表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/61

茨山

 ーーー茨山視点ーーー



「A組の奴ら、かなりの失敗をしたらしいですよ。」


 尚打の言葉に頷く。

 思わず笑いそうになるのを何とか堪える。


「何でもかなり貴重な物を失ったとか…何であろうかの?」


「ハハハ。ざまぁ無い。奴らは調子に乗り過ぎたんだ。」


 宅無の言葉につい笑ってしまった。今までちょっと上手くいっていたからと言って大きな顔をしていたが、どうやらここまでのようだ。所詮はその程度の存在だ。

 奴らはA組をまとめ上げてたと言っていたが、この分だとどこまで本当か怪しいもんだな。

 ともかく、これでアイツらは次期総番の座から大きく遠退いた。


「そもそも、A組とB組を競わせようと、戦力を分散させたのが間違いだ。一つに集中させ、俺様の下につくべきだったのだ。」


 現に三年はそうしている。

 三人の圧倒的存在を一つのチームにまとめる為らしいが…本来エリートはエリートと組むべきなのだ。


「友儀さんや宅無さんがB組ってのも気に食わないですよね。A組以外有り得ないのに。」


「全くじゃのう。『あるふぁべっと』に興味は無いが、麻呂達はトップ以外有り得んからのう。」


 二人の言う通りだ。

 俺様達や諏訪達、それと気に食わねえが鹿藤達は学年でもトップクラスだ。

 本来B組なんて有り得ねぇ。


「ま、邪魔者は自滅した。後は俺様達が手柄を立てれば来年の総番は俺様達の物だ。」


 学園の総番ともなれば絶大な権力を握れる。

 ちょっとした貴族家並の権力が目の前に有るんだ。卒業してからの影響力を考えれば、それ以上かもしれねぇ。


(だが…誤算も幾つか有る。)


 二学期に入ってからは絶好調だ。これならすぐにレベルが上がると思っていたが…全くそんな感覚が無い。

 それなのに鹿藤は着々と成長しているのだ。


(俺様の『弱点看破』で弱点が見えにくくなっている。もしや、俺様より強く……いや、そんな訳は無ぇ。俺様の実力は一学期より大幅に上がっている。その内一斉にレベルアップが来るはずだ。)


 俺様の『弱点看破』は敵の弱点を見破るだけでなく、使った感覚で自分と敵の強さを比較する事が出来る。

 自分より強い相手には効きにくくなるので、それを使って判断しているのだ。

 魔物相手よりむしろ人間相手に役立っている。


(『兜割り』と『剛腕』『弱点看破』、この三つで学年を支配してやる。いや、総番になる頃にはもう一つ増やせるかもしれん。)


 笑いが抑えきれん。


「なら…ついにやりますか?」


 尚打の言葉に答えようとして…気配に気付いた。


「……先輩ですか?入って下さい。」


「…おお。よく気付いたな。」


 外で盗み聞きしていやがったな。

 …まあ良い。大した事は言ってない。


「すまんな。お前らは今俺達の中じゃ注目の存在だ。誰にも見られて無いか探っていたんだ。」


(…よく言うぜ。どうせ何か弱みでも探ってたんだろうが。…だが、その位の方がこっちも利用しやすいぜ。)


 どうせお互い利用し合う仲だ。


「それで…先輩は俺様達につくのか?」


 敬語を止めて質問する。

 もし仲間になるなら序列は重要だ。


「……ああ。茨山。お前達なら次期総番も間違い無いだろう。」


「分かった。歓迎するぜ。」


 三年も認めると言う事は、間違いなく俺様が総番に一番近いんだろう。戦力も補強出来たし、最高だ。


「うむ。これで駒も揃って来たでおじゃるな。」

「宜しくな!先輩さん!」


 宅無と尚打の言葉に顔をしかめているが…早く慣れるんだな。


「それで、A組の奴らはどんな失敗をしたんだ?先輩は知ってるか?」


 顔の広い先輩なら情報が入ってるかもしれん。

 同じ失敗をしない為にも出来れば知っておきたい。


「すまんな。詳細は不明だ。だが下手をすれば粛清対象になるとも聞いている。」


「粛清だと!?」


(…どんな失敗をしたらそこまでいくんだ?アイツらもそこそこの家柄だったはず。実力も程々に有るし、間違っても粛清対象にはならんはずだぞ?)


