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新学期

 ーーーとある噂話ーーー


「ねぇ、知ってる?10層が封鎖されてるんだって!」


「知ってるよ!当たり前じゃん!」


「私、先輩と一緒に『森林』まで行っちゃったー。中等部なのに凄くない!?」


「私も!やっぱ森林は凄かったね!空気が違ったよ!」


「私なんて10層のボス部屋見たよ!」


「え!?本当!?今は封鎖されてて見えないんだよねー。」


「先輩の話だと凄かったって言ってたけど、どうだったの?」


「もーー。凄かった!」


「いやいや、他には?もっと色々有るじゃん。」


「床とか天井に穴が空いてたり、幾つも剣で斬ったような後が残ってるの!…しかも、殆ど一箇所にだよ!!」


「ん……?どういう事?一箇所だと何が凄いの?」


「ふっふ…。一箇所という事は…一歩も退かずにモンスターと渡り合ったって事だよ!!あの激戦の中!もう見ただけで鳥肌立っちゃったよ!!!」


「あの激戦って…アンタ見てないでしょ…。」


「見てないけど、感じたのよ!もう、絶対、最高の勇者様が現れたんだよ!!」


「勇者様かー…。誰も名乗り出てないらしいし、有り得るかもね。新しい異世界人が来たなら最高なんだけどなー。」


「………もしかして…、あの落ちこぼれが関わってたりして…?11層で見たんだよね…。」


「「「アハハハハ!!!」」」


「有り得ないよー。」


「ホント!ギャグにしても最低だよ!勇者様とあんなクズを一緒にしないでよね!!」


「アレ…風紀委員に助けられたんだって。先輩が言ってた。」


「何ソレー。自分の実力も分かんないのー?」


「「最悪ーー!!」」




 ーーー断真視点ーーー




「今日から二学期だ。休みボケは早めに治しとけよ。強化合宿も有るし、そん時にボケてたら痛い目にあうからな。」


 二学期が始まり、横葉先生が注意事項を話している。

 強化合宿は毎年やってる行事で、ダンジョンに数日間泊まって集中的に鍛える。

 クラス単位で行われていて、ウチのクラスは二番目にやる予定だ。

 名前の通り生徒の強化を目標にしているのだが、『一定の強さ以上の』生徒という注意書きが入る。

 潜る場所が指定されていてその階層で戦う事になるので、弱すぎると何も出来ないのだ。

 去年は一回だけ戦った後はずっと見学していた。



(横葉先生の話は短いから良いよな。)


 朝のHRはすぐ終わり、教室が騒がしくなる。

 オレはいつものようにボッチだ。

 滋深や影山から良かったら休み時間は一緒に過ごさないかと言われてたが、取り敢えず断っておいた。


(どうせまたあのバカ共が突っかかってくる。皆に迷惑はかけられない。………アレ?来ないな。)


 嬉しい事なのだが、肩透かしを食らった気分だ。

 いつもなら…。


「おい。お前赤点取ったんじゃ無いのか?何で学園ここに来てんだ?」

(そうそう……アレ?)


 茨山の声がしたが…場所は影山の席だ。

 何か話してるようだが…教室が騒がしくなって来たせいで、よく分からない。


(…行くか?…いや、まだ大丈夫そうか。)


 影山のチームメイトも近くで見ているし、下手に行かない方が良さそうだ。


「何だと!?合格しただと!?」


 補修課題の事を聞いてるようだが…。


(何故影山に…?)


 いつもならオレの所に来そう何だが…。

 影山のチームメイトが行ったようだ。かなりビクビクしているみたいだが…良い友人だな。


(……結局来るのかよ。)


「おい!どうなってやがる!クズと影山で課題をクリア出来る訳無いだろうが!どんな汚い手を使ったんだ!?」

「あの下賤な女に身を差し出したでおじゃるか?……あぁ、嫌だ嫌だ。これだから下民は救えないでおじゃる。」


「…さっさと返事をしろ!!」


 三バカが机を囲んでくる。

 今となっては怖くも無い…という事も無い。

 今は強化が使えないし、また雑魚に戻っているからだ。


(下賤な女って…横葉先生の事か?崎川コイツ…怖いもの知らずだな…。)


 オレの周りで一般市民の女性なんて、横葉先生くらいしか思い浮かばない。

 聞かれたらタダじゃ済まないぞ。


「おい!さっきから何を無視してやがる!!」


「…………尚打。止めろ。」


「え!?あ…、はい…。」


 千海がまた肩を掴んで来た所で茨山が止めた。

 不審に思い、つい茨山を見てしまう。


「…断真。選ばせてやる。オレ達の下に付くか、叩き潰されるかだ。…そろそろオレ達も遊んでる暇は無くなって来たんでな。」

「……ふむ。友儀がそう言うなら、麻呂も認めるでおじゃるよ。」

「そんな!?……ッチ!断真!お二方にこうまで言わせたんだ!答えは決まってるよな!?」


 いつの間にか教室は静まりかえり、オレ達以外は皆黙っている。

 そんな中、茨山、崎川、千海がいつも以上の迫力で迫ってきた。

『黒牛』と比べればチャチなものだが……。



「……………分かった。」



「ええ!?」

「断真!?血迷ったか!?」

「はにゃ?」

「……断真君。」


 オレの返事の後に何人かが騒ぎ出す。

 影山、林、福良、そして滋深の声は聞こえたが、他は分からなかった。


「有り難く思えよ!?本来ならお前のようなクズが入れる場所じゃねーんだからな!」


 千海が威嚇するように声をかけてくるが…近すぎる。


「待ってくれ。…お前達の言葉も聞かせてくれ。オレ達は…チームを組むんだな?」


 改めて確認する。

 非常に重要な事だ。


「ああ。当分はこき使ってやるぜ。」

「うむ。麻呂達とチームを組めるなんて光栄な事じゃぞ。末代までの誉れと考えよ。」

「……っけ。仕方ねー。使えなかったらすぐに追い出してやるからな!」


 三人が不敵に笑う。……自分が今どんな状況かも知らずに。


(これで、コイツらを手下に出来た。手下と言っても同じチームだ。オレは何も嘘をついてない。)


