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30層攻略

 ーーー断真視点ーーー


 三学期も終わりに近づいた頃、ようやく目標のクラスレベルに達する事が出来た。

 これでやっと30層ボスへと挑戦する事が出来る。

 オレ達の強さならボスもそこまで苦戦せずに倒せるはずだ。

 一応横葉先生が同行するが、いつも通り危なくなるまでは手を出さない事になっている。


「30層のボスはフェンリルとイフリート、それに巨人達が数体ね。巨人達は奈子に足止めして貰って、それ以外を二手に分けて戦いましょう。」


 今は『森林亭』で作戦会議中だ。

 黒田が皆に戦い方を説明してくれている。

 ボス戦は苦戦しないと思うが、だからと言って作戦を立てない訳じゃ無い。


「フェンリルもイフリートも、氷と炎の巨人達と特性は同じよ。攻撃パターンは勿論違うけど、注意して戦えば遅れを取る事は無いはずよ。

 私達はせつと私でイフリートを、蘭と真理火と祥子、それに断真君でフェンリルを相手にするわ。フェンリルに戦力を集中して、各個撃破していく感じね。」


 黒田は『軍師』のクラスについた事で、作戦が何となく成功するかどうかも分かるようになって来たらしい。

 勿論正しい情報を得ていたらの事なので、確実に当たる訳では無い。

 だが今回みたいにボスの情報が出回っていれば、まず間違いなく外さないようだ。


「『刺客』が来ないと良いけど……。」


 奈子が不安を漏らす。

 10層ボスのミノタウロスは大苦戦したからな…。


「断真は大迷宮の正当後継者だし、大丈夫じゃ無いかなー?『刺客』は迷宮にとって邪魔な存在を消す為に送られて来るらしいし…。10層の黒牛は試練とかだったんじゃないかなー。断真は何か覚えてないの?」


 諏訪は10層のボス戦も何か理由が有ったんじゃ無いかと疑っているようだ。

 オレがなんとなく乗禍と戦わないといけないと言った時も、何か深く考えていた。


「覚えているも何も…何も知らないよ。古代の情報によると、『刺客』はダンジョン攻略を成し遂げられそうな者に送られてくるって位しか情報は無かったよ。」


 古代のダンジョンマスターの記憶が有る事についても話したが、諏訪はそれこそが大迷宮のダンジョンマスターの意思なんじゃ無いかと思っているようで、思い出したように古代の情報の事を聞いてくる。

 ……確かに滋深家の研究中に現れた黒い塊によってオレは古代のダンジョンマスターの記憶を得た。

 滋深家は大迷宮の研究をしていたし、可能性としてはあり得そうだが……。


「そっかー。まぁ注意しておくに越した事は無いし、今日のところはいっかー。」


 納得…したかは不明だが、とりあえずこれ以上の追求は無いようだ。

 オレの方も気になっていた事が有ったので諏訪に質問する。


「乗禍家との方はどうなっているんだ?元々は、オレ達が30層を攻略したら参戦しても良いって話だったが…。」


 乾先輩から話を聞いた時から時間がそれなりに経っている。

 また戦が有ったという話は聞いてないが…。


「まだ上層部で揉めてるみたいだよー。なんでも以前の戦い、連合軍の兵力は1000どころじゃ無かったらしいよ。それが負けちゃったから焦ってるんだって。」


「複数の貴族家が暴走したって言ってたが…そんなに集まったのか。」


「うーん…。多分完全な暴走って訳じゃ無いと思うよ。大和の上層部は裏で支援か…少なくとも黙認する事を約束していたはずだよー。」


 毛先をいじりながら諏訪が話す。

 ……見た目と話してる内容のギャップが凄いな。


(暴走じゃ無かったのか…。それは良かったが、そうなると大和が認めた軍が負けた事になるのか…。)


 それはそれで恐ろしいな。

 だからこそ貴族家の暴走としてるのかもしれないな…。


「そこまで乗禍家は強いのね…。」


 黒田が小さく呟く。

 さっきまでとは打って変わって重たい空気が漂っている。


「何でも…乗禍のダンジョンマスターの攻撃が部隊全体を襲ったらしいんだ。それで連合軍は一気に形勢を持っていかれたみたい。問題はその攻撃で……魔王の使う『全体攻撃』と酷似しているんだ。初代様の冒険譚に出てくる魔王が使ったスキルだよ。」


