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ダンジョンマスター(真)

 ……………。


「……。」


 ………どこかから、声が聞こえる。


「良いか?ダンジョンマスターになる上で一番重要な事は、憎しみに囚われない事だ。」


 ……誰かが何かを話している。


「憎しみは人の世界には必要なものだが、ダンジョンマスターには不要なものだ。」


 …何度か聞いた事が有る話だ。


「ダンジョンを制御する前に自らを制御する。これこそがダンジョンマスターの基本にして奥義だ。」


 何故か起きたら細かい内容は忘れてしまっているが、その理念は今も胸に残っている。


「ですが…、アイツらの行いは完全な違法行為ですよ。『ダンジョンに潜る者は無闇に暴力を振るってはいけない。』こんなの初等部の人間だって知ってる事です。」


 思い出すだけで怒りがあふれて来る。

 あんな奴ら…居なくなった方が――

「そこまでだ。それ以上は考えちゃいけないぞ。

 良いか。ダンジョンマスターが強い感情に支配された場合、ダンジョンにも強い影響が出るんだ。我々が聖職者と崇められているのは、全て高潔な精神が有ってこそなんだ。

 確かにあのガキ共の仕出かした行為は重罪だ。本来なら直ちに裁かれるだろう。だが全てに法が及ぶ訳では無い。王が犯罪を犯しても捕まる事は無い。

 ならどうすれば良いかって顔をしてるな。…簡単だ。ダンジョンマスターが裁けば良い。但し、勘違いするな。私欲を持って裁くな。それを間違えれば必ず破滅が訪れる。

 その時はダンジョンマスターが裁かれる番になるだろう。」


 見渡す限りの草原の中、男は左右に動きながら話を続ける。


「私欲に取り憑かれたダンジョンマスターはいずれ魔王に成り果てる。世界では常識の事だが、現在では忘れ去られているようだ。

 それはとても危険な事だ。このままではいずれそうなる者が現れるだろう。

 それを防ぐ為、君が選ばれたんだ。あの場に居た中で、最も素質の有った君がね。」


「……あの場、ですか?」


「そう言えば、君は忘れているんだったな。とは言え、それは大した事じゃ無い。重要なのは憎しみに囚われない事だ。」


「……はい。」


「ユウは何人もの魔王を倒してくれた。そのお陰で長い平和が訪れてくれたけど…その間に色々なモノが失われてしまったんだ…『ダンジョンマスター』の在り方とかね。

 現代のダンジョンマスター達は大変な勘違いをしている。このままではまた魔王達が量産されるだろう。

 だからこそ君が伝えるんだ。私の…『大迷宮』を支配するダンジョンマスターの最後の弟子である君が。」


「…大迷宮……。」


「そう。君達大和の国にあるダンジョンだ。私はここで君を見守っているよ。色々とルールが有って君への手助けは限られているけど、必要な事は全て教えたはずだ。

 大丈夫。君は絶対に乗り切れる。ダンジョンマスターになったらあんな奴らは兵隊にしてコキ使ってやれば良いんだ。ダンジョンの為に働けるんだ。世界の為になるくらいさ。」


 男はニヤッと笑いながらウィンクをしてくる。

 普段ならイラっとしただろうが、妙にさまになっていた。


「……そろそろ時間だね。次会う時は君もダンジョンマスターになっているだろう。君の未来に幸福が訪れる事を祈ってるよ。洲君。」


 男の言葉と共に、草原が遠ざかっていく。

 最後に見えた太陽は、何故だか真っ黒に見えた。


 ーーー


「お!起きたみたいだぞ!」


「……ここは。」


 頭がズキズキする。どこか広い場所に居た気がするが…うまく思い出せない。

 …いや、違う。帰り道であの三人組と会ったんだった。


(クソが…。)


 苛つきはするものの、何故か強い憎しみが湧いて来ない。

 アレだけの事をされたと言うのに…。


(ふん…。あんな奴ら、ダンジョンマスターになったら手下にしてやる。)


 支配して肉壁として利用してやる。

 そうだ。良い考えだ。

 誰かに教わった気もするが、ボッチのオレにそんな友人など居ない。勘違いだろう。


「大丈夫ですか?」


 考え事をしていると眼鏡をかけた男子生徒が声をかけて来た。


(コイツは…同じクラスの…。)


 木万きまだ。

 辺りを見回すと他にも三人居る。


(ここは保健室か。コイツらが運んでくれたのか?)


「ああ。大丈夫だ。」


 まだ混乱しているが、訳も分からず返答する。

 返事してから自分の体をまさぐってみるが、特に痛みは感じない。

 頭痛もしないし、治療してくれたようだ。


(保険の先生と、クラスメイト三人か。ここまで運んでくれるなんて本当に有り難い。)


 木万と鹿藤かとう君島きみしまだ。

 全員上流階級で、成績もクラスで上位だったはず。


「……助けはいるか?」


 君島が声をかけてくる。

 巌のような存在感を放っており、ボディビルダーのような筋肉をした男だ。高校生にはとても見えない。


 恐らくあの三人組の事を言ってるんだろうが……。


「不要だ。」


 コイツらに助けを求めても何かが変わるとは思えん。

 何よりあの不良共を手下にする事が出来なくなる。


「…そうか。」


羊馬ようま!だから言っただろう!…行くぞ!!」

「ふふ…。流石は鉄人と言った所ですか。では、失礼します。」

「…またな。」


 三人が不敵な笑みを浮かべて去って行く。…いや、鹿藤は不敵と言うよりも獰猛な笑みに見えたが…。


(一体何なんだ…。)


