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仮面とは

 ぱたんと虚しい音を立てて扉が閉められた途端、ユリウスの悲壮感が込められた声が室内に響く。


「もしかして嫌われたっ……!?」

「かもな。俺は知らねぇ〜」


 この世の終わりのような表情のまま、固まるユリウスの横を、ユーノは妖精の羽でパタパタと飛び去っていった。


 ◇


 書庫を飛び出し、ユリウスは走った。

 そこまで遠くに行っていないと予想が出来たが、一秒でも早く見つけようと焦燥に駆られる。

 廊下を突き当たった所で探していた姿を見つけ、足を止めた。


「ティアっ」


 人気のない廊下のガラス窓から、外を眺めていたティアリーゼが呼ばれて振り返り、ユリウスの方を見やる。


「仮面」

「う、うん……」

「やはり呪われていて、仮面が取れないというのは、嘘だったのですか?」

「ごめん。言い訳になるだろうけど、婚約破棄してきた男と同じ顔なんて見たくないかと思って……。いや、やっぱり言い訳だな。申し訳なかった!」


 勢いよく頭を下げたユリウスの銀糸の髪が陽光で煌めき、ティアリーゼは思わず釘付けになりそうだった。


「確かに造形は良く似ていますが、何故か全く違って見えるんですよね。とても不思議です」


 頭を上げたユリウスは「髪や目の色の印象のせいかな?」と髪を弄る。その姿をティアリーゼは温かな眼差しで見つめ、淡く微笑んだ。



「でも、呪いではないと分かって良かったです。嘘であってくれて、ほっと致しました」

「ごめん……」

「謝らないで下さい。でも、物騒な嘘だけは控えて頂けたらと……。心配で、わたしの心臓が持ちませんから……」

「分かった、約束する」


 真摯に頷いて見せたユリウスに、ティアリーゼは逡巡してから意を決して言葉を紡ぐ。



「謝罪しなくてはいけないのは、わたしの方ですわ」

「え、どうして」

「予定より早くにこのミルディンの地へ来てしまったことについてです。わたしこそが嘘をついておりました……本当は」

「ティアは仕方がないことだっ」


 このミルディンの地に、予定よりも早く到着したのは、公爵家の屋敷に居場所がなかったから。それなのにミルディンを視察するのが目的だと、自分に都合の良い嘘をついたままだった。


 自分こそが、嘘を付いていた。


 それなのに本当のことを告げようとした途端、ユリウスの真摯な声で遮られてしまった。

 驚きの眼差しでユリウスを見やると彼は、はっとした表情を見せたのち、謝罪の言葉を口にする。



「いきなり大きな声を出して悪かった。取り敢えず怒っていたり、僕を嫌いになった訳ではないんだな?」

「怒ってなどいません。ただあの時は混乱してしまいまして……。少し頭の中を整理しようと、取り敢えず外の空気を吸いに、ここまで足を運んでみました」

「書庫の中には騒がしいのが揃っていたしな。ティアの気持ちは分かる」


 うんうんと頷き納得すると、ユリウスは窺うように尋ねる。



「ティアはミルディンに……この城に来て良かったと、少しでも思ってくれてたりする?」

「勿論ですわ」


 即答したティアリーゼは、自身も兼ねてからの疑問を口にすることにした。



「ずっと仮面を付けているのはやはり、正体を隠すためですよね?」

「まぁ、そうだね。実は王宮へ極稀に召喚されることがあって、その折には仮面を付けるようにと陛下から言われている」


(ユリウス様は王宮に行かれることがおありなのですね……確かに素顔のままだと、混乱を招いてしまうわ)



 一卵性の双子であるユリウスとリドリスは、髪と瞳の色を除いて瓜二つ。そんなユリウスを素顔のまま王宮へ招いては、今まで忌子として辺境の地へ隠していた意味がなくなる。

 仮面の必要性について、ティアリーゼは改めて得心する。



「それで幼少の頃、王宮へ召喚された際に初めて付けた仮面を中々気にいってしまって。そこから、この城でも付けるようになった」

「え、仮面を気に入ったのが理由……ですか?」

「うむ、格好良くないかっ!?」

「……わたしはそのままのユリウス様の方が、素敵だと思いますが……」

「そ、そうか……しかしティアに素顔の方が良いと言われるのも、悪い気はしないな。よし、これから二人きりの時は仮面を外そう。ティアが嫌でなければ」

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