秘密のスキル
「やった!!遂に!!!」
ダンジョンの支配に成功した!!!!
例え一室で有ろうと、オレにとっては偉大なる一歩だ!!!!
「よっしゃーーーー!!!」
嬉しさの余り小躍りしてしまう。
ダンスの才能なんて無いから盆踊りのようなものだが、誰も居ないし問題無い!
(……はしゃぎ過ぎたな。)
時間が経って冷静になると、段々恥ずかしくなって来た。
丸々四年の成果だ。仕方無いとは思うが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
気を取り直して、正式にダンジョンマスターとなった事で何が出来るようになったか確認する。
非常に重要な事だ。やり方は何となく分かる。
(……うむ。思った通りか。……ダンジョンマスターとしては、そこまで大した事は出来んな。)
それでも今のオレにとっては十分過ぎる事ができる。
逸る気持ちを押さえて、深呼吸をする。ここまで来たらもう焦る事など無いんだ。
(オレはダンジョンから認められた訳でも無く、ダンジョンコアにアクセスも出来ない状態だ。この状態で出来る事は二つだけ…。)
「一つはダンジョンからの魔力供給だ。これである程度自由に魔力を扱えるようになる。…もう一つは能力値の強化や、技能の取得だ。」
つい言葉に出てしまった。だが誰も居ないし問題は無い。
ダンジョンコアはダンジョンの心臓のようなものだ。コアを使ってダンジョンマスターは色々な事を出来るようになる。
オレはコアを使用していないので、ダンジョン全体の魔力を扱う事は出来ない。この一室で取れた魔力を扱えるだけだ。
微々たるものだが、それでも今までとは格段に違う。
(これで…。魔石に魔力を込める事も出来る。)
今までとは逆に、部屋から魔力を貰い魔石に補充する。
これで擬似的な魔力タンクが出来た。
「……これで、今後はかなり自由に魔力が使えるようになるな。」
魔石に魔力を送ってみたが、部屋の魔力はまだまだ減っていない。
かなり期待出来そうだ。
(次に…自身の強化だ。これにはかなり魔力を使うらしいし、慎重に決めないと。)
とは言え上げるのは決まっている。
部屋の中でダンジョンにアクセスし、様々な情報の中から『ユニットの強化』を選ぶ。
ダンジョンコアを経由してないのでノイズだらけだが、手順については何度も教わった…教わった?いや、古代の記憶を見て覚えたんだ。
やってる事は部屋からダンジョンコアへと不正アクセスしているような感じだ。
普通はこんな事不可能だが、『大迷宮』のダンジョンでは可能らしい。
オレ専用のバックドアを開けとくとか何とか聞いた気もするが…とにかくやってみよう。
(スキルの…『強化(改)』『偽装』『魔弾』を選択。……ギリギリだな。)
これで部屋の魔力はほぼ使い切ってしまった。
だが頻繁にアクセスするのはマズいらしいし、ちょうど良いだろう。
今回スキルを得た事で一気に四つに増えた。『クリティカル』『強化(改)』『偽装』『魔弾』の四つだ。
レベルはまだまだだ。特に強化はレベル1に落ちてしまった。だが、数だけなら元の二倍だ。
(『強化』。)
強化(改)を使う。
レベル1に落ちたが、今までの強化よりも遥かに効果が感じられる。
「おお…。凄い!…っうわ!」
感覚を確かめていたら、余りの速さに驚いて壁にぶつかってしまった。
(痛…くない…。)「ハハ!こんな速さで壁にぶつかったのに!!全然痛くない!!!」
感情が制御出来ない。
喜びの余り、考えている事が口に出してしまう。
魔力の消費量は大きいが、それも魔石から補充できる。
この三つのスキルを選んだ理由は簡単だ。
表面上はオレは使えないスキルを持った落ちこぼれのままだ。ここで目立つスキルを覚えても使う事が出来ない。
三つ目のスキルを突然覚えたと言っても不審な目を向けられるだろう。
