惚れたら負け
後輩に力技で拘束されるなど思ってもみなかった。
裕之はトイレで後ろから声をかけられた時から嫌な予感はしていた。
最近後をつけられてるような感覚はあった。
見られているような視線も感じていたが、隆盛には相談できなかった。
気のせいだと言われればそれまでなのだが、気になって仕方がなかった。
姉の春花に相談すると、防犯ブザーと痴漢撃退スプレーを渡された。
鞄の中に入ってはいるが、今は持っていない。
彼の言う通り、男が悲鳴をあげるのは恥でしか無い。
裕之 「なんのつもり?」
いきなり腕を掴まれ奥の個室へと連れ込まれた。
一瀬 「ね〜、そんなに具合がいいの?一回試させてよ」
裕之 「なんの事を言って…んっ!」
一瞬の隙をついて唇を塞がれた。
もがこうにも動けない。文句を言おうと開いた口の中へ舌が破り入ってくる。
(嫌だ!気持ち悪い!)
ガリッ。
咄嗟に入り込んできた舌に噛み付いた。
口の中に鉄の味が広がって余計吐き気がした。
一瀬 「いっ…つーー。噛むなよ普通!最低だ!」
裕之 「ぐっ…おぇっ…ごほっ…げぇっ…」
一瀬 「なっ!」
吐き気を堪えられず、便器を開けるとそこに吐いていた。
顔色も悪く、本当に気持ち悪そうだった。
一瀬 「嘘だろ?こっちが吐きて〜くらいなのによ」
確かに細い手首にいい匂いがして唇を重ねた。
唇も柔らかくて女性となんら遜色はない。ただ、まさか噛まれるとは思って
もみなかった。
そして、イケメンの自分にキスされて吐くなど初めての事だった。
苦しいのか涙目で見上げられると、心臓がうるさいくらいに跳ね上がった。
一瞬固まった隙をついて鍵を開けると出て行ってしまった。
一瀬 「マジか…高橋先輩じゃねーけど…これはヤバいぞ!」
それからしばらく結城先輩を一人で見かける事はなくなった。
高橋先輩には言いつけなかったのか、あれから怒りの矛先が向く事はなかった。
裕之 「ねーちゃん、ちょっと相談なんだけど、りゅう以外とキスするのって
やっぱり浮気になる?」
春花 「はぁ?何があったの?」
裕之 「いきなり腕捕まれて…無理矢理キスされたんだけど…ちゃんと舌噛んで
やったんだけど…血の味がして気持ち悪くなっちゃって…」
春花 「なるほどね、そう言う事か!そんなの浮気じゃうないし、裕之が嫌なら
それは違うわよ!でも、裕之に手を出すなんてね。あんたこれから一人
行動は控えなさいね!」
裕之 「うん、りゅうにも言ったほうがいいのかな?できれば言いたく無いんだ
けど…」
春花 「大丈夫よ。あんたは何かあったら、私に教えないさいね。」
そしてラインにさっき聞いた一部始終を書き綴った。
春花
ってことがあったので晴翔くん、ちょっとしっかり見ておいて
くれる?その後輩くんだっけ?それと、隆盛くんに知られたく
ないみたいだから内密にね。
晴翔
あー。最近りゅうにつっかかっていく一瀬大輝ってやつですね。
了解です。俺らの推しカプを邪魔するのは許されないっすね。
美桜
せっかく裕之くんが隆盛に一途になってきたし、隆盛もやっと
本気になってきたからね、こんなところで邪魔はさせたく無いわね。
今回の衣装も予約しちゃったわ。
春花
なに!まさか例のアレ?
美桜
そうそう。
また撮影会したいなって!
春花
おっけ!楽しみにしてる。
晴翔
俺も行ってもいいっすか!
美桜
もちろんよ!同士だもの。
恥じらう必要ないわ!堂々と好きなものを応援するわよ!
今回の新刊の為よ!
春花
そうね!新刊のイラスト仕上げなきゃ!
晴翔くん、その為にも裕之の勉強も見てもらってアレだけど
裕之のバージン?も守ってね。
晴翔
任せて下さい!
ラインは白熱していき、夜中まで会話は続いたのだった。
最近、帰りも裕之は視線を感じて振り返るが、誰もいないという現象に
悩んでいた。
隆盛 「どうした?何かあったか?」
裕之 「えっ…あ、いや、何でもないよ」
隆盛 「そういえばさ…誕生日もうすぐじゃん?何か欲しいものとか
して欲しい事とかってあるか?」
裕之 「へっ?あ〜、そういえばそうだね。そうだな〜一日僕に付き
合ってってのもありなのかな?」
隆盛 「あぁ、なんでも言ってくれていいぜ!」
裕之 「男に二言はない?」
隆盛 「もちろんだ!」
裕之 「じゃー。ペアリング買いに行こう!」
隆盛 「!?」
裕之 「高校卒業したらさ、一緒に暮らそう!それまで我慢って事で!!」
にっこりと振り返ると、夕日に照らされたせいか、赤く染まった頬を引き寄
せてキスをしていた。
裕之 「ちょっと!外だからっ!」
慌てて離れる裕之を抱きしめると隆盛は少しだけと言いながら、腕の中の温も
りをかんじていた。
茂みの影からカシャっという音が響いたが、今は気づいてはいなかった。
裕之の誕生日当日。
二人は朝早くからジュエリーショップに来ていた。
シンプルなシルバーの指輪にお互いのイニシャルを裏に刻むと裕之は指輪を首に
チェーンを通してかけた。
お互い、指にはめるほど堂々としていられないし、学校ではアクセサリーなど没収
の対象になってしまう。
ネックレスなら、服の下に隠せれるし、休みの日は指にはめればいいからと言う
こちになった。
それからは隆盛の家へと行ってゆっくりと過ごしたのだった。