序章 賞品
僕はずっと死にたかった。ずっとずっと、死にたいと思っていた。
家では親に虐待されていた。ロクに飯も与えられず、少しでも反抗すれば殴られ、出来のいい妹と比べられて嘲られていた。
学校では虐められていた。何もしていないのに悪口が止まらず、何かすれば力で抑えつけられ、教師ですら僕相手なら何をしてもいいと思っていた。
誰かのストレスのはけ口にされ、全てを否定され、身体も心も生傷が絶えなかった。
辛かった。終わりにしたかった。もう死んで楽になりたかった。その決意から1ヶ月後。
「おめでとう! 君がこのデスゲームの勝者だ! 永瀬世売!」
僕は999人の参加者を蹴落とし、デスゲームの優勝者となっていた。
「優勝賞品として君には10億円とあらゆる望みを叶える権利を与えよう! さぁ! 君はどんな望みを叶えたい!?」
このデスゲームの司会者と名乗る黒タイツにオレンジのマントをつけたカボチャ頭の男、ギルが俺の前で踊るように笑う。あらゆる望みが叶う……か……。
「じゃあみんなを生き返らせてくれよ……」
「はぁ!? 人が生き返るわけないだろう!? 永瀬くんは馬鹿だなぁ!」
ギルの底が見えない黒い瞳が俺の顔を覗き込んで笑う。相変わらずこいつの言葉は何一つとして信じられない。俺のことを虐げてきたあいつらと同じだ。いつだって僕を馬鹿にしている。
「そもそも生き返らせたかったのなら殺さなければよかっただろう!? このデスゲームで結ばれた彼女も! 親友も! 君を助けてくれた恩人だって! 全部君が殺したんじゃないか!」
そしていつだって僕の心を的確に殺してくるんだ。
「じゃあいいよ……なら僕は普通の人生を送りたい……」
「あっはっはっはっは! それこそ無理な話だよ殺人鬼! 人を殺し続けた君が今さら普通の人生を送れると思ってるのかい!?」
本当にこいつの笑い声は僕の心を苛立たせる。でも……これだけは譲れない。
「僕はみんなから託されたんだ。生きたくても生きられなかったみんなから。生き残れって、託された。だから僕は生きるよ。誰からも虐げられない、普通で普通の人生を」
「ああそう」
さっきまでの高笑いは嘘だったかのようにギルは短くそう吐き捨てると元の位置に戻っていく。あぁそうだ。これも付け加えなくてはいけなかった。
「だから僕の邪魔をする奴は殺す。僕の尊厳を踏み潰し嘲笑う奴はこの世から消してやる。お前らもその対象だよ。ギル……このゲームの運営……僕たちが殺しあうのを見て笑っていた視聴者……全員僕の敵だ……! 必ず僕が殺してやる……覚えておけよ……!」
負け惜しみに聞こえるだろうか。いやそうは聞こえないはずだ。僕がどんな人間なのかを一番知っているのはこいつらなんだから。
「僕は大切な人すら殺せる殺人鬼だ。お前らが生き残れるとは思うなよ」
そして僕は元の生活に戻り。普通の人生を送るために、再び殺しを続けることとなった。