表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/61

小迷宮攻略

 御前会議から数日が経ち、ついに乗禍攻略の日がやって来た。

 街を攻める本隊の兵力は3000。どうやら前回と殆ど変わらない兵力らしい。正規兵が多くいるのが変わった所だろうか。

 全て正規兵ではないのは、防御系のスキルを持った兵で固めているからだ。

 後は今後の利権の関係とかも有るらしい。


 本隊の役割は敵の主力が街に居ることを確認する事と、敵の足止めだ。

 オレ達が撤退するまでは、無理攻めとも見える形で敵を攻め立てる予定になっている。

 ダンジョンの異変に気付いたとしても、多くの兵を送る事は出来ないだろう。


 乗禍と復鬼が特に危険なので、二人が街に居る事が確認出来ればオレ達は行動を始める。復鬼は総番の兄の復鬼一全だ。

 オレ達が撤退した後は攻勢を緩めるものの、包囲は継続する。大迷宮へと向かう兵士達を出来るだけ減らす為だ。


「いよいよだな……。オレ達のチームはオレと奈子と黒守と先生だ。林達は距離を空けてついて来てくれ。」


 小迷宮の人数制限を気にして、いつものチームを二つに分ける。

 魔物が大量発生しても弱いゴブリンが湧くだけだが、無駄な時間はかけたく無い。

 ボス部屋で合流してコアルームまで一気に攻め込むつもりだ。

 ボスは人数が増えた分強くなるが、5層なので大した事は無いはずだ。


 乾先輩と豪牙先輩、それに影山や鹿藤達も同行する。有禅さんと雅山さんもだ。

『黒牛』と『白牛』が居るので大丈夫だと思うが、念には念を入れてという事だ。

 街との連絡通路は徹底的に壊した後に、大和の精鋭達が防衛に当たる。


「皆、気をつけるようにね。特に断真君は危険を感じたらすぐに離脱するように。迷宮入口にも兵を伏せてあるから、いざとなったら彼らを頼ってくれ。」


 雅山さんが声をかけてくる。

 迷宮入口までは帰還石で戻ってこれるので、問題は無い。

 大和上層部としては、コア奪取よりもオレの身の方が重要らしい。

 魔王化した乗禍については損害を考慮しなければ倒せると考えているみたいだ。


「本隊から連絡来ました。街にて乗禍と復鬼の存在が確認出来たとの事です。」


 有禅さんに一人の兵士が話しかける。

 別働隊のリーダーは豪牙家当主の有禅さんだ。ここは携帯が使えないから、『伝言』系のスキルで連絡が有ったんだろう。


「分かった。ではこちらも行動を始めよう。連絡通路を壊せ!破壊完了と共に私達は侵攻を始めるぞ!」


 有禅さんが指示を出す。

 連絡通路は迷宮から少し離れた位置に隠れている。

 何人かの兵士が通路に入って少しすると、地響きが伝わってきた。

 どうやら内部から通路を壊したようだ。


「行くぞ!!」


 有禅さんの声に従い、迷宮へと侵入する。

 一番手は豪牙家、乾家の親子のチームだ。

 二番手が影山、鹿藤のチームで、三番手がオレと奈子、黒守、先生だ。

 四番手が林、福良、諏訪、黒田のチームで、最後に正規軍が殿しんがりを務め、倒した敵を回収してくれる事になっている。


 鹿藤達のチームは戦力としては大分落ちるが、一流冒険者の相手をしなければ大丈夫だろう。

 ボス部屋で全員合流し、その時に『黒牛』と『白牛』も解放する。


 迷宮内部は迷路型で、大迷宮の1〜10層までと似ている感じだ。

 敵は全て有禅さん達が倒していて、たまに人間…乗禍の配下達が転がっている。

 コイツらの捕縛は後ろの人達に任せて先を進もう。


 殆ど勢いを落とさないまま走り続け、ついに最下層のボス部屋へと辿り着いた。

 何人もの敵兵を倒しているのに、速度が全く落ちていなかった。

