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授業開始

 ーーーとある噂話ーーー


「ねぇ…。また迷宮1層でアレが出たらしいよ?」


「また!?まだ学園に居るの!?」


「迷宮1層なんて中等部1年で卒業する場所じゃん!なんで高等部の人が居る訳!?」


「去年も居たし、早く学園辞めて欲しいよね!」


「ホントホント!才能無いヤツはすぐ辞めて欲しいよ!」


「アレ…そろそろ居なくなるかもよ?先輩達が目を付けたんだって!」


「やったー!やっとクズが居なくなるんだ!」


「私…去年は追いかけられそうになったよ!どうせ変な事するつもりだったんだよ!」


「「最悪ーー!!」」

 

 とある中等部の教室、女生徒達が噂話に興じている。

 相手の事も知らず、ろくに調べようともせずに。

 いずれその人物が、最強になる事も知らずに……。




 ーーーーーー




 ペンの音が響く授業中、教師が話を始める。


「我が大和の国は初代勇者王『ユウ』様によって建国され、以来長い歴史を歩んでいる。」


 この教師はテストでは細かいミスも容赦無く間違いにしてしまう為、生徒からの評判はすこぶる悪い。

 オレも漢字の送り仮名を間違えただけで間違いにされた。他の教師は減点で済ますというのに…。


「初代様達は日本から飛ばされ、この世界にやって来たのだ。何の後ろ盾も無く、0から大和という大国を作り上げる偉業を成し遂げたんだ。常に王家への感謝を忘れるなよ。」


 教師が一旦話を止め、生徒達を見回し始めた。


(やば…。)


 慌てて教科書に目を向けるが、どうやら遅かったようだ。


「では、断真だんましゅう。21ページから読みなさい。」


 名前を呼ばれてしまったので仕方無く席から立つ。

 目立つから避けたかったんだけどな…。


「大和を作りあげた勇者一行は、それぞれ有力な貴族家を立ち上げました。『勇者』様は勇者王として王族を、『賢者』は魔法使いとして貴族を、『剣豪』は武士として士族を。

 他にも新興の貴族である華族や地方中心に活動する豪族を含め、現在の上流階級は構成されています。一部都市では試験的に選挙による為政者の選任が行われていますが、結局選ばれるのは上流階級の方に限られます。」


「うむ。今も時折現れる異世界人の進言によって、選挙なるモノが行われたが…大和には合わなかったようだな。そもそも弱肉強食がこの世界の理念。上流階級の方々は強さが有るからこそ認められているのだ。…話し過ぎたな。続きを読んでくれ。」


「異世界人…地球人達は今も時折現れ、大和の国で活躍します。彼らは特別な『クラス』、特殊な『スキル』を保有している為大和では保護の対象になっています。

『クラス』や『スキル』は地球には存在しないもので、この世界特有の技能と思われます。

『スキル』は物理法則を超える現象を起こす事が出来る技能で『ファイア』などの魔法や、『防御』、『スマッシュ』など多くのスキルが確認されています。

『クラス』は個人の能力を強化する効果が有るとされ、初級、中級、上級と特級に分かれています。上級は確認されていませんが、恐らく有ると考えられています。」


(この辺は異世界人が転入して来た時用の話だろ…。こんなの皆知ってるよ。)


「うむ。初級クラスは皆も知っての通り、『戦士』、『魔法使い』、『支援』、『生産』となっている。レベル10で中級職に上がれる。学園卒業時に中級職に上がる事が目標の一つだ。皆も頑張るようにな。

 それと特級の事だが……これは言うまでも無いと思うが、『ダンジョンマスター』がその代表だ。他にも『勇者』や『賢者』などが有るが、これは異世界人専用だな。

『ダンジョンマスター』は国の宝だ。彼らによってダンジョンが支配される事を皆が待ち望んでいる。

 …そのまま次も読みなさい。」


(……長い。)


