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赤点

 ……どうやら遂に赤点となってしまったようだ。

 今回はダンジョンに夢中になって殆どテスト勉強をしなかった。

 実技をやったのもダンジョンマスターになる前の事なので、結果は最悪だった。

 当前の結果と言えるかも知れない。


(……アレ。…ヤバくないか?確か赤点の課題ってダンジョン探索だった気がする。いくら新スキル覚えたからって、森林型の方にはまだ早すぎるぞ…。)


 高等部での課題なら皆が潜ってる森林型へのダンジョン探索が課される可能性が高い。

 だがあそこは敵の数が多いと聞いている。

 オレは能力的にはまだ中等部一年レベルだ。更に普段組んでる仲間も居ない。


「それでは、HRを終わる。二人とも!早めに職員室に来いよ!」


(そうだよ。補修課題のダンジョン探索が無理だから、今まで必死にテストを頑張って来たんだ!ダンジョンに夢中になりすぎて忘れていたよ!!)


 大失態だ。先生の言葉もよく聞こえなかった。

 今回こそは絶体絶命かも知れない。


 呆然としていると、いつの間にか席の周りに不良達が集まっていた。


(…最悪だ。最近はずっと大人しかったので油断していた…。)


 俯いて無視しようと試みるが、やはりうまくいかなかった。


「これでようやくクズとオサラバできるぜ!テメェは人生とサヨナラする事になるだろうが、自業自得だな!!」

「麻呂達の助言を無碍むげにするからでおじゃるよ…。下民はこれだから救えないでおじゃる。」


 茨山、崎川が騒いでいる。相変わらずムカつく奴らだ。


「…おい!聞いてんのか!!」


 無視していると千海が肩を掴んで来た。陰湿な事に徐々に力を強めて来ている。

 ダンジョン探索をしている人間は普通の人間より遥かに強い。

 高等部の千海でもリンゴを握り潰す位簡単にやれるだろう。


(『強化』)


 急いで進化したスキルを使用する。

 強化した肉体で肩に力を入れ、千海に対抗する。


「おら!聞いてんのか!!おい!!!」


 千海が顔を真っ赤にして力を入れてくるが、無視を決め込む。

 何とか耐えれる位の強さだ。


(反撃したら明らかにおかしいのがバレる。ここでは無視するしか無い。)


 恐らくスキルを駆使して戦えば千海一人位何とかなると思う。

 だが三人相手はまだまだキツイ。更に新スキルがバレたら勝っても意味が無いんだ。


「…あれ?おかしいな…?……クソ!!どうなってやがる!!」


 オレが痛がらない事が理解不能なんだろう。

 千海が真っ赤な顔で肩を掴んでいる。


(…制服が汚れるからめてくれよ…。)


 今までと違い考え事をする余裕も有る。

 だがそろそろ職員室に行かなくては。


「…そろそろ良いか?先生に呼ばれてるんだ。」


(お前らの相手は強くなったらしっかりしてやるよ。)


 まだ準備不足だ。ムカつくが我慢するしか無い。


「何だと!!テメェ!!調子に乗ってんのか!?」


 こっちが我慢していると言うのに、勝手に突っかかって来て、勝手にキレやがった。


(恐らく手を出してくるだろうな…。こうなったら仕方無いか。『強化』。)


 少し弱めた強化に切り替える。これならバレない…はずだ。

 本当はやりたく無かったが、補修を前に怪我をする訳にはいかない。

 保健室での治療も絶対では無いのだ。

 教室だからそこまでの凶行に及ぶ可能性は低いと思うが…前回襲ってきた場所も学園の敷地内なんだ。


 予想通り、千海が殴りかかってきた。速度は出ているが、完全にこちらを舐めているようだ。


(テレフォンパンチかよ…。いくら地力の差が有るからって、舐めすぎだろ。)


 拳を受け流してそのまま足をかける。

 あくまで足は引っかかってしまったように見せかける。



『ガシャーーン。』



「ッハ?ッウワ!!ッイテェ!」


 そのまま転んで、後ろの席に突っ込んで行った。

 後ろの生徒は余裕を持って避けてくれたみたいだ。


(受け身も取らないとは…。無様過ぎる。)


 技量だけで言うならコイツらに負けていないと思っている。

 コイツらは昔から剣術を習ってきたんだろうが、オレも剣の筋は良いと褒められてるんだ。


(あれ…?どこで褒められたんだっけ。…まぁ良いか。…格闘術も多少自信が有るぜ。)


 そうは言っても出来るなら戦いは避けたかった。本気でやり合えばまだまだ勝てないはずだ。


「…ほぉ。」

「……。」


 茨山と崎川の目が鋭くなる。

 千海も立ち上がり、真っ赤な顔でこちらに向かって来る。


「テメー!絶対に殺し――」

「はにゃ?」


 千海が拳を振り上げた所で、一人の女子が間に入ってきた。

 オレに向けて口の開いたお菓子の袋を向けて来る。…食べろと言ってるのだろうか?


