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小さな悪の末路

 ーーーとある噂話ーーー


「ねぇ、知ってる?落ちこぼれがついに先輩達の軍門に降ったらしいよ!」


「やっとかーって感じだよね!これで少しは役に立つようになると良いんだけどね。」


「…………。」


「私達あの先輩達と仲良くてさ!今度中等部に連れて来て見せ物にしてやるって言ってたよ!」


「…え?…ソレ、ホント…?」


「うん。なんか黒い粉も渡されてさ!それ以来超調子良いんだ!」


「私も!この分なら10層ボスも楽勝かも!学園の歴史は私達が作る!みたいな!!」


「……。」


「なんで黙ってるのー?感じ悪くなーい?」


「そんなんだと先輩にシメられちゃうよー?」


「…二年の先輩達ならもう居ないよ。…不良の人達でしょ?」


「何ソレー。冗談?超つまんないよー?」


「シメられちゃうって言われて怒っちゃった?冗談だよ。冗談。」


「B組の人達は退学で、A組の人達は最近学校に来てないって。」


「もー冗談は良いってー。いい加減しつこいよー?」


「私達が先輩と仲良いからって悔しがってるの?今度落ちこぼれでも紹介してあげようか?」


「「アハハハハ!!!」」


「…何言っても通じないか。…アレ、先生が二人を呼んでるみたいだよ。」


「何ソレー。超メンドイー。」


「何の用ー?今日は久しぶりにダンジョン潜ろうと思ってたのにー。」


「「最悪ーー!!」」



「行っちゃった…。黒い粉のせいで退学者が続出してるの、知らなかったのかな…。」


「大丈夫?…貴女だけでも気付いてくれて良かったわ。」


「…あの子達が落ちこぼれって呼んでた先輩…凄い人だったって噂なのに…自分の聞きたい事しか聞いてなかったんだろうな…。」


「皆そんなものだよ…。あの子達の事は忘れましょう。」


「…気を使わせちゃってごめんね。そういえば、あの噂知ってる…?」


 少女達はまた新しい噂話をし始める。

 かつて落ちこぼれと呼ばれた、一人の先輩の噂話を…。




 ーーー茨山視点ーーー




「友儀、貴様は茨山家の汚点だ。もはや嫡男でもなんでも無い。一体貴様を釈放するのにいくら金を使ったと思っている。…いや、金だけの問題では無い。多くの貴族家に借りを作ったのだ。その借りを返すのに一体どれだけの時間がかかると思っている。」


 …二ヶ月程離れただけでこの変わり様か。

 父上も、弟達も、親族も家臣達も、全てが俺様を見下している…。

 学園に戻る時はあれ程盛大な見送りをされたというのに、今や見る影も無い。


 クラス襲撃が失敗に終わり、俺様達はすぐに捕らえられたらしい。

 襲撃の少し前から意識が曖昧で、ずっと夢を見ているような感覚だった。

 最後は断真クズに負けたらしいが、よっぽど重傷を負っていたのだろう。


 牢屋に入れられそのまま死刑になる所を、父上によって助けられた。

 別に俺様を救う事だけが目的じゃない。

 嫡男である俺様が重罪を犯したとなれば茨山家にも被害が及ぶからだ。

 同じ理由で宅無や尚打も死刑にはならなかった。千海家は資金が足りなかったようだが、尚打が裁かれると俺様達の事も露見してしまう為、茨山家と崎川家が支援した。

 魔物をトレインして来た奴らは鉱山送りとなったが、俺様達には関係の無い事だ。


「ですが、父上!全てはあの先安という男、そして学園の元締めにハメられたのです!あの石のせいで全てがおかしくなったのです!」


 そうだ。全てはアイツらが悪い。必ずや復讐してやる…!