最低でも10年以上かかる所を4年で覚えるのだ。下手すれば騒ぎになる。
そこで必要なのが『偽装』だ。
『偽装』は学園の検査や『鑑定』などを誤魔化す為のものだ。
本来戦闘に関係の無いスキルを取る事に迷いは有ったが…これを取らないとどうなるか分からないからな…。
最悪で人体実験コース、良くて有力者達の兵隊だろう。
『強化(改)』を取った理由も似たようなものだ。
あくまで『偽装』を使って隠している以上、オレのスキルは『強化』と『クリティカル』だと思われている。
ここで派手なスキルを選んだとしても、常に周囲を気にして使用する事になる。
ダンジョン内ならバレる可能性は低いが、わざわざ冒険する意味は無いだろう。
『強化(改)』なら遠目からは分かり難い。仮にバレたとしても誤魔化しが効くだろう。
元々持っていた『強化』のスキルが進化したとか、本当の使い方が分かったとか言えば良いんだ。
実際『強化』の進化版だし、何とかなると思う
『魔弾』については直感だ。
さっき言った事と矛盾してしまうが、バレにくい魔法だし大丈夫だと信じている。
見た瞬間にコレだと確信してしまったのだ。どうしようも無い。
恐らくオレに相性が合ってるんだろう。
「実践だ。」
一旦自身にかけた強化を解く。
進化した強化は身体への負荷が大きいようだ。
部屋から出て敵を探す。幸いすぐに現れてくれたようだ。
「ちょうど良い。盾持ちのゴブリンか。」
早速現れたゴブリンに、剣を強化して斬りかかる。
新しい強化は装備品にも適用可能なのだ。
速さを抑えて動いてる為、ゴブリンも余裕を持って丸盾を構えている。
「ッギャ!!」
「うを…。盾ごとバッサリか。」
当たった瞬間に力を込めてみたが、かなり効果は高かったようだ。
『クリティカル』も出なかったのにこれだけの強さか。無茶苦茶使えそうだ。
「良し…!良し……!!」
次だ!戦闘に使えそうなのは次で最後だ。
すぐに次のゴブリンを見つけ、近づいて行く。
今度は敵に先制させ、ゴブリンの棍棒をかわした後に素手で殴りかかる。
(『魔弾』。)
ゴブリンは素手で殴りかかるオレを見て笑っていたが、その笑いが長く続く事は無かった。
拳が当たった瞬間に放った魔弾の衝撃で遠くまで吹き飛ばされたからだ。
偽装も兼ねてやってみたが、かなり不自然な戦闘だったと思う。
「魔弾自体は透明だしバレなさそうだが……。威力が強すぎるな。剣で斬った瞬間に使うとしても、吹き飛び方が不自然になる気がする。」
ソロで潜るにしても、遠くから誰かに見られる恐れがある。余りに不自然なのはマズい。
それに魔力の消費も一番大きいようだ。
もう魔石が空になってしまった。
(何とか威力を調整すればイケるか…?色々試してみるか。)
5層にまで足を伸ばしてみる。
ここの敵はゴブリン、コボルト、ウォーウルフ、ウォーラビットの3層までの敵に加え、ゴーレムが増える。
しかも敵が魔法を使ってくるのだ。一匹につき一回しか魔法を放てないらしいが、それでも難易度は跳ね上がる。
まだオレには早い気もするが、魔石は確保してあるし、ポーションも有る。
逃げる事は十分可能だと思う。
5層からは罠も出現する。
罠は足を引っ掛ける位の段差で、素人目にもハッキリ分かる場所に置かれている。
気をつければ問題無いだろう。
(居た…。ゴブリンとコボルトに…ゴーレムか。お試しとしてはちょうど良いな。)
ゴブリンとコボルトで3層との強さの違いを確認して、新しい敵のゴーレムとも戦える。
本当は別々が嬉しいが、早く実戦で試したいしこの際良いだろう。
(早い…!コボルトがもう気付きやがった。)
三匹のモンスターがこちらに走ってくる。
ゴーレムは足が遅く、コボルトは一番足が速い。この層の敵にチームプレイという概念は無いようで、縦一列になって走ってくる。
(コレならいける…!)
