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コア

 二学期が始まって一ヶ月程が経った。

 相変わらず茨山達と行動を共にしており、最近は14層を潜っている。

 流石に14層となると『強化』無しでは厳しく、最近は殆ど魔物を倒せていない。

 いつまでも戦っているオレの所に千海達がやって来て、敵を倒してしまうからだ。

 それ自体は仕方無いと思うが、毎度文句を言ってくるのでムカついている。

 また何か新しい嫌がらせを考えた方が良いのかも知れない。


 今日は三バカとの探索は休みで、ソロでダンジョンに来ている。

 ソロの時は低層で狩りをして魔石を小部屋に運んでいるのだが、今日は別の目的だ。


(11層か…。今のオレには危険だと言うのに、何故ソロで潜っているんだろう…。)


 誰かから依頼を受けた気がするんだが、そんな事をする人物に心当たりが無い。

 迷宮関連の依頼なら冒険者ギルドに頼むのが普通だ。


(! リーフエレメント! …こちらはマズいな。)


 リーフエレメント、葉精霊と呼ばれるモンスターで、森林の難敵だ。

 その名の通り、精霊達が葉っぱに宿った魔物で、一匹一匹は大して強くない。

 ただその数が膨大で、多い時には数百体現れる事も有るらしい。

 11層では数十体程度だが、それでもオレには厳しいだろう。


(……何とか撒けたな。)


 もう11層をうろついてそれなりに時間が経つ。

 いつまでもこうしてる訳には……。


(ん…?今、声が…。)


 何か音…恐らく声が聞こえた。

 引き寄せられるようにそちらへ移動する。


『警告。……による攻撃を……。…ダンジョンマスターは……して下さい。』


(ダンジョンマスター?!……行ってみるか。)


 ダンジョンマスターという単語が聞こえた。これはかなり大事の予感がする。



『警告。不正なコアによる攻撃を受けています。正規のダンジョンマスターはすぐに対処して下さい。』


(……この辺りが声の中心か。…さっき見えた学園生、この声に気付かなかったのか?)


 声が聞こえ始めてから結構歩いてきた。

 途中見かけた人間なら聞こえていてもおかしくない距離だ。


(警告……。それに不正な攻撃…。もしかして、ダンジョンが警告を発しているのか?!)


 古代の記憶によればダンジョンにも意志が有る。意志といっても言葉を話したりする訳では無く、防衛本能のようなものだ。

 ダンジョンに罠や魔物が配置されているのもその本能から来ている。

 ダンジョンマスターによって制御されたダンジョンも同様で、ダンジョンマスターはダンジョンを守る為に人間と対立する事も有るらしい。


『警告。不正なコアによる攻撃を受けています。正規のダンジョンマスターはすぐに対処して下さい。』


 繰り返し警告音が鳴り響く。

 頭に直接響いて来るような音だ。


コア……どこだ?)


 見渡しても全く分からない。

 膝まである草と、所々に木や石が転がっているだけだ。


(魔力を感知すれば分かるか?)


 不正な攻撃というからには、オレが1層でやっていたのと似た感じだろう。

 それならこれで分かるはずだ。


(アレか…!何だアレ…。凄い魔力が溢れてるぞ!?)


 黒い石のような物体から迷宮に向かって魔力が流れている。

 注がれているというより、侵食しているような感じだ。


コアか…。古代の記憶にあったダンジョンコアと似たものなんだろう。擬似コアなんかも有ると言うし、それかも知れない。)


 擬似コアはその名の通り、偽物のダンジョンコアだ。

 主にダンジョンコアが破壊された時の保険用として作られるもので、擬似コアからダンジョンの操作も可能となっている。

 ダンジョン側の防衛機構の一つなのだが、それが冒険者達の手に渡った場合は逆に利用される事になる。

 擬似コアでは出来る事が限られるが、それでも仮初のダンジョンマスターとなる事も可能かも知れない。


(だが…擬似コアは古代でも貴重な品だったはず。現代だともっと価値は上がっているだろう。それをこんな無造作に置いておくのか?)


 周囲を窺っても誰もいない。


(やはり誰も居ない。…となると、擬似コアに何か有るのか?)