 呆気に取られてしまい、礼を言う事も出来なかった。

 明日クラスで声をかけるなんて…難易度高すぎるぞ。


「断真。もう怪我は治療した。帰って良いぞ。」


 三人を見送っていると先生が声をかけてくる。

 保険の…名前は忘れてしまったが、何度か世話になっている先生だ。


「はい。ありがとうございました。」


「怪我の事だが…。お前が学校に被害届を出せば正式に調査が始まる。加害者が居れば最低でも停学にはなるだろう。後は好きにしろ。」


「……はい。」


 ダンジョンに潜っている人間がダンジョン外で不当な暴力を振るうのはそこそこ罪が重かったと思う。

 最低でも一年はダンジョン探索が禁止されるはずだ。そうなれば不良共は留年になるだろう。


(…でも、そう上手く行くとも限らないんだよな。)


 停学にはなるだろうが、その先は未知数だ。絶対に法が守られる世の中では無いんだ。

 大和では士道なる考えが広まっていて、自分の身に降り掛かる危険は自分で解決するのが美徳とされている。

 自ら行動を起こさずに司法や警察に頼るのは弱者の特権となっている。オレは学園生だし、弱者とは見られないかも知れない。

 …最悪は無罪放免も有り得るだろう。


「失礼しました。」


 上着を着て保健室を出る。

 校舎は薄暗かったが、廊下の先の方には明かりのついた教室も見える。

 運動場からも声が聞こえるし、そこまで遅い時間じゃ無いみたいだ。


(今度こそ帰るか。)


 保険医の言葉に少し気持ちがグラついたが、やはり自分で何とかするべきだ。

 明日からはもっとダンジョン支配を進めていかないとな。


 今日は早々に眠る事にした。



「…おはよう。…昨日は、ありがとう。」


「おお!気にするな!」

「今日もダンジョン探索頑張って下さいね。」

「…頑張れ!」


 教室で鹿藤達に昨日の礼を言うと、笑顔で返された。

 何て気持ちの良い奴らなんだと思う。勇気を振り絞って良かった。


「…ああ。」


 だが会話を続ける事も出来ず、自分の席に戻る。

 これは日和ひよったんじゃ無い。オレと会話してたらアイツらにも迷惑がかかるかも知れないからだ。


 不良達も登校して来たが、幸い声をかけられる事は無かった。

 教室では流石に暴力を振るえないだろう。相手にしないようにしないと。



(…良し。無事終わった。すぐにダンジョンへ行こう。)


 結局不良達に絡まれる事は無かった。

 下手に教室で絡んで来て、昨日の事をバラされたらマズいと思ったのかも知れない。

 アイツらの家は上流階級とは言え、警察や学園に影響力が有る程の家柄じゃない。

 案外、奴らもビビってるのかもな…。


 すぐに教室を出てダンジョンへと向かう。

 鹿藤達が手を上げて来たから、頭を下げておく。

 手を上げて返すなんて恥ずかしくて出来なかった。

 奴らの精神は鋼で出来ていると思う。


 昨日と同じように魔力を浸透させ、今日は2層へと魔石の補充に向かう。

 昨日よりも一層浅いが、その分長く潜れるだろう。



(…魔石四つ。昨日の倍だ。今日はこの辺で…いや、まだ体力に余裕は有る。まだ行ける。)


 次不良達に暴力を振るわれた場合、今度こそ再起不能にされる可能性が有る。

 昨日だって鹿藤達に助けて貰えなかったらどうなっていたか分からないんだ。


 今まではある程度余裕を持っていたが、これからはギリギリまでやろう。

 ポーションも買ったし、何とかなるはずだ。

 ウルフを倒しながら決意する。

 2層は一匹でうろついているモンスターも多いし、戦い自体はそこそこ余裕が有る。

 体力の続く限りやってやろう。



 それからもモンスターを狩り続け、流石にそろそろ疲れてきた。

 もう夕食の時間も過ぎてるし、そろそろ戻らないと。


(寮の門限も過ぎてるが、そこら辺は結構緩いんだよな。)


 学園ではかなり自由が認められている。部屋は一人部屋だし、食堂で出される食事を部屋に持って行っても良いのだ。

 何か問題が起こった場合は自己責任だ。

 元々武士を始めとする上流階級では15歳で元服だった事から、今もその慣例が続いているらしい。


 外に出ると完全に夜になっていた。

 外灯が有るから問題無いが、急いで帰らないと。



(何としてでもダンジョンマスターになってやる!)



 その日からは夜遅くまでダンジョンに通いつめた。

 不良達もどうやら担任の横葉先生に注意されたらしく、ここ最近は大人しくしている。

 ツキが回って来たと喜びながらダンジョン通いを続ける。

 休日は一日中籠っているほどだ。

 これも魔力の扱いが上手くなったお陰だ。少し前まではいくら魔石が有ろうと使い切る事は出来なかったからな。



 そうして十日…一ヶ月…二ヶ月が過ぎた頃、ようやく待ち望んだ日がやって来た。

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