表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/61

中立派の試験

 外に出るとチンピラ達と戦った場所に陣幕かかけられており、中の空間が見えないようになっている。

 どうやらあそこを使うみたいだ。


「『防御』を崩すだけで良いって事は、向こうはかなり譲歩してるんだよな?」


 有禅さんは『防御』を崩せたら豪牙先輩より優秀だと言っていたが、そんな事はあり得ない。

 豪牙先輩は攻撃も強かった。確か『豪撃』と言っていたが、あちらも継承されたスキルだろう。

 攻撃されないなら豪牙先輩の戦力は半分以下だ。


「そうだね。それだけ自信が有るのも確かだと思うけど、凄い譲歩だと思うよ。」


 奈子が答えてくれたが…よく見ると足が震えている。

 …先頭で歩いて来たから全く気付かなかった。


「奈子、大丈夫か?」


 他の皆もヨロヨロと歩いている。

 …一体どうしたと言うんだ?


「う、うん…。豪牙家当主の『威圧』が凄くて…。」


「威圧…?」


 オレには何も感じられなかったけど…。


「アタシらにだけかけてたんだよー。…くそー。豪牙家の『威圧』って王家から無闇に使うなって禁止されたスキルだぞー。何十人もの荒くれ者を失神させたスキルを、か弱い乙女に使いやがってーー…。」


 諏訪が答えてくれた内容は驚きのものだった。

 まさか、皆にだけスキルをかけていたとは…。


「私も何度か意識が飛びかけたわ…。温和な表情を浮かべていたから落ち着いたのかと思ったけど、全然そんな事は無かったわね。大和を震えあがらせた鬼の豪牙は健在だったわ。」


 黒田もふらふらと歩きながら呟く。

 …オレには穏やかな人に見えたが…全く人を見る目が無かったようだ。


「やられっ放しだと思ったけど、豪牙先輩に反撃して良いだなんて、意外と良い人だったのかなー?」


「良い人な訳無いだろーが。あのおっさん、『防御』を崩せなかったら嬉々としてチーム解散を迫って来るぞ!」


「今更ダンマと引き離されるなんてあり得ませんヨ!乙女のパワーを見せてやりまショウ!」


 福良、林、黒守は奈子達より少しだけ元気そうだ。

 林は豪牙家当主をおっさん呼ばわりしているが、聞かれたらヤバイぞ…。


「…奈子。一緒に行こう。」


 奈子に肩を貸して歩き出す。

 既に前哨戦が始まっていたのに全く気付けなかったのは恥ずかしい限りだ。

 豪牙先輩との戦いで挽回してやろう。


 陣幕の中に入って少し待つと、先輩達がやって来た。

 豪牙先輩は上着を脱いで袖をまくり、ガントレット…と言うよりは、大和製の手甲を付けている。

 他はいつもの制服姿だ。

 胸当てや額当てもしないみたいだ。


「…さて、では始めるか。ダンジョン下層には自分の『防御』と同等の硬さを持つ敵もいると伝わっている。断真達がダンジョン制覇を目指すなら、こんな試練程度軽くクリア出来るはずだ。」


 豪牙先輩がそう言って、深く腰を落として目の前で腕を十字に合わせる。

 …それだけで威圧感が増した気がする。まるで地面に根がはったように見える。


「んじゃ、取り敢えずそのまま行くぞー。『水龍』!」

「私もよ。『風虎』!」


 オレの強化はかけずに、まずは一当てするみたいだ。

 諏訪の水龍と黒田の風虎が飛んでいく。


「『防御』。」


 豪牙先輩もスキルを使う。

 次の瞬間に二人のスキルが当たったが……。

 水龍の突進を受け止め、風虎の攻撃も全く効いていない。

 …やがて、力尽きたように龍虎は姿を消していった…。


「…次はアタイらの番だな!行くぞ!」

「行くよー♪『狂牛化』!!」

「行きマスよー。『光陣』と『光凰』デス!!」


 林、福良、黒守も向かって行く。

 林は接近すると『挑発』を使い、豪牙先輩の『防御』を解除しようとしている。

 福良は『狂牛化』を使って自身を強化し、そのまま攻撃を始める。

 黒守は『光陣』で全員にバフをかけ、『光凰』を身にまとって攻撃する。


(……これでも効かないのか。林の『挑発』には少し焦ったみたいだが、結局防がれてしまったな。)