 一体どうやって倒しているんだろうか…。

 緊張しながら先を進んでいた有禅さん達の元に駆け寄る。

 ……後ろから足音が聞こえる。どうやら林達も追いついたようだ。


「それではミノタウロスを解放します。」


 奈子が『禍津魂まがつたま』から『黒牛』と『白牛』を解放する。

 豪牙家、乾家の四人が若干身構えそうになったが、何とか堪えたようだ。

 鹿藤達は驚きながらも仲間だと分かった為、興味深そうにミノタウロスを観察している。


「……相変わらず、とてつもない存在感だな。…申し訳無いが、出来るだけ私達と離れた位置で戦ってくれると助かる。」


 有禅さんが申し訳無さそうに話してくる。魔物が近くで戦っていたら戦闘に集中出来ないのだろう。

 気持ちは分かるので、ミノスとタウロに伝えておく。


「MOO(分かったぜ。このおっさん達から距離を取れば良いんだな。)」

『MO(このおっさん、ゴツいナリして繊細なんだな。)」


「え!?断真君!喋ったよ!?」


 二体の言葉に影山が驚く。

 そういえば、『黒牛』達が仲間になったとは伝えたが、話す事までは言ってなかったな。

 鹿藤達も面白そうにミノタウロスを見ている。


「ん?君達には言葉が分かるのかね?…あの伝説の『黒牛』と会話出来るとは羨ましい。今度時間が有れば通訳して欲しいものだ。」


 雅山さんが楽しそうに話す。

 ……コイツらは口が悪いから、出来れば偉い人に近づいて欲しくないんだけどな…。


「おっと済まない。お喋りは終わってからにしようか。……それでは扉を開けるよ。速攻で敵を倒そう。」


 雅山さんがゆっくりと扉を開いていく。

 中にはゴブリン達が大量に待ち構えていた。

 数体のオーガが混じっているが、アレだけ明らかに別格の強さだ。


「あのオーガに気を付けろ!恐らく完全に魔物化した乗禍の兵士達だ。元は一流の冒険者達で、モンスターになった事で遥かに力を増しているぞ!ゴブリンの中にも恐らく元二流冒険者が混じっているぞ!!」


 有禅さんの言葉に気を引き締める。

 事前に説明を受けていた、乗禍家の最上級兵と呼ばれている兵士達だ。

 …完全に魔物化してしまうと、モンスターと全く見分けがつかない。


「ミノス!タウロ!オーガ達を任せられるか!?」


 オーガは全部で五体いる。

 何体か引き受けて貰えると助かるんだが…。


「MOO(兄さん、俺達を舐めて貰っちゃ困るぜ。あの程度楽勝だ。)」

「MO(久しぶりの戦いだ。どう料理してやるか迷っちまうな。)」


 どうやら大丈夫そうだ。

 早速有禅さんに許可を貰い、戦いを開始する。


「MOO!!(行くぜ!『黒牛』ミノスの力を見せてやる!)」

「MO!(『白牛』タウロも忘れて貰っちゃ困るぜ!元人間だというし、楽しませてくれよ!)」


 戦いが始まると同時に、二体のミノタウロスが敵の大軍を中央突破して行く。

 ……道中のゴブリンは全滅だ。装備からして元冒険者達も混じっているが、全く相手にならない。


「オレ達も行くぞ!」


 諏訪、黒田のスキルでただのゴブリン達が一掃される。

 コイツらは見かけ通り雑魚のようだ。

 残ったのは10体程の強そうなゴブリン達だ。

 全員が上質な防具と刀を持ち、明らかに別格の強さが感じられる。


「ふむ…。私達が4体、断真達の二チームで5体、鹿藤達で1体といった所だな。力は増しているがその分知性は失われている。冷静に戦えば十分対処出来るはずだ。」


 有禅さんが指示を出す。

 有禅さん達の負担が大きい気がするが、心配するのもおこがましいだろう。

 まずは自分達の相手を確実に倒そう。


(ミノス達も危なげなく戦ってるな。……しかし、敵の攻撃を食らって身じろぎもしないって、どういうタフさなんだ?)


