風紀委員との話し合い
ーーー断真視点ーーー
いつもの森林亭の一室。
今日は豪牙先輩と乾先輩という、二人のVIPを迎えての話し合いだ。
「…風紀委員長の豪牙厳無だ。」
豪牙先輩は筋骨隆々な肉体を持っていて、腕の太さもオレの二倍くらいは有りそうだ。
余り喋らずに寡黙な印象を受けるが、怖いというよりはどこか優しさの感じられる偉丈夫だ。
「僕は風紀委員の乾嵐山です。本日は宜しくお願いします。」
乾先輩はオレを見ると意外そうな顔をして、なるほど…、という顔をしていた。
何を考えているか知らないが、誤解な気がする。
豪牙先輩と違って一見優男風に見えるが、その足運びや重心の安定感から、すぐに只者じゃ無い事が分かる。
長く伸びた長髪を後ろで結んでいるが、よく似合うものだと感心してしまう。
「アタシは諏訪祥子です。こちらが……。」
対外的には諏訪が代表なので、諏訪が皆を紹介していく。
『契約』が終わるまではこの形でいくつもりだ。
「それで、本日は横葉先生の事で聞きたい事が有るんだ。先生は諏訪達の派閥って事で良いのかな?」
向こうは乾先輩が話すみたいだ。
「はい。そうです。……もし、それ以上の話をするならこちらにサインしてくれませんか?」
いつもと違ってキッチリとした話し方なので、少し違和感が有る。
いつもはもっと間延びした感じだからな。
「契約書……?何故わざわざこんな物を……?」
「……。」
乾先輩が不思議そうにしているが、諏訪は答える気が無いようだ。
やがて、乾先輩が苦笑いを浮かべながらサインしてくれた。
「やれやれ……。こんな紙を用意するって事は、それなりに大事な話が有るって事だね?…精々楽しい話を期待しているよ。」
やや呆れたように乾先輩が話すが、諏訪は悪そうな笑顔を浮かべている。
……恐らく、腰を抜かす程驚かせてやる、とでも思っているのだろう。
「……楽しみだ。」
豪牙先輩も微笑みながらサインしてくれた。
これで、この場で話した事は秘密厳守になり、嘘をつく事も出来なくなる。
オレ達も既に記入済みなので、皆対等な条件だ。
「……それでは、こちらの断真洲君ですが……。彼にはとんでも無い秘密が有ります。」
「……秘密?」
「そうです。なんと断真は『ダンジョンマスター』なのでしたー。じゃじゃーーん。」
もったいぶって話した後、最後はいつものように緩い感じで発表した。
その後オレの肩を叩き、「後、任せたよー。」と言ってくる。
(驚かすのがやりたかっただけかよ…。)
諏訪が満足そうな顔をしている。
…と、言う事は。
「……驚いたな。まさか、そう来るとは……。」
「……そうか。断真が……」
少しだけポカンとした後、乾先輩が考え始める。
豪牙先輩も短く呟いて、黙り込んでしまった。
「……それは、中級職で『ダンジョンマスター』になったと言う話じゃ……無いみたいだね。」
「はい。オレのクラスは『沙門』です。ですが、ダンジョンマスターの力が一部使えて、大迷宮に支配領域が少しだけ有ります。」
「支配領域か……。これはとんでも無い事になったな……。」
オレの言葉に、また乾先輩が考え込んでしまう。
「……嵐山。まずは彼らの話を聞こう。」
「…そうだな。わざわざ網を張っていたんだ。…続きを聞くのが楽しみだよ。」
(網って、先生と一緒にダンジョンに潜った事か?……一瞬でこちらの考えがバレるんだな。)
諏訪はそこら辺も踏まえて色々考えてそうだが、オレのような一般人からすると恐ろしくなってしまう。
…取り敢えず、悪く思っては無いようなので、こちらの話をしてしまおう。
「オレの願いは、国の上層部に保護されて、手酷い扱いを受けたり、皆と引き離されるのを防ぐ事です。お二人にはそれに協力して欲しいと思っています。代価としては、総番との戦いを手助けします。」
保護という名目で何をされるか分からないし、よく分からないチームを組まされるのも嫌だ。
ダンマスになってヒッソリと暮らすのも良いかも知れないけど、そうも言ってられない状況だしな。
「……中々難しい願いだね。そもそも、断真君は勘違いしてるようだけど、大迷宮の正当後継者が酷い目に遭うなんて有り得ないよ。諏訪達とも願えば一緒に居られる。チームは組めないかも知れないけどね。
断真君は国のトップに知り合いが居ないから勘違いするのは仕方無いけど、本来周りに居る貴族の君達が教えてあげる事だよ?」
少しだけ困ったように乾さんが話す。最後の方は諏訪達をたしなめるような感じだ。
……そうか、乾さんから見れば国の上層部って近しい人達になるのか。
悪く言ってしまって申し訳ないな…。
「いえ、皆はよくやってくれてます。元々オレが皆を信頼出来なくて、国の上層部を信用出来なかったんです。今お二人に話そうと決意出来たのも皆のお陰です。」
最初にまず配下にしたのも皆の事を信頼出来て無かったからだ。
今考えると恥ずかしいが、当時は仕方無かったと思う。
「……少し言い過ぎだったかも知れないな。すまない。確かに、簡単に誰かを信頼なんて出来るはず無いしな。……進展しているって事は周りに居る彼女達の功績か。」