「ダンジョンは大和の首都『東坂とおさか』にある『大迷宮』が最も有名で、私達が通うダンジョン探索者育成用の学校、通称『学園』も東坂に有ります。

 このダンジョンで得られる魔石や素材によって大和は繁栄を続けています。…大和の学園生として、ダンジョン制覇を目指して日々努力して行きましょう。」


「そこまで。」


(……やっと終わった。すぐ座ろう。)


「今断真(だんま)の読んだ通り、ダンジョンは大和にとって欠かせない資源であり、戦士を育てる訓練場だ。最近は色々と研究も進められているし、近い内にダンジョンマスターがダンジョンを支配する日も来るかもしれないな。」


(うーん…。そんな日来ないと思うなぁ。第一、全然そんな発表無いじゃん。)


 ダンジョン関係で良いニュースが有ればすぐに発表される。オレ達学園生が知らないのなら、そんな事実は無いという事だろう。


 ちょうどチャイムが鳴った。どうやらここまでのようだ。


(今日の授業も終わりだ。後は最後のホームルームだが…。)


 教科書をしまい、机に覆いかぶさるような態勢を取る。

 寝てるふりして何とか時間を潰そうとするが…机が蹴られた事で中断させられてしまった。


(…クソが。)


 顔を上げると、三人の男達がムカつく笑みを浮かべてオレを見ていた。


「おい!断真!お前、今日もガキ共に混じってゴミ拾いか!?」

「臭いでおじゃる…。何故麻呂達のクラスに弱者が紛れ込んでおるのじゃ?底辺を這いつくばるのがお主達下民の役目であろうに。」


「……何だその目は!このお二人は貴様のようなクズとは別格の方々だぞ!!」


 高校になって少しした頃から、このバカ三人組に絡まれるようになった。

 オレのような一般市民で才能の無い人間がこの学園に通っているのが許せないそうだ。


「…おい!聞いているのか!?」


「ッグ!!」


 スネを蹴られる。

 足が痺れる程の衝撃だが、何とか我慢する。

 下手に反応しても喜ばせるだけだ。


「…ここに一枚の紙が有るでおじゃる。この用紙に名前を記入すれば、今までの愚行は許してやっても良いでおじゃるよ。」


宅無たくむさん、自分が渡します。」


「うむ。良かろう。」


 千海せんうみ崎川さきかわから紙を受け取り、用紙を見てニヤついている。

 その様子を不審に思っていると、オレに差し出してきた。

 受け取る義理も無いので無視していると、今度は机の上に叩きつけられた。


 その様子を黙って見ていた茨山いばらやまも紙を覗き込んでくる。


「はは!!これは良い!宅無!流石の智謀だな!!」


「そうでおじゃろ?この学園はダンジョン攻略を目標とした戦士の学び舎でおじゃる。雑魚は早々に消えるのが道理であろう?」


 オレに向かって崎川が話しかけてくる。

 今時おじゃる言葉ってふざけてるのかと思ってしまうが、貴族社会ではまだまだ現役らしい。

 若い世代で使っている人間は少ないが、学園の教師の中にも似たような喋り方をしている人間はいる。


(ふん。どうせ下らない用紙だろ…。…ッチ、本当にふざけてやがる。)


 用紙には『退学届』と書かれている。

 名前を記入したら退学一直線だ。

 こんな下らない事に付き合ってられるかと思い、無視していると千海が突っかかってきた。


「おい!!貴様!さっきから下手したてに出ていたら何だその態度は!?下民は下民らしく――」

「下民が、何だって?」


 顔を真っ赤にして怒鳴り散らす千海の言葉を一人の女性がさえぎる。

 左目に眼帯をして杖をついている妙齢の女性で、オレ達の担任だ。


「ッ!!横葉よこはか……!」


「横葉…?」


「……申し訳ありません。…横葉…先生。」


「それで良い。いくらワタシが一般市民だろうと、ここは学園で、ワタシは教師だ。貴様らが上流階級だろうと…いや、上流階級で有るからこそ、社会の規則を守れ。学園では階級を振りかざすような行為、態度は禁止されているぞ。」


