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黒牛と白牛

 迷宮を出るとすぐに諏訪の父に連絡を取り、迷宮での事を話して貰う。電話をかけているのは諏訪だ。

 迷宮に入る前には乗禍が魔王化したかも知れないと伝えていたが、それが確定したと伝えて貰う。

 次いで、このままでは大迷宮が暴走スタンビートする可能性が高い事や、大迷宮のダンジョンマスターからの依頼についてだ。

 諏訪父はかなり慌てた様子だったらしい。


「これからすぐに話し合うってさー。会議自体はさっき連絡した時から続いてるみたい。アタシ達にも『黒牛』達を配下にした後で良いから、話を聞きたいって。」


 諏訪の言葉に驚く。さっき連絡した時って、オレ達が迷宮に入る前の事だよな。それからずっと会議してるのか…。


「分かった。上層部の人達からしたら何を信じて良いか分からないだろうしな。」


 驚きながらも返答する。重要な情報が多い上に真偽も確かめようが無い。

 当事者のオレ達から少しでも情報を引き出したいだろう。


「じゃあ『黒牛』達を迎えに行こう。11層の支配地域に送られて来ているはずだ。」


 再度迷宮へと入る。

 11層へと移動し、オレの支配地域に進んでいくと、二体の魔物が佇んでいた。


「おいおい……。断真達はこんなのと戦ったのかよ。……断真は一応アタイの後ろに下がってくれ。」


 林が相手を刺激しないよう、ゆっくりとオレの前に来る。

 真っ黒い毛に覆われた『黒牛』と真っ白い毛に覆われた『白牛』、二体のミノタウロス草原に立っている。

 オレが戦ったミノタウロスより若干小さいみたいだが、強さは段違いだ。対峙しているだけで圧迫感が感じられる。


「うわー♪ 強そー♪ 蘭、見て、武器も私達のよりも凄そうだよ。」


 福良は目を輝かせてミノタウロスを見ている。

 その声に少しだけ気が紛れる。


「これが深層の魔物か……。ワタシが出会った魔物の中でダントツの強さだな…。迷宮制覇にはこんなのを倒さないといけないのか…。」


 横葉先生でも初めて見るレベルの魔物らしい。

 正直今のオレ達じゃ歯が立たない魔物だと思う。先生が潜った範囲にこのレベルの敵が居ない事を喜ぶべきなのだろうか……。


 オレ達が近づくと、ミノタウロスは膝をついて頭を下げた。

 ……どうやら、知性も有るようだな。


「……言葉は分かるか?」


「MOO」


 ……何を言ってるかは不明だが、頷いてるので理解しているようだ。


「師匠から聞いてると思うが、これからオレが新しい主人となる。主人の書き換えをするからついて来てくれ。」


「MOO」


 ……恐らく承諾してくれているんだろう。

 オレ達の後ろについて歩いて来る。

 オレ達より強い魔物なので緊張するが、今の所問題無いようだ。


 擬似コアまで移動し主人の書き換えをすると、あっさりと魔物達は受け入れてくれた。

 これでオレを裏切る事は無くなった。……ようやく緊張しなくて済むようになったな。

 他の配下の魔物達と同じように、二体の魔物達も味方だと感じられる。


「MOO(こんなチビが新しい主人か。)」

「MO(まぁ良いじゃねぇか。今度は暴れられるらしいぞ。深層で暇しているよりよっぽどマシだろ。)」


『黒牛』と『白牛』が話し出す。

 ……魔物の言葉だが、意味が理解出来る。今まで召喚した魔物達の言葉は理解出来なかったが、このミノタウロス達は本当に特別製のようだ。


「MOO(おいおい、俺達が喋ってるのに驚いてるみたいだぜ。『固有種』くらい知らないのか?)」

「MO(11層を根城にしてるようじゃ、俺達みたいなエリートは見た事も無いだろうよ。」


『固有種』はユニークモンスターの事で、知性の有る魔物達の事だ。

 彼らの言うように、11層の擬似コアでは召喚出来ない。


(しかし口悪いな。コイツら。)