「黙れ!!儂を父と呼ぶな!貴様のような愚か者を息子に持ったかと思うと嫌気が走るわ!!ハメられた!?利害関係でしか繋がらぬ相手に隙を見せたお主が悪いに決まっておろうが!!元締め!?そ奴らのお陰で貴様は釈放されたのだぞ!?お陰で下らん事に協力させられるわ!」


(ぐ……。確かに、相手に隙を見せた俺様にも非は有るが……。)


「そもそもだ!貴様がその石を持ち帰っておればまだ話は変わったのだ!それがあれば乗禍じょうか家とも取引が出来たかも知れぬのだ!いくら官憲の追及が有ろうと何故死守せんのだ!!」


「父…当主様!あの石が何か知ってるのですか!?あれを持ってから段々と意識が朦朧もうろうとなり、いつの間にか暴れていたのです!あれのせいで!!」


 父上とも呼ばせて貰えぬとはな…。悔しいが、今は雌伏の時だ。何としても返り咲いてやる!

 その為にも情報だ。あの石の事が分かれば…!


「詳しくは知らん!だがその石…恐らくは粉にしたもので学園は今大騒ぎだ!……もしや貴様、そちらには関わっていないだろうな?」


「そこまで落ちぶれてはおりません!無意味な者をしいたげて何の意味が有るのでしょうか!」


 正確には覚えて無いが、正直に言う必要など無い。

 最早俺様は退学の身。あんな学園がどうなろうと関係無いのだ。


「…ふん!それはどうでも良い!石は恐らくダンジョンマスター由来のものだ!そうで無ければ人の魔物化など説明がつかん!乗禍家が求めているのも納得出来る!あそこは現在ダンジョンマスターが一族におるからな!!」


(乗禍家…先代までは小物だった弱小家が!一代限りのダンジョンマスターを得た事で調子に乗りやがって!いずれ絶対に復讐してやる!!)


 それと学園総番の復鬼ふくきだ!

 アイツが俺様達をハメやがった!

 …絶対に許さん!!!


「…愚か者が!!」


「ッガ!!…父上!?何を!!」


 父上の掌底を食らい、部屋の端まで吹き飛ばされる。

 一体何だと言うのだ!


「怒りに飲まれてまた魔物化しておるわ!!……暫く座敷牢に入れておけ!このままでは使い物にならん!魔物化が収まったら存分に働いて貰うからな!貴様には、これから小間使いとして働いてもらうからな!!」


(ックソ!アレ以来、感情が昂ると自らを制御できなくなってしまう…!魔物化しているとか言うが、冗談じゃ無い!俺様は学園のエリート、つまり大和の将来を担う存在なんだぞ!?こんな所で立ち止まってる時間など無いのだ!)


 暫くは父上達の言う事に従っていてやるが、すぐに逃げ出してやる!

 宅無達も同じ状況だろうから、奴らと組んで必ずや成り上がるぞ!




「…おい!もう魔物化は収まっただろう!これから狩りに出かける!貴様も来い!」


「……。」


 言葉と共に男が槍の石突きで小突いてくる。

 以前は俺様に頭を下げていた癖に、調子に乗りやがって…!


「…なんだ!?その目は!貴様のせいで茨山家がどれだけ被害を被ったと思っている!それを埋めるのは民衆であり、俺達家臣なのだぞ!?」


 憎しみの目と共に何度も小突かれる。


「……ッグ!ッガハ!」


 いい加減にしろ…!

 俺様が逆らえないからと小物風情が調子に乗りおって!


「…ッチ!この位で許してやる!すぐに来い!貴様は歩きだからな!!」


「……。」


 返事をせずにいると、俺様を睨みつけて去っていった。

 はらわたが煮えくり返りそうだが、何とか堪える。ここで魔物化する訳にはいかん。狩りで俺様の強さを見せつけてやる!



(あれか…。オークが大量発生してると聞いたが、街の近くにまで現れているのか。)


 ダンジョンの魔物と違って外の魔物は知恵が高く、劣勢になったら逃げ出していく。

 繁殖もするし、間引きをサボっていると大量発生する事もある。


(だが、ダンジョンと違って強い敵は限られる。ただのオークなど何体いようがただの雑魚だ。)


 ダンジョンでは階層によって敵の強さが増すのでオークだろうと侮れないが、外の敵はそんな事は無い。

 オークの強さは上限が決まっており、それ以上に強くなればオークジェネラルなどに進化するからだ。


「貴様が倒して来い!少しでも茨山家に貢献出来る事を示して来い!!」


 兵を率いる男が俺様に命令する。


(コイツもか…!どいつもこいつも手のひらを返しやがって!…見ていやがれよ!!)


