
「……ふざけんじゃねぇぇぇぇっ!」
男が拳を振りぬいてくる。それを軽くかわして一度ため息をつく。せっかくデスゲームが終わったのに二人も殺さなきゃいけないなんてな……。
「きゃはははは! すごーい、タイマンで世売様に喧嘩売る人なんていつぶりですかー?」
「そもそもあんまりいなかったよ。初めに人を殺したのは僕だからな。みんな相手にしたくないみたいだ」
「あ……? てめぇ何言ってんだよ……殺す……ぶっ殺してやる……!」
何を特別みたいに宣言してるんだこいつは。
「僕は初めから殺すって言ってるんだけど」
ぶっ殺すなんて宣言必要ない。殺すと思った瞬間殺せばいいんだ。こういう風に。