助っ人
早足で教室に行ってみると、幸運にも福良がまだ残っていた。
他にも諏訪と黒田と…何人かの女子が残っている。
(この中に入るのか…。)
男が居ればまだ良かったが、全員女だ。
オレも影山も今までの勢いを失い、扉の前で立ち尽くしてしまう。
(……悩んでる時間は無い!行こう!!)
自らに気合を入れてドアを開ける。
…ダンジョンとは別の意味で緊張してきた。
「あれー?断真じゃん。さっきのはカッコ良かったよー。あんだけ出来るなら普段からやれば良いのに。」
皆が一斉に振り返り、諏訪が代表して話しかけて来た。
千海をあしらった事を言ってるんだろうが…結局コイツらに助けて貰ったんだよな。
…そんな短いスカートで机に座るなよ…。
「…ああ。…仲裁に入ってくれて助かったよ。…福良に話が有るんだが、ちょっと良いか?」
うまく返せずに、ぶつ切りのような返答をしてしまう。諏訪はニヤけたままだが、おかしな事は言って無いよな…?
「何なにー?もしかして告白ー?」
「ちが「違う!」う。」
諏訪のからかい混じりの言葉を否定しようとした所で、影山が言葉をかぶせてくる。
…コイツ、分かり易すぎないか?
「祥子…。アンタ、考え無しに話すの止めなさいよね。」
ちょっと微妙な空気になってしまったが、黒田が諏訪を注意してくれた事で何とか軌道修正できそうだ。
良かった…。白けた空気になってしまったら、オレ達は立ち直る事が出来なかったかも知れない。
「どしたの?断真君、影山君。」
福良が声をかけて来てくれた。
ああ、今回ばっかりは福良が天使のような存在だと感じられる。
「ちょっと来て……いや、ここで言うか。オレと影山は赤点の補修で迷宮10層の踏破を課題に出されたんだ。一人だけ助っ人を認められているんだが、福良に頼めないか?内申点は上げてくれるって言う話だ。」
廊下の方に呼び出そうと思ったが、一瞬空気が凍りついたような感覚がした。
オレと影山が福良に変な事でもすると思っているんだろうか…。
…影山はこの場で話し始めた事に驚いているし、単なる気のせいか…?
「んー。でも赤点の助っ人って、攻撃禁止とかのルール有ったはずだよね?わたし、戦士だよ?」
「ああ、それは…。」
「それは、福良さんには是非前衛で、『防御』を使って守備の要をして貰いたいんだ。断真君がアタッカーになるし、僕も支援役として頑張る!迷宮10層なら何の危険も無いよ!!」
影山に台詞を奪われてしまった。
結局話すなら最初からやってくれよ…。
「はにゃ?影山君にスキルの事話したっけ?」
「あ、い、いや……。」
(え?福良とチーム組んだ事有るんじゃ無いのか?)
チームを転々としていると聞いたし、てっきり福良と組んだ事が有ると思っていた。
男子の仲間内で聞いたんだろうが、それを本人に知らせるのは問題が有るぞ…。
(影山のやつ、完全に停止しやがった。お前が何とかする場面だろうに…。)
このままじゃ勧誘失敗どころか、女子全員から総スカンを食らいかねん。
…仕方無いか。
「すまない。女子達が話している所を聞いてしまったんだ。今回の補修はどうしても合格したくて、マナー違反だと知りながらもそれにすがってしまった。…申し訳ない。」
福良に頭を下げる。
完全にオレも被害者だが、何も言わずに居たらクラスの半分が助っ人候補から外れる。
スキル情報の扱いも学生の内はまだ緩い。恐らく許してくれると思うが…。
「ご、ごめん!!本当にごめん!!!」
影山も一緒に謝る。
コイツには後で何か奢らせよう。
「んー…。しょうがないなぁ。赤点の課題に焦るのはよく分かるし、許してあげましょう!ただし、何で断真君は赤点を取ったのか教えなさい。今まではちゃんと回避してたのに、なんで?」
福良が鋭い視線で見つめてくる。
いつも『はにゃ。』と言ってる人間とは思えない眼光だ。
教室中静まりかえっている…。…さっきまで皆雑談してたのに、勘弁してくれ…。
「ちょっと色々有ってな…。急いで強くなる必要があったんだ。…幸い何とかなったし、課題でも足を引っ張らないと思う。」
「え!!それっt…。」
奥に座っていた女子から声が上がる…が、途中で顔を真っ赤にして俯いてしまった。
滋深も居たのか…。
急に会話に入って来た事が恥ずかしいんだろうか、頭を手で覆っている。
「いや、三つ目とかじゃ無い。詳しくは言えないが…何なら試しにダンジョンに入ってから決めて貰っても良い。」
滋深の言葉を否定しておく。
