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乗禍のダンジョンマスター

 ーーー乗禍じょうか視点ーーー



「……もう一度言ってみろ。」


 謁見の間で部下の報告を受ける。

 学園の抗争についての報告だが、内容がおかしい。

 ……アレは確か…誰か他の部下が勝てると豪語していたはずだが……。


「は、はい…。学園の争いについてですが、総番…復鬼完次率いる不良グループが風紀委員に敗北しました。街のゴロツキ含め全員が捕縛され……何故か、使者として向かった言田も捕まったようです。」


「言田……そうだ。アヤツが勝てると言ってたな。何故ヤツまで捕まる?…すぐに釈放するように手を回せ。」


 ……最近、記憶がぼんやりとする事が多い。

 以前よりも怒り易くなってる気もする…。…今も感情を抑えるのに必死だ。


「それが……復鬼弟と共に風紀委員本部を襲撃したようです。現在大和から説明を求める使者が訪れています。」


「……何だと?」


 …私の怒りに応じて空気が震える。

 皆が青い顔をする中、部屋の奥から強いこうの匂いが漂ってきた。


(……ふう。落ち着く……。この薄暗い部屋の中、擬似コアを砕いたこうを焚く…。これだけで怒りが薄れていく…。)


 確かこうの配合を考えたのは言田だったはずだ。

 奴は失うには惜しい男だ。


「……そう脅えるな。今日は気分が良い。先日のような事にはならんよ。……それで、言田を釈放させる手立ては有るのか?」


 先日の会議では愚者が騒いだせいで私まで感情に流されてしまった。

 まさか大和に対して頭を下げろ等と言う愚か者が居るとはな…。

 多少揉めたくらいで何故私が頭を下げる必要が有るのだ。

 怒りの余り血祭りにあげてやったが…思い出すだけでまた怒りが湧いてくる。


「…乗禍様。それは難しいかと。言田は策を破られただけに留まらず、自ら参戦して負けたのです。余り敗者に情けをかけては、乗禍家の規律が緩んでしまいます。」


「…一全いちぜんか。しかし、復鬼完次…お主の弟も捕まったのだぞ?あの者も将来有望な若武者だ。多少の失敗で手放すには惜しい人材だろう。」


 復鬼ふくき一全いちぜん。私の右腕にして、乗禍家で最強の冒険者チームを率いる男だ。

 その実力は大和でも十指に入るだろう。

 捕まった弟もいずれ兄のように立派な武士に成長するはずだったのだ。


「…なればこそです。身内だからと言って甘くしては示しがつきません。奴らはあそこが限界だったのです。乗禍様のお立場を悪くしてまで助けるべきでは有りません。」


「ふむ……。」


「それに、言田…乗禍家の家臣が学園施設に攻め入ったとなれば、我々もタダでは済まないでしょう。……大和と一戦交える必要も出てくるかと思います。その時に敵を圧倒すれば、あちらからすり寄って来るでしょう。どうしてもと仰るならば、その時でも遅くは無いかと。」


「なるほどな。私としても大和を滅ぼそうとまでは思っておらんしな…。手の打ち所として二人の身柄を要求し、今回の件に決着をつけるか。」


 大和を滅ぼしたとて、私に従う貴族は少なかろう。

 特に古い名家は全員が反発するはずだ。

 乗禍家の歴史が浅いからと言う下らぬ理由でな…。


 今となっては『ユニット強化』で配下を強化出来るし、大和の強者達を配下に欲しいとも思わん。

 金に困ってる訳でも無いし、面倒な国家運営などにわずらわされるのも御免だ。


(そもそもダンジョン攻略を我々に任せたのなら、文句を言わずに従っていれば良いのだ。)


 学園を実験場にしたとして、大迷宮が制覇出来れば十分過ぎる程のお釣りが来る。

 そんな事も分からんから、いつまで経っても大迷宮を攻略出来んのだ。


(私は今までの愚図なダンジョンマスター共とは違う。小規模では有るがダンジョンを制覇し、ダンジョンの謎を解き明かしたのだ。)


『ユニット強化』と言う最高の武器を手にしたのだ。

 これが有れば大迷宮の攻略など時間の問題だ。


「例え中立派が出てきたとして我々の敵では有りません。大和の未来を切り拓くのは乗禍家だと言う事を教えてやりましょう。」


「うむ、そうだな。一全よ。いつでも動けるように準備をしておけ。阿呆共が攻めてくるなら迎え撃ってやろう。大和の古狸共には時代が変わったと言う事を教えてやる。

 …それと、大和からの使者は追い返しておけ。相手にするだけ時間の無駄だ。」


 これで話は終わりだな。やはり一全のような知恵者との話はスムーズに進むから良い。


「……お待ち下さい。乗禍様。余り大和を見くびるべきではないかと…。復鬼様は中立派を大した事が無いと仰っていましたが、それは以前派遣されてきた中立派を見ての事でしょう?あの者達は中立派の中核…豪牙家や乾家程の家柄では有りません。持ち合わせているスキルもそれ相応のものかと思います。

 …ですので、我々ももっと慎重に行動するべきかと……。」


 …折角気分良く話が終わるはずが、下らぬ発言のせいで台無しだ。

 ……まだ愚者が居たのか?


