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森林亭

「あ!!おーーい!断真ー!こっちこっちーー。」


 諏訪が声をかけて来る。

 学園生は殆ど上流階級の出身で、諏訪も良い所のお嬢様だと思ったが…。


(とても大和撫子には見えないな…。いや、声をかけてくれた事は有り難いんだが…。)


 全体的に金色の髪で、毛先が赤味がかっている。髪を染めている訳では無く地毛らしい。

 この世界ではカラフルな髪を持った人間が多く、諏訪のような髪色も珍しくない。日本人は黒髪ばかりと言うが、本当だろうか。

 オレは黒髪だが…異世界人に間違われたりするので本当に困っている。


「お待たせ…。……滋深、わざわざありがとうな。」


「う、ううん。断真君こそ、わざわざ来てくれて、ありがとう……。」


「……ああ。」


 皆が座っているテラス席まで行くと、滋深が出迎えてくれた。

 本当に有り難い。アウェーの中での知り合いは非常に心強い存在だ。


「何ー?付き合ったばかりのカップルみたいな事始めないでよー。」


 いつも通りブツ切りのような会話をしていると、諏訪が茶化して来た。


「祥子!?」


「勘弁してくれ…。この中に居るだけでも一杯一杯なんだ…。」


 滋深が驚いているが、オレには取り繕う余裕も無い。

 前回の教室では影山がテンパってくれたお陰で平静を保てたが、今回は一人きりなんだ。


「祥子…。それ位にしておきな。…断真。装備について聞きたいんだったな?」


「あ、ああ。はやしも居たのか…。」


「…ここはアタイの家だ。」


「そ、そうなのか…。」


 はやしらん。クラスメイトの女子だ。長いスカートと長袖を年中着ている。


(今日はかなりの暑さなのに、よく平気だな…。)


 少し斜に構えた感じの女子で、スケバンみたいな気がするので実は少し苦手な存在だ。

 茨山達のせいでヤンキーっぽい存在に拒否感が出てしまう。


「それじゃぁ、広場の方に行きましょう♪」


 福良の声と共に、滋深、福良、林の三人が店のテラス席から降りて行く。

 少し離れた広場の方のテーブルに移動するようだ。


(…良かった。少人数ならまだやり易い。)


 滋深も来てくれたし、何とかなりそうな気がしてきた。

 テーブルの方に向かうが、福良と林は別の方へと歩いて行く。


「こっちこっち♪まずは断真君の戦い方を見ないとね。」


「……なるほど。」


「休みの前に断真君の秘密も知れそうだし、ちょうど良かったよ。メールくれたタイミング、バッチリだったよ♪」


 嬉しそうに福良が笑っている。

 教室で少し意味深な台詞を言ってしまったし、気になってたんだろう。


「だ、断真君…。ごめんね。せつ達に相談したらここに呼ぶって話になっちゃって…。」


「奈子は悪く無いぞ。アタイ達としても大事な友達を任せる事が出来るか知りたかったんだ。奈子は断真の戦いの詳細は話さないし、気になっていたんだ。今回呼ばなかったとしても、後でアタイが呼び出ししていたよ。」


 滋深の言葉にかぶせるように林は話し出す。

 …ぶっきら棒だが、凄い良い奴そうだな。今まで苦手意識を持ってたのが馬鹿みたいだ。


「…いや、当然だろう。気にしてないよ。」


「…流石!それなら早速来て!…はい!」


 福良が落ちている木の棒を投げ渡して来る。

 福良自身も木の棒を拾っているし、かかって来いと言う事だろう。


(オレを見定めたいのはよく分かるが、大勢の中で戦うのか…。進化した強化は隠しておきたかったが、そうも言ってられないか…。)


 余りにも弱かったら滋深を任せられないと言われるかもしれない。

 滋深は既に強化した動きを見ているし、下手な事はしない方が良い。


(…『強化』。)


 少しだけ弱めに強化をかける。

 最後の奥の手は取っておくのが普通だし、これ位なら良いだろう…。


「行くぞ!」


「はーい♪」


 福良は動かない。…恐らくは受けに徹するんだろう。


(…そういう事なら。)


 小細工せずに福良の近くにまで歩いて行き、間合いに入った所で攻撃を始めた。


(オレの実力を見極めたいなら、こっちの方が分かり易いだろう!)