 直接攻撃のスキルを黒守しか持ってないのが大きな原因かも知れない。

 福良の『狂牛化』は肉体強化の一種で、攻撃スキルでは無いからな…。

 普段は『反撃』が有るので問題無かったが、今回は攻撃されないから使う事は出来ない。


「……中々やるな。雑兵共の一斉攻撃より、余程強いぞ。」


 豪牙先輩は褒めてくれるが、まだまだ余裕が有りそうだ。

 次はオレの強化を使って驚かせてやる。


「うーん。硬いよー。牛さんの斧でも突破出来ないなんてー…。」


 三人が戻ってきた。

 福良は戦斧ハルバートを撫でながら悔しがっている。


「多分、断真君の『超強化』を使って貰っても、私達じゃ傷つけられないと思う。私も『防御』持ちだから何となく分かっちゃったよ。」


 福良が言葉を続ける。

 …オレの強化でも無理か。


「何か方法は有るか?」


「断真君が本気を出せば楽勝だよ♪『超強化』した後に『魔断』を剣にまとわせて攻撃するの。ついでに真理火の『光陣』で強化して、奈子の葉っぱで視界を遮れば完璧だね。…あ、逆にやり過ぎに注意だよ?」


 同じ『防御』持ちだからか、確信したように福良が話す。

 だが、『魔断』を剣にまとわせるか…。


(今まで『魔断』はそのままの攻撃でしか使って来なかったが…出来るのか?)


「洲君なら絶対出来るよ。」


 …不安が顔に出ていたようだ。

 奈子もこう言ってくれてるし、何とかやってみよう…!


「…次は、断真と滋深か。楽しみだ。」


 奈子と二人で前に出ると、豪牙先輩が声をかけてきた。

 少しだけ口角を上げ、いつもより好戦的に微笑んでいる。


「ええ。次で破って見せます。」


「行きます!リーフよ!」


 奈子が『禍津魂まがつたま』と『式神』のコンボで、いつものようにエルダートレントとリーフエレメントを召喚する。

 攻撃や防御、今回のような目眩めくらましにも使える万能な技だ。


「……これは。報告に有った魔物召喚か…。」


 豪牙先輩は襲撃時に離れていて、奈子のスキルを見ていなかったようだ。

『防御』しているものの、視界は完全に奪われてしまった。


「『光陣』!ダンマ!やっちゃってくだサイ!」


 黒守からバフを貰い、自分でも『超強化』をかける。

 後は…。


(『魔断』を使うだけだ。……だが、どうやってだ?)


 中々うまくいかない。

 剣に重ねるようにしておくだけじゃ駄目みたいだ。


「……ふむ。視界が悪くて確認出来ないな…。『威圧』を使って一掃した方が良いかな…?」


 遠くの方で有禅さんの呟きが聞こえる。

 …折角先輩の視覚を奪って防御のタイミングをズラそうとしてるのに、このままだとリーフが飛ばされてしまう…!


(…オレはいつも剣を強化してるんだ。それと同じ感覚でやってみれば…!)


 閃きに従ってすぐに『魔断』を使う。


(……出来た。こんな簡単に……。でも、今までとは段違いの力だ…。)


『超強化』と『魔断』で強化された剣が、僅かに発光しているように見える。


(……考えてる時間は無い。行くぞ!!)


 急いで先輩の元に近寄り、そのまま剣を振るう。


「…む!ありゃマズいぞ!!」


 遠くから、そんな声が聞こえた。


 思い切り振った剣は、豪牙先輩の防御を軽々と打ち破り……。



(……どうなった?豪牙先輩以外の人も居た気がしたんだが……。)


