後輩の罠
放課後に一瀬と約束があったので、晴翔には少し遅れると言うと
体育館裏の倉庫へと来ていた。
裕之 「一瀬くん?あ!いたいた。」
一瀬 「本当に来てくれたんですね。嬉しいです。聞きたい事
とお願いがあるんですよ。」
裕之 「で、なんだったの?」
一瀬 「高橋先輩って彼女いますよね?」
裕之 「えっ…それは…ちょっと」
一瀬 「いるのは分かってるんです。でも、誰かってのが誰も
知らないんですよね〜。一番近くにいる結城先輩なら
知ってますよね?すっごくエロい高橋先輩の彼女!」
裕之 「エロいって…僕は…知らないかな…」
裕之は目線を下に向けるとなんて答えようか悩んだ。
エロいってどこから出てきたのか聞きたかったが、隆盛が言うとは
思えないので多分勝手に想像で言ったのだろう。
裕之 「悪いけど、りゅうの彼女の事は知らないし、答える事は
できない。本人に聞いたらどうかな?」
一瀬 「そうですか…もう一個お願いなんですけど中覗いてもら
えます?」
裕之 「何かあるの?」
倉庫の中を覗くと ドンッ!!と突き飛ばされた。
裕之 「うわぁっ!!…いってぇ、なにするの!」
一瀬 「これは頼まれた事なんで!ごゆっくり〜」
そう言うとドアを閉めて外からかんぬきをかわれてしまった。
裕之 「嘘でしょ!ちょっと!開けて、開けてってば!」
一瀬 「部活が終わったら開けに来てあげますよ!それまで頑張
って下さいね」
裕之 「なにを言って…?…まさか!」
誰かに言ったようなセリフに嫌な予感がして後ろを振り返った。
暗い室内に影が動いたかと思うと鳩尾に痛みを感じそのまま倒れ込ん
でいた。意識が途絶える前に見覚えのある顔が映った気がした。
練習に戻った一瀬は隆盛と共にトラック10周を走り込みしていた。
準備運動をしっかりとが学校の方針で怪我がないように念入りに行われ
る。
あの日から隆盛の恋人は誰かとしつこく聞いてくるようになった。
一瀬 「ねー。高橋先輩〜誰と付き合ってるんですか〜。俺にも紹介
して下さいよ〜」
隆盛 「そんな事言ってる暇があったら、ちゃんと走れ!」
一瀬 「いじわる〜」
隆盛 「一瀬は決まった相手はいないんだろうな〜。」
一瀬 「もちろんですよ。一人に決めるなんて可哀想じゃないです
かぁ〜」
隆盛 「俺にはそっちのが理解できん」
一瀬 「なになに?そんなに具合がいいの?」
隆盛 「無駄口を叩くな!」
準備運動も終えてペアになってお互いボールの取り合いをする。
片方が守備で、取られたら、守備交換になる。
隆盛がボールを持ったまま走り、一瀬に取られないように守る。
もちろん一瀬も上手いがどうしても隆盛からは奪う事はできなかった。
一瀬 「高橋先輩〜もうちょっと手加減して下さいよ〜。」
隆盛 「一回くらいは奪って見せろよ!」
一瀬 「女性なら奪う自信あるんだけどなぁ〜」
隆盛 「それは勝手にしろ!」
一瀬 「で!彼女教えてくれる気になってくれました?」
隆盛 「うるさい!」
一瀬 「えーー。奪われない自信あるんでしょ?いいじゃん、ちょっ
とだけだし〜」
結局奪う事が出来ず、実力差を見せつけられた結果になった。
一瀬は確かに上手いし、コントロールもいいが隆盛にはまだまだ敵わな
かった。
試合形式になると、二人の実力は秀でていた。
同じチームで組ませると他の先輩達では太刀打ちできないくらいのコンビ
ネーションで攻め立てられ圧倒的な点差になる。
今年はそれを武器に全国へと導くであろうと監督の先生は期待して、二人
をいつも一緒に組ませていた。
もちろん仲がいい方がチームプレーには必要不可欠だったからだ。
一瀬 「本当にパスは正確ですよね〜。なんで俺がいるって分かったん
ですか?」
隆盛 「コートの中なら誰がどこにいるか分かるのが当然だろ?」
一瀬 「マジか〜。やばすぎでしょ!彼女のイイトコロもバッチリ分か
っててそこばっかり攻めるタイプだ、コレ!」
隆盛 「ふざけんのもいい加減にしろよ。集中しろ!」
一瀬 「へいへい。結城先輩ならちょろかったのになぁ〜。ガード硬
すぎ」
隆盛 「…!?」
一瞬、耳を疑った。
なぜそこで裕之の名前が出てくるのか?と…。
隆盛 「一瀬、裕之がなんだって?」
一瀬 「あー。今お楽しみの最中ですよ。友達の事気になります?」
隆盛 「もう一回言ってみろ!」
練習中にいきなり一瀬の胸ぐらを掴むと締め上げた。
周りの生徒も止めに入ろうとするが隆盛の迫力に一瞬止まった。
隆盛 「おい、ひろに何をした?」
一瀬 「はっ?何をっ。かはっ…くるしっ…」
隆盛 「さっさと答えろ!何をしたんだ!」
ギリギリと締め上げると一瀬も恐怖を感じたのか周りに助けを求め始
めた。
先生も間に入ると止めにかかった。
先生 「高橋何をいきなりやるんだ!少し顔洗ってこい!」
隆盛 「一瀬!答えろ!何をしたのか!」
すごい剣幕で怒り出す隆盛など誰も見たことがなかっただろう。
いつもは冷静でクールなイメージなのが今や鬼のように怒っているのだ。
先生 「一瀬、お前何かやったのか?」
一瀬 「ちょっと、俺顔洗って来ていいっすか?」
先生 「あぁ、行ってこい。高橋お前もそう怒るな!」
隆盛 「逃げるのか?まだ話は終わってない!」
一瀬 「体育館裏の倉庫っすよ、そこに頼まれて連れてっただけだって
なんでそんなに怒るんすか?彼女じゃないのに…」
一瞬、一瀬の体が浮き地面に倒れていた。
頬が熱く、殴られたのだと実感した。
隆盛は先生の静止も聞かず駆け出していた。
体育館裏の倉庫、いつからだろう?
一瀬が来たあたりからならもうかれこれ2時間近くはたっている事になる。
不安で心が潰れそうなのと、怒りが全身を包み自分でも制御できなかった。
倉庫の前まで来ると、外からかんぬきがしてあった。
中から声が聞こえてきていて、怒りのまま勢いよくドアを開けていた。