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ミランダ

 男爵家で産まれ育ったミランダは、クルステア家の令息ロナートに出会った。


 ロナートは高貴な身分にも関わらず、下位貴族出身者にも分け隔てなく接してくれる。そんな彼にミランダは惹かれていった。



 未だ婚約者の決まっていなかった彼だが、その高い身分からいずれ、公爵家または国のための婚姻が決められるのは明白だ。


 後に彼は家督を継ぐと同時に、ソレイユの公爵令嬢スウェナとの婚姻を結ぶこととなった。




 ロナートとは清い交際だったが、ミランダはそれからも結婚することなく、彼だけを想って生きていくと思っていた。


 先に彼と出会って恋をしたのは私だったのに──そんな思いを抱えながら……。



 ◇


 月日が経ち、ミランダがロナートと再会したのは数年後の建国祭の夜。



 久々に見た彼は随分とやつれていた。

 理由を聞けば娘を出産したばかりの妻、スウェナの体調が思わしく無いらしい。


 今夜も妻に付き添っていたい気持ちを抑え、各国の要人との外交のために夜会へと出席しているとのこと。


 身体が弱い妻に、跡取りとなる男児を得るため再び妊娠と出産を強いるなど出来ない。今度こそ、身体が耐えられるか分からないとロナートは嘆いた。


 彼は妻を失うことを極度に恐れている。



 そんな妻を思う弱り切ったロナートに「では、私が代わりに跡取りを産んで差し上げます」とミランダは取り入った。



 そして未婚のままミランダが産んだ子も跡取りの男児ではなかった。それでも愛する人との子供を授かり、ミランダは幸せだった。


 更に数年後スウェナが儚くなり、ミランダは後妻へと収まることとなる。

 正に夢のようだった。


 本当は親子三人だけで、仲睦まじく暮らせればそれだけで幸せだった筈なのに。


 何故欲を掻いてしまったのだろう。



 先妻との証であるティアリーゼを視界に入れると、己の感情を制御出来なくなっていた。


 ──だからティアリーゼを別棟に遠ざけていたのに。



 ある時社交の場で彼に出会ってしまった。


 自分のすべきことは社交によって人脈を広げ、夫を支えることだとミランダは思っていた。


 さまざまなサロンに足を運び始めたある日のこと。


 参加者の一人が珍しい刺繍を披露したことがあった。

 彼は姿にあまり特徴のなく、今となってはその面立ちを思い出せない程。そんな彼曰く、その刺繍に恋愛を成就させる『おまじない』を施すことが出来るらしい。



 珍しい刺繍とおまじないは参加者達を魅了した。


 だがその場でミランダだけがその刺繍はエルニア民族のものだと気付いていた。



 刺繍はエルニアの伝統であり、ミランダとマリータも得意とする物である。

 屋敷へ戻ると、さっそくミランダはマリータへ今日知った『おまじない』を伝えた。


 その時はミランダも半信半疑だった。

 おまじないなんて、令嬢の間でありふれたものであり、そのほとんどが効果など見受けられない。


 だがそれを取り入れたハンカチをマリータがリドリスに渡すようになって、二人の関係が少しずつ変わっていったのである。


 刺繍の効果が現れているのにミランダは気付くと、マリータへ積極的にリドリスに近づくよう助言してしまった。


 挙句リドリスが来る時間を、わざとずらしてティアリーゼに伝えることもあり、二人の関係を拗れさせていった。



 マリータをティアリーゼの代わりに王太子妃に……そんな欲さえ抱かなければと、今は自分の愚かさをただ呪うばかり。


 現在マリータは王宮に捕えられ、良くて修道院に引き渡され、容易に会うことすら叶わない。親子三人での穏やかな時間がどれ程尊いものだったか。


 当たり前の幸せすら失い、夫からの信頼も地に落ちてしまった。


 ロナートは自分こそが諸悪の根源だとしつつも、ティアリーゼを長年害してきたミランダへ以前のように、接することは出来ないでいた。


 稀に視線が合おうと、彼の瞳にはミランダへの感情がなくなっていた。





 マリータをティアリーゼの代わりに王太子妃に……そんな欲さえ抱かなければ──

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