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 王都から戻って一月近くが経過した。

 ユリウスとティアリーゼは現在、雪景色の庭園を並んで歩いている。


 歩きながら視線を落とすと、花壇の脇には小さな雪だるまが二つ並んでいた。


「おや、可愛らしい子が仲良く並んでいるね」

「昨日ターニャと二人で作ったんです。右がわたしで、左がターニャが作った子です」


 小さな二つの雪だるまは、頭に猫耳があるのが特徴だ。



「猫もいいね、僕もたまにはイエティ以外も作ってみるかな」


 顎に手を当ててユリウスが思案すると、風が吹き抜け、ティアリーゼのピンクブロンドの髪が弄ばれた。

 髪と外套を抑えるティアリーゼの頭上から、ユリウスが気遣わし気な声が降りてくる。


「寒くない?」

「大丈夫ですわ」

「遠慮せずに僕の胸に……」


 ユリウスが言い掛けた途端「おい!」とこの場にいない筈の者の声が投げ掛けられた。

 聞き覚えのある声に、ティアリーゼは辺りを見渡す。


「この声は……」

「僕が温めてあげよう」

「おいってば!」


 間違いなくユーノの声がするが、ユリウスは聞こえていないかの如く、ティアリーゼのみを見つめ続ける。



「無視すんなっ」


 業を煮やしたユーノが、二人の間に割り込んできた。


「ユーノさん、お久しぶりです。お帰りなさい」

「おう、久しぶりだな。元気か?」

「はい、ユーノさんもお元気そうで安心しました」


 二人きりの時間を邪魔されたユリウスは、溜息混じりに呟く。


「相変わらず騒々しいヤツだな、ティアと良い雰囲気だったんだから空気を読んでくれ」

「ユリウスお前、俺の声が聞こえないふりをしていただろっ」


 ユーノの文句を聞いていたらキリが無いとユリウスは判断し、彼を城に招くことにした。



 ◇


 テーブルの上には暖かいお茶とショコラ。

 ショコラはユーノからのお土産で、隣国産のものだ。

 二杯目のお茶を飲み干したユーノは、口を開いた。


「ユリウス、俺が今回この城にきた理由は分かるな?」

「分からん」

「ふんっ、察しの悪いヤツだな、仕方ない俺本人の口から教えてやるよ」


 口の端を吊り上げて笑うユーノは、どうしても「この城に来た理由を話したい」という感情が滲み出ていた。


「お前に魔法で姿を変えられても、自力で元の姿に戻る方法を会得したんだ」

「凄いですっ」


 拍手するティアリーゼにユーノは、ふふんと得意満面に鼻を鳴らした。

 しかしユリウスは特に興味ないといった様子で、ティーカップを口元に運ぶ。

 そんなユリウスにユーノは命令するかの如く言い放つ。


「ってことで、再び俺に猫の魔法を掛けてみろ」

「自分では姿を変えられないのか」

「そんなすぐに色々習得出来るかよ、せっかちなヤツだな。早く魔法を掛けてくれ」

「どっちがせっかち何だか……」


 呆れ気味なユリウスとは対照的に、ユーノは意気揚々と踏ん反り返っていた。



「煩くて仕方がないから魔法を掛けてやろう」

「おう、かかってこい」


 ユリウスが呪文を唱えると、ユーノは毛長猫へと姿を変えた。


「相変わらず可愛らしいです」


 目を輝かせるティアリーゼに、少しだけモフらせてあげてからユーノは、元の人間の姿に戻ることにした。



「じゃ、元に戻るぜ」


 魔法を紡ぎ、猫の姿のユーノが光を纏う。

 そして元の少年の姿を取り戻したユーノは閉じていた目を開ける。

 ユリウスとティアリーゼが静かにユーノを見ていた。


「どうだっ」


 固まっているティアリーゼに、ユーノは首を傾げる。ティアリーゼの目線の先は、自身の頭の上。訝しんだユーノは、自分の頭に触れてみた。



「ん?どうした?」

「あわわ……」


 確かに人間の姿に戻っているのだが、ユーノの頭には可愛らしい猫耳が残ったままだった。


「何じゃこりゃー!?おい、ユリウスっどうにかしろっ」

「お前が自分で魔法を複雑にしたんだから、僕にも分からないよ」

「なんだと……!?」


 ショックに打ちひしがれるユーノにティアリーゼは慌てて言葉を掛ける。


「で、でもその姿もお可愛らしいですよ」

「そんな慰めはいらねぇっ」


(お可愛いらしいのは本心なのですが……)


 まだまだ少年らしさが残るユーノの面立ちに猫耳は、むしろ似合ってさえいた。

 しかしこれ以上、何という言葉を投げ掛ければ良いのか分からないティアリーゼは口を紡ぐ。


 この事件により「魔法を解く方法を一緒に考えろ」とユリウスに難癖を付けながら、再びユーノはこの城に居座ることとなった。

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