 横葉先生が鋭い視線で机の上の用紙を見る。


「それは……。」


「それは断真の事を思っての事だ。階級は関係無い。未だにダンジョンの一層でウロチョロしてると聞いてな。ダンジョン一層など、中等部一年生で卒業する場所。断真がこの学園に居続ければ、待っているのは死だ。

 そうなる前に我々は助言しているのだ。学園にとっても在学生に死亡者が出るのは避けたいだろう。…これは断真にとっても学園にとっても有益な事だ。」


 千海が言葉に詰まっていると、茨山が後を引き継いだ。


(もっともらしい事言ってるが、ただオレが邪魔なだけだろーが。)


 そう思いながらも、内心で少し驚いていた。

 茨山は脳筋な男かと思っていたが、意外と頭も切れそうだ。


「…それは断真が判断する事だ。断真はかろうじてではあるが、赤点を取った事は無い。学園としては退学させる事など不可能だし、担任としても卒業は出来ると考えている。」


「オレも退学する気は有りません。」


 横葉先生の後にすぐ話を続ける。

 また余計な話をされても面倒なだけだ。


「これで話は終わりだな。この用紙は預かっておく。お前ら三人も、これ以上やるなら内申点に影響するからな。」


「ッチ!」

「下民が貴族の上に立つなど、有ってはならないでおじゃるよ…。」

「…命拾いしたな。」


 三人が自分の席に戻って行く。

 余計な時間は取られたが、何とかやり過ごせたみたいだ。


 あの三人の言う通り、オレはこのクラスでかなり…いや、自分自身に取りつくろっても仕方無いか…オレはこの学園で最下層の成績だ。

 赤点が無いのは奇跡と言える位だろう。

 学園はダンジョン攻略を目標としており、成績が悪い=弱い事になる。

 オレが一般市民で有る事も相まって、あの三人のような人間からはゴミだと思われている。


 他のクラスメイトが何も言わなかったのも、ある意味あの三人の言葉は正しいからだ。

 この学園では強さが重要視されている。弱い事はある種の罪とさえ言えるのだ。

 それでもまだこのクラスは優しい方だろう。行き過ぎた場合は誰かが止めてくれるからだ。お陰で直接的な暴力は殆ど振るわれた事が無い。その点は感謝している。


 そもそも一般市民で学園の高等部を希望する人間は少ない。

 中等部までは多くの市民がダンジョン攻略を夢見るが、自分の才能を知って殆どの者が挫折する。

 上流階級の人間と一般市民とでは才能の差は大きく、一般市民の99%は一般の学校へと進学するのだ。

 残りの1%も才能が有る者は殆ど居なく、オレのように落ちこぼればかりだ。

 横葉先生のように学園の講師にまで上り詰める人間は本当に極一部だ。


「それでは、本日はここで終わりとする。ダンジョンに潜る生徒は十分に気をつけるようにな。」


「「「はい!」」」


 先生の言葉にクラスメイトが一斉に返事をする。

 オレは返事をしなかった。先生はオレの事を見てるが、無視で良いだろう。


 そのまま教室を出ようとした所で、一人のクラスメイトから声をかけられる。


「断真君。…今日もダンジョン?」


「…ああ。」


「そっか…。毎日潜って、本当に凄いね…。」


「…いや、それ位しか出来ないからな。」


「…ううん。」


「……。」


「…怪我だけは…気をつけてね。」


「…ああ。…ありがとう。」


 全然会話は盛り上がらなかったが、いつもこんなものだ。

 彼女は滋深じみ奈子なこ。保険委員をしていて、以前ダンジョン探検中の怪我を治して貰ってからの付き合いだ。

 付き合いと言っても、週に一回くらいさっきのような会話をするだけだがな。

 オレとしてももう少し会話を広げたいと思ったりするが…中々うまくいかない。

 個人的にはダンジョン制覇より難しいんじゃ無いかと思ってるくらいだ。



(さて…。今日も今日とて頑張るか。)


 中等部からダンジョンの一層に潜り続けて五年目になる。

 皆に馬鹿にされながらも続ける理由…それはダンジョンマスターになる為だ。

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