「……それで?お前は私に何をしろと言うのだ?」


「……それは。…まずは使者殿とお会いするべきかと。誠意を持って今回の事を説明すれば、必ずや誤解は解けると思います。乗禍様は偉大なるダンジョンマスターですので!」


「……誠意。誠意ね……。それは私に謝罪しろと言ってるのか?ヤツらもガキの使いじゃ無い。ただ事情を説明しただけで帰る訳無かろう。」


「…………はい。必要とあらば……。以前の乗禍様ならば、一時の恥など耐え忍んだはずです…!どうか、あの頃の乗禍様にお戻り下さい!」


「それはそうする必要が有ったからだ。あの頃は『ユニット強化』も無く、大和に頼るしか道が無かった。だからこそ従順に従っていたのだ。だが、今や乗禍家の力は大和と同等…いや、無限に強者を増やせるのだから、大和より上だ。何故下の者に頭を下げる必要がある。それは乗禍家の看板に泥を塗る行為だと分からんのか?」


(……これで分からぬようなら惜しくは無い。最後の問答だ。心して答えよ。)


「……それは。……いえ、申し訳、ありません。…私の考えが、足りぬようでした。」


「…ようやく分かったか。暫くは頭を冷やしていろ。謹慎だ。」


 我ながら手温いと思うが、コヤツは乗禍家に代々仕える忠臣だ。

 謹慎で済ませてやろう。


「…他には無いか?……また下らぬ話なら次は容赦せぬ。よく考えて発言せよ。」


(…どうやら無いようだな。…全く。今後愚者は魔物化させるか?配下や眷属と違って、完全に魔物化すれば自由意志もなくせる。)


 自由意志を無くしても生存本能は残ってるから戦闘に影響は出ない。

 力も上がるから戦力増強にも繋がる…そちらの方が良さそうだな。

 …問題は擬似コアを必要とする所か。完全な魔物化は時間もかかるし、徐々に進めていくか。


「乗禍様。この際各都市から浮浪者や浪人共を集めては如何でしょうか。弟の戦いでもそれなりに役に立ったと聞きます。乗禍様の街が汚れてしまうのが問題ですが、一考の余地は有るかと。」


「……他の都市のゴミを我が街で回収するのか。…仕方あるまい。許可しよう。家臣達の犠牲を減らせるなら我慢してやろう。私の元で力を授かれば心を入れ替えるかもしれんしな。」


「寛大なる御心に感謝致します。ゴミのまま変わらぬようでしたら、次の戦いで使い捨てます。その頃にはまた元の綺麗な街へと戻るでしょう。」


 乗禍家の本拠地は王都から離れた場所に位置する小都市だ。

 大和の各地から浮浪者を集めて来たら、一気に治安は悪くなるだろう。

 …言う事を聞かぬようなら早急に魔物化すべきかも知れんな。


(私が支配する迷宮もすぐ近くにある。もし街に入りきらんようならそちらへ移動させるか。あちらは元々魔物の巣窟だ。多少汚れても問題無い。)