 今度は擬似コアを注意深く観察すると、ここに置かれている理由が少し分かった。


(周囲を見境なく侵食しようとしているのか…。道理で放置する訳だ。…これを長い間持ってるのは危険だな。)


 ある程度まで近づくとオレにも侵食しようとしてきた。

 しかも離れても追いかけて来るようだ。


(魔力操作で何とか……防げるな。)


 どうやら何とか防げそうだ。

 そうと決まればすぐ回収する。


(これは…お宝を見つけたかも知れないぞ。)


 オレに扱えるかは不明だが、少なくとも魔力の塊で有る事は間違い無い。

 1層の小部屋に持っていけばもっと詳しく調べられるはずだ。

 小部屋が侵食される恐れも有るが、危険そうならまた別の場所へ移せば良いだけだ。


(そうと決まればすぐ行動だ。一直線で出口に戻れば大した時間はかからない。誰かが来る前にやってしまおう。)


 もう一度周囲に誰も居ない事を確認し、素早くコアを回収する。無事警告音も止まってくれたようだ。

 そのまま出口へと向かうが、魔物と遭遇する事なくスムーズに移動出来た。


(魔物がオレを避けていたようだったな…コア周辺にも居なかったし、魔物避けの効果も有るのかもな。)


 今のオレにとっては都合が良い。

 そのまま1層に移動し、小部屋に移動すると……見渡す限りの草原が広がっていた。



「……ここ、は。」


 急速に記憶が蘇る。

 そうだ。ここは、オレに全てを教えてくれた師匠のいる空間だ…。


「やぁ。洲君。ミッション成功おめでとう。そして、私達の依頼をこなしてくれてありがとう。」


 草原の中央で師匠が椅子に座っている。

 珍しく立っていないようだ。師匠の前にあるテーブルには紅茶も置いてある。


(そうだ。夢で師匠に依頼を受けたんだ。11層に危険物が有るから除去してくれって…。)


 今朝…夢の事も鮮明に思い出せる。


「今回は特別に君の小部屋と空間を繋げたよ。白昼夢のようなものだと思って欲しい。」


「白昼夢…また、忘れてしまうのですか?」


「君は正規の『ダンジョンマスター』では無いからね。本来君を手助けするのは色々マズいんだ。だから夢という形を取っている。私も残念だが、これも仕方無い事なんだよ。」


 いつも師匠との会話は古代の記憶を見たという形に置き換わっている。

 出来ればちゃんと覚えていたいんだが、やはり無理なのか…。


「その擬似コアはかなり歪なものだね…。恐らく小さなダンジョンを強制的に支配して生み出されたものだろう。不安定で、それ故に周囲を無制限に取り込もうとしている。」


 擬似コアを見てみると、さっきまでとは違い周囲への侵食を止めている。

 もしかしたらこの空間が影響してるんだろうか…。


「本当に助かったよ。あのままだとちょっと面倒な事になっていたかも知れない。…私は上に上がる事が出来ないし、下手なモンスターを送っても擬似コアに吸収されてしまう。となると強力なモンスターを送るしか無いんだが…。

 先日君に強力なモンスターを当てた影響で、大した事は出来ないんだ。深層からモンスターを移動させるにしても色々と制限が有ってね。それより君に頼んだ方が良いと思ったんだ。」


「強力なモンスター…『黒牛』の事ですか。…アレは死ぬかと思いましたよ。」


 試練サプライズと言われたが、やり過ぎじゃ無いだろうか…。


「アレはねぇ…。すまないね。前に言った通り、君の手助けをしているのが『ダンジョン』にバレてしまったんだ。『ダンジョンマスター』クラスじゃ無い者を助けるなんてダンジョンからすれば裏切り者も良い所だからね…。」


「…ダンジョンに、ですか?」


「ああ。知っての通り、ダンジョンマスターはダンジョンと人間両方の味方だ。だから人間側を理由無く助ける事は『ダンジョン』に対して背信行為となるのさ。前回私がそれを破ったせいで『ダンジョン』が怒ってしまってね。

 洲君は後継者だと言ったら、それなら試練を与えるって話になってしまったのさ。…乗り越えてくれてありがとうね。」


「分かりました。そういう事なら納得です。」


 ダンジョンマスターになる事自体が本来は無茶な話だ。

 厳しい試練も乗り越えて行くしか無いだろう。


「本来は『ダンジョンマスター』クラスの者を後継者として鍛えるんだ。…でも、今の大和のダンジョンマスター達は皆欲深くてねぇ。とてもじゃ無いが後継者としては認められ無いんだ。ユウ達の時代はまだマシだったのに、人の考えは移ろい易いものだねぇ…。」