 無我夢中で剣を振ったが、砂煙が立っていて確認出来ない。

 地面を切った感覚は有ったが、人を斬った感触は無かった。

 変な事にはなって無いはずだが……。


「……見事だ。文句無しの結果だな。」


「…まさか、豪牙家の『防御』を崩し、その上で乾家の『受け流し』を打ち破るとはね…。後一歩遅かったら危なかったよ。」


 砂煙が収まると、豪牙先輩が膝を突き、その前に立つ乾先輩が肩で息をしていた。


「…やれやれ。まさかこんな結果になるとはね。嵐山君、すまんな。本当に助かったよ。」


「…私達も年を取ったな。まさか、息子に先を越されるとはな。」


 有禅さんと雅山さんもやってきた。

 ……どうやら、豪牙先輩の『防御』を破った後、勢いが止まらずに先輩に斬りかかる所を乾先輩が割って入ってくれたみたいだ。

『受け流し』で流されたオレの剣は、陣幕ごと地面を真っ二つにしていた。


 乾先輩が遠くに飛ばされた剣を拾っている。…どうやら、オレとの衝突で飛んでしまったようだ。


「洲君!おめでとう!」


 奈子が飛び込んで来たので、慌てて受け止める。

 他の皆もやって来たようだ。


「ね?やり過ぎに注意って言ったでしょ?」


 福良が嬉しそうに話しかけてくる。

 …オレは今更になってドキドキして来たぞ。

 もし豪牙先輩を斬ってたらと思うと…震えが止まらん…。


「流石断真だぜ!断真なら楽勝だって信じてたぜ!」


「さっきまで蘭が祈りを捧げてた姿、とても可愛かったデスよ!後でダンマにも見せてあげますネ!」


 林と黒守もやって来た。

 林がお祈りをするなんて想像つかないな。少し見てみたいかも…。


「い、いつの間に撮ってんだよ!よこせ!誰にも見せるんじゃねー!」


 …いつものように二人でのふざけ合いが始まった。

 林は愛されてるな…。


「ふっふっふー。断真、よくぞやった。流石はアタシ達の大将だぜー。」


「…本当に凄いわね。攻撃力で言えば大和でも最高峰に位置するんじゃ無いかしら…。」


 諏訪はどこからか持って来たのか、軍師が持つような羽のついた扇で口を隠している。

 黒田はどこか呆れたような感じだが、それでも嬉しそうだ。


「…諏訪。何だよ、その扇は。」


 気になったので聞いてみる。


「…詠美用に持って来たんだけど、返されちゃってさー。断真使う?」


 …理由になって無い気がするが、何となく用意しただけだろう…。


「…いや、いらない。」


 少し使ってみたい気もするが、見掛け倒しも良い所だからな。

 軍師役は二人に任せよう。


「…そろそろ真面目な話だから、二人も離れた方が良いと思うわよ。」


 黒田の言葉に冷静になってみると、ずっと奈子を抱き締めたままだった。


「え? あ! ごめん!」


「…う、ううん。大丈夫。大丈夫だよーー?」


 慌てて離れると、奈子は真っ赤な顔でふらふらと離れていった。

 オレも今更ながらに柔らかい感触が……。


「うーん。青春だねー。」


 …雅山さんのお陰で我に返る事が出来た。

 …お偉いさんの前だと言うのを忘れてた…。


「す、すみません…。」


「いや、今日は本当に良い日だったし、気にしなくて良い。良い事が聞けたし、良いモノが見れた。」


 言葉通り、雅山さんは嬉しそうな顔をしている。

 …良い事ってのはオレがダンジョンマスターだって事で、良いモノってのは今の立ち会いの事だよな…。


「試験はもちろん合格だよ。君達を全面的に支援しよう。親御さんにはまだ話をしてないようだから、早めに話をすると良い。手紙を書いておくから、後で届けさせよう。」


 有禅さんが改めて伝えてくれる。

 これで中立派の大物…豪牙家と乾家の協力が取り付けられた。

 後は皆の親との話し合いか……。


「娘も来年高等部の方に入学するから、是非鍛えてやってくれ。何なら中等部の内からでも構わないよ。なに、最初は小間使いとして使ってやる位で良いさ。」


 雅山さんは最後に冗談のように娘の事を話していた。

 有禅さんも「今度暇な時に遊びに来なさい。」と言って微笑んでいた。

 二人とも色々とやる事が出来たらしく、話が終わった後は足早に帰って行った。

 どうやら乗禍家への対応をより厳しくするように動くみたいだ。


 先輩達二人とも別れを告げ、『森林亭』に戻る。

 最後の立ち会いで二人とも骨折してしまったらしく、奈子の『回復』で治す事になった。

 豪牙先輩は肩を、乾先輩は左腕を折っていたようだ。


 青い顔をして謝るオレに「気にしなくて良い。良い経験になったよ。」と優しく声をかけてくれ、本部へと戻って行った。

 本当に良い先輩達だ。

誤字脱字報告ありがとうございます。


もし面白ければブックマークや、

↓にある☆☆☆☆☆から、作品の評価をお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