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影山

「さてと…。それじゃあ改めて、オレは断真だんましゅうだ。」


 食堂の隅の方で影山と話し合う。

 別に端っこが落ち着くとかでは無く、余り人に聞かれたく無い内容の話をするからだ。


影山かげやまだ。クラスは支援、スキルは隠密。」


 どうやら改めて聞くまでも無く、スキルを教えてくれるみたいだ。

 本来は秘密にするべき情報だが、チームを組むなら知らなくてはマズいからな。


「オレのクラスは支援。スキルは強化とクリティカルだ。」


「ああ。」


「それで、三人目の――」

「すまない。僕は……補修は受けないつもりなんだ。」


 …嫌な予感が当たってしまったようだ。

 宣誓書をすぐに提出しないなんて、何か有ると言ってるようなものだからな…。


「…理由を聞いても良いか?」


 親しい間柄では無いが、理由くらいは教えて欲しい。

 まぁ予想はつくがな…。


「…分かるだろ?僕のスキル、『隠密』じゃどうしようも無いんだよ。中等部まではまだ何とかなった。味方の姿を隠して奇襲をかければ効果は絶大だ。敵の数が少ない内はかなり使えるスキルだったよ。

 …でも高等部に入って全てが変わった。大勢の敵相手には隠密の効果は薄いし、一転してお荷物扱いさ。今じゃ寄生虫とまで呼ばれているよ…。」


 思った通りの内容だったが、影山の心はオレの思った以上にダメージを受けていそうだ。


(しかし、隠密は他人に対しても使えるのか。それなら10層まではかなり有用だな。)


 中等部まで頼りにされてたのにも頷ける。

 高等部に入って突然落ちこぼれになったなんてかなりキツイだろう。


「…そうか。」


 説得したいが、うまく言葉が出ない。

 ずっとボッチだった弊害が…。


「…ごめんな。僕が抜ければ助っ人をもう一人許可してくれる……かも知れない。」


「それは…無理だろう。」


「…そうだな。…すまない。」


 横葉先生はチームメイトを引き止められないならそれも実力の内と判断する人間だ。…やはり、何としても引き止めないとな。


「…幸い課題は10層だ。『隠密』は十分使える。何とか合格して、残りの学園生活で二つ目のスキルを取るのはどうだ?赤点回避の勉強ならオレも協力する。」


 二つ目のスキルは割と取りやすいと言われている。

 オレのように三つ目だと10〜20 年はかかるが、二つ目なら5年くらいで取れてる人間が多いのだ。

 中等部から高等部までの間に取れる計算だ。十分賭ける価値は有ると思う。

 更に影山は今まで順当に強敵と戦って来たのだ。5年とか10年と言う数字は低層を潜っていた場合の話になる。

 つまり、影山はいつ二つ目のスキルを獲得してもおかしくない所まで来ているんだ。


「本気で!……言ってるんだよな。そうだ。君は鉄人なんだったな……。」


 怒らせてしまったと思ったが、何とか大丈夫だったようだ。


(ちょっと無神経過ぎたか…。しかし、鉄人…?)


 以前も何処かで聞いたような。…ああ、保健室で木万きまが言ってたのか。


「鉄人?」


 意味不明だったので聞いてみる。

 悪い意味では無さそうだが…どういう意味だ?


「……まさか、知らないのかい?」


「ああ。」


 38号かなんかは聞いた事が有るが、それとは別のはずだ。


「…流石だな。士族の脳筋達が手放しで褒める訳だ。

 …『鉄人』って言うのはな、君のように三つ目のスキルに人生を賭けた人間の事を言うのさ。何十年かかるか分からない。使えるスキルを取得出来るかも分からない。それでも愚直に強さを求める人間に贈られる称号さ。

 良い機会だから言っておくが、君は学園じゃ有名人なんだぜ?皆が一目置いている。…当たり前だ。既に丸四年も休まずにダンジョンに潜り続けているんだ。しかも独りでね。

 …僕は一年で心が折れた。在学中に頑張れば新たなスキルが得られる可能性が高いのは分かっている。それでも!……それでも…本当に得られるか分からない。得られたとしても、そのスキルがまたゴミかも知れないんだ。

 一人ぼっちでそのプレッシャーと戦うのは…キツイよ…。」


(なるほど…。そうか。外からはそう見えてしまうのか。)


 実際は全然違う。オレはダンジョンマスターになれると信じてやっていたのだ。最初は何年かかるか分からなかったが、それでもやる価値は有ると思った。


(アレ…?結構似てるか…?いや、そんなはずは…。)


