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それぞれの思惑

 ーーー復鬼ふくき完次かんじ視点ーーー



(…くそ!いつからこうなった!何で俺が追い詰められているんだ!!)


 少し前までは最高の環境だったはずだ。


 復鬼家は地方出身の豪族で有るものの、地元ではかなり力を持っている。

 俺は復鬼家に生まれた次男として優秀に育ち、兄に至っては一流冒険者に上り詰め、乗禍様の側近にまでなったのだ。

 高校一年の終わり頃には俺もダンジョンマスターの正式な配下に任命され、数多くのスキルを授かった。

 そこからの人生は最高だった。


 俺の圧倒的な力を前に、生徒どころか教師達までもが俺の機嫌を取り始めたのだ。

 名高い豪牙家や乾家の息子達も俺を無視する事が出来ず、一緒にチームを組む事になった。

 あの、大和に住む人間なら誰でも知っているような名家でさえ、俺を無視出来なかったのだ!!


(おかしくなって来たのは二年の馬鹿共がコアを紛失してからだ。…くそ!あのカス共め!!)


 コアは理性を僅かに失う代わりに強大な力を得られると言って乗禍様から渡された。

 次の総番候補に渡して様子を見ろと命令されたのだ。

 …明らかに、僅かに理性を失うという程度では済まなそうだったが、従う他無かった。


 まずはA組の奴らに渡してみたが……事もあろうに、奴らは紛失しやがった!

 ずっと手放さずに持っていろと命令したが……不吉さを感じ手放していたらしい。

 俺達と会う時以外はずっとダンジョンに置いていたという話だ。


(殺してやりたいが…今は我慢だ。ここで事件を起こす訳にはいかない。)


 奴らは今も逃げ続けている。

 どうやら茨山達の事件を見て、実験体扱いされたと確信しているみたいだ。


 茨山達の事件……それは二年の強化合宿襲撃事件だ。

 A組で失敗に終わった俺は再度コアを渡された。次は茨山達を使えと言われたのだ。

 二度も失敗する訳にもいかず、先安という男を使って茨山達を操る事にした。

 先安は地位や名誉に執着する男なので扱い易かった。

 そして、茨山達を煽った結果、あの事件に繋がった訳だ。


 あの事件自体は大した問題じゃ無い。

 大きな被害が出る事は無かったし、最悪茨山達を切れば良いだけだからだ。…結局、切る必要も無かったのか、茨山達を解放したらしいがな。

 俺としても命令はこなせていたから何も問題は無い。

 これで全てが終わるかと思いきや、そうはいかなかった。

 黒い粉が学園中にばら撒かれたのだ。


 先安達の様子を『目』が見ていたようで、あのコアは一定の効果が有ると認められたようだ。

 半ば魔物化するというのが良いらしく、ダンジョンマスターの忠実な下僕として活用するのが狙いのようだ。

 その為、すぐにコアを粉末状にして学園に流通させたみたいだが……。


(時期尚早過ぎるだろう…!何故もう少し待てないんだ!)


 一番疑われるのは俺なんだぞ!?

 まずは来年の総番を強化し、その後じっくりで良いじゃ無いか!

 来年は豪牙達も居ない。もっと自由に出来るんだ!


 その不安通り、豪牙達風紀委員が動き始めている。

 狙いは俺だ。


(まさか、俺も使い捨てか……?…いや、そんな事は無いはずだ。兄貴が俺を見捨てるはず無いし、乗禍様も力を貸してくれている。)


 ある程度力を持った奴らは逃げてしまったが、小物でも乗禍様の力で強くなれる。

 コアの欠片を渡して理性を飛ばせば、忠実な兵隊として使えるはずだ。


 横葉とかいう教師をクビにしたのも失敗だ。

 兄貴と因縁が有ったらしいが……。


(下手に風紀委員に付いたら厄介だぞ?教師が口を出してくるなんて横紙破りも良い所だが、アイツは一般市民の出と聞いている。誰にも責任を背負わせられん。)


 しかもこちらが手を回してクビにしたのもバレているはずだ。

 ……最悪だな。


(俺達の強みは戦力を把握されていない所だ。敵の『目』について対策すればバレる事は無い。いくら風紀委員や横葉とかいう教師が強くても、最も問題なのは豪牙と乾だ。速攻で二人を倒せば十分やれるはずだ。)


 何とかやる気を奮い立たせる。

 これに勝てば文句は出ないはずだ。

 無事卒業してウィニングロードを飾ってやる。


(……ただ、一つだけ気になるのが……。)


 兄貴や乗禍様の様子だ。

 二人とも、会う度に様子が変わっている気がする。


(まるで、魔物化……。いや、何を考えている。)


 不吉な考えを振り払い、豪牙達との勝負に備える。

 絶対に勝ってやる…!





