予期せぬ戦い 3
ーーー乗禍視点ーーー
『貴様らは包囲されている!!今すぐに武器を捨てるなら罪一等を減じるぞ!!』
敵の指揮官の声が聞こえてくる。
私軍の癖に罪を減じるだと…?
大和の命令で来たと言ってるようなものではないか。
『我らは乗禍様の忠臣なり!罠にかけたつもりでいるようだが、罠ごと粉砕してくれる!!』
一人の部下の掛け声と共に、兵士達が敵に突撃する。
「流石は遠田様だ!!敵の弱兵など我が軍の敵では無い!」
「包囲したという事はそれだけ兵の厚みが無くなっているという事だ!簡単に突き破れるぞ!!」
その声を聞き、こちら側でも部下達が喜んでいる。
『っくそ!何故だ!!ただの兵士が何故これ程までに強い!?』
遠田と呼ばれた部下の突撃で何人もの敵兵が倒れるが、すぐに突撃の勢いが弱まる……何故だ?
ただの兵卒に手こずるなんて有ってはならん事だぞ。
『その装備…!『偽装』していたのか!!』
『そうだ!我々の軍に弱卒など存在せん!全てが強兵だ!!』
遠田の言葉に敵の指揮官が答える。
敵兵を見てみると、先ほどまでとは一変し、見事な鎧をつけている。
……どう見てもただの一兵卒では無いな。
「……まさか、兵士一人一人が他家からの援軍だとでも……?」
「そんな…。それではいくらなんでも……。」
『遠視』スキルと『透視』スキルを持った部下達が呆然としている。
……マズいな。流石に3000の兵士全てが士族や貴族連中となると、こちらの分が悪いぞ…。
そう思ったのは私だけでは無いようで、あちらでも動きが起きる。
『一旦引くぞ!我々最上級兵が突破口を開く!バフもかけ直せ!!言田家と攻勢派だった者達は殿を務めろ!!』
一全が全体に指示を出す。
例え全ての兵士が貴族だとしても、最上級兵にとっては大した敵では無いはずだ。
まだこちらの被害は大きくない。このまま逃げ切れば持ち直せる。
『防衛隊、急げ!復鬼隊を抑えろ!!』
敵陣の中から重鎧に身を包んだ集団が現れる。
……どうやら最上級兵への準備もしていたみたいだな。
「あの重装備の兵達…守りに徹してます。恐らく防御系のスキルを複数保有していると思われます。」
「…くそ!倒してもすぐに次が湧いてきやがる!これじゃ復鬼様達でも…!」
周囲から悲痛な声が聞こえてくる。
一全達は敵を倒していってるが、一人一人を倒すのに時間がかかっている。
おまけに倒された敵は回収され、一部が『回復』などをかけられて復活している…。
『…どうやらこの場には乗禍は居ないようだ!!一部の兵を街へと向けるぞ!!』
敵の指揮官の声と共に、極一部の兵士達がこちらにやって来る。
あの程度の数なら私一人でも余裕だが、我が軍の兵士達が一気に浮き足立ってしまった。
『最上級兵よ!!!すぐに乗禍様の元へと行くぞ!!例え罠だろうと見過ごす事は出来ん!!』
一全の叫び声と共に、今まで以上に捨て身の攻撃が始まる。
「『拡声』のスキル持ち!私の声をすぐにあちらへと届けろ!!」
「乗禍様…。ですが、それをしてしまうと乗禍様の位置が…。」
「良いから早くしろ!このままでは無駄に傷つく者が増えるだけだ!」
落ち着いて戦えば十分に勝機は有るはずなのに、無茶な攻撃を何度も繰り返している。あれでは体への負担が大きすぎる。
大量のバフに体が耐え切れんぞ…!
