インスタントフィクション 雪のせい
いつもよりエンジンの振動が車内を揺らしているような気がした。それがつま先から伝い、頭まで震わしている。
助手席には見知らぬ女。脚を組み、棒付きキャンディを舐めている。
「この信号長いわね」
女は落ち着いた様子で呟いた。
この女は僕が買い物を終え車に乗り込もうとした時に助手席に座っていた。
嫌悪感はなかった。しかし、引っかかることがあった。彼女の身なりだ。こんな真冬に白いと所々に赤がある薄手のノースリーブワンピースを着ているのだ。
車運転出来ないから目的地まで送って欲しいと言われ、言われるがまま車を走らせていた。
雪は柔らかく落ちて、溶けることなく次の雪を待っている。
「あなたって可愛いわね」
女はコロンとキャンディを歯で遊ばせる。
「あなたが思ってるほど私、いい女じゃないわよ。それはきっと、そう、雪のせいね」
錆びた匂いが車内を巡る。
「信号が青になるまで時間がかかりそうね」