密会
結局先生も一緒に食事をした。
林も一緒だし、問題無いだろう。
(二人は助けに来てくれたしな。)
奢る位当たり前だ。
森林亭のフリーパスの事もオレ達で出すと言っておいた。
林は最初拒否していたが、滋深のお陰で何とか説得する事が出来た。
課題についても合格とすると言われた。
イレギュラーは有ったがボスを倒したんでOKだそうだ。ボス戦で滋深が攻撃した事も問題無かった。
「この武器はどうするの?売る方法はいくつか有るけど…。」
「売るにしてもオークションは止めておけ。これだけの品だ。色々詮索されるぞ。」
今は食後のティータイムだ。
オレからすると食べたらすぐ店を出るのが普通なのだが、どうやら女性達は違うみたいだ。
滋深と先生が話しているが、内容は物騒な武器の話だ。
(オークションは駄目か。ちょっと見てみたかったんだけどな。)
後は店や商人に売る位しか思い当たらない。
こちらは盗品か確認される位で売れるはずだ。
「オークションに出さないなら…アタイが買っても良いか?柄の部分だけなんだが…。」
林が声をかけてくる。
柄の部分なら棍として使う事が出来るか…。
「林なら喜んで売るよ。…なぁ?」
「僕も林さんなら何も文句は無いよ。」
「うん。蘭ならちょうど良さそうだね。…刃の部分だけど、買ってくれそうな人に心当たり有るから、聞いてみても良い?」
皆賛成のようだ。
滋深は刃の方も当てが有るようで、電話をかけている。
…ここは電話も使えるようだ。
「アタイは母さんに聞いてくるよ。…流石にアタイだけのお金じゃ厳しそうだからな。」
そう言って林が席を立った。
…滋深は福良に電話してるみたいだし、両方ともクラスメイトが使う事になりそうだ。
「ウチのクラスが強くなるのは良い事だ。このレベルの武器なら欲しがるヤツは多いし、そう言うのは大体仲間内で売買されるからな。」
(仲間…良い響きだ。)
ずっと一人だったから、つい感慨深くなってしまう。
「せつも多分買うって。実物を見てからになるけど…それまで待って貰っても良いかな?」
「ああ「うん!勿論だよ!福良さんに扱って貰えるなんて…何て幸運なんだ!」」
…影山も歓迎してるし、問題無いな。
「アタイの方も了解貰った。……制服着て店番やらされる事になったが…背に腹は変えられねぇ…!」
「え!?ホント!?絶対見に来るね!!」
林もOKを貰ったようだが…後半はよく聞こえなかったな。
滋深が喜んでいるし、変な話では無いんだろう。
「ふぅ…。ようやく落ち着いたな…。」
「そうだね。…先生、凄い食べてたけど…大丈夫だった?」
「な……何とかな。」
皆での打ち上げ?も終了し、今は滋深と二人で森林亭のテラス席に移っている。
影山と先生は帰宅し、滋深は林の家に泊まるらしい。
今日はオレも帰ろうかと思ったが、改めて滋深に誘われてここに居る。
林も気を利かせて退席しているし、色々話が出来そうだ。
「……良かったら、聞かせてくれる?」
「ああ…。」
さて…話すしか無いか…。
とは言っても三つ目のスキルが取れた事に留めておくべきだろう。
『ダンジョンマスター』の事は荒唐無稽すぎる。
オレのクラスは『支援』のままだし、証明しようにも1層の小部屋はまだ魔力が貯まって無いので大した事は出来ない。
(別に疑われると思っては無い。…むしろ信じられた方が危険だからな。)
ダンジョンマスターは国の宝だ。
しかもオレは『クラス』に影響されずにその力を行使しているのだ。
もしバレたらとんでもない騒ぎになる。
滋深が無闇に話すとは思えないが…それでも滋深は貴族だ。
しかも古い名家で、大和への忠誠は相当なもののはずだ。
もし滋深が黙っていればそれは国への背信になりかねないし、喋ればオレの破滅に繋がる。
…その事を考えると、滋深には黙っておいた方が良いはずだ。
「…うん。まずは私から話すね。私は今日の探索で無事三つ目のスキルを取得したよ。獲得したのは『勾玉』。基本的に直接攻撃するスキルだけど、『式神』を強化するのにも使える感じ。」
