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ミノタウロス

 扉を開いた状態で固まってしまう。

 他の二人も同じ状態で、影山は顔を青くしている。


「二人とも、あの敵が分かるか?」


「ミノタウロスの亜種って位しか…!でもかなりヤバイよ!!こんなプレッシャー、森林でも感じた事無い!!!」


「うそ…黒化…?こんなの……。」


 滋深が知ってそうだな…。


「滋深!教えてくれ!」


「……闇の神の眷属よ!強力な闇魔法と不滅の肉体を持ってる!!……初代勇者王達も追い払う事しか出来なかった強敵なの!こんなの、逃げるしか無いよ!!」


 滋深も声を大きくする。…大声を出さないと敵のプレッシャーに負けてしまいそうなんだろう。よく分かる。


(ボス部屋の扉を開いてしまったので、このまま逃げる事は出来ない。逃げればペナルティとしてダンジョン深層に落とされるだろう…。だが…帰還石なら…。)


「影山!ボス部屋に入った後に帰還石は使えるんだったな!?。」


 念の為に確認する。


「うん!……でも、ボス戦で帰還石を使用した場合、ペナルティが有ると聞いた事がある!夏休み中に再度ボス戦に挑むのは不可能かも知れない!」


 確か10日間の再挑戦不可と、ダンジョン内でのバッドステータス付与も有ったはずだ。

 だが命には代えられないだろう。


「なら、一先ずは中に入って様子を見る!!滋深!絶対無理はするな!危なくなったらすぐに逃げろ!!」


「で、でも…。」


「これはリーダーとしての命令だ!」


「う…。は、はい…。」


 卑怯だが仕方無い。

 ここをハッキリしておかないと何も出来ん。


「影山!お前の事はお前の判断に任せる!だが帰還石を使うなら事前に教えてくれ!!」


 悪いな、影山。ここで命令出来ない時点で、オレはこのチームのリーダーは失格だと思う。

 だが命をかけろなんて言う事が出来ない。

 命が有れば次の機会が有るかも知れないんだ。


「分かった!でも断真君は!?」


「オレは最後まで残る!殿しんがりが必要だ!…大丈夫!オレには強化が有る!!その後すぐ逃げるさ!行くぞ!!」


 帰還石は使用に少し時間がかかり、使っている間は無防備になる。

 そして、その時間を稼げるのはオレだけだろう。

 最後の一人になったら逃げるのは不可能になるだろうが…問題は無い。


(元々逃げるつもりなど無かったんだ。ここで逃げたら、ダンジョンマスターとしての道が閉ざされる気がする…!。)


 理由は不明だが、試されている気がする。

 精々応えてやるとしようじゃないか!


 オレが歩き出すと二人もゆっくりとついてくる。

 …全員が入った所で扉が閉まった。


「滋深!試験は気にするな!攻撃出来そうならしてくれ!」


 滋深に声をかけてミノタウロスへと突進する。

『隠密』をかけて貰う事は不可能だ。オレ以外でコイツを止める事は出来ないだろう。


「食らえ!」


 まずは足元へと仕掛ける。

 手を伸ばしても腹の辺りまでしか届かなそうだ。


『ガキィン!』


 簡単に防がれる。だがそんなのはわかり切っていた事だ。


(小兵の強さを見せてやる!足元への連撃、防ぐ事は難しいはずだ!)


 滋深も式神を使って攻撃しているが…こちらは殆どダメージが入って無いようだ。

 直撃しても意に介さず、毛皮にも傷一つついていない。


「ダメ!私の攻撃は効かない!断真君の回復と敵の撹乱に徹するわ!」


(影山は…隠密中か。)


 影山の主武器は短剣。こちらも直接戦いには参加出来ないだろう。

 アイテム類は揃えて有ると言ってたから、支援に徹してくれるはずだ。


(くそ!防御を崩せん!!)