『拡声』スキルを使わせ、私の声を一全達の元へと届けさせる。
『我が親愛なる配下達よ!こちらへ向かってきた敵兵は少数だ!落ち着いて戦え!!』
私の言葉を聞いて兵士達が落ち着きを取り戻す。
……だが、一全達最上級兵達は依然として捨て身の攻撃を続けている。
「一全達を落ち着かせる方法は有るか?」
周囲の部下達に声をかける。
私の言葉は聞こえていたはずだ。何故無茶な攻撃を続ける…。
「……無理かと、思います…。復鬼様達は乗禍様の護衛役も兼ねていますので、乗禍様の位置が敵に知られてしまった以上、急いでこちらに戻って来るしか無いと思います。」
話している間に一全達が包囲を破り、こちらへと向かってくる。
だが、その数は……。
「何故僅か数人程しか抜け出して来ない!アヤツらは最上級兵だぞ!?」
五人程しか脱出して来ない。
他の者は敵陣で戦ったままだ。
「恐らくですが……乗禍様の護衛を最低限抽出し、残りの最上級兵は敵陣に留まるのかと思います。上級以下の兵士達を脱出させる為に捨て石になるのかと……。」
「なんだと!?」
捨て石だと!?アヤツらは乗禍家の誇る最精鋭だぞ!?
「この街を守る為には兵士の数も必要になります。最上級兵だけが戻っても防衛戦は出来ませぬ。故に、より多くの兵士達を逃がそうとしているのだと思われます。」
部下が声を震わせながらも説明する。
(……なんたる事だ。勝てる戦のはずが、何故こんな事に…!)
怒りが…いや、怒りよりもドス黒い何かが胸の内から溢れ出てくる。
以前から時折感じていた感情だ。これまでは拒絶していたが、今は拒絶する気力も起きん…。
(許さん…。許さん…!許サン…!!)
怒りに支配されていく。攻めてきた貴族達への怒り、それを容認した大和への怒り…そして、何も知らずに生きている全てのニンゲンへの怒りに…!!
「『破城槌』!!」
「『破砕』!!」
城門から数人の声が聞こえる。
目を向けるとたった三人の敵兵が門を攻撃している。
「殺す!!」
それを見た瞬間に感情が爆発した。
たった数人で門を破れるとでも思ったのか…!身の程知らずな行いに出た事を後悔させてやる!!
「乗禍様!いけません!!敵の数が少なすぎます!恐らく罠です!」
「『冷静』!『沈静』!!落ち着いて下さい!!」
「ウルサイ!!」
部下の声を無視し、敵に攻撃する。
「『落雷』!!」
これぞ我が至高のスキルだ!!
自らの行いを悔いて死ぬが良い!!
一筋の雷が敵のど真ん中に落ち、そのまま敵兵が動かなくなる。
当然の結末だ。すぐにトドメを刺してやろう。
「居たぞ!!アレが乗禍だ!!」
「……アレが!?私には魔物にしか見えないぞ!!」
「夜襲をかけて来た兵士達も半分近くが魔物化していた!!奴らは禁忌を犯したんだ!!」
「まだ残っているのか!!」
茂みの方から敵兵が現れる。だが、その数は十数人ほどだ。
この期に及んで、たったそれだけの兵士で何とかなると思っているのか!!
「いくぞ!『混乱』!!」
「『恐慌』!!」
「『憤怒』!」
「『増幅』!!」
「そんなものが…!!」
敵のかけてきた状態異常系のスキルを無視して攻撃しようとしたが、今まで以上に感情が溢れ出してくる!!
一体どうなっている!
「そんな!アイテムで対策は取ってあるはずだぞ!?」
「第一、対人戦で状態異常攻撃は効き辛いはずだ!乗禍様はクラスレベルも高いし、かかる訳が無い!!」
部下達が何かを叫んでいるが、意味が分からん!
怒りが、憎しみが湧いてくる…!
