御前会議 1
『黒牛』達を配下にした後、迷宮から出ると皆の携帯が一斉に鳴り出した。
どうやら保護者達からの電話みたいだ。
オレの所には特にかかってきて無い。
親父は大和上層部との交渉から早々に撤退し、重要な情報も後回しで良いと言っている為だ。
一般市民からしたら無理も無い事だと思うが、その謙虚な態度を見て親父を高く評価している人も多いそうだ。
絶対買い被りだと思うが、誰も損はしてないし放っておいても良いだろう。
「洲君。……王城からお呼びがかかっているみたい。」
そんな事を考えていたら、奈子からとんでもない事を告げられた。
王城って……王様の住んでる所だよな……?
「王城か……。」
「『森林亭』に迎えの馬車を出すから、それに乗って来て欲しいって…。」
「迎えの馬車……。やっぱり王様に会うのかな?」
「うん。でも正式な謁見とかじゃ無いみたいだよ。今回の事で会議が開かれてて、そこにご臨席されてるんだって。だから挨拶もしないんじゃ無いかな?」
奈子の言葉に安堵する。
親父は謁見の間で王様から直接声をかけられたらしい。
そこで断真家は士族の身分に戻る事が認められた。
現在の当主は親父だが、オレが学園卒業したら速攻で隠居すると伝えられている。
オレもそんなに早く当主になりたくないので、徹底抗戦するつもりだ。
「それなら良かったな。でも王様の前で発言するのか……。緊張するけど、何とか頑張らないとな。」
オレ達は師匠…大迷宮のダンジョンマスターから直接話を聞いたし、会議では絶対に説明を求められるだろう。
オレが発言しなくてはならないし、失敗しないように気をつけないと…。
「お父さん達も来るし、何か有ったらフォローしてくれるよ!」
奈子に言葉に励まされる。
最近になって滋深家の周囲に居た間者も全て捕まえられたらしい。
今では奈子の父もよく王都へとやって来ている。
オレもダンジョンマスターの事で話を聞かれるので、よく会っている。
『森林亭』に到着すると、豪華な馬車が既に停まっていた。
慌てて馬車へと向かうと、乾家の当主が馬車から出てきた。
「雅山さん。」
「無事戻ったようだね。早速で悪いが、王城へ向かおう。着替えが必要なら向こうですると良い。」
今回は制服での出席が認められている。
ボス戦を終えたものの、オレ達の制服は綺麗なままだ。着替えも必要無いだろう。
全員が馬車に乗り込むとすぐに出発する。
「遅くなったが、30層攻略おめでとう。後日お祝いを贈るよ。」
「ありがとうございます。ですが、お祝いなんて大げさですよ。」
「いやいや…学園生が30層を攻略しただなんて、本来なら国をあげてのパレードが開かれる程の事だよ。大いに誇ってくれ。……とは言え、中立派の私が高価なプレゼントを贈ると要らぬ詮索をされるかもしれないからね。娘に手作りのケーキでも作るようにお願いしておくよ。」
「そういう事でしたら…。お嬢さんの負担にならないようでしたらお願いします。」
大げさな話にならなくて安心した。乾先輩の妹さんには悪いがお願いしておこう。
「今回の話についても概要は聞いている。事実なら早急に乗禍を攻める必要が出てくる。君達に会議でやって貰いたい事は、大迷宮のダンジョンマスターとの話を伝えて貰う事と、可能なら『黒牛』を見せて貰う事だ。大丈夫かい?」
「……はい。『黒牛』は見せる事が出来ます。説明も……何とか頑張ります。」
「…そう気負わずとも良い。君が学園生で、一般家庭の出だという事は皆知ってるからね。多少の失敗が有っても目をつぶるさ。」
「分かりました。」
「実際に信じられるかどうかは…『黒牛』のインパクトにもよるかも知れないな。正直、未だに半信半疑の者が多いんだ。」
無理も無いだろう。
今までずっと大迷宮の暴走が起こって来なかったんだ。
迷宮を研究している学者の中には、「大迷宮は暴走を起こさないタイプの迷宮だ。」と言っている者も居るくらいだ。
「それは……見て貰えば分かると思います。」
王様の居る前でぶっつけ本番なんて出来る訳が無い。
王城についたら一度見てもらおう。
王城につくと慌ただしく準備を進める。
胸当てなどの部分鎧を外し、制服についたホコリを落とす。
…メイドや執事にチェックして貰ったが、問題無く会議に出れるようだ。
『黒牛』と『白牛』についても雅山さんに見て貰い、会議で召喚しても良いと許しを貰った。
二体のミノタウロスは奈子に怯えながらも、まだ心は折れて無いようだった。
また『禍津魂』に封印される時に謝罪の言葉を口にしていたので、敗北を認めるのも意外と近いかも知れない。
「それでは、断真様方、どうぞ。」
全ての準備が終わると執事に声をかけられた。
会議はずっと前から始まっていて、王様含めて大勢の人が会議室に居るらしい。
会議自体はオレ達が迷宮に入る前にした連絡を受け、急遽開かれたみたいだ。
そこに追加の情報がもたらされたと言う事で、オレ達にも招集がかけられた。
王様より後に入室するなんて本来は許されないが、今回は非常時という事で黙認されている。
「断真洲様、滋深奈子様、諏訪祥子様、黒田詠美様、福良せつな様、黒守真理火様、林蘭様、ご入場です。」
執事に先導され、会議室の中へと入っていく。
会議室は中央に円卓が有り、そこに何人ものお偉いさんが座っている。
円卓だけでは収まりきらず、二列目にも円を描くように机が並び、人が座っている。
同じように三列目まで続き、外側にいく程に一段高くなっている。
入ってきた扉から中央の円卓までは机や椅子が退けられて花道が作られている。
……どうやら一番内側の、中央の円卓に座らされるらしい。
しかもオレ一人で、奈子達は一段後ろの二列目に座らされた。
「汝が断真洲か。話に聞いていた通りに若いな。此度は余も出席しているが、遠慮は不要だ。事は国の一大事、意見が有れば臆せずに述べよ。」
前方から声がする。
つい目が行きそうになるのを何とか堪え、深く頭を下げる。
(今、『余』って言ったよな……。と言う事は……。)
「断真、この場では直答も許可されている。礼も一礼で大丈夫だよ。」
近くから声がかけられる。
恐らく声からして、豪牙家当主、有禅さんだ。
「はっ!勿体無いお言葉です!」
何と答えれば良いか分からず、とりあえず短く答えておく。
顔を上げると、王様の姿が見えてくる。
オレの座る席の前方、三列目の更に周囲より一段高くなった席に王冠をつけた方が座っている。
有禅さん程じゃ無いがガッチリとした体格で、オーラが半端無い。
見ているだけで頭を下げたくなってしまう。
余り見ている訳にもいかないので、目線を逸らす。
何と言うか、王者の風格というものを感じられた。
皆が尊敬するのも納得出来た感じだ。
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