 オーガ五体を相手に、余裕で戦っている。

 相手の力は一流冒険者の一歩上……上級クラスに匹敵する力だと思うが、全然ダメージを食らっていない。

 敵の大剣を左腕で軽々と受け止め、ミノス達が攻撃すると敵が数M吹き飛んでいる。

 まだ致命傷こそ与えていないが、敵の動きが既に落ちている気がする。

 安心して任せられそうだ。


「蘭とせつと断真君で一体ずつ、先生は二体お願いします。私の『風虎』で先生を援護します。他の皆は断真君の支援をして。順番に倒していきましょう。」


 黒田の指示に従い動き始める。

 オレの『超強化』や黒守の『光陣』、『天使の輪』は既に使用済みだ。

 もちろんオレ達だけでなく、他の二チームにも使用している。


 敵に近づくと、読み合いも何も無く相手が斬りかかってくる。

 余裕を持って受けるが、流石に力が強い。

 元が二流冒険者という事はオレ達より若干格下か同格だが、力では大きく負けているようだ。

 知性が失われている分戦い易いが、油断出来る相手じゃ無い。


「断真ー。もうちょいそのまま頑張ってー。」


「分かった。」


 諏訪の言葉に返事をして、戦いを続ける。

 ……知性は無いものの、本能によってそれを補っている。

 下手なフェイントを入れても反応せず、逆にこちらの隙をつかれる。

 流石は元二流冒険者といった所か…。

 とは言え防御に徹すれば崩される事は無い。

 敵の力は強いものの、どこを攻撃するかも丸分かりだ。準備が出来てれば受け流す事も容易い。


「洲君!」


 奈子の声と共に無数のリーフが敵の視界を奪う。

 そして……。


「『光凰』!!」

「『雷龍』!!」

「食らえ!」


 黒守と諏訪が左右から攻撃して来たので、オレも合わせるように袈裟斬りを食らわす。

 ……流石に耐え切れず、敵は息絶えたようだ。


 元が人間だったとは言え、完全に魔物化した相手にかける慈悲は無い。

 一般市民とは言え、オレも長い間学園に通っているのでその辺の教育は受けている。やらなければやられる状況では手加減など出来ない。


「林、行くぞ!『魔断』!!」


 すぐにオレは林の元に駆けつける。

 敵はこちらに反応しそうになったが、林の『挑発』によって動きを封じられる。その隙を突いて斬りつけた。

 ……背中からの攻撃になす術も無く倒れていく。

 防御力もそれ程高くは無いようだな。


「せつ、行くよ!」


「『光凰』!!」

「『土龍』!!」

「『反撃』!!」


 奈子達は福良の元へ行き、先ほどと同じように同時攻撃を成功させた。

 三体目の敵も無事に倒したようだ。


「先生、一体貰うぜ!『挑発』!」


「ああ。一体はワタシが倒すぞ!」


 残りは二体だ。

 危なげなく戦っていた先生の元へと行き、林が敵を一体引きつける。

 残りの一体は先生がそのまま相手をするようだ。

 林が引きつけた敵は林と福良で相手をしている。

 どちらも危なげ無く戦っているので、周囲を見てみる。


(有禅さん達は……もう二体倒してるのか…。今は先輩達の戦いを見守っているみたいだ。)


 有禅さんと雅山さんは戦いを終え、豪牙先輩達の戦いを見ている。

 敵は先輩達の『防御』と『受け流し』を崩す事が出来ず、逆に攻撃を食らって徐々に動きが鈍くなっている。

 もうすぐ決着はつくだろう。


(鹿藤達は……結構苦戦しているな。……いや、戦力差を考えれば善戦していると言った方が良いのか?)


 君島が敵の攻撃を一手に引き受け、鹿藤と木万で攻撃を与えている。

 影山はタイミングを見て攻撃組に『隠密』を使い、不意打ちを食らわせている。

 徹底した役割分担で、鹿藤は君島を盾のように使っている。傍目に見ると酷く感じられる光景だ。

 勿論信頼関係有っての事だから外野が口出しする事では無いが、影山もたまに『うわぁ……。』って顔をしている。


(ま、まぁ君島はポーションを使って回復してるようだし大丈夫だろう。念の為に『超強化』をかけ直しておこう。)