 オレの方が弱いから舐められてるんだろう。


「お前らの名前はなんて言うんだ? 有るのか?」


「MOO(おいおい、誰に向かって聞いているんだ?有るに決まってるだろ?俺の名はミノス。『黒牛』のミノスと言えば、深層じゃ有名だぜ?)」


「MO(俺は『白牛』のタウロ。新しいご主人様は弱っちいみたいだし、俺達が守ってやるぜ。)」


 ……口は悪いみたいだが、悪い奴らでは無さそうだな。

 オレ達が強くなれば認めてくれるだろうし、それまでは我慢するか。


「ああ。宜しく――」

「洲君、待って。」


 頼む、と言おうとした所で、奈子に止められる。

 振り返って見てみると、ニコニコと微笑みながら奈子が立っている。


「(奈子、どうした?)」


 話しかけたつもりが、声が出てこない。

 ……よく見ると体が震えている。


(どうしたんだ?何故震えて……。奈子は笑顔で立っているだけなのに……。)


「ちょーーっと、配下としての立場が分かってないんじゃ無いかな?」


 奈子がミノタウロス達に向かって声をかける。

 ……よく見ると口元がひくついているし、異様なオーラが感じられる。

 ……どうやら、コイツらの態度にお怒りのようだ。


「MOO(な、なんだ?俺達より弱いくせに、やる気か?)」

「MO(く、くそ…。俺とした事が、一歩下がってしまうとは…。)」


 ミノタウロスは奈子の異様なオーラに若干怯えながらも、未だに強気だ。


「洲君への態度を変えないなら、こちらにも考えが有りますよ?」


「(いや、奈子。余り刺激するのは……。)」


 奈子を止めようとするが、まだ声が出ない。

 奈子とミノタウロスの間に立っているせいで、オレも奈子のプレッシャーにやられてしまっているようだ…。


「MOO(た、態度と言ってもな…。俺達より弱い相手に敬意を払うのは難しいぜ?)」

「MO(そ、そうそう。きっちり仕事はするから、そこら辺は割り切っていこうぜ。)」


 ミノタウロス達は軽口を叩いている。

 ……少し震えているようだが、これだけの魔物でも奈子のプレッシャーに負けてしまっているんだろうか…。


「……そうですか。では、暫く頭を冷やしていて貰いましょう。『禍津魂まがつたま』!!」


「MOO(は?吸い込まれてーーーー。)」

「MO(モオオオオオ!!)」


 ……二体のミノタウロスは、奈子の『禍津魂まがつたま』に吸い込まれてしまった。

 二つの勾玉が黒と白に輝いている。


「普通は『禍津魂まがつたま』に入った魔物は眠りにつくのですが、今回は意識を保った状態にしましょう。この中は時間の流れも違うみたいですので、考える時間はたっぷり取れますね。」


 ニコニコと微笑みながら『黒牛』と『白牛』の入った勾玉をしまう。

 ……いつの間にか口調も変わってるし、相当お怒りだったようだ。


 他の皆を見ると、一歩下がった状態でオレに何とかしろと目で訴えかけて来ている。

 オレが何とかするしか無いのか……。


「な、奈子。ありがとうな。」


「ううん。出しゃばっちゃってごめんね。大和で貴族教育を受けて来たからか、ああいう態度はちょっと許せなかったんだ。……ちょっとだけ怒っちゃったけど、怖がらないでね?」


「(アレでちょっと……?)あ、ああ…。奈子を怖がる訳無いよ。今回もオレの為に動いてくれたんだしな。」


 本当に優しくて頼りになる子だ。……ただ、絶対に怒らせないように注意しよう。


「あの子達も根は良い子達みたいだったから、ちょっと教育すれば分かってくれるよ。私が責任持ってお話するね?」


「あ、ああ。頼む…。」


(元々、迷宮外に連れて行くには奈子の『禍津魂まがつたま』を使う必要が有ったしな。そう考えれば奈子のやった事は少しも間違って無い。)


 そう考えて、今回の事は忘れる事にした。

誤字脱字報告ありがとうございます。


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