「理性を殆ど失っているという報告だったが、思った以上の効果だぞ!!」
「続けていくぞ!」
「『混乱』!」「『恐慌』!」「『憤怒』!!」
敵兵の声と共に、更にスキルが放たれてくる。
…………
………
……
…
「……やったか?」
「乗禍の周囲に居た奴らは倒しました。数人しか居ない上に戦闘を得意としていない者達だったようです。」
「自分は魔力切れです。」
「敵が戻ってくる前に早く戻りましょう。」
「……。」
ハエ共が何かを喋っている…。
「何!? 乗禍が立ったぞ!!」
「まだ意識が有るのか!?」
「GAAAAA!!」
立ち上がり、感情のままに叫ぶ。
……今まで頭にかかっていたモヤが晴れたかのような感覚だ。
今ならなんでも出来る気がする。
「『落雷』。」
スキルを使うと、眼下に広がる兵士達に雷が降り注ぐ。
一回だけスキルを使ったはずだが、十数本の紫電が兵士一人一人に命中した。
「何、だと……。」
「一回のスキルでこれだけの雷を降らせるなど…どうなっている……。」
「……動ける者は逃げろ。本陣へとこの情報を……。」
…まだ生きてる者がいるのか。
「死ね。『落雷』。」
再度スキルを使うと、先ほどと同じように全員に雷が降り注いだ。
(……どうやら、『全体攻撃』のスキルを獲得したようだな。そのスキルの効果で、単発の『落雷』が敵の人数分落ちて来たのか。だが、その分威力は落ちたようだ。恐らくは敵の数によって変わるんだろう。)
新しくスキルを覚えたのが実感できる。このスキルが有れば戦争を有利に進められそうだ。
だが……気になる事が一つ……。
(クラスが『ダンジョンマスター(魔王)』に変わっているだと?私が魔王にでもなったというのか…?)
魔王など初代王の冒険譚にしか出て来ないホラ話かと思っていたが…本当に有ったとはな。
「私が魔王か……。それも良かろう!ハハハハハ!!!」
感情のままに笑っていると、遠くから声が聞こえてきた。
「乗禍様!!ご無事ですか!?」
どうやら一全が来たようだな。
…一人のようだが、他の兵はどうしたんだ?
「一全か。何人か一緒に敵陣を抜け出したはずだが、アヤツらはどうした?」
城壁から外に飛び降り、一全を迎える。
「乗禍様、外に出られては……。」
「最早そんな事を言ってる場合では無い。味方を救出に向かうから、道すがら話せ。」
一全の言葉を遮り、包囲されている味方の元へと走り出す。
『全体攻撃』を覚えた以上、これ以上敵の好きにさせるつもりは無い。
「仲間達は…完全に魔物化してしまいました。先程突然強い頭痛に襲われ、皆が倒れました。私も堪えようとしましたが、力及ばずに……。起きた時には皆がモンスターへと変わり果てていました…。姿形は変わっても、味方だと認識出来たので間違い有りません。」
「先程か……。」
私が敵の状態異常の攻撃を受け、魔王化した時だろうな。
一全達、最上級兵は眷属化していたから、影響を強く受けたのかも知れん。
「理性を失っていたのでその場に置いて来ました。…恐らく暫くしたら理性を取り戻し、乗禍様の元へと戻るかと思います。」
「そうか。ならば良い。」
私も奴らとの繋がりは今でも感じられる。
奴らも同じだろうから、一全の言う通りになるだろう。
「私は魔王になった。『全体攻撃』と言うスキルも覚えたが、一全はどうだ?」
「魔王ですか!?それはおめでとうございます!