 俺様の強さは失われた訳では無いのだ。この阿呆共に俺様の強さを思い出させてやる!


「…ふん!よく見ていろ!!」


 なまくらを手にオークの群れに突っ込む。

 以前まで使っていた愛刀は既に手元に無い。防具も学園の支給品より質の悪い胸当てだけだ。

 ……それでも、この雑魚相手には十分だ!


「俺様の力!見――」

 見せてやる、と叫ぼうとした所で足を滑らせてしまう。

 ちょうど足を着けた位置がぬかるんでおり、踏ん張りが効かなかったのだ。


(っくそ!敵の目の前で足を滑らすなどありえんぞ!?すぐに態勢を立て直すぞ!)


 剣を地面に突き立てつっかえ棒にした所で、甲高い音が地中から鳴り響く。


『ガキィィィン!!』


(地面に石が埋まってるだと!?なまじ俺様の腕力が強いせいで剣が折れやがった!っくそ!!まだ敵と戦う前だぞ!?)


 石に気付かなかったせいで無造作に剣を突き入れてしまった。

 万全の態勢なら石如き叩き割ってくれたものを!


 オークの群れに無手で突っ込む事になったが、まだ何とかなる。

 こいつらの棍棒を奪って全員すり潰してくれる!


「ぶぉぉぉおお!!」


 オーク共が俺様の気迫にビビり、距離を置いて石を投げてくる。

 拳大ほどの石がそれなりの速度で飛んでくるが、全く怖くない。


(狙いも甘いし連携もしていない。こんな程度なら簡単に避けれる。)


 今投げたモノなど山なりの失投だ。

 付き合う必要も無いと右手で打ち払う。


「見ろ。粉々になったぞ!豚共の浅知恵などこんなモノだ!あはは!!あーーーはっはっはっは!!!」


 こんなにおかしいのは初めてだ。

 笑いが止まらん!


「あーっはっはっは!!あーはっはっはハハハ!!イーッヒッヒッヒ!!」


 おかしい。何でこんなにおかしいんだ。

 この豚共の顔を見てるだけで笑ってしまう。


「…笑い茸か!!アハハハ!!粉末にしたのか!ギャハハ!!ッガッハ!ダハハハ!!防御できん!!ガハハハハ!!」


 敵が一斉に襲いかかってくるが、まともに防御できん。

 反撃しようとすれば大きくバランスを崩して転んでしまう。


「アハハハハ!!貴様ら!!ギャハハ!!助けろ!!うはははは!!」


 このままでは殴り殺される!

 早く助けろ!


「……まさか、ここまで愚図に成り下がっているとは。…総員、構え。…突撃!」


 やっとノロマ共が動き出したか…。

 そう思った瞬間、頭に強い衝撃が響き、目の前が暗くなった。



「…貴様は今後幽閉する事となった。戦いでも使えない貴様に価値は無い。殺されないだけでも有り難く思え。」


 そう言って男が去っていく。

 ここは座敷牢。気を失った俺様はまたここに閉じ込められていた。


「待て!あれは何かの間違いだ!!俺様はスキルを三つも持ったエリートだぞ!?あんな雑魚共に苦戦するなどありえん!単なる偶然だ!!おい!戻って来い!!」


 急いで男を追いかけるが、格子によって阻まれる。

 鉄製では無いようだが頑丈で壊せそうに無い。


「俺様を遊ばせておくなど茨山家にとって大きな損失だぞ!すぐに出せ!次は絶対に活躍してやる!!」


 ある程度自由に動けなければ逃げる事も出来ん!

 こんな場所で一生過ごすなど絶対にごめんだぞ!


「おい!!誰かいないのか!!俺様の話を聞け!!」


 俺様はこんな所で終わる人間じゃ無いんだ!

 絶対に何とかしてやる!!

誤字脱字報告ありがとうございます。


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