 ダンジョンマスターになれると信じていたが、根拠は何も無かった。出来ると信じていたが、何年かかるか分からなかった。

 …まるで今さっき聞いた『鉄人』のような内容だ。


(いや…、違うはずだ。まるでオレが単細胞みたいじゃ無いか。……晴れてダンジョンマスターになれたんだ。この件は忘れよう。)


「…少しダンジョンに行かないか?オレが何で赤点を取ったのか教えるよ。」


 少し詐欺的な手法になるが、何とか説得してみるか。

 うまくいけば影山の悩みも解決出来るかも知れないしな。


「…ああ。」



 影山を連れてダンジョン3層に行く。

 もっと下層でも良いが、話もするしここら辺の方が良いだろう。


「コボルト二匹か。…見ていてくれ。」


 クラスメイトから見れば雑魚も良い所だろう。それでも問題無い。見せたいのはオレの動きなんだから。


(『強化』)


 進化した強化をかけ、コボルトに一瞬で近付く。

 二匹のコボルトは左右から攻撃を仕掛けて来たが、敵より早く二匹まとめて横薙ぎにする。


(楽勝だな。数日前が嘘のようだ。)


 影山の方を振り返ると、口を大きく開けている。

 どうやら相当驚いているようだ。


「まさか…。まさか…!!もう三つ目のスキルを得られたのかい!?しかもあの強さ、攻撃系!?凄い!!凄い!!!まさか超人の誕生を見る事が出来るなんて!!」


 大分興奮しているようだ。

 自分の事のように喜ぶなんて…コイツも良い奴だな。


「いや、残念ながら三つ目のスキルはまだだ。オレは『強化』のスキルを上手く使うコツを掴んだんだ。だからここまで強くなれた。……影山、お前の『隠密』も隠された能力が有るかも知れないぞ。」


「何だって……!『強化』にそんな秘密が…!?……確かに、それなら僕の『隠密』も。…そう言えば、冒険者の中にはスキルが成長した人が居るって聞いた事が有るような…。」


 影山は真剣に考えているようだが、全てデタラメだ。影山にスキルを与える事は出来ないし、完全に詐欺と言える。だが、それで終わらせるつもりは無い。


「影山。この魔石を持っていろ。オレはこの魔石に願いを捧げていた。…ジンクスだが、何も無いよりはマシだろう?」


「…ありがとう。」


(良し。受け取ったと言う事は、少しはやる気が出てきているって事だ。更にダンジョンマスター特製の魔石を通して……影山、お前をダンジョンマスターの手下にしてやろう!!)


 改めて考えると鬼畜の所業だが、完全な手下にする訳では無い。

 どちらかと言えば協力者、仲間の方が近いだろう。

 これもダンジョンマスターとして扱う事が出来る、能力値強化の一環だ。自分以外を強化する場合は配下にしなければならないのだ。


 ダンジョンコアが有れば配下を召喚したり、モンスターや人間を眷属に出来たりするらしいが、今のオレにはそこまで出来ない。

 精々配下にする所までだが、それにも色々と時間と手間がかかる。あの不良達は何としても配下にしてこき使うが、他の人間にそこまでする必要は無いだろう。


(…これで影山とパスが繋がった。後は影山に仲間になると認めさせれば良い。)


 そうすれば疑似的な配下として、影山を強化出来る。

 これこそがオレのやりたかった事だ。

 パスは魔力的な繋がりで、一応『偽装』によって隠してある。遠く離れるとパスは切れるし、バレる事は無いだろう。


 強化と言っても微々たるものだ。

 オレと一緒に居る間は成長が早くなり、能力値が僅かに上昇する位だ。

 正式な配下でも無いし、仕方無いだろう。


 影山の意志でこの関係は勝手に解消出来るし、かなり甘い設定にしてある。

 オレへ攻撃しようとしたらバッドステータスが付く事になるが、それも一時的なものだ。

『ユニット強化』までは出来ないが、それでも十分だろう。


「…分かった。鉄人にここまで頼まれたんだ。僕も頑張るよ。…正直、ただ君に大丈夫と言って欲しかっただけだと思う。最後の一歩を、鉄人である君に後押しして欲しかったんだ…。」


「……そうか。気軽な事は言えないが、お互い頑張ろう。…まずは補修からだな。」


 ダンジョンマスターとして影山を強化したとしても、次のスキルが重要な事に変わりは無い。オレも他人事じゃ無いし、上手くいって欲しいと願う。


「そうだね。…うん。それなら早速三人目を考えよう。」


 影山が照れ臭そうにしながら頭をかいている。

 色々と本音をさらけ出したんだ。気持ちは分かる。


(しかし、鉄人か……。)


 そんな風に思われていたとは知らなかった。

 正直オレの目的は三つ目のスキルだけじゃ無かったし、影山が言うような凄い人間じゃ無い。

 ……だからニヤけそうになるのを堪えないとな。


(ックソ。不意打ち過ぎだろ…。)