「…断真達の成長具合はどれ位だ?…結局の所、大迷宮を攻略出来るかどうかが重要な論点になる。断真達が充分な力をつけてるなら問題無いはずだ。」
乾先輩に続き、豪牙先輩が声をかけてくる。
…やはり、最終的には力か。諏訪の考えていた通りだな。
皆のクラスレベルが中級職のレベル2である事、階層は27層まで到達した事を伝える。
「…それなら問題無さそうだな。」
「そこまで進んでいるのか…。それなら断真君も『ユニット強化』が使えるんだな。……これは、本当に大和の悲願も達成出来そうだ。」
豪牙先輩が短く返事をしてくれた。どうやら大丈夫そうな感じだ。
乾先輩は驚いているが……『ユニット強化』も知ってるようだ。
やはり、古い名家になると色々情報を持っているんだな…。
「分かった。断真君に協力する事にしよう。……僕としては大和に保護された方が安全だと思うんだが、断真君の考えを尊重するよ。
まずは断真君達が総番の取締りに協力してくれて、その後僕らの家と協力体制を取るって事で良いのかな?諏訪達の家はその後かい?」
…どうやら先輩達の協力を得られそうだ。
豪牙先輩も頷いているし、後は総番達を倒すだけだな。
今後の話については諏訪が引き継いでくれた。
やはり乾先輩達の後で皆の家に話すらしく、そこまで終わってから国との話し合いになるみたいだ。
家を後にするのは、身内だからと評価を下方修正されたりしない為にらしい。
やはり家族だと過保護だったり、逆に厳し過ぎたりして、正当に評価されるか心配なようだ。
乾先輩達の家を味方にして、誰も文句言えない実績を持って親を説得する予定だ。
その為にも、まずは総番との戦いで協力する事になった。
「……それじゃ、断真君の寮での保護は僕達で行うよ。君達は男子寮に入れないし、影山君だっけ?…一人の男子生徒に任せっきりと言う訳にもいかないからね。」
「……いやー、それはねー。奈子の式神がサポートしてるし、アタシ達もすぐ駆けつけられるし、大丈夫じゃ無いですかねー?」
…今はオレの寮での護衛の話をしている。
やはり今の警備体制では不安が有るらしい。
「…それじゃあ遅過ぎるよ。復鬼に本気で動かれたら間に合うのかい?」
「う……。それは……。」
「安心してくれ。君達のクラスの鹿藤達もつい最近、風紀委員に入ったんだ。彼らなら最適の護衛だろう。……なんなら配下にしてくれても良いよ?木万や君島は家の後継者だけど、兄弟も居る。ダンジョンマスターの配下になれるなら承諾するはずだ。」
「いやー…。実は、断真は『森林亭』の方で護衛するつもりなんですよ。今は断真を説得してる所でして…。」
「じゃあそれまでの期間でも良いさ。…これは君達の為でも有るんだよ?いつまでも断真君を独占していると、色々恨まれる事になるよ?」
「……それは、確かに……。分かりました。…森林亭に移るまではお任せします。」
「うんうん。それが良い。」
……珍しく、諏訪がやり込められているようだ。
森林亭に移るまでと言っているが、その話は無くなったんじゃ無いのか?
「じゃ、後で鹿藤達を寄越すよ。今日は良い話が聞けて良かった。」
「…では、また会おう。断真、今後とも宜しくな。」
乾先輩と豪牙先輩が帰っていった。
二人とも良い先輩だったな。
「……あー、疲れたよう。ビシバシ威圧してくるし、話すだけで大変だった…。」
「私も…。祥子のフォローする時にプレッシャーかけられたわ…。」
諏訪と黒田が話している。
…どうやら皆に対しては厳しい対応をしていたのかもしれない。
「それもこれも、断真が『森林亭』に来ないのが悪いんだぞー?こんな綺麗どころが揃ってるって言うのに、何が気に入らないんだよー?」
諏訪がオレの方にまで絡んできた。
…寮での護衛の件がお気に召していないようだ。
「……いや、何度も言ったが、このメンバーで暮らすなんて無理だよ。オレの身がもたない…。」
綺麗どころが揃ってるのが問題なのだ。
まだ鹿藤達に護衛されてる方が気が楽だ。
「くっそー。このヘタレめー。お陰で余計な奴らを押し付けられちゃったよー。」
ヘタレ……。
諏訪達は鹿藤達をライバル視しているみたいで、鹿藤達が強くなるのが嬉しくない…とまではいかないが、少し微妙な感じみたいだ。最近ようやく気付いた。
折角一歩先を進んでいるから、このまま引き離してしまいたいんだろう。
(それにしても、ヘタレって……。結構ショックだぞ……。)
撤回を要求したい。
「乾先輩の話も一理有ったのは確かだけどね…。だからこそ祥子も頷いたんでしょう?」
「まぁねー。……とは言っても、断真が自分の意志で森林亭に来れば問題無いよ。……だから……。」
…黒田と諏訪が二人で話し始めた。
良からぬ話をしているみたいだが、今声をかけても逆効果な気がする…。
…くそう。味方が欲しい。
「洲君……。鹿藤君達ばっかり構っちゃダメだからね?」
「奈子…?」
奈子はよく分からない事を言い出すし、一体どうなってるんだ。
混沌とした状況の中、ようやく扉がノックされた。
どうやら鹿藤達が来たみたいだ。
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