「ふ、福良ふくら?!邪魔をするな!これは男同士の話だぞ!!」


「はにゃ?」


 福良せつな。『はにゃ』と言う台詞が口癖の女生徒だ。

 男子からの人気は高いらしく、千海も怒りとは別の感情で顔を赤くしているようだ。


「…お菓子はいらない。」


 オレに向けてくる菓子袋を手で遠ざける。

 折角の好意だし食べたかったが、千海の視線がヤバかった。

 食べたらもっと頻繁に絡まれてしまいそうだ。


「せつー。フラレてんじゃん!ウケるー!」


「はにゃ?」


祥子しょうこめなさい。…折角学校が終わって開放的な気分だったのに、台無しだわ。静かにしてくれない?」


 諏訪すわ黒田くろたも話に入って来た。

 諏訪は明るい髪で軽くパーマを当てたチャラい感じの女子で、黒田は落ち着いた感じのクールビューティと言ったタイプの女子だ。

 今まで話した事は無いと思う。


「黒田殿、そのような下賤の民と関わるとけがれるでおじゃるよ。…ささ、こちらに来るでおじゃる。」


「…何言ってるの?行く訳無いでしょ?」


「そ、それなら今度の休みにでも……。」


 崎川が黒田に対して声をかけている。

 この感じ、もしかして惚れてるのか?


「…諏訪。テメェはそっちにつくのか?」


「…はぁ?うるさいから止めただけだっての。」


 茨山と諏訪も話し始めたし、そろそろ行って良いかな…。


「先生に呼ばれてるんでしょ?行ってくると良いよ♪」


 福良が声をかけてくれた。

 いつも『はにゃ。』と言ってるイメージだったが、普段の声もまるで声優みたいだな…。


「…ありがとう。」


 お礼を言って教室を出る。

 女子に任せるなんて気が咎めるが、福良達もオレより全然強いんだよな…。


 千海が何か言いたそうにしてるが、福良を気にしているみたいだ。

 未だに顔を赤くしているし、こちらも惚れていそうな感じだ。


(人に暴力振るって来てる癖に、何を青春みたいな事してるんだか…。)


 心底呆れる。段々と怒りが沸いてくるが、抑えないと…。千海達に気付かれたら面倒な事になる。

 …失恋のお祈りは全力でしておこうと心に誓った。



 職員室に入ると、横葉先生ともう一人の男子生徒が既に待っていた。


(影山か…。)


 オレと同じ一般市民で、同じ落ちこぼれだ。

 オレとは違いクラス内でチームを転々としており、最近はダンジョン探索をサボっているらしい。

 クラスで誰かがそんな話をしていた。…オレは自分の席で聞いてただけだ。


「断真も来たか。それじゃあ早速話を始めよう。二人への課題は迷宮10層の攻略だ。10層のボスを倒したら合格とする。パーティはお前ら二人と、一人だけ助っ人を認めよう。助っ人が直接攻撃するのは禁止だ。」


(10層か…。まだ良かったと言うべきなのだろうか…。大勢の敵に囲まれる事は無いが、10層には中ボスが居るから危険度は高い。確かボスはミノタウロスだった気がする。)


「夏休み中だから頼める人間は限られるだろう。助っ人が決まったら知らせに来なさい。助っ人は内申点を少し上げる事になってるから、それを餌に釣れば良い。」


(餌って…教師の言う事か?)


 思っても口には出さない。

 普段は優しい先生だが、仮にも学園の教師だ。その強さは相当なものだろう。怒らせて良い事は無い。


「もし無理だと判断したら早めに言いなさい。補修時の死亡率はかなり高い。絶対に無理はするなよ。」


 そう言って用紙を渡される。

 見出しには『宣誓書』と書かれている。

 死んでも文句は言いませんと言う内容だ。最初見た時は驚いたが、ダンジョン探索やってれば嫌でも慣れる。


 ササッと記入して先生に返す。


「うむ。確かに。」


 影山を見ると、鞄にしまってるようだ。

 少し嫌な予感がしたが、取り敢えず今後の事を話し合おう。


「影山、食堂へ行こうぜ。…それじゃ先生、失礼します。」


「…分かった。」


「気をつけろよー。」


 先生の声に見送られ、職員室を後にする。

 …『宣誓書』を渡した人間とは思えない軽さだよな……。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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