表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/77

夜会終盤

「え……」


 マリータには知らされていないことだが、今リドリスに扮しているのは双子の兄のユリウスである。

 返答に窮していると、聞き慣れた穏やかな声がティアリーゼの名を呼んだ。


「ティアリーゼ嬢」

「ミハエル殿下……」


 声の方を向くと、ミハエルがティアリーゼに微笑み掛けていた。

 夜会用に正装したミハエルの外見は、完璧な王子様と言って過言ではなかった。

 シャンデリアの光に照らされた蜂蜜色の髪は光り輝き、エメラルドの瞳は真っ直ぐティアリーゼを写す。


「ティアリーゼ嬢、どうか私と踊って頂けませんか?」


 ミハエルがティアリーゼの手を取ると、周りの令嬢達から黄色い悲鳴が上がった。

 面を食らったが、マリータから離れる口実を貰い、ティアリーゼは僅かに逡巡した後「喜んで」と受け堪える。


 いつもは騒がしいミハエルだが、今夜は貴公子然として、纏う雰囲気も違って感じる。

 やはり彼は大国の王子様なのだと、改めて納得する一件となった。


「どうしてお姉様ばかりっ……!」


 ティアリーゼの背中に金切り声を上げるマリータに、周りの令嬢が口々に冷笑を零す。


「まぁ、はしたない」

「これだから庶子は」

「異母妹とはいえ、高貴なティアリーゼ様にあんな態度を取るだなんて……身の程を弁えない庶子だこと」


 嘲りの言葉が聞こえたのかマリータは顔を真っ赤にし、足早に会場から去って行った。

 だが既にその場から離れていたティアリーゼのあずかり知らぬことである。


 難しいテンポの曲にも関わらず、何食わぬ顔でステップを踏むミハエルのダンスも巧みだった。

 曲が終わり、ティアリーゼはミハエルに感謝を述べる。


「ありがとうございます、ミハエル殿下」

「いや、礼など無用だ。ティアリーゼ嬢と踊りたかったのは本心だからな」

「まぁ」

「全く、それにしてもユリウスのやつはティアリーゼ嬢を一人にして、一体何処へ行ったのだ」


 ダンスフロアから離れながら、二人で辺りを見渡していると、リドリスとして貴族達と談笑するユリウスを発見した。


「いらっしゃいましたわ」


 先程の貴族の他に、高貴な人々がユリウスと共にいる。

 社交をそつなくこなす姿は、ずっと王宮で暮らしていたかのように、違和感なくこの場に溶け込んでいた。

 しばしティアリーゼとミハエルが彼の談笑する姿を眺めていると、ふいにユリウスがこちらに気付き振り向く。




「こちらは僕の婚約者のティアリーゼ、そして友人であるソレイユのミハエル王子」


 ユリウスが二人を紹介したのは、ハイルランドという国の王子レジナルド。

 人当たりの良さそうなレジナルドは挨拶を終えると、ティアリーゼとミハエルも交えて話し始めた。


「先程リドリス殿下と狩の約束をしていたのですが、ミハエル殿下とティアリーゼ嬢もご一緒にいかがですか?」

「狩り、ですか」


 狩りに誘われるのは初めてで、その提案にティアリーゼは幾度か瞬いた。狩りはするのも疎か、動物を傷付ける場面すら見るのも憚られる。

 自分だって毎日のように動物の肉を食べるのにと、矛盾をティアリーゼ自身も自覚しているつもりだ。


「実は私の妹、アルレットもこの夜会に参加しているのですが、山が好きなのです。

 山に同行したがっているのですが、狩りには興味ないようでして。ティアリーゼ嬢がご一緒なら、ゆっくり山を散策出来ると思いまして」


「そういうことでしたら、お受け致します」

「本当ですか!妹も喜びます。リドリス殿下と踊っていらしたティアリーゼ嬢を見て、お近づきになりたいと零しておりましたから」



 :.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:



 夜会も終盤となり、ティアリーゼとユリウスはテラスから夜の庭園を眺めていた。



「疲れた?」

「そうですね」


 気遣ってくれるユリウスに、ティアリーゼは頷く。


「そろそろ退席しようか。……そうだ、このまま庭園を歩いて戻ろう。部屋まで送るよ」


 テラスから出て、庭園を通って二人寄り添いながら歩き進む。


 賑やかな夜会を離れて踏み入れる、人気のない庭園は、月光と篝火に照らされて幻想的だった。


 歩き慣れた王宮の庭園も、ユリウスとだったら世界が違って見える。


(これからも繰り返される日々の中に、ユリウス様がいて下さるだけで……)


 その時、暗闇の向こうから人影が姿を現し、ティアリーゼの思考の意図を断ち切った。


 それが男性であることしか認識出来ずにいたが、ゆっくりとこちらを振り向き、月明かりにその顔が照らし出される。


 その人物を認識したユリウスが思わず呟いた。


「リドリス……」

「兄上」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