三つ目のスキルを取ったなんて言ったら騒ぎになってしまう。
鉄人とか関係無く、劣等生が三つ目のスキルを持ってるなんて異常だからな。
「そうなんだ。おめでとう、と言って良いのかな?」
福良が笑顔で話してくる。中々の破壊力が有るな…。影山が隣で顔を真っ赤にしているのも頷ける。
「ああ。ありがとう。…まだまだこれからだがな。」
「うーん…。断真君の秘密かー。凄い知りたいんだけど、夏休みは実家に帰らないといけないんだぁ。」
「そうか…。それなら仕方無いな。」
(うーむ。次はどうしよう。折角皆の前で話したんだし、他にも声をかけたいが…無節操だと思われないだろうか。)
「確か、奈子は学園に残るのよね?奈子なら後方支援役だし、ピッタリじゃない?」
悩んでいると、福良が最高の提案をしてくれた。まさに女神と呼べる存在だ。
「え…?私?」
滋深奈子、時々オレに話しかけてくれる奇特な女子だ。
しかも後方支援なら元々考えていた通りの存在だ。
「是非頼めないか?帰還石は何とか用意するし、絶対に守ってみせる。」
帰還石はダンジョンから外に出る為の緊急用のアイテムだ。
結構高価だが、魔法使いの助っ人を頼むなら必須だろう。
影山が未だに呆然としているので足を踏んでやる。福良に断られたショックが大きいのは分かるが、そんな場合じゃないぞ。
「あ、ああ。僕の『隠密』も有るし、危険は少ないよ。」
「わ、私で…良いなら。何とか頑張るね。」
「ありがとう!」
滋深はあっさりと承諾してくれた。
本当にありがたい!これなら何とかなるかも知れない!
「二人ともー。奈子に傷なんて負わせるなよー。」
「もし怪我させたら……責任取って貰わないといけないわね。」
「せ、責任……。」
折角喜んでいたと言うのに、諏訪と黒田が茶化してくる。
滋深は顔を真っ赤にしてるし、今更断られたらどうしてくれるんだ。
「大丈夫だよ♪断真君は絶対守るって言ったんだし、ね?」
「あ、ああ。」
福良が笑顔で確認を取ってくる。
少し迂闊な事を言ったかも知れないが、助っ人の安全を確保するのは絶対必要な事だ。
そうでなければ折角の善意を踏みにじる事になる。
「そうだな。少なくとも身を挺してでも守ってみせる。その位はしないと申し訳無いからな。」
きっとこの三人は大事な友人を任せるに足る人物か試しているんだろう。
ただでさえこっちは男二人だ。心配になるのも当然だ。
「あ、あの…そんな無理は…。」
「うん♪男の子はそうでなくっちゃね♪」
滋深が何か言おうとしていたが、福良の声でよく聞こえなかった。
(これからチームを組むんだし、いくらでも話せるか。)
「それじゃあ助っ人が決まったら先生の所へ来いって言われてるから、付き合ってくれないか?」
「あ…、は、はい。」
「僕も宣誓書を出しに行かないと。」
三人揃って教室を出る。
先生に報告したら、次はお互いのスキルの話だな。
「分かった。奈子が助っ人だな。課題の期間は夏休み中だ。最終日までに報告に来ればどんなスケジュールだろうと構わんよ。」
横葉先生に伝えると、すぐに話は終わった。
(ガム噛んでたし…結構適当な先生だよな…。)
それでも思いやりは有るし、オレも何度も助けて貰ってる。
もうちょっとしっかりしてくれれば言う事無いんだけどな…。
「早速だけど、ダンジョンに行こうか。オレの今の実力をみせるよ。お互いのスキルも教え合おう。」
本来は先にスキル紹介して編成とかを決めるんだろうが、オレのスキルは見せないと納得出来ないからな。
今回もまた3層で披露しよう。
ーーー
「……凄い。これが『強化』?」
影山の時と同じようにゴブリン二匹相手を倒して見せる。
滋深も驚いているが、当然だろう。
強化と似たようなスキルは幾つも有るが、ここまで威力が上がるなんて聞いた事無いからな。
「オレのスキルは『強化』と『クリティカル』だ。自己申告で済まないが、さっきの攻撃でクリティカルは発動していない。」
スキルについても説明しておく。
レベルについては伏せておいた。余程親しい仲じゃ無ければ言わないのが普通だ。
「僕は『隠密』だ。他人にも使う事が出来るから、10層までは役に立てるはずだ。」
「私は…『式神』と『回復』。式神は攻撃も出来るけど、今回は防御と支援に回るね。」
滋深のスキルはかなり優秀そうだ。
回復が有るだけで非常に助かる。
「それじゃぁ…これからどうするんだ?ただダンジョンに潜って行けば良いのか?」