 オレの初撃を受けた事で福良の顔色が変わる。

 何のフェイントも無く剣を振るっただけだが、全力の一撃だ。

 まだ福良達には敵わないが、それでも弱者からは抜け出せてるはずだ!



「……はぁ…はぁ…。」


 何度も攻撃をするが、一向に福良の防御を崩せない。

 正確には何度か福良の木の棒をすり抜ける事が出来たが、左腕で簡単に受けられてしまった。

 素手で受けて大丈夫かと心配したが、『防御』を使ったのだろう。その腕には傷一つついていなかった。


「……終了か。」


 最後の攻撃で、オレの武器が壊れてしまった。


「お疲れ様ー。楽しかったよ♪」


「ふーん…。なるほどな。じゃぁ次はアタイの番だ。せつ、代わりな。」


(福良に続いて林もか…。横で見てたなら十分分かると思うんだが…。)


 不敵な笑みを浮かべているし、戦いたいだけな感じがする。

 女子相手に手も足も出ないのは気持ち的にキツイし、出来れば一度にして欲しかった。


(一流冒険者にも女性は多い。ダンジョンに潜る上で性差は殆ど無いんだが…。)


 それでも一般の社会を中心として、男性の方が強いというイメージが根強い。

 オレも昔からそう教えられて来たし、中々考えを変えるのは難しい。


(…林とはそこそこ戦える。福良と同じように守りに徹しているようだが、福良ほど防御がうまく無いな。)


 林とも手合わせを開始し、何合か剣を交える。

 福良と違い、『防御』系のスキルを持ってなさそうだ。

 オレの攻撃を受ける際に顔をしかめる事も有るし、下手に攻撃を当てるとマズそうだ。


「…やるな。アタイも攻撃するぜ?」


「…分かった。攻守交代だな。」


 そう言った途端、足元に蹴りが飛んで来た。

 何とか足で受けるが、同時に木の棒も振るって来る。


(何でもアリか…。結構キツイな。)


 今度はオレが守りに徹したが、そう長い時間は続かなかった。


「……参った。」


「以前とは比べものにならない程強くなってるな。これなら奈子を任せられそうだ。…しかし、お前の体、無茶苦茶頑丈だな。蹴りを入れたアタイの方が参ったぜ。」


 そう言ってスカートを上げてスネを見せてくる。

 ストッキング越しだが、確かに赤くなってしまっているようだ。


「…あ……。ナ、ナニを凝視していやがる!見せ物じゃねーぞ!!」


(え?見せてきたのは林じゃ?)


 真っ赤な顔でスカートを元に戻した。

 確かにはしたない行為だったが、スネ位なら皆見せている。

 そんなに恥ずかしがる事だろうか…。


「蘭はもーー少しだけでも、男子に慣れた方が良いと思うよ?」


「私もそう思う…。『回復』。あんまりムチャばかりしないでね?」


 福良と滋深もやって来た。

 林…実はそんな性格だったのか…。


「う…うるさい!アタイは良いんだ!今は奈子の事だろう!?」


「今の断真君なら10層攻略も出来そうだねぇ♪もう支援レベル5くらいまで行ったの?」


「せつ…!レベル聞くのはダメだよ…!」


 一気に騒がしくなってしまった…。

 福良にはクラスのレベルを聞かれてるが…言った方が良いのか…?


(滋深は止めてくれてるが…やはり滋深を預かる以上は言うべきか?…言いたく無いんだよなぁ…。)


 レベル3なんて言ったらドン引きされそうな気がする。

 中1から中2のレベルなんだぞ…。


「……レベル…3、だ。」


 しかもこの前上がったばかり。…恥ずかし過ぎる。


「3!?マジで言ってんのか!?」


「あらー。これはまた…。」


「え……。ほ、ほんと…?」


 林、福良、滋深が驚愕の表情を浮かべる。皆呆れてしまったのだろう。


(滋深にまで呆れられるのはキツイな…。今までオレのような人間に話しかけてくれた、慈悲深い存在だったのに…。)