 不良以外のクラスメイト達が良い奴らだって言うのは分かっていた。

 それでもオレは底辺に見られていると思っていたし、実際そうだから仕方無いと思っていた。

 それが……一目置かれてるなんて言われるとは…。


(…落ち着け。勘違いされてるだけなんだ。ここで喜ぶのはお門違いだ。……でも、コイツらの気持ちだけはしっかり覚えておこう。)


 コイツらが弱者にも敬意を払う人間だと言う事を覚えておこう。

 それが知れただけで、同じクラスの一員だと言う事に誇りを持てる。


「……そう言う訳で、僕としては三人目には福良さんが良いと思ってるんだ。あの周囲を癒す微笑み…一緒にダンジョンに潜れたら最高だと思わないかい?」


 考え事をしていたら、いつの間にか三人目の話になっていた。

 影山は福良の事を熱弁してるので気付かれなかったようだが、気を付けないとな。


「福良…さんか。確か戦士だっけ?戦士は無理なんじゃ無いか?」


 スキルまでは知らないが、戦士は基本的にアタッカーだ。助っ人は敵への直接攻撃が禁止されてるし、厳しい気がする。


「いや、福良さんは『防御』のスキルを持っているんだよ!それで味方への攻撃を肩代わりしているらしいよ!流石は癒しの福良さんだよ!」


「そうなのか…。それならオレ達のチームでも相性は良さそうだな。」


 女子に攻撃を受けて貰うのは気が引けるが、ダンジョンに潜る以上はそんな事を気にしている余裕も無いしな。

 オレ達のチームではオレがアタッカーとなり、影山は支援と囮役になるだろう。

 三人目は後方支援系が良いと思っていたが、前衛タンクもアリだな。


「だろう!それじゃあ頼むよ!」


「……オレが、声をかけるのか?」


「え!?この前楽しそうに話をしていたじゃ無いか!仲良いんじゃ無いのかい!?」


(この前って…不良達に絡まれた所を助けて貰った事を言ってるんだよな。…楽しそうに話してたか?)


 千海も顔を真っ赤にしていたし、福良の人気は相当だな。


「いや…、見てただろ?茨山達からかばって貰っただけだ。話したのもアレが初めて…だと思う。」


 正確には覚えて無いが、福良の容姿なら忘れる事は無いだろう。

 覚えてないって事は話した事が無いって事だ。


「そうなのか!いや…喜ぶ所じゃ無かったな。」


 …そんなに気にしていたのか。

 正直、女生徒を誘うなんて気が引けるが…そんな事を言ってもられないか…。

 いつの間にか影山も真剣な表情に戻っている。どう誘おうか悩んでるんだろうか。


「ついでと言ったら失礼だけど…良い機会だから聞いておくよ。……茨山達の事だ。君は…誰かに助けを求めないのかい?」


(ん?福良の勧誘かと思ったが、あのバカ共の事を考えていたのか…。)


「考えて無いな。アイツらの事はムカついているが、オレが強くなれば解決する事だ。」


 一般の学校みたいに、直接的な暴力が振るわれるようなイジメなら話は別だが、ここでは直接的な暴力が振るわれる事は殆ど無い。

 以前のような事は本当に稀だ…と言うか、頻繁にあったら何人も人が死んでいる。


(だが…今日も千海はキレて殴ろうとして来た。…そろそろヤバイかも知れないな。)


 アイツらの我慢も限界かも知れない…我慢してるのかは不明だが…。


 学園には普通のイジメは存在しないが…ダンジョン内での不審な事故は毎年確認されている。

 関係者には厳重な取り調べや、場合によってスキルを使った調査も行われる。

 それらから逃れる事は不可能とまで言われているが…ここ数年の不審死は容疑者が特定されずに事故死として扱われている件が多数有るのだ。


(あの三人組にそんな事が出来るとは思えないが…注意は必要だな。)


 茨山と崎川はそれなりの名家の家柄だと聞いた。そんな奴らが下手に手を汚すとは考え辛いが…。

 これからのダンジョン探索は一層気をつけよう。

 そうすれば下手な事は避けられるはずだ。


「そうか…。やはり皆の言う通りか…。君は立派な戦士なんだな。」


「…戦士と言うにはまだまだ半人前だがな。」


「心構えの話さ。何人かが心配して君に声をかけてるけど、いつも君は孤独に戦っている。君の話はすぐに広がるからね。皆知ってるよ。」


(まるで珍獣扱いだな。)


 プライバシーも何も有ったもんじゃ無い。


「…その話はいい。とりあえず福良さんを誘おう。」


 また褒められでもしたら今度こそニヤけてしまう。

 すぐに移動しよう。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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