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オメガは擬態する  作者: 日々野日向
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花の屋敷

更新中です



誤字、脱字お許しください。








「総長」


呼ばれた女はまだ若い。


「一人で出かけないでください。今は藤代組との抗争中です」


二人とも一目でアルファとわかる。

なにか目印があるわけじゃない。

たが支配する者とそうでない者には圧倒的な差がある。


「お前は心配性だな」

「あなたが簡単に殺られるとは思っていません。だがあなたを失ってはこの組は終わりです」


聞いた女はカラカラと笑う。

鈴の音のような声に男はため息をつく。


「思ってもないことを。私が死んで喜ぶ輩の方が多いくせに」

「あなたの存在がなくなれば、極道の世界は戦乱を来すでしょうね」


真冬の空の下、薄着の女に男が自分のコートを掛ける。


「いらん。お前はでかすぎる」


事実を言われ男は苦笑うが、それでも女の肩に手を置いたままだ。

並び立つと男の背の高さが目立つ。ゆうに190センチ近いだろう長身と、適度に付いた筋肉。三つ揃いのスーツを着こなし、長めの髪を後ろに流した姿はさながらモデルのようだ。

対して女は150センチに満たない身長に腰までの漆黒の髪はまるで日本人形を彷彿とさせる。


「あなたが小柄なんですよ。先代も奥様も長身でしたよ」

「悪かったな。ちなみに祖父さん二人もばかでかいよ」


小さいことは特がないとぼやく。


「今日は気がそれた。出かけるのはやめだ。離まで送れ。お前やアルファはもちろんだがベータの護衛にも薬を飲ませておけ。私がいる空間で万が一があれば私が許さない」

「心得ております」

花代組(はなしろぐみ)の組長はオメガ狂い」


面白がっているのは分かりっている。


「なかなか的を得た噂だ」


日本全国に傘下を持つ花代組は、現在三代目組長花代(れん)を総長に、歴代最高と言われる総力を発揮していた。

蓮の父側祖父は東の龍と呼ばれた花代組初代組長。母方祖父は当時敵対していた西の最大勢力虎武(こぶ)組五代目組長。

東と西の戦争をギリギリのところでかわしているのが蓮の存在だ。

極道の中の極道。

その血をそのまま受け継いだと言っていいだろう。


「今宵はどの娘にしようか」

「よしてください。まるでエロ親父のような台詞は」

「美しいものを愛でてなにが悪い?」

「私どもを美しいとおっしゃってくださるので?」

菊花(きっか)今から勤めか」


足首までの真紅のドレスは身体にぴったりと張り付き、太股までの深いスリットから覗く足は見る者をドキッとさせる色香がある。

首には美しい刺繍が施されたチョーカーが巻かれている。

そのチョーカーはオメガの証だ。

首をアルファに噛まれてしまうと、アルファとオメガとの間に番の契約が成立してしまう。

それを防ぐのがこの特殊なチョーカーだ。

蓮の元にいるオメガの首には必ず揃いのチョーカーがある。


「はい。これから店に出ます。お越しとわかっていましたら今日は休みを入れましたのに」


花代組の離には、蓮に見初められたオメガが暮らしている。

その警備は本宅に並ぶほど強化されており、女たちはその屋敷から蓮が運営するクラブに勤めに通う。もちろん送迎という名の警備着きで。会員制のクラブはセキュリティの厳重さからある種の人種に御用達となっており、花代組の大事な収入元だ。

だがどこから蓮がオメガの女を見つけてくるのか誰も知らない。

気が付けばオメガの女が増えている。

それゆえに、蓮を知る者は『花代組の組長はオメガ狂い』と噂する。


「またゆっくり相手をしてあげるから、今宵は私の為に働いておくれ」

「その約束、必ずですよ」

「さあ、お行き」

「はい。相沢様もまた」


颯爽とヒールで歩く姿を満足気に見送る。


「着飾ったオメガはさらに美しいだろう」

「それは確かに」


オメガは媚を売ると言われ、蔑まされることも多い。だが別名愛される性と呼ばれている。

守り、愛される為に生まれるのだと。


「美しいものは愛でてこそだ。お前も早くだれか娶れ」

「え?」

「相沢、お前のことだ。女遊びも大概にして一人に絞ったらどうだ?」

「総長がそれを言うんですか?」


カラカラとまた笑う。


「私とお前は別だ」

「どう別なんですか?」

「お前は元がマジメだからな」


真顔で言う蓮に、相沢が笑う。


「極道にマジメはないでしょう」

「マジメな極道がいたっていいさ。今日はお前が引き止めたんだ。酒くらいつきあえ」

「オメガなしなら付き合いますよ。いくら抑制薬を飲んでいても正直キツイですから」

「・・・女たちにもオメガ用の抑制薬を飲ませているんだがな」

「そういえばここにいるオメガは女ばかりですね。総長の権力なら男のオメガも手にはいるでしょうに」

「女の方が綺麗じゃないか。私は綺麗な者が好きなんだ。それにオメガとはいえ男が私に素直に抱かれると思うか?」

「あ~なんというか、すいません」


生々しい話に先にリタイアしたのは相沢の方だ。

自分の目線の下、小さく笑む蓮の姿にふと口もとが緩む。


「どんなに着飾ったオメガより、あなたの方が遥かに綺麗ですよ」


二十歳を迎え、さらに美しくなったと思う。


「お前が言うと身内びいきだな。出会った頃、お前は当時まだ18で、私は10才の子どもだった。そりゃあ成長するさ」

「少しは本気にしてください。私はいつも本気ですよ」

「どうだかな」

「アルファの中のアルファ。アルファさえも膝まづく」

「なんだそれは?」

「オメガ狂いとは別のあなたの噂ですよ」


元々裏と表は紙一重。裏の世界にもアルファは多い。もちろんそれは組長格や幹部にだ。その世界でも花代組はアルファの圧倒的な数の組員を要していた。

アルファは人の下に着くことを嫌う質だと言うのに。


「私は跡を継いだだけだ」

「それだけでは皆着いてきませんよ。あなたには人を従わす力がある」

「従わすねぇ」

「魅力すると言いましょうか」


フッと笑えば、真顔の相沢が不満そうな顔をする。


「やっぱりお前はマジメだよ」

   

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