オレが考えていると滋深から話し出した。
その内容は驚きのもので、三つ目のスキルを取った報告だった。
三つ目のスキルは優秀な生徒の証だ。2年生で取れたとなるとかなり凄いだろう。
「それは…おめでとう!オレは……オレも三つ目のスキルを持ってる。『魔弾』だ。戦闘中に何度も使ってたやつだ。」
「うん。黒牛の魔法を何度も吹き飛ばしていたスキルだよね。…おめでとう、と言って良いのかな?」
「……どうだろうな。明らかに異常だからな。出来る限り秘密にするつもりだ。」
通常三つ目のスキルを取った事は喜ばれる事だが、オレの場合は異常過ぎる。
「そうだね…。断真君は強化のスキルも『進化』してる…。絶対秘密にした方が良いよ。私も絶対内緒にするね。」
滋深がこう言ってくれるなら安心だ。
嘘を吐くような人間じゃ無いからな。
「ありがとう。」
「……質問ばかりでごめんね?…魔石の方は?アレは…魔石から魔力を吸収してたの…?」
「…ああ。その通りだ。マナポーションを買う余裕が無かったから代用していたんだ。」
この行為も結構異常な事だ。
魔石から魔力を得る事は魔力の扱いに長けていないと不可能だ。
現在の大和では魔力を扱える者は殆ど居なく、スキル使用時に使うだけのはず。
だが魔力の扱いに長けているとしても、それで何が出来るかまでは分からないだろう。
見せびらかす必要は無いが、こちらはバレてもそこまで問題は起こらないと思う。
「マナポーション代わり……。魔石から直接魔力を吸収するのって相当難しいって聞いた気がするんだけど…。」
大和の民は魔道具作りは得意なんだが…直接魔力を制御をするとなるとやはり別物らしい。
「貧乏だったからな。…最初は苦労したが、今は何とか慣れてきた。」
「そ、そっか……。魔力の扱いって、失われた技術の一つなんだけどね……。」
滋深が頭を抱えてしまった。
失われた技術では有るが、現代でもそこまで研究されてる分野じゃ無かったはずだ。
もっと盛んに研究されていれば、また違った結果になったと思う。
「そろそろ夏休みも終わりだな。…あっという間だったな。」
これほどダンジョンに入り浸りだったのも初めてだ。
普段は学園が有るし、長期休暇は実家に帰っているからな。
「断真君は二学期からどうするの?……良かったら、私達のチームに来る?」
「いや…滋深の所は確か人数が厳しいんじゃ無いか?」
ダンジョンは層によってチームの人数制限が決まっている。
大人数で潜る事が不可能な訳では無いのだが、一定の人数を超えると異様に強い敵が現れるのだ。
人数が少ないと逆に敵の数が減ったりするので、少人数で潜る人間も多い。
(確か今滋深達が潜ってる階層は…推奨が3〜6人だったか?)
滋深は林ともう一人の女子と3人チームを組んでいる。
福良達ともよく合同でチームを組んでいるし、オレの入る場所は無いだろう。
(とは言え…早速誘って貰ったのに、ただ断るのもな…。)
「当分はソロで潜るつもりだ。…でも何度かお邪魔させてくれないか?チーム戦の勉強にもなるし。」
今回は二人に迷惑をかけた。もっとチームプレイに慣れていかないとな。
「もちろん歓迎だけど…。あんまりムチャはしないでね?」
「ああ。勿論だ。」
自信満々に返したが、何故か微妙な顔をされた。
…失敬な。これでも四年間生き延びて来たんだぞ…。
その後も少し話して、今日の所は別れる事になった。
店の目の前とは言え、もう遅い時間だ。女子をこれ以上引き留めるのはマズいだろう。
夏休みの宿題を一緒にやる事になったし、休みの間は顔を合わせる事になりそうだ。
「またな。」
「うん。お休み。」
知らずに微笑みながら別れの挨拶を交わす。
滋深も笑顔だったし、同じ気持ちなのかも知れないな…。
誤字脱字報告ありがとうございます。
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