 地下通路を通っての行き来も可能だ。

 二手に分かれて敵を挟撃するのにも使える。


「では、今度こそ終わりとする。各自、戦いに備えて英気を養っておけ。」


 私の言葉に皆が頭を下げる。

 大和始まって以来の内戦だ。乗禍家の強さを見せつけ、歴史に名を刻んでやろう。





 ーーー断真視点ーーー



 冬休みもあっという間に終わり、学園は三学期が始まった。

 新しく来た先生の多くは一般の学校から赴任してきたらしく、大勢の貴族の子供達を前に緊張しながら教鞭を振るっている。

 ダンジョンに関係する授業は以前から学園にいた教師達が行う事になってるので、各科目を担当している先生が軒並み変更となった。

 今はまだ落ち着かない感じだが、徐々に慣れていくだろう。


 保護者、中立派による国との話し合いも順調に進んでいる。

 オレも何人かのお偉いさんと会う事になり、大迷宮の支配区域を案内したりもした。

 オレに関する事では大きな問題も起こって無いようだ。

 細かい事は分からないが、オレ達の成長度合いも認められていて、このまま皆とチームを続けるのも全く問題無いと言われている。


 問題は他のダンジョンマスターとの折り合いをどうつけるのかと、乗禍家をどうするかだ。

 こちらについてはこれから話を進めていくので、まだオレがダンジョンマスターだと言う事は発表されていない。


 保護者達が話し合いを続ける中、オレ達はダンジョン探索を頑張っている。

 レベルはまだ上がっていないものの、諏訪と黒田は新スキルを覚え早速実戦で使っている。

 黒守もそろそろ覚えられそうだと言っているので、更なる戦力アップが見込めるだろう。


 二人の新スキルは諏訪が『属性変更』で黒田が『複数召喚』。

 どちらのスキルも『水龍』と『風虎』と合わせて使うスキルで、効果は言葉の通りだ。

 諏訪は『属性変更』を使って火龍や風龍、土龍へと龍の属性を変化出来るようになった。

 今は基本四属性だが、レベルが上がれば他の属性や複数属性も付けれる気がする、と諏訪は言っていた。

 黒田の『複数召喚』も文字通り、風虎を複数同時に召喚出来るスキルだ。

 現在は二体しか召喚出来ないが、レベルが上がれば数も増えていくらしい。


「クラスレベルを上げるのと並行して、初級スキルのレベルも上げていった方が良いわよね。横葉先生と比べるとスキルレベルが低すぎるもの。」


 今日もダンジョン探索を終え、『森林亭』で夕食を食べながら話し合っている。

 いつもならその日の反省会をして後は雑談という流れだが、今日は黒田が今後の事について話し出した。


「だねー。アタシの『予知』や詠美の『分析』は上がり難いけど、奈子の『式神』、せつの『防御』、蘭の『挑発』、真理火の『光陣』は比較的上げやすいからねー。今後は意識して使っていった方が良さそう。」


 諏訪の言う通り、戦闘で使えるスキルはレベルを上げ易いので、まずはそちらを優先して上げていくようだ。

 意識的にスキルを使う分、若干戦闘方法が変わる事になる。

 だが、それでも余裕を持ってやっていけるはずだ。


 オレの『偽装』や林の『根性』も上げ難いスキルだ。

『偽装』は戦闘で使うスキルでは無いからで、『根性』は発動条件が厳しいからだ。

『根性』は一定以上のダメージを食らった場合に発動し、ステータスが上昇し体力が回復するスキルだ。

 その為発動には何度か攻撃を受けないといけない。意図してレベルを上げていくのは難しそうだ。


「私達は促成栽培だからどうしても偏りがね…。全部は無理でも、なるべく多くのスキルを【解放】していきましょう。」


 黒田が調べた所、この層を潜っている人達は基本的に中級スキルを使っているようだ。

 初級スキルが無いという訳では無いが、それらは戦闘で余り使用しないスキルらしい。


「後は断真の『魔断』かなー。アタシ達の中じゃ一番攻撃力が高いから、出来る限り伸ばしていきたいよねー。この階層だとレベルが上がり難いかもしれないけど、沢山使うように頼むよー。」


「分かった。頑張るよ。」


 諏訪の意見に皇帝を返す。

 スキルレベルもクラスレベル同様、下層に行けば行く程レベルが上がり易いと言われている。

 オレ達の潜っている28層近辺だと、中級スキルになる位までは育ち易いみたいだ。

 ただ、クラスレベルと違って十分に検証されてる訳では無いので、未確定の情報だ。

 スキルは使用回数や敵に与えたダメージなんかでも上昇率に違いが有ると言われている為、正確な所は分かっていない。


(以前黒田が大和でもトップクラスの攻撃力と言っていたし、『魔断』なら乗禍家の幹部達にも通用するかも知れない。頑張って鍛えていこう。)


 このまま順調に30層をクリア出来ても、一流冒険者達にはまだ一歩及ばない。

 更に乗禍家の冒険者達は『ユニット強化』で一流以上の強さを得ているはずだ。

 オレ達が主力を張るのは難しいだろう。

 だが、それでも活躍出来る場面は有ると思っている。

 誰かとも約束した気がするし、乗禍家のダンジョンマスターが絶対に倒さなくては…!



 ーーーーー


 断真だんま しゅう

 クラスレベル

 沙門Lv2(全体的な能力が向上される。)

 スキルレベル

 超強化【進化、統合】Lv5、偽装Lv6、魔断【覚醒】Lv4


 ーーーーー


 滋深じみ 奈子なこ

 クラスレベル

 陰陽師Lv2(遠距離系、特に陰陽師に関係する能力の強化。)

 スキルレベル

 式神Lv7、超回復【進化】Lv4、禍津魂まがつたま【覚醒】Lv3


 ーーーーー


 はやし らん

 クラスレベル

 近衛Lv2(近接系、他者を護衛する能力の強化。)

 スキルレベル

 挑発Lv7、根性Lv7、玄武【進化】Lv4


 ーーーーー


 福良ふくら せつな

 クラスレベル

 牛鬼Lv2(近接系、暴れれば暴れる程能力が強化されていく。)

 スキルレベル

 防御Lv8、反撃【覚醒】Lv5、狂牛化【進化】Lv3


 ーーーーー


 諏訪すわ 祥子しょうこ

 クラスレベル

 巫女Lv2(遠距離系、巫女に関係する能力の強化。)

 スキルレベル

 予知Lv5、水龍【覚醒】Lv4 、属性変更Lv2


 ーーーーー


 黒田くろた 衛美えいみ

 クラスレベル

 軍師Lv2 (遠距離系、軍師に関係する能力の強化。)

 スキルレベル

 分析Lv7、風虎【覚醒】Lv4 、複数召喚L2


 ーーーーー


 黒守くろす 真理火まりか

 クラスレベル

 天使Lv2 (支援系、他者を支援する能力の強化。)

 スキルレベル

 光陣Lv7、光凰【覚醒】Lv4


 ーーーーー

誤字脱字報告ありがとうございます。


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