 足元に攻撃を集中させていると言うのに、全く通用しない。


「ッブオオオオオ!!!」


「ッ!」


 雄叫びと共にミノタウロスが攻撃を仕掛けてくる。

 5Mの巨体が繰り出す攻撃は強く…速かった。


「ック!!嘘だろ……!!」


 何とか剣で防ぐか、1Mは後退させられた。


(あの巨体でなんて速さだよ!速さだけなら勝てると思ってたが、それも厳しそうだぞ…。)


 背中を冷や汗が流れる。

 勝利への道筋が全く思い付かない。


「断真君!…クソ!食らえ!」


(馬鹿!影山!)


 影山が隠密を解いて敵に小瓶を投げつける。

 オレが離されてるのにそんな事をしたら…!

 …案の定、ミノタウロスが影山へと突撃を始めた。


「間に合え…!…ッラァ!!」


 影山に突進するミノタウロスへと攻撃を仕掛ける。

 敵の動きが少しだけ遅い…どうやら弱体化のアイテムだったみたいだ。


(…良し!…いや、硬い!?)


 ミノタウロスへ攻撃を加える事が出来たが、毛皮に阻まれて中まで剣が届かなかった。

 Aランクの剣でも駄目なのか…。


(いや…。オレの技量が低いだけだ。…絶対に通じるはずだ。)


 何とか影山は抜け出せたようで、またミノタウロスとの一騎討ちが始まる。

 今度はオレが防戦一方だ。


(影山のアイテムと滋深の式神のお陰である程度余裕を持って対処出来る。)


 滋深は式神で敵の視界を遮っている。これなら防御は何とかなりそうだ。


『ブモォォォォ!!』


(まさか…。魔法か!!?)


 周囲に黒い塊が浮かび上がり、オレ目掛けて降り注いでくる。


「嘘だろ!!ッコノ!!」(『魔弾』)


 周囲に浮かび上がった5発の黒球の内、4発までは撃ち落とす事が出来た。

 剣で一つ、盾で二つ、魔弾で一つだ。

 だが最後の一つは間に合わず、脇腹へと命中を許してしまう。


いてぇ!……だが、耐えれない痛さじゃ…。ッマズイ!!)


 攻撃を食らった事で体勢を崩してしまった。

 そしてそれを許す程、ミノタウロスは甘い敵では無かった。


「ボオオオオ!!」


「ッガッハ……!」


 何とか剣を合わせる事は出来たが、勢いを殺す事は出来なかった。

 さっきとは違い、受け身も取れずに数Mの距離を吹き飛ばされる。


(……意識を繋ぎ止めろ!オレが気を失ったら全滅だぞ!!)


 必死にもがいてポーションを使い、何とか立ち上がる。


「断真君!『回復』!」


「こっちだ!断真君の元には行かせないぞ!!」


 滋深からも回復をかけて貰えた。これですぐに治るだろう。


(影山!すぐ戻るぞ!)


「うああ!!」


 一人敵を引き付けている影山の方を見ると、スローモーションのように影山が飛んで行く所だった。


「影山!……やらせるかよ!!指弾!!」(『魔弾』!!)


 特大の魔弾だ。『偽装』で隠しきれない大きさだが、そんな事言ってられん!


「ブォォ!?」


 魔弾は敵の右肩に当たり、大きく敵をよろめかせた。毛皮も焦げてるし、有効な攻撃だったようだ。


「食らえ!」


 そのまま畳み掛けるように攻撃をするが、すぐに防がれてしまった。


(それでも、二発程良いのを入れられた。…恐らく影山が他のアイテムを使ってくれたんだろう。)


「断真君!影山君は大丈夫!致命傷じゃ無いよ!」


 滋深が回復してくれたみたいだ。

 …影山はまだ気を失っているみたいだが、これで心置きなく戦える。


「今度は最後まで付き合ってやるぜ!!」


「ブォォォ!!」




 ……あれから何度剣を交えただろう。

 もう何時間も経っている気がする…。


「ッガァ!!イテェ!!」

「『回復』!頑張って!!」


 攻撃を食らう度に滋深が回復をしてくれる。

 既に滋深も限界が近いようで、マナポーションを飲みながら苦しそうな顔をしている。

 影山はまだ気を失っている。

 魔法も食らったようで、怪我は治ったが未だに意識が混濁しているようだ。


『ブモオオ!!』

「…そろそろ慣れて来たぞ!!」


 5発の黒球を剣と盾と魔弾で撃ち落とす。

 滋深にはもうバレているだろう。『偽装』を使う余裕も無くなり、今はそのまま魔弾を使っている。


「…そこだ!!」

「ブウゥゥ…!!」


 魔法を使った隙を突いて斬りかかる。

 5発同時の黒球は脅威だったが、ようやく慣れてきた。

 使用後の隙が大きいから、今となっては頻繁に使用して欲しい位だ。


(魔石を…。)