 ーーーいぬい嵐山らんざん視点ーーー



「……横葉先生が、諏訪家や滋深家の娘達とダンジョン探索をしている、と?」


「はい。それも22層を潜っているようです。更に驚くべきは…全員安定した戦いを見せているという話です。」


「なるほど。」


 部下の言葉を考える。

 教師が生徒と一緒にダンジョン探索……。有り得ない事じゃ無いが、潜っている場所がおかしい。

 学園の目標階層は20層で、それ以降を潜るのは各自の判断に任せられる。

 教師に手伝いを頼んでも、断られるのが普通だ。


(そこから考えると……先生は諏訪のグループと行動を共にするのか。)


 今回先生を解雇する事になり、校長達は別途治療についての話し合いをするつもりだったらしいが……。


(その話を蹴るとはな…。いや、当たり前か。色々と条件を付けて使われるのは見えているからな。)


 先生程の強さを持った駒ならなるべく手元に置いておきたいはずだ。

 今回解雇になったのも、校長達は強く庇わなかったんじゃ無いかと邪推してしまうくらいだ。


(確か、滋深家の娘は『回復』を持っていると聞いている。そちらを鍛える道を選んだのかも知れんな。)


 アレだけの才が、一体何年の時を無為に過ごす羽目になってしまったのか…。

 本当に惜しいと思う。

 我が家が『回復』を持っていればすぐにでも治してやれるものを…。


(まぁ、そう思っている家は多いだろうな。……我々中立派の問題点だな。横の繋がりが薄すぎて、こういった時に動けん。)


 繋がりが強くても要らぬ疑いを受けるし、難しい所だ。


「それなら、諏訪の娘に連絡を入れといてくれ。近々話がしたいとな。」


「はい。了解しました。」


 部下が返事と共に出て行った。

 これで先生の力が借りれると良いがな。


「…嵐山らんざん。乗禍は動くと思うか?」


 厳無げんむが静かに声をかけてくる。

 豪牙ごうが厳無げんむ。この学園の風紀委員長にして、中立派で最も力の有る家だ。

 我が乾家は二番手だ。少々口惜しいが、このいわおのような男を見ていると納得してしまう。

 我が親友にして好敵手と言った所だ。


「恐らく動くだろうな。少し前から乗禍家はおかし過ぎる。中立派の助っ人も遠ざけているようだしな。」


 ダンジョンマスターには中立派からも人手が貸し出されている。

 表立っての行為では無いので、知っている人は極僅かだがな。

 ダンジョン制覇は大和の目標だから、協力するのは当たり前だ。

 秘密にしているのは、ダンジョンマスターと親しいと思われたくないからだ。

 下手に勘違いしてダンジョンマスターやその周辺が騒がしくなっても困るからな。


「…確かにな。…文献に有る『ユニット強化』も成功したようだし、大和の上層部は期待していたみたいだがな……。」


 代々のダンジョンマスターが情報を独占し過ぎるから駄目なんだ。

 アイツらの文献からは『ユニット強化』なんて消えてるんだろうな……。


「やはり、いずれかのダンジョンを制圧するのが条件か。」


「…ああ。そうらしいな…。」


 伝承を頼りに噂を流したが、成功したみたいだ。

 …そんな回りくどい事をした理由は、下手に情報を伝えると逆に狙われる恐れが有るからだ。滋深家が良い例で、何代にも渡って狙われ続け、今では落ちぶれてしまっている。

 王家を始めとする名家が守っているから直接手を出される事は無いが、当主は忸怩じくじたる思いだろうな…。


 そもそも、大昔は国も今以上に協力し、全ての家が一丸となってダンジョン攻略を進めていたのだ。

 その頃は上級職に至る者も複数居て、大和は今以上に栄えていたらしい。

 それが無くなったのは……。


「やはり、王家が『継承』を得たのは大迷宮の罠だったかと思ってしまうよ。」


「嵐山……。」


「いや、済まない。言うべきじゃ無かったな。」


『継承』スキル。それはその名の通り、スキルを他者に継承出来るスキルだ。

 このスキルは非常に強力で、これのお陰で優秀なスキルを育て、継承する事が可能になった。

 豪牙家や乾家を始めとする中立派は、この継承によって代々の地位を確保している。


 王家は『継承』と言う破格のスキルを得た事で、ダンジョン攻略から手を引くようになった。

 折角の継承スキル持ちがダンジョンで死ぬのを恐れたからだ。

 その後、ダンジョンマスターを輩出した家を中心とする攻略が進められるようになった。

 …今と同じ体制だ。


 それが間違っていると言う事も出来ない。

 例えダンジョンマスターが攻略に失敗しても、大和が受ける損害も小さい。昔よりも遥かに安定した国家経営が出来ているという話だ。

 今回のような騒動が起きるのも珍しいしな。


「ともかく、まずは復鬼完次だ。この男を撃破し、乗禍の動きを見るか。」


「…ああ。」


 その為に、諏訪達との話し合いを無事終わらせるか。

誤字脱字報告ありがとうございます。


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