私は…私も『全体攻撃』を覚えているようです。これも全て乗禍様のお陰です。」
魔王になった事を喜ばれるとは思っていなかったが、悪く無い気分だ。
一全も『全体攻撃』を覚えているとなれば、この戦は勝ったも同然だな。
「見えて来たな。」
敵陣が見えて来た。
こちらに残った最上級兵と…上級兵の一部が完全に魔物へと変貌し、敵兵は混乱している。
味方は魔物となった者達も味方だと認識しているので、大きな混乱は無いようだ。
「乗禍様!ご無事でしたか!」
「救援に来て下さったのですか!」
「復鬼様も!よくご無事で!!」
敵陣に近付いて行くと、途中で味方の兵士達と合流出来た。
この者達は最上級兵の助けを借りて脱出出来た兵士達だ。
負傷しているものの、まだ元気な者が多い。
「味方を救援する。異論は認めぬ。ついて参れ。」
「「「御意!!」」」
私が強く命令すると、皆が頷いた。
今までやられた分を返してやろう。
『愚かな連合軍よ!乗禍のダンジョンマスターはここに居るぞ!命が惜しく無くばかかって来い!!』
部下に『拡声』を使わせ、戦場に私の声を届き渡らせる。
敵兵は混乱しながらも、徐々にこちらへと向かってくる。
「私が露払いを行います。『螺旋斬り』!!」
敵が近付いて来た所で、一全がスキルを使う。
本来単体攻撃のはずの『螺旋斬り』が、多くの敵を襲う。
「おお…!離れた位置からでも攻撃出来るとは!如何なる因果か、複数の敵を斬った感触が伝わって来ましたぞ!」
一全が感動している。
攻撃を食らった敵は驚きながらもこちらへと向かってくる。
本来上級兵でも耐え切れない一撃だが、敵の数が多い分威力は落ちている。
私の時と同じようだな。
「どこまで耐え切れるか見てやろう!『螺旋斬り』!『螺旋斬り』!!」
一全が何度も攻撃を続ける。
あの後スキルを確認してみたが、『落雷』以外のスキルが消えてしまっていた。
代わりに『魔法』と言う全ての魔法が使えるスキルを覚えていた。
一全も同様で、『螺旋斬り』、『全体攻撃』、『攻撃』と言うスキルだけになっていた。
有用なスキルが多く消えたのは惜しいが、『全体攻撃』はそれ以上に価値が有るスキルだ。致し方有るまい。
「おお……。何という強さだ…!復鬼様の攻撃で敵が次々と倒れていくぞ!!」
部下の一人が驚いている。
こちらへ向かって来た敵は尽く倒され、敵は今まで以上に浮き足立っている。
「次は私がやろう!前進するぞ!!」
味方を包囲している敵に近づき、『落雷』を放っていく。
先程までの苦戦が嘘のように敵が倒れていく。
三分の一程の敵を倒した所で、敵が慌てて逃げ出していく。
「退け!退けーー!敵の攻撃範囲が尋常では無い!!一旦態勢を立て直すぞ!!」
各所で指揮官が指示を出している。
ここまで好き勝手に暴れて、素直に逃がすと思っているのか?
『乗禍の精鋭達よ!よくぞ堪えた!!我が軍の圧勝だ!!最後に敵を蹂躙し、乗禍家に攻め込んで来た事を後悔させてやれ!!!』
「「「おおおおーーーー!!!」」」
『拡声』のスキルによって味方に指示を出す。
今までの鬱憤を晴らすように精鋭達が暴れ出す。
敵はまともに応戦する事も出来ず、多くの兵が討ち取られていく。
(『全体攻撃』は便利だが…任意での切り替えは出来ないようだな…。)
先程叫んでいた指揮官を直接狙いたかったが、『全体攻撃』によって攻撃が拡散してしまった。
もっと熟練度が上がれば切り替え出来るかも知れんが……。
(最悪出来なくても問題無いか…。弱い奴から倒していけば良いだけだ。)
『落雷』自体の攻撃力も以前より格段に上がっている。
敵の数が減れば今までより遥かに強力な攻撃が出来るだろう。
「これに懲りて暫く大人しくなるだろう。また攻めてくるなら、次も蹴散らしてやるまでだ。」
味方の奮闘を見ながら言う。
大和の古狸共よ!続けると言うならいくらでも付き合ってやるぞ!!
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