いつの間にかオレが仕切っていたが、そもそもオレはチームなんて組んだ事が無いんだった。
オレの言葉に影山が頭を押さえている。
滋深は笑いを堪えているし…仕方無いだろう。誰にだって失敗は有るんだ。
「じゃあ僕が暫定的にまとめ役をやるよ…。でも慣れて来たら断真君がやってくれよ?」
「オレが…?別に良いけど、途中で交代なんて面倒なだけじゃ無いのか?」
「…はぁ。僕は君のお陰でまたやる気を取り戻せたんだ。…だから君にリーダーをやって貰いたい。」
「…そうか。そうだな。分かった。」
(影山の奴、福良の前ではヘッポコだった癖に、まともな事を言いやがって。)
急に真剣な事を言われると驚いてしまう。
こちとらボッチ歴17年の陰キャだぞ。舐めやがって。
何とか悪態をつく事で平静を保つ。
滋深は子供を見るような目を向けてくるし、前途多難だな…。
「じゃぁ改めて…。断真君。ずっと気になってたんだけど、断真君の装備ってソレなの?」
「……ああ。」
ソレ、とは学園支給の装備品の事だろう。
高等部の人間は大体が個人所有の装備をつけている。
一般市民の影山もローブと短剣は自前のものだ。
…ローブの下の部分鎧は学園のものみたいだが、それでも十分だろう。
ちなみに滋深も落ち着いた雰囲気のローブをつけている。
陰陽師の着ている服を模しているようだが、全体的に黒っぽいので詳しくは分からない。
滋深の家は古い名家だし、恐らくはそこそこのモノだろう。
「まぁ装備については仕方無いか…。でも支給品でアレだけの攻撃力を出せるなら、すぐにクラスの皆にも追いつけそうだね。」
「…うん。凄かった…。普通の強化の二倍は効果が出ていた気がする…。」
影山の言葉に滋深が続けるが…鋭いな。
一回見ただけだと言うのに、そんなに分かるものなのか?
…バレないように細心の注意を払わないとな。
「装備はなるべく早く変えるようにするよ。……お金が貯まればな。」
結局全ては金だ。世知辛い世の中だよ。
「…気持ちは分かるよ。僕も裕福な家じゃ無いし…厳しいよね。」
「ああ…。」
しんみりとしてしまう。
上流階級の家庭では先祖伝来の武具などが有ると聞くし、いつか見てみたいものだ。
「じゃあ次は、…アイテムはどうだい?アイテムは個人の判断に委ねられるけど、最低限持っていた方が良いモノは有る。」
(何か、急に中等部みたいな事を言い出したな。オレの事を見ているし、心配されているのか?)
だがアイテムなら心配無用だ。
この前買ったポーションが有る。
これを見せれば納得するだろう。
「オレはコレだ。最近手に入れた逸品だぞ。」
若干ドヤ顔でポーションを見せる。
瀕死の怪我を負ってようやく購入を決断したポーションだ。影山も驚いているだろう。
「…………他には?」
「他?ポーション一個有れば十分じゃ無いのか?」
「「……はぁ…。」」
影山が…いや、滋深も?…二人して頭を抱えてしまった。
「断真君。」
「はい。……滋深?……さん?」
滋深の目が…座っていると言うか、今まで見た事が無い程鋭い目つきをしている。
「断真君が毎日ダンジョンに入っているのは知ってます。アルバイトが出来ない事も分かっています。…ですが、ポーションは必需品ですよ?一個しか持って無いなんてあり得ません。しかも『最近手に入れた』と言いませんでしたか?まさか、今まで回復アイテム無しにダンジョンに潜っていたなんて事は…無いですよね?」
今まで聞いた事が無いようなマシンガントークだ。
何故か敬語だし…こんな喋り方も出来たんだな…。
「どうなんですか?」
「いや…、オレは低層に潜ってたんだ。怪我しても一日寝れば問題無くなるんだぞ。」
…どうやらオレの答えは不正解だったようだ。
影山は頭を抱えているし、滋深は…見ないでおこう。
「…良いですか?一日寝れば治るのではありません。半日怪我が治らないのです。断真君が足を引きずってダンジョンから帰るのを大勢の人が何度も目撃していましたが……まさかポーションを持って無いとは思いませんでした。
折角同じチームになれたんです。今日はしっかりと親睦を深めましょう。…まずはダンジョン攻略の基本から学んで行きましょうね。」
「よ…宜しくお願いします。」
そう答えるしか無かった。
…どうやら助っ人は思った以上に頼もしい存在だったようだ。
誤字脱字報告ありがとうございます。
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