 諏訪が戦いの様子を話してくれる。


「ちょっと待ってくれ。だとしたら……。」


「乗禍のダンジョンマスターは魔王の技を使ってるかもしれないんだ…。もしかしたら何処かで魔王が誕生して、乗禍と手を組んだのかもしれない…。実際、乗禍家の兵士達は殆ど魔物化していて、戦いの途中で完全なモンスターに変貌した者も多かったみたい。」


 諏訪が推論を述べる。

 だが…違う…。そうか、諏訪には伝えて無かったか…。


「私欲に取り憑かれたダンジョンマスターはいずれ魔王に成り果てる。世界では常識の事だが、現在では忘れ去られている事……。」


 いつか、どこかで聞いた言葉を繰り返す。

 人間が魔王に至るなんて普通の人は考えられないだろう。

 乗禍は魔王と手を組んだんじゃ無い。乗禍が魔王へと変貌したんだ。


「洲君……。」

「それって……。」

「オー……。」


 奈子、黒田、黒守が絶句する。

 林も青い顔をしている。


「…それも、古代の記憶?」


「ああ。すまない…。伝えていなかった…。」


 諏訪に答える。魔王なんて現実的な話だと思わなくて、つい忘れていた。


「……オッケー。父様に伝えておくよ。」


 軽い口調で話すものの、少し震えている。

 まさかの展開に、頭がついていけて無いんだろう…。オレもだ。どうすれば良いか…。


「ひとまず難しい事はお父さん達に任せて、私達は30層をクリアしよう?」


 皆が黙り込んでいる中、福良が声を上げる。


「福良……。」


「やっぱり断真君について来て良かったよ♪ まさか魔王と戦える日が来るなんてね!」


 福良だけは…こんな時でも嬉しそうだ…。

 …いや、福良も微かに震えている。

 それでも勇気を振り絞っているんだ。


「そうだな。30層のボスを倒して、乗禍達もやっつけよう。例え魔王だろうと大和には精鋭が揃っている。十分可能なはずだ。」


 福良の言葉に乗っかる。

 まさか魔王と戦う事になるとは思わなかったが、逃げる訳にはいかない。

 やれる事を一つずつやっていこう。


「そうそう♪ さすが断真君♪」

「…そうだな。アタイとした事がブルってたぜ!」

「魔王を倒してダンマには勇者になって貰いましょう!」


 福良に続き、林、黒守が乗っかってくれる。

 それは有り難いんだが、『勇者』は特別な称号だから下手に名乗ってると大目玉を食らうぞ…。

 黒守も貴族だからそこら辺は知ってるはずなんだが…。


「そうね。よく考えたら私達が魔王と直接戦う可能性は低いし、そこまで気負う必要も無かったわね。」

「勇者はともかく、まずは30層撃破だねー。戦いの情報は引き続き集めておくよー。」


 黒田と諏訪も調子が戻ってきた。

 後は奈子だけだが…。


「…うん。私も大丈夫。心配かけてごめんね。」


 奈子も深呼吸しながら気を落ち着けたようだ。

 学生の身分で魔王との戦いに参加するとなれば不安になるよな…。


「おーい。そろそろ行かないのかー?」


 ウェイトレス姿の先生が個室に入って来た。

 ……どうやら予定の時間を過ぎていたようだ。


 すぐに準備して迷宮へと向かう。

 途中で諏訪が父親に電話して乗禍の魔王化について話していた。

 先生にも簡単に説明する。


「魔王か…面白い事になって来たな。全く、断真と居るととんでもない事が次々と起こるな…!」


「さすが断真君ですよねー♪」


 横葉先生は戦う気満々のようだ。

 それは良いんだが…オレのせいみたいに言うのは止めて欲しい…。

 福良も乗っかってるし…。



 いつものように迷宮に入り、30層のボス部屋まで移動する。

 三学期の間飽きる程戦った相手なので、道中の敵は瞬殺していった。


(やっとボスと戦える…。今回は『刺客』なんて出ないはずだが…。)


 少しだけ緊張して扉を開くと、事前の情報通りの敵が並んでいた。

 イフリートとフェンリル、それに炎と氷の巨人が三体ずつだ。

 部屋の中は氷の地面に、所々炎が吹き出している。

 青白い炎に赤い炎、黒い炎まで見える。…思わず見入ってしまう光景だ。


「事前の作戦通りに行きましょう!先生は見学していて下さい!」


「頑張れよー。」


 黒田の言葉に従って、各々が分かれて行く。

 どこか気の抜けた先生の言葉を背に、オレはフェンリルの元へと向かう。


「リーフよ!」


 奈子がいつものようにリーフエレメントとエルダートレントを使役し、リーフを無限増殖状態に移行させる。

 オリジナルのリーフエレメントを強化すると、増殖した全てのリーフに効果を及ぼすようなので、オレの『超強化』と黒守の『天使の輪』も使用しておく。


(巨人達の撹乱は成功したな。…イフリートの方も足止め出来ているみたいだ。)