『超強化』が切れる前に敵を倒せると思うが、余裕は有った方が良いだろう。

 影山と木万が手を振ってきたのでこちらも返しておく。


 ミノタウロス達も既に二体の敵を倒している。

 ……戦いの余波で周囲の床が大きく削れている。斬ったというよりは抉り取ったような破壊のされ方だ。

 一体どうやればあんな状態になるのか不明だが、戦い自体は問題無いみたいだ。

 力を含め、全ての能力でミノタウロスが勝っている。

 敵の数が少し増えた所ではその差は埋まらないようだ。


 皆の方を見てみると、ちょうど福良達が敵をフルボッコにする所だった。

 四方から囲まれて一斉攻撃されればどうにもならないだろう。


 先生の方を見ると、先生の大剣が的確に敵の急所を突いていく。

 大剣使いで有りながら『精密攻撃』によって緻密ちみつな攻撃を可能としている。

 更に『心眼』で敵の攻撃を見切り、『一点突破』で防御も破る事が出来る。

 対人戦においては文句無しのスキル構成だ。


「魔物化したのは間違いだったな!本能と力だけで戦いに勝てると思ったら大間違いだぞ!!」


 先生が敵の心臓を貫く。

 敵も刀で防御したが刀は呆気なく折れてしまった。

 敵の武器はどれも上質な武器だったが、何度も同じ場所を攻撃された事で限界を迎えてしまったのだろう。


 周囲を見ると、それぞれ戦いが終わる所だった。

 君島が少しふらついているが、大きな怪我は無いようだ。



 敵が全員倒れると、ボス部屋の最奥に扉が出現する。

 あそこがコアルームのようだ。


「私が先に入ろう。」


 雅山さんを先頭に、乾先輩達が中に入っていく。

 少しすると、「誰も居ない。大丈夫だ。」と安全を告げられる。


 コアルームに入ると、中央に拳大の水晶が浮かんでいる。

 台座のような物は有るものの、空中に浮かんでゆっくりと回っている。

 一見美しい光景のように見えるが、水晶をよく見るとそんな考えは吹き飛ぶ。

 水晶は真っ黒い色をしており、ヘドロのような物が中でうごめいている。

 触るだけで呪われるようなおぞましい物体だ。


「これは……。断真君。本当に持ち帰るのかね?ここで壊してしまった方が良いんじゃ無いかね?」


 雅山さんが顔をしかめながら忠告してくれる。

 奈子も不安そうにしている。


「コアを壊してしまうと、乗禍がどこか別のダンジョンを攻略しに行ってしまいます。そうなると一時的な平穏は訪れますが、乗禍の脅威は残ったままになります。それに師匠からの依頼も達成出来ない為、ダンジョンマスターへの就任も無くなります。」


『ユニット強化』が使えなくなれば乗禍は頃合いを見て逃げ出す可能性が高い。

 戦力の補充が出来ない状態では徐々にジリ貧になって行くし、何よりコアが無くなれば魔王の力も弱まっていく。

 そうなれば迷わずに逃げ出すだろう。死ぬまで街を守るような性格では無いと聞いている。

 乗禍に逃げられてしまうと、見つけ出すのは困難を極める。次大和の前に現れる時は十分な戦力を整えてからになるだろう。


 ……この辺りの事は、会議でも話した事だ。

 雅山さんも勿論知っているが、それでもこの水晶の禍々しさを見てオレを心配してくれたんだろう。


「…そうだな。余計な事を言ってしまって済まない。」


「いえ、心配して下さって有り難うございます。……では早速取ります。」


 ボスを倒した事で乗禍にも気付かれているはずだ。急いで済ませよう。

 コアに触れて、台座から少しずつ引き剥がす。

 負の怨念がオレを侵食して来ようとするが、魔力がこちらに流れて来ないように防御する。

 魔力の扱いには多少慣れているのでこれ位なら簡単だ。


 そうして完全に台座から引き離すと、師匠から譲り受けた魔力を遮断する布で水晶を包み込む。

 水晶が台座がら外れると、今まで発光していた迷宮の壁や床が少し暗くなった。

 迷宮全体からなんとなく力が抜けたような感じがして、ここは迷宮じゃ無くなったと感覚的に理解する。


「……無事回収出来たね。ではすぐにでも王都に戻ろう。」


 有禅さんの指示に従って迷宮を後にする。

 ……なんとか乗禍達との遭遇は避けれたようだ。

誤字脱字報告ありがとうございます。


もし面白ければブックマークや、

↓にある☆☆☆☆☆から、作品の評価をお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