自身に強化をかけ、剣と盾にも同じく強化をかけておく。
準備が終わるとすぐに敵に向かって走る。
先頭のコボルトは棍棒を構えるが、動きが遅過ぎる。
「食らえ!!」
満足に反応出来て無いコボルトを一刀で斬り捨てる。それと同時にゴブリンに魔力が集まっているのを感知した。
『ギャギャギャッ!!』
「ファイアか!!……だが!!」
盾でファイアを打ち払う。
思った通り、強化された盾なら余裕で防げる。
「ッラァ!!」
ゴブリンも一撃で仕留めた。魔法の後の硬直が思った以上に長いようで、呆然と立ち尽くしていたので楽勝だった。
後はゴーレムを倒せれば完璧だ。
ゆっくりと近づくゴーレムと対峙する。
巨大な石の塊だ。人型で、高さ3Mは有るだろう。
ゆっくりとした動きだが、攻撃力はかなり高いはずだ。盾での防御はしたくないな…。
だが…プレッシャーは感じるが、十分戦えそうな感覚だ。
相手が腕を振りかぶって攻撃してきた。
(動きが遅すぎる。隙だらけだ!)
敵の攻撃をかわした後に攻撃すると、あっさりと攻撃が通った。
「…ック!」
だが、ゴーレムの硬さは中々のものだった。
剣を持つ手が軽く痺れている。
(剣は……大丈夫だな。なら次は魔弾も使うか。)
恐らく強化が無ければ剣が欠けるか、最悪折れていたと思う。
支給品の安物だからな…。
とは言え壊れなかっただけでも有り難い。大事に使って行こう。
「食らえ!」(魔弾!!)
斬ると同時に剣先から魔弾を放つ。
結構難しく、少しのタイムラグが出てしまった。
(ゴーレムは…倒したか…。……ゴーレムは巨体だから違和感は感じられなかった。だがゴブリンくらいの軽い敵にはまだ厳しいかもな。)
剣と魔弾の同時攻撃は思った以上に難しかった。
だが周囲を警戒していれば強敵相手には使えそうだ。
軽い敵は弱いのが相場だからな。
11層以降の森林に出てくるゴブリンは、低層のゴブリンよりも明らかに強く、重いと聞いた事がある。
(…もっと試してみるか!)
こんなに楽しいダンジョン探索は初めてだ。
中等部の生徒達が潜る階層とは言え、初めての無双だ!
楽しくて仕方ない!!
……結局、あれから一日中ダンジョンにこもっていた。
今はもう寮に帰って来たが、またすぐにでもダンジョンへと向かいたい気分だ。
新しいスキルについても概ね順調と言って良いだろう。
少しだけ問題も有ったが、そこまで大した事では無い。
(まさか、繰り返し使用する事で魔石が壊れるとはな。)
幾つかの魔石を壊してしまった。
敵を倒す事で簡単に補充出来るが、予備を多めに持っておこう。
魔弾も調整して使う事が出来た。これならすぐにでも活躍出来そうだ。
クラスも支援Lv3に上がった!
クラスメイト達に比べればまだまだだが、オレにとっては大きな一歩だ!!
今までで最高の気分だ!!!
明日からはオレの物語が始まるんだ!!!!
「では、定期試験の赤点者を発表する。影山、…断真、以上だ。この二人には夏休み中の課題を出す。後で職員室に来るように。」
翌日、学園に行くとHRで衝撃の事実を伝えられた。
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クラスレベル
支援Lv3
スキルレベル
強化(改)Lv1、クリティカルLv1、偽装Lv1、魔弾Lv1
誤字脱字報告ありがとうございます。
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