表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/77

幼年期

 ユリウスは物心が付く頃には既に、自身の出生を理解し受け止めていた。



 彼が静かなミルディンの地で、幼いながらも領主として、頭角を表すのに時間は要さなかった。

 そんなある日、双子の弟であるリドリスが病に伏せったとの知らせが届く。


 王家はランベール建国祭という神聖な日に、王子が病に犯され欠席など不吉の兆候と考えているらしい。

 そのため急遽ユリウスが、リドリスの代役を務めることとなった。当然正体を隠したまま、リドリスに成りすまして。


 幸い髪や瞳の色を変化させる魔法は、既に会得している。


 忌子といえど、王族に相応しい教養を身に付けており、その点に至っても申し分は無い。後はリドリス周辺の人間の顔と、名前を一致させるよう記憶するだけ。


 ──記憶力にも自信がある、問題ない。


 最新の貴族名鑑を見終えたユリウスは、ふと気付く。


 いくら顔と名前を一致させようと、同年代の貴族令嬢との交流は経験がなく、ユリウスにとって想像するのも困難。


 更にリドリスにはティアリーゼという、同い年の婚約者がいるらしい。


 まだ異性を好きになったことこすらないユリウスからすると、婚約者という存在はもはや未知の領域だった。



(婚約者か……)


 本来国の王子という立場は公務に追われ、国から決められた婚姻をしなくてはならない。そんなリドリスは、自分より不自由に思えてならない。


 実に面倒な立場に思えてくる。


 一方ユリウスは、王家による自分の扱いに特に不満もなく、既に与えられている物だけで満足している。


 そんな自分が由緒正しき公爵家のご令嬢と果たして、何を話すというのだろうか?

 王宮に滞在する間、ティアリーゼとは必要以上に関わらないのが賢明だろう。



 ──そう思っていた。



 王都にやってきて二日後、王宮を自由に探索する許可を得ているユリウスは、宗教画の描かれた天井を眺めながら大理石の廊下を歩いていた。


 視線を下げると廊下の先を横切っていく、さらさらのピンクブロンドの髪を靡かせた少女が歩いていく。

 幼く可愛らしい顔立ちに反し、凛とした佇まいで歩く姿に思わず釘付けとなってしまった。


 王宮の侍女に囲まれ、廊下を歩く少女が一目見でティアリーゼだと分かる。


 ティアリーゼ周辺の華やかさは、そこだけ光が降り注いでいるかのようだ。


 劣等感を抱いたことのないユリウスからしても、愛され、大切に育てられたであろうティアリーゼは、自分とは住む世界が対極にあることだけは理解した。


 それなのに、庭園を見て回っている時──彼女が物憂げに一人佇んでいる姿を見つけてしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