戦いが終わり
「洲君、おはよう。朝だよ。起きて?」
「ん……。おはよう……。…………え? 奈子?」
慌てて飛び起きる。
辺りを見回すと、見覚えの無い部屋で、見知らぬベッドに寝ている。
奈子は布団を軽く揺すって声をかけてくれる。
「ふふ…。寝ぼけてるの?昨日は『森林亭』に皆で泊まったじゃない。」
「あ、ああ…。そうだったな…。」
そうだ。昨日総番達の襲撃を退けた後、森林亭に泊まる事になったんだ。
鹿藤達が風紀委員本部の方に泊まるから、男子寮での警護が出来ないと言う理由で…。
(影山や鹿藤達に大きな怪我が無くて良かった。影山も活躍したって言ってたしな…。)
本部の方で敵を待ち構え、煙幕や隠密で頑張っていたみたいだ。
オレ達が帰る頃にはスキルの使い過ぎで爆睡していた。
「もうご飯だから、支度出来たら降りて来てね。」
「…あ、ああ。」
まだ少しドキドキしている。
鹿藤達の事を考えてみたが、殆ど効果は無かったみたいだ…。
(奈子に起こされるなんてな…。……こういう生活も悪く…。いや、何を考えている…。」
森林亭での暮らしを思い浮かべてしまった。
奈子に毎朝起こされるなんて夢のような環境だが、早まってはいけない。
複数の女子と一つ屋根の下だなんて、知られたらどんな噂を立てられるか…。
「…っちぇー。落ちなかったかー。惜しかったなー。」
「…でも手応えは有ったわね。奈子に頑張って貰えばすぐ陥落するわ。」
……廊下の方から諏訪と黒田の話し声が聞こえる。
目を向けると逃げていったが、本当に油断ならない奴らだ…。
「…お、おはよう。」
「お、おう!お、おはよう!皆は店のテーブルを使ってるぜ!アタイもすぐ行くから、先に行っててくれよ!」
森林亭の二階から降りると、ちょうど林と鉢合わせた。
林の母も居るので、同様に挨拶を交わす。
(…緊張する。…早めに移動しよう。)
クラスメイトの家に泊まって、親と挨拶する…。それだけでも難易度が高いのに、相手は女子だからな…。
森林亭は以前宿屋もやっていたらしく、今回はそこを開放して貰った。
どうやら事前に諏訪達が頼んでいたようで、夜明け頃に着いたにも関わらず、快く迎え入れてくれた。
「断真君、おはよー♪」
「ハロー!ダンマ!」
いつもの個室に入ると、皆が出迎えてくれた。
真っ先に挨拶をしてくれた福良と黒守に返事をする。
「おはよー、断真。…森林亭の暮らしはどうだったかなー?」
「断真君、おはよう。まだ半日も経ってないけど、既に良い事が有ったんじゃないかしら?」
諏訪と黒田がニヤニヤしながら話しかけてくる。
…コイツら、覗いていやがっただろうに…。
軽く挨拶だけを返し、すぐ奈子に話しかける。
「…奈子。先生は?」
「先生は学園に呼ばれて行っちゃった。今回の学園施設の襲撃を受けて、色々と話し合いが有るみたいだよ。」
「学園施設…。そうか。風紀委員本部も学園の建物だからな。」
「うん。学園としては本部に攻撃してくるとは思ってなかったみたいで、今大慌てで情報を集めているんだって。」
「ん?乾先輩達は学園に作戦の事を言ってなかったのか?」
事前の作戦で本部が攻められる事は予定されていた。
それなのに学園側が大慌てだなんて何故だろう。
「それは…。どうなんだろう?」
奈子も分かってないみたいだ。
「それはねー。きっと可能性の一つとして報告してただけだと思うよー。」
二人で首を捻っていると、諏訪が助け舟を出してくれた。
「可能性の一つ…だから学園側は重く受け止めていなかったのか。」
学園側が驚いている理由は理解したが、何故乾先輩はそんな事を…?
