元カノ現る
彼女に声をかけられてからいきなり手を振り払われた瞬間少し驚いたし、
さっきまで楽しかったのに、今は心に霧がかかったみたいでイライラする。
裕之 「りゅう、僕先に帰るね。じゃ!明日学校で!」
隆盛 「え!」
精一杯の笑顔で言うと、そのまま家へと駆け出していた。
隆盛に今の顔を見られたくなかった。
手を振り払われたのも悔しかったし、元カノがいたと言うのにも衝撃だった。
いつも一緒だったはずなのに、全然しらなかった。
知らず知らずに涙が出てきて、近くの公園で少し頭を冷やそうとブランコに座
るとゆらゆらと揺らした。
その頃置いてきぼりにされた隆盛は喫茶店で草壁と一緒にいた。
草壁 「彼、気を使ってくれたのね。気がきくじゃない?」
隆盛 「なんの用だよ?」
草壁 「嫌だわ。ただ会いたかったってだけじゃダメなの?これでも彼女だ
ったのよ?私。」
隆盛 「…気の迷いだろ?」
草壁 「え〜なにそれ?ベッドで一緒に寝た仲じゃない?結構気持ちよかった
けどなぁ〜。それとも、今はさっきの子に手を出してるの?」
隆盛 「…!」
草壁 「そんな訳ないわよね?男同士なんて気持ち悪い。」
本当に気の迷いだった。
自分の気持ちをはっきりさせたくて初めて付き合う事にしたのが彼女だった。
それでも、なにも感じなかった自分に苛立ちを覚えたのか彼女から別れを告げら
れた。
『つまらない男、付き合う事にしたのって顔だけだから!』
そう言って別れた。
一ヶ月くらいしか続かなかった。
姉の美桜の嫌がらせもあったし、それ以上に隆盛自身も気乗りしなかった。
ただ、裕之を変な目で見ない為だけに付き合っただけだった。
草壁 「ねー聞いてる?また、付き合わない?今度はうまく行くと思うのよ」
隆盛 「そう言う事なら、断る。今は誰とも付き合う気はない」
草壁 「今もモテるでしょ?彼女いれば面倒もないわよ?」
隆盛 「つまらない男なんだろう?だったら他の男を探せよ!」
それだけ言うと会計を済ませて出て行った。
草壁 「なにアレ。」
神谷 「全然脈なしじゃん。珍しいな真奈美の負けだな?」
草壁 「慎吾…聞いてたの?なんか悔しいわね。」
草壁真奈美の横に神谷慎吾という男が座った。草壁の肩を抱き寄せ
自分の女であるかのように振る舞っていた。
草壁 「私、慎吾と付き合う気ないから。」
神谷 「いいじゃんか。どうせ今はお互いフリーだろ?」
草壁 「隆盛のやつ、少し変わったわね。前よりよく笑いように
なったわ。誰が彼を変えたのかしら?」
帰って行く姿を見送りながら爪を噛んだ。
春花、美桜、晴翔はそのまま新刊談義に入りつつ、食事をしていた。
春花 「今日は楽しかった〜」
美桜 「あいつら、そろそろ帰った頃かしらねー」
晴翔 「ちょっくら電話してみるかな〜」
春花 「いいわね。かけてみて!」
美桜 「ついでにどこまで行ったかも聞いてよ」
晴翔 「はいはい。わかりましたよ。ん?」
いきなり着信が入って相手は裕之だった。
晴翔 「ひろからだ…なんだろう?」
美桜 「早くでなさい」
春花 「スピーカーにして!」
2人も聞き耳を立てている中電話を取った。
晴翔 「ひろ〜今日はどうだった?楽しめたか?」
裕之 「…ぐすっ…はる…今って会える?」
晴翔 「ひろ?どうした?」
電話越しに涙声が聞こえてきて、一瞬で浮かれ気分が消えた。
すぐに春花はメモ帳に書くとカンペを見せる。
『今すぐ、行ってきて!何があったか聞き出して!』
それに頷くように晴翔が頷くと駆け出していた。
晴翔 「今、どこにいる?」
裕之 「いつもの公園のベンチ…僕、どうしよう…ぐすっ」
晴翔 「待ってろ!すぐに行くから」
走って行くと公園のベンチに泣き腫らした裕之の姿があった。
途中までは楽しそうにしていたはずなのに、いきなり何があったのか
が知りたかった。
隆盛が泣かせるようなことをするとは思えなかったので意外だった。
まずは落ち着かせようと背中をさすってやると、少し落ち着いたよう
だった。
晴翔 「聞いてもいいか?」
裕之 「うん…さっき駅に着いて帰るところだったんだけど…」
そこで元カノに会った事や、それまで繋いでいた手を振り払われた事
を話した。帰ると言った自分に振り返りもせず、彼女と行ってしまっ
たなど、知りたくないだろう事実が出てきたというのだ。
晴翔 「それな…たしかに草壁って言ったんだな?」
裕之 「うん」
晴翔 「それは草壁真奈美。確かに隆盛と一ヶ月だけ付き合った女
だな。でも、あいつその頃からひろ一筋で悩んでたんだよ。
だから試しに女と付き合ったって言ってた。誰でもよかった
んだが、たまたまその時告白してきたのが彼女だったんだ。」
裕之 「でも、付き合ってたんだよね」
晴翔 「ひろを諦める為にな!でもやっぱり忘れられなくて別れたはず
だから、気にする事なんてないぞ」
裕之 「でも、ならなんで…」
晴翔 「手を振り払ったのはひろの為じゃないか?あの女に見られるの
は絶対にまずい!何をやるか分からないからな。いまだに隆盛
の事、手に入れようと思ってるんじゃないか?自分から振っと
いて、欲しくなったら手に入れる、そんな我儘な女だよ。」
裕之 「はる〜どうしたらいい?このままりゅうと付き合ってていいの
かな?やっぱりおかしいのかな?」
晴翔 「そんな事ない!お互いが好きなら、自分の気持ちに素直になれ
ばいいよ。俺はお前らの味方だから」
裕之 「…うん。実はさ、この前隆盛に告白してた子が抱きついたの見
てて、すっごくモヤモヤして…彼女を触った手で触れられるの
がすっごく嫌で逃げちゃったんだ…」
晴翔 「うん…」
裕之 「おかしいよね?お試しで付き合ってるだけなのに…」
晴翔 「それって、ひろはりゅうの事をさ、本気で好きって事じゃない
の?」
裕之 「そうなのかな?」
晴翔 「ちゃんと自分の気持ちに素直になれよ。どっちを選んでも俺達
の友情は変わらねーからさ!」