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プロローグ2

 さて、まずは……未だ見えない話の全容をひらあらわすには、馴れ初めから語らなくてはいけないのだろう。まずは彼と僕の関係についてを深く語るなら中学時代にまで遡るべきに違いない。

 さきに記述したとおり、彼の名前は綿貫 渚という。

 彼は中学の時からの一本軸を完成させていた人で、誰よりも大人びていた印象があったのを今でも覚えている。同年代としては、近寄りがたい雰囲気を持ち合わせていた。

 その現在と変わらない長身痩躯の二枚目なスタイルは、十二歳と十五歳の身体の差異こそあれど、いつだって彼に対するイメージとして僕に合致させてくれるものだった。


 では、なぜそんな彼と親しくなれたのか……。

 いささかずれた喩えかもしれないが、親しさは距離感に呼応するという格言が存在する。これを聞くと、遠距離恋愛が上手くいかないのは、往々にして間違っていないと思える。

 

 が、それはともかく……。

 

 僕と彼とは、意外な事に家が向かい合わせだったのである。

 所謂、小学の時は道路を一本を挟んで学校が違うという立場であって、範囲が広くなる中学で同じ括りに収められたのだった。

 それと凝り性なのか、登校時間がいつも一緒。そうすれば、毎度必然的に顔を合わせるわけで、しばらくすると互いに相手を認識するようにもなっていった。

 そうして一年が経ち、僕も彼も中二になった。ここでようやく関係性が生まれるというべきか、彼とクラスが同じになったのだ。そして次第に挨拶を交わす間柄へと変化していき――気づけば、行き帰りの歩幅を合わせていた。

 

 この時はまだ、僕達は互いに年端もいかない子供であり、後に散見される悩みに対して自分だけが苦しんでいると思っていた頃だ。傲慢にも、僕達が似たような懊悩を抱えているなんて疑いもしなかった。

 それとこの年代は、ある一種の万能感みたいのを強く持ち合わせている。思い返すと、赤面ものの体験も平気でおこなっていた。


 ともあれ、今は彼のことについてだ。

 話が脱線しないように、これから彼の人となりを説明を続ける。

 彼は感情よりも論理で動くタイプだったせいか、煩雑とした感情の行方を過分に持て余らせていた。後に記述することになるが、彼には明確な《異能》があったおかげで、思春期特有の悩み以上に、日々苛まれていた。悩むことなら僕も同様ではあったのだが、その大きさは彼の比ではなかった。

 

 ならば、その彼の悩みとは何か。

 一言で言ってしまえば、時のずれを感知してしまうシックスセンス。

 時のずれを感知する無自覚。未来のビジョンと重なる相反の現象。

 デジャビゥの逆バージョン、とでもいえよう。

 しかし、この時の彼が深く問題視をしていたことは、それだけではなかった。


「まただ……。また出てきたよ。不謹慎な好奇心が」


 そうぼやきながらも、小さな日常の謎をたやすく看破してしまうこと。

 たとえそれが、他者に知られたくないプライバシィの範疇であってもお構いなしにだった。

 




 そうして時を経て、彼も僕も少しずつ変わっていった。

 成長が退化、と断定しないかぎりはそうだといえた。

 中ニから中三の一年間で、物凄い心境の変化を感じていた。

 いつだったかは覚えてないが、人間が本来持ち合わせている後ろ暗さ、えぐさ、狡猾さなどについての見解を、彼が滔々と述べたことがある。

 中三当時の彼は、病的なまでとはいかないが、自分が清廉潔白であることに重きを置きたがっていた気がする。今まで、その心の欲するのままにしてきた反動だといえよう。バランスが取れるようになったのはつい最近である。

 その時の彼いわく、不謹慎な好奇心と杓子定規の常識、この二つの間で大きな二律背反を感じていると語ってきた。


「内側からさ、もうどうにもならない感情が暴れているんだよ。理性のタカが外れてしまって。その時だけは俺の中で獣性が芽生えるんだ。何でも知りたがる心の中の獣が、欲望のままに暴れ出す。俺は《知りたがりの獣性》なんだ」


《知りたがりの獣性》……。

 彼は、自らをそう称した。

 その頃には、僕も作家になりたいとの夢を打ち明けていたせいか、


「だとしたら、ナギは《書きたがりの獣性》だな」


 そんなふうに名付られてしまったのである。

 しかし、彼がこうまで言ったのはただの酔狂だけではない。

 少し前までの僕は、二十四時間三百六十度の全方位の勢いで、書くためのアンテナを張り巡らせていた。そのため、今よりも遥かに日常への関与が希薄で、現実との虚構との狭間を彷徨っていたからだ……。


 このように、何ページかの制約を設けて彼を説明すればこんな感じである。

 今(高一の六月)でこそ少しは折り合いを付けれるようになったが、そこに到達するまでには沢山の紆余曲折があった、と僕は言いたい。





 そして、閑話休題。

 軽い人物説明を終えたところで、もう一つ述べておきたい大事なことがあったのを思い出した。

 現在、僕がここまでメタ的な視点に立てているのは、全ての事象が過ぎ去ったからであり、要約してまとめているからだということだ。

 

 そう、もう間もなく、隣街の大平市の上坂神社では《干儺カンナ祭》が開催される。

 今、僕がメモとして貯め込んでいた諸般を集め、意気揚々と執筆している時期は、校舎とグラウンドを繋ぐ境界線の植え込みにある紫陽花が咲き誇り始めた――まさしく梅雨真っ盛りの六月だった。

 結局、ずっと懸案の一つだった大きな謎が大団円とまではいかないでまでも解決に至り、中間考査の終了で一区切りがついて気持ちの整理もすることができた。

 

 今、僕の周囲には錚々たるメンバーがいて、飽きることのない高校生活が送れそうなのは驚きである。互いに似たりよったりの《獣性》は持ち合わせているが、傷の舐め合いみたいな後ろ暗い感じでもない。

 そう、相変わらずの彼、そしてこれから登場してくる破天荒なお穣様、変わりものの巫女さん、偽幼馴染なクリスチャン。それと、赤橋、倉川さん、寺島さん、P。

 ここまでは名前を挙げるべきだろうか。マジカルナンバーという、人が一度に拾える新情報の提示許容値には限度がある。特筆すべき人物の取捨選択に悩まされる。

 

 さあ、そろそろ本編に進まなくてはならない。

 ただ、その前に忘れてはならないことを自戒として記しておく。



 感情で語らず、情感で語って。

 狭窄を恐れて、俯瞰を持って。

 背景は明確に、心理は簡潔に。

 末文には気を配り、テンポは乱さずに。

 微に入り細に穿ち、行間を感じさせるように。

 伏線は回収できるように、文脈はスムーズに。

 序破急、起承転結は枠組みごとに組み立てて。

 適度に話を脱線させつつ、単調さを極度に恐れるように。

 そして四方山綴りと、あの八カ条を念頭に置きながら――。




 

 僕の《書きたがりの獣性》に則ってこの物語を語ろうではないか――。





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