 師匠はずっと昔から存在していて、大和の建国にも協力しているらしい。

 不意に初代勇者王様達の話が出てくるから心臓に悪い。


「この擬似コアはどうします?」


「それについては君の小部屋に暫く置いといてくれ。大人しくさせたから、『偽装』をかければ誰かにバレる事はないよ。そうしたらその擬似コアは正式に君の物になる。」


「擬似コアが…オレの物に?」


 信じられない話だ。

 勿論そうするつもりでここまで持って来たが、うまくいくとも思っていなかった。

 最悪魔力だけでも奪えればと思っていたが……。


「それから、君の物となった後は11層にでも設置すると良い。今回の褒美として、11層の一部を君に管理させる事に決まった。これは『ダンジョン』も承認済みの事だ。」


「11層…の、一部を…オレに……?」


 驚きの連続だ…。

 とんでもない話になっている。これは本当の白昼夢なんじゃ無いだろうか……。


「擬似コアが君の物となったらやる事は自然と分かるはずだ。……ただ、気を付けるように。コアを持ってダンジョンの一部を支配すると言う事は、その地を守らないといけないと言う事だ。」


「それは……はい。」


 そうだ。ずっと浮かれている訳にもいかない。

 守る…この場合はコアを壊されなければ良いのか?

 オレは学園も有るし、大丈夫なんだろうか…。


「そこまで不安に思う事は無いよ。君は私達ダンジョン側と協力関係に有る。立地の良い場所をあげるし、『偽装』を使えばバレる事も無いだろう。今まで通りの生活を送れるはずだ。

 …ただ、擬似コアを使う時は気をつけるんだ。コアの使用時は無防備になるし、冒険者達からは魔物として見られる。君の『偽装』を使ったとしても、どこまで誤魔化せるかは不明だ。」


「魔物……。」


「ああ。あくまでコアの使用中だけだけど、ダンジョンにいる敵として認識される。その姿を見られたら、使用を止めたとしても魔物が偽装してると思われるぞ。」


(学園生に見られたらヤバい事になるな。退学どころか、家にも帰れないぞ…。)


 冷や汗が流れる。

 絶対に隠し通さなければ。


「君の眷属や配下は対象外だから、ある程度配下を増やしておくと良い。この擬似コアを使って眷属を作る事も出来るけど…人間を眷属にする時は少しだけ注意するんだよ。ダンジョンマスターの眷属は自由意志も有るし、配下の延長線上の存在なんだ。…でも、周りから見ればそんなの分からないからね。」


(眷属か…確かに眷属と聞くと真っ先に思い浮かぶのがモンスターの吸血鬼ヴァンパイアだ。良いイメージは無いし、注意しよう。)


 配下や眷属からは魔物と見られないのなら、当分は配下を増やしていこう。

 滋深達の時と違ってオレの身の安全の為にやる。

 その事に罪悪感を覚えるが…これがベストなはずだ。

 せめて滋深達と同じように相手にとってメリットが有るようにしよう。


「……そこまで気にする事も無いと思うけどね。…ま、行き過ぎた行為が有ればまた声をかけるよ。」


 考え込んでいるオレを見て師匠が声をかけてくれた。

 師匠も見てくれるなら安心だ。



「…今日はこの辺で終了かな。その擬似コアを設置した人物は小物だったが、そのコア自体は最近作られた物みたいだ。恐らく大和のダンジョンマスターが小規模のダンジョンを支配したんじゃ無いかな。他にも作られていると思うから、洲君も気を付けるようにね。」


 最後にとんでもない台詞を残して師匠は消えて行った。


(大和のダンジョンマスターが関わってるって…。オレには手に負えないぞ…。)


 半ば呆然としながら、いつもの小部屋やと風景が変わって行くのを見つめる。


(草原が…消えていく……。オレの記憶も……。)



 今日も新たな記憶を見る事が出来た。

 擬似コアも何とかなりそうだし、明日からが楽しみだ。


 何故か虚空に向かってお辞儀をしながら、そう考えた。

誤字脱字報告ありがとうございます。


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