「す…すまない。」


 つい謝ってしまう。何も悪い事はしてないが…こんな低レベルで滋深を誘うのはマズかったかも知れない。


「断真君…。それ、絶対誰にも言っちゃダメだよ?出来れば影山君にも…。せつ、蘭、二人も内緒にね?」


「言う訳無いよ。四人の秘密だね♪」


「ああ。絶対に守ると誓う。」


(そんなにマズかったのか?…いや、マズいに決まってるか。高等部でレベル3なんて、学園の恥だよな…。)


「…恥ずかしくて言える訳無いだろ。絶対言わないよ。」


「あ!ち、違うの!そんな意味じゃ無くて!逆なの!逆!!」


 滋深が慰めようとしてくれているが、大分無理させてるようだ。逆って意味不明過ぎるだろ…。


「奈子!もっとハッキリ言わないと、この馬鹿には伝わらないぞ。未だに沈んだ顔してやがる。」


「…いや、これ以上無い程伝わってるよ。…出来れば、補修の助っ人はお願い――」

「違うの!!」


 滋深の声に顔を上げる。

 滋深を見ると、真剣な表情でジッと見つめらる。


「誤解させてごめんね。逆なの。支援のレベル3でせつと蘭と戦えてた事に驚いたの。…支援は戦士よりも近接戦闘に向かないし、普通あれだけ戦えるならレベル5くらいは無いとおかしいの。」


「え…?でも、全然負けてたぞ…?」


「何言ってやがる。アタイは防御しきれなかったし、せつの守りだって何度か抜いてたじゃねーか。」


「わたしは左手で受けてたよ?…でも、レベル3の動きじゃ無かったのは確かだよね。」


 オレの言葉を林と福良が否定する。…福良は否定しているのか不明だが。


「…支援レベル3だと、スキルのレベルは1から2だと思う。…でも、あの動きはそれじゃ説明付かない。断真君は強過ぎるの。」


「それは、『強化』の使い方が分かったと――」

「ストーップ!それ、アタイらに言って良い情報か?」


 林の言葉にドキッとする。話しすぎたかと思うが、ここまで来たら仕方無いだろう。


「どうせ気になってるんだろ?レベルの事がバレてマズいんなら、どっちにしろ一緒だ。…オレが強くなったのは『強化』の使い方が分かったからだ。そう言えば良いだけなんじゃ無いのか?」


「…スキルやクラスの研究は未だに進んで無いの。スキルにも『進化』や『継承』、『統合』を始めとして、色々な段階が有ると言われているの。断真君のは『進化』の一種だと思うけど…。」


「きっと、一般家庭の断真君のスキルが『進化』したと知れ渡ったら、悪ーい奴らが寄って来るよ?…例え古い名家と繋がりが有ったとしても、難しいと思うよー。」


「茨山達みたいな小物じゃ無く、学園の元締めクラスが出て来るだろうな。…んで、断真おまえは良いようにコキ使われるぜ?」


 滋深の言葉に続いて、福良と林が脅してくる。…コイツら二人、面白がってないか?


(『進化』か…。スキルにそんな事が隠されているとはな。適当に『強化』スキルが進化したと言えば良いとか思って居たが、かなり危険だったな。)


 影山は特に気付いて無かったみたいだが。…念の為、後で口止めしておこう。


「そうか…。やっと分かったよ。ありがとう。」


「ううん…。折角強くなる為に頑張ってきたのに、それを隠せなんて言ってごめんね…。…でも、バレたら本当に危険な事になるかも知れないの…。」


「いや、本当にありがとう。厄介事を回避できるなら全力で隠すよ。」


(まさか強くなったのを隠す事になるとはな…。今までとは大違いだ。)


 そもそもオレの目標はダンジョンマスターとして活動する事だ。必要があるなら強い事だろうと隠し通すべきだ。


「っへ…。流石は鉄人だな。お前はそうでなくっちゃ。」


「蘭は大ファンだもんねー。」


「……はぁ?…はぁ!!?何言ってやがる!!そんな訳ねーだろ!!」


 林と福良が追いかけっこを始めてしまった。


(仲良いな…。コイツら…。)


 微笑ましい気持ちで眺めていると、滋深が隣にやって来た。


「私たちはちゃんと分かっているからね。断真君がずっと頑張っていた事も。強くなった事も。このまま強くなっていけば、きっと公表出来る日が来るから。皆で頑張ろう。」


「…ああ。」


 走り回る二人を見つめながら滋深に返事を返す。

 今日は来て良かったと心から思うのだった。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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