 砕いてから吸収する。

 この行為も特に隠してはいない。

 隠す余裕などとっくに無くなっているのだ。


(そろそろ…行けそうか?)


 今のは『クリティカル』の乗った良い一撃だった。

 ミノタウロスの左手は力無く垂れ下がっており、もう使う事は出来なそうだ。


「これで……どうだ!!」


 渾身の一撃を喰らわすと、大きく後ずさった。…10Mは下がったようだ。


(おかしい…。あれだけ吹き飛んでるのに、よろめく事も無いなんて…。)


 嫌な予感がする。…ただ敵が距離を取っただけだとすると…!


『BOOOOOO!!!』


 敵の体を闇が包み込む。何らかの魔法を使ったのだろう。


(回復か強化系か!?何にせよ、マズい!!)


 慌ててミノタウロスに攻撃するが、闇に阻まれて敵まで届かない。

 やがて闇が消えていくが…中のミノタウロスを見た瞬間、急いで距離を取った。


(あの感じ…今までと段違いのプレッシャーだ。…あんなの反則だろ…。)


 不滅の肉体と言うのにも頷ける。

 こっちはもうボロボロだ。鎧も新調した盾と靴以外は壊れている。


 急いで滋深の前に戻り、剣を構える。

 どれだけの速さかは不明だが、離れていると守れきれん。


「……『狂化』したのかも。闇の眷属が得意とする強化魔法の一つで、魔法を使えなくなる代わりに身体能力が大幅に上昇するの…。断真君…。マズいよ…。」


 震える声で伝えてくる。

 それでも逃げないなんて、良い奴過ぎるだろ…。


「滋深…。影山を連れて逃げてくれ。…守りながら戦うのは無理そうだ。」


「断真君は!?断真君も…!」

「BUOOOO!!!」


 話の途中、空気を震わせる咆哮と共に、ミノタウロスが動き出す。


(狙いは…滋深!?)


 滋深に向かって振り下ろされる戦斧ハルバートを何とか防ぐ。

 だが安心する間も無く、戦斧ハルバートの先から衝撃波が発生した。


(マズい!『魔弾』!)


 何とか魔弾で防ごうとするが、一歩及ばず、滋深を衝撃波が襲った。


「っきゃあああ!」


「テメェ……!!」


 ヒーラーを潰したかったんだろうが、そんな事は関係無い。

 ……テメェは打つ手を間違えた!


「『強化』…『強化』!………『強化』!!!」


 魔石を噛み砕きながら、強化を連発する。

 身体中が悲鳴を上げているが、そんなの知った事か!!


「『魔弾』!!」


 更に『強化』した魔弾を三発同時に発射する。


「BU、BU OO!」


 一発は戦斧ハルバートで防いだようだが、二発当たった。

 左手は変な方向に曲がり、胸から腹にかけて、立派な毛皮は全て無くなったようだ。


「死ね。」


 そのまま股下から胸へと剣を突き入れる。

 途中で戦斧ハルバートで防いで来たが、諸共叩き切った。


「BU…oo……。」


 ミノタウロスは力尽きたようだ。

 ……オレも、右腕と足が変な方向に曲がっている。


「…ッゴボ!」


 呼吸が苦しい…。咳をしたと思ったら、変な音と共に血が溢れて来た…。

 無理をし過ぎたかも知れない。


(ポ…ポーションを……。)


 何とか意識を保ちながらポーションを探すが……。

 ……ここまでか…。ポーションを使った所で意識が遠退いて行った。


 何故か遠くから、『おめでとう。』と声をかけられた気がした。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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