 いくら現総番が圧倒的な強さを持っていたとしても、複数の貴族家を相手にするのは厳しいはずだ。


(…となると、更に上が絡んでいるのか。…アイツらも駒にしようかと思っていたが、下手に関わるのはマズそうだな。)


 A組の奴らに接触する前に聞けて良かった。

 これだけでも先輩を引き入れた価値があるぜ。


「…それと、総番から贈り物だ。…俺がお前らの所に行くのもバレていたようでな。渡してくれと頼まれた。」


 先輩が黒い石を渡して来る。

 薄汚いゴミみたいな石だが、何故か存在感が半端無い。


「これは…?」


「闇系統の宝珠らしい。これを持ってダンジョンに潜れば力を得られると言っていた。」


(宝珠だと…?確かにかなり力を持ってるようだが…。)


 宝珠は何らかの力を込められた物質の事だ。基本的には球体の水晶に精霊や魔法の力が込められた物を言うが、他にも色々有る。

 石なら自然由来の力が込められてそうだが…。


「……余り、良さそうな物じゃ無い気がするな。」


 禍々しいとまでは言わないが、力を与えてくれるような物体にも見えない。


「…闇の宝珠ともなれば良いとは言えないであろう。返した方が良いかも知れぬの。」


「そ、そうですか?自分はなんか惹かれますけど…。」


(宅無と尚打は逆の意見か。…だが、宅無は魔法使いだ。ここは宅無の意見を採用するべきだろうな。)


 断ろうとした所で、先輩が聞き捨てならない事を言って来た。


鹿藤かとう木万きま君島きみしま。…アイツらは今のお前らより強いぞ。」


「…何だと?」

「木万?あの山猿が麻呂より強いなどあり得ないでおじゃるよ?」

「…君島!?本気で言ってんのか!?先輩さんよー!」


 我慢出来ずに反応してしまう。

 何をあり得ない事を…。


「『目』が見た。お前らが次期総番となった時の邪魔者を調べる為にな。」


「『目』だと!?ックソ。そんなのまで出て来てるのか。」


『目』は『鑑定』持ちの事だ。『鑑定』スキルはそれなりにレアで、何よりも使い勝手が良い。

 普通は学園に出て来るなんて無いはずだ。


(…いや、次期総番の敵対候補を探る為なら有り得るか。それだけ総番の存在はデカイ。)


 学園の半分近くを掌握し、卒業生を有力貴族に斡旋しているのだ。

 非合法な手段を使う事も多く、毎年莫大な金が動いている。


「今の総番も風紀委員長達のせいで思うように行動出来ていない。お前らが学年でも圧倒的な存在になれれば、歴代の総番でも頭一つ抜けた存在になるだろう」


「今の…あの化物よりもか…。」


「…ふ。聞かなかった事にしておくぞ。」


 先輩の言葉につい本音が漏れてしまった。

 今の三年のトップは化物揃いだ。それを超えられるとなると…。


「…諏訪すわ黒田くろた福良ふくら。あの三人も鹿藤達と急接近してるらしいな。……鹿藤達の強さに惹かれたんだろうが、このまま見てるだけで良いのか?」


「……なるほどな。そこまで調べてるのか。……その宝珠を寄越せ。貴様の企みに乗ってやろう。」


 俺様達を煽り、鹿藤達を潰させたいのだろう。

 俺様達が今の総番よりも功績を上げればコイツも甘い汁が吸える。

 だとすれば宝珠が多少ヤバイ物であろうと、力を得られる事は本当のはずだ。


「成程のう。木万の山猿を負かし、そろそろ黒田殿の目を覚ましてあげる時間じゃな。」


「福良は誰にも渡さねー!君島の奴!ぶっ倒してやる!」


 宅無と尚打も同じ気持ちのようだ。


「…そうこなくっちゃな。」


 先輩…いや、先安さきやすが微笑んでいる。

 …残念ながら、全てが貴様の思い通りにいく訳じゃ無いぞ。


先安さきやす、ここまで言ったんだ。貴様にも働いて貰うぞ。」


 呼び捨てにされた事でムッとしたようだが、話はこれからだぞ。


「決行は強化合宿だ。それまでに準備をしろ。」


 こうなったら早々に学年のトップを取ってやろうじゃ無いか。

 元々強化合宿に行動を起こすつもりだったのだ。

 闇に乗じて木万か君島を無力化し、その後に鹿藤を屈服させてやろうと思っていたが…。

 この際だ。B組を俺様の支配下に置いてやろう。

 思った以上に大掛かりになりそうだが、総番就任の前祝いだ!



 俺様の笑いにつられ、宅無と尚打も笑い出す。先安は戸惑っているようだが、嫌でも慣れるさ。

誤字脱字報告ありがとうございます。


もし面白ければブックマークや

↓にある☆☆☆☆☆から、作品の評価をお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