 周りを確認し、フェンリルへと向き合う。

 フェンリルは林の『挑発』にかかり、林へと執拗に攻撃を続けている。


「『炎龍』!」

「『光陣』!オマケですよー!『光凰』!」


 諏訪と黒守もスキルを使用する。

 諏訪は『水龍』と『属性変更』を併用して炎の龍を使役している。

 皆には『超強化』もかけているので、威力は十分だ。


「オレも行くぞ!『魔断』!!」


『魔断』をまとわせた剣で攻撃する。

 かなり深く攻撃が入ったが、流石に倒すまではいかなかったようだ。


「逃げるな!『挑発』!!」


 敵が距離を取ろうとするが、『挑発』によってまた林へと引き寄せられていく。

 フェンリルは素早い動きが厄介な魔物だが、その動きが完全に潰されている。


「もう一巡行くよー!『炎龍』!」

「倒れなサーイ!『光凰』!!」

「食らえ!『魔断』!」


 再度攻撃を加えると、見るからに動きが鈍くなり、大きさも一回り程小さくなった。

 もう少しだ…!

 少し『魔断』を使い過ぎていたので、通常の攻撃に切り替える。

 威力が高い分魔力の消費量が大きいのが難点だ。


 敵が林に集中しているので、好き放題に攻撃できる。

『挑発』が上手くハマると難易度が格段に変わるな。


「最後だ!『魔断』!!」


 何度か攻撃を加え、最後に『魔断』でトドメを刺す。

 フェンリルは最後に子犬のような大きさになって、そのまま姿を維持できずに消えていった。


「フェンリルが終わったら断真君は巨人を順に倒していって!他の皆はイフリートを!」


 黒田から指示が飛ぶ。

 イフリートの相手をしながらも、こちらの状況を見ていたようだ。

 林の『挑発』と福良の『反撃』は相性が良くないように思えるが、『反撃』は味方への攻撃に対すしても使えるらしい。

 敵に与えるダメージは下がるものの、手数を増やす事で補っているようだ。


「奈子!加勢する!」


「うん!気をつけてね!」


 リーフエレメントによる撹乱は『挑発』程完璧では無い。

 敵に近づけば攻撃が飛んでくる。

 視界がさえぎられている事で命中率は低いが、その分ラッキーショットに気をつけなければいけない。


 巨人が棍棒を振り下ろしてくるが、見当外れの位置に攻撃している。

 その隙に懐に潜り込み、連続で攻撃を加える。


「GYAAAAA!!」


 どうやら強さは普通の巨人と同じようだ。

 唯一違うのは棍棒を持ってるかどうかだな。

 コイツらの持ってる棍棒は氷か炎に覆われていて、恐らくは巨人の体と同じような効果が有るのだろう。

 本来は受けるだけで危険だが、黒守の『天使の輪』のお陰で全く怖くない。


 残りの巨人達も次々と仕留めていく。

『魔断』を使うまでもない簡単な仕事だ。


 全ての巨人を倒して皆の元へと向かうと、五人の少女達がイフリートを圧倒していた。

 諏訪と『氷龍』と黒守の『光凰』が空を飛び、地面では林、福良、二体の『風虎』が攻撃をしている。

 …どうやらオレ達が入る隙間も無さそうだ。


「せつ!私達で倒すわよ!『風虎』!!」

「オッケー!『反撃』!!」


 黒田が追加で虎を呼び出し、更なる攻撃を加える。

 そして最後に福良の攻撃によって、イフリートが霧散していく。


「終わったようだな。」

「うん。無事に終わって良かったよ。」


 皆で勝利を喜んでいると、突然先生が大声をあげた。


「皆、集まれ!!何かおかしいぞ!!」



 その言葉に反応するように、景色が変わっていく…。

 氷と炎の世界から、見渡す限りの草原へと……。


 そして、一人の男がゆっくりと近づいて来た。


「やぁ、洲君。久しぶりだね。」


 その瞬間に全てを思い出した…。


「……師匠。」


 オレと、大迷宮のダンジョンマスターとの関係を……。

誤字脱字報告ありがとうございます。


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