「乾先輩としては、乗禍家の脅威を最大限にして伝えたかったんだと思うよ。だから風紀委員本部を襲撃させるっていう作戦も受け入れたの。襲撃時に敵を一か所に固めて、戦いが激化するように仕向けたのもねー。そのお陰で建物の一部に穴まで開いてるし。」
「……だから本部の方は怪我人だらけだったのか。しかし、いくら何でも…。」
やりすぎじゃ無いだろうか…。
奈子の治療が無かったら二度と剣が握れなくなっていた人物も居たぞ。
「鹿藤達以外は中立派の関係者で固められていたし、犠牲も覚悟の上だったと思うよ…。…そうまでして乗禍の脅威を訴えるのも、国が乗禍と対立するようにしたかったからだろうね。」
今回は元々風紀委員と不良グループ、学園内での問題として話がつく予定だった。
それなのに乗禍はダンジョンマスターの力を使い、国側の恩情を突っぱねた。
その上で学園施設へと襲撃し、施設を一部破壊までした。
(もう殆ど反乱に近いよな……。)
こうまでしないとダンジョンマスターを排除すると決められなかったのか…。
「断真の事もいつ国に話せるか未定だからねー。だから、断真の事を言わなくても乗禍と国が敵対するようにしておきたかったんだよ。将来的に邪魔になるのは目に見えてたしね。」
諏訪が続けて発言する。
オレの事を話せてたらここまでする必要は無かったのかも知れないのか…。
「…そうか。」
それだけしか言う事が出来ない。
全員治ったから良かったものの、風紀委員の人死んでいたらと思うと…。
「…知ってた方が良いと思ったから言ったけど、そこまで気にする必要は無いぞー?そう簡単に秘密を話せないなんて当然の事だしねー。」
諏訪が慰めの言葉をかけてくれるが、何と返せば良いのか分からない。
下手に話して自分が破滅するなんて真っ平御免だが、そのせいで犠牲者が出るとなると…。
「…洲君。焦らなくても大丈夫だよ。これから中立派の人達と話して、私達の親を説得して…。そうすれば大和の上層部の人達もしっかり話を聞いてくれるから。」
「そうね。国との話し合いは大人達に任せても良いと思うわよ。中立派との話し合いも、断真君は座っているだけで大丈夫よ。…私達は色々言われそうだけどね。」
奈子と黒田からも声をかけられる。
…そうだな。いつまでも悩んでいても仕方無いか。
オレには一つずつ進めて行く事しか出来ないんだ。
(中立派との話し合いも問題無いとなると…オレにとっての難関は皆の親との話し合いになるのか…?)
以前貰った手紙には色々と書かれていたが、いつか会える時を楽しみにしていると締めくくられていた。
ただの挨拶だと思うが、その部分のインパクトが強くて他の内容については余り覚えていない。
娘についた悪い虫とでも思われていそうで怖い。
「そうだな…。まずはご飯を食べよう…。」
さっきとは別の意味で気が滅入ってきた…。
大事な娘を配下にしてるなんてバレたらどうなってしまうんだろうか…。
森林亭のご飯は相変わらず美味しかったが、イマイチ楽しむ事が出来なかった…。
「…全く!折角アタイらが作ったって言うのに、辛気臭い顔して食べるなよな!」
「林…悪い…。」
昼食を済ませて風紀委員へと向かう道中、林からお説教を貰う事になってしまった。
「そうデスよー?蘭が朝から頑張ってシチューを作ってたのに、ダンマは黙々と食べてるだけなんデスから。そんなんじゃ乙女心は掴めませんヨ?」
「な、何で真理火が朝から作ってたって知ってんだよ!?」
「蘭の事なら全部お見通しデスよー。あのシチューもお店のメニューに無いものをわざわざ作ったんデスよねー?」
「だあああ!止めろ!余計な事を言うな!!」
林と黒守がじゃれ合っているが…。
(朝からって…。殆ど寝てないのか?……本当に悪い事をしたな。)
もっと味わって食べるべきだった。
考え事をしながら食べてたオレを殴ってやりたい気分だ。
「…そんなシケた顔すんな!まだ残ってるから、ま、また食べに来れば良いだろ!?」
「…林、ありがとう。夜にまた寄らせて貰うよ。」
今度はゆっくり食べさせて貰おう。
(…諏訪と黒田がハイタッチしてるが、今日は泊まらないぞ…。)
そんな話をしながら歩いていると、本部の建物が見えてきた。
また昨日の後片付けを始めるか。
誤字脱字報告ありがとうございます。
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