 滋深達の時と同じ手順だ。

 魔石は粉状にして三人の足元に撒いてある。勿論『偽装』済みだ。


(だが…こんなに早くやる事になるとはな…。せめて『強化』が戻ってからにしたかった。)


 どうしてかは知らないが、いつも以上に鬼気迫るものがあった。

 何故かオレを手下にしようとして来たし…。そのお陰で面倒な手順を省略出来たが、これが吉と出るか凶と出るか…。


(手下と言ってもまだまだ擬似的なモノだ…。これから忙しくなりそうだ。)


 滋深達は軽く能力値を強化するだけだったのでこれで十分だった。

 この三人は完全に手下にする必要が有る。その分時間が必要だろう。



 放課後、1層のいつもの小部屋へと三人を案内した。

 どこか内密に話を出来る場所へ連れていけ、と言われたので案内したのだ。

 オレが四年通った鍛錬場だと言うと、三バカも興味が湧いたようだ。


 滋深や影山を始め、何人かにメールを貰ったが、「考えが有る。」と言っておいた。

 …クラスメイトとメールするなんて、感慨深いものだ。


「ここが…?何も無い場所だな…。テメェの剣の腕は多少マシだが、こんな場所で訓練してたのか…。」

「…やはり、下民に尋ねるのが間違いだったでおじゃるな。椅子の一つくらい用意しておくのが礼儀であろうに…。」

「ッハ!所詮は下民だな!薄汚い場所だぜ!!」


「金も何も無いんでな。…で、何の話なんだ?」


 いつものようにぶっきらぼうに答える。

 いきなり下手に出ても怪しまれるし、この位で十分だろう。千海は睨んで来ているが、無視だ。


「…まぁ良いか。…テメェの力だ。休み前に尚打の握撃あくげきに耐えただろう。…アレはどう言う絡繰からくりだ?」


(…そういえば、そんな事も有ったな。何とか怪しまれずに済んだかと思ったが、そう上手くいかなかったか。)


 ここで誤魔化しても良いが、そうするとオレの身が危なくなる。

 ここは少しだけでも話すしか無いだろう。


(『強化』が『進化』したと言うのはマズいが、使い方が分かったと言う言い回しならセーフだ。その上で『強化』の性能がバレなければ良い。)


 この辺りの事は滋深に教わった。

『進化』にも段階があり、少し強くなる位なら良くある事らしい。



「……と、言う訳で、『強化』の使い方が分かって来たんだ。そのお陰で千海の握力にも耐えれた。」


「あの時は本気じゃねー!!」

「尚打。今は止めろ。…『進化』の前段階かもしれねーな。10層ボスはソレで倒したのか?」


「ああ。」


 茨山の質問に短く答える。無駄な事を喋る気は無い。


「10層ボスを倒したとなると、『進化』も近そうだな…。もし他者に使えるようになれば、化ける可能性が有る。…おい、使ってみろ。」


「…悪いな。今は使えないんだ。ボス戦後に修練し過ぎてな…。先生にはスキルの過剰使用と言われている。」


 この事を伝えるかは迷ったが、他に説明が思いつかなかった。

 わざわざ仲間に誘うと言うからには早々に襲われる事も無いし、そこは問題無いはずだ。


 ボス部屋の惨状とオレとも結びつける事は無いだろう。

 こいつらはオレを弱者と侮っているし、先生達と違って迷宮関係の情報を調べるのは難しいからだ。


「ッチ!!鉄人バカだったな!テメェは!」


 そう言って茨山が考え始める。

 麻呂…崎川と千海も大人しくしているようだ。


(良し。この隙に仕上げをしよう。)


 この三バカにはより強い支配が必要になる。

 それをする為にこの小部屋に案内したのだ。


(ここはオレの城。ノコノコと着いて来たお前らを歓迎してやるぜ!)


 滋深達とは逆…能力値を下げるバッドステータスを付ける。

 魔石を介したパスが繋がっている上にここはダンジョンマスターの本拠地だ。仮免とはいえ、外より出来る事は多い。


(とりあえず、バッドステータスを可能な範囲で付けて…お、『不運』なんて付けれるのか。これも付けて。……おおお!!経験値分配のルール!?…この三人の分の経験値を、可能な限りオレに…と。)


 とても良いものが有った。この三人とチームを組んでいる間、倒した敵の経験値はオレの物となるのだ。

 恐らく荷物持ちとしてこき使われるのだろうが…精一杯働いてやろう!


「…仕方ねぇ。取り敢えず今の手駒は断真コイツだけだ。暫くはこき使ってやろう。」

「荷物持ちでおじゃるな。下民には相応しい仕事じゃの。」

「精々役に立てよ!」


(何も知らずに良い気なもんだ。…しかし、『暫く』?教室でもそうだったが…何か焦っているのか?)


 思惑通りに進んでいるものの、何故か嫌な予感を拭い去る事が出来なかった。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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