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古今東西御伽噺ベースの物語

ウェンディの手紙 〜永遠の少年へ〜

作者: いくしろ仄

 煤けて濡れて破れて切れて、ボロボロになった手紙が一通、妖精の手で少年の元へと届けられた。

 明らかに一度開けられた跡のある封筒を破り、一緒に切れてしまった手紙を糊で繋いで、少年は手紙に鼻をくっつけそうなほど近づけ、どこかで見たような筆跡の文字をゆっくりと読み始めた。

拝啓 子供部屋にあるクローゼットの中まで照らす、名月の候、ピーター・パン様の素晴らしいご活躍を拝聞しております。私がネバーランドにいた時と変わらず、悪戯に冒険にとお忙しい毎日をお過ごしになっている事でしょう。


 さて、この度は私と夫の間に出来た可愛らしく愛しい子供達を、無断でネバーランドに連れて行った貴方にご報告があってこの手紙を書きました。あの時足に縫いつけた貴方の影はもう取れてしまったのですか?息子の箪笥の中にくしゃくしゃになって転がっていたので、伸ばして皺を取ってやるのにとても苦労いたしました。

 子供の時は私も弟達も、これからする冒険にワクワクしていて貴方の影の事なんて糸一本すら頭の中に残らなかったけれども、今思えばこの影は大人の味方だったんですね。『子供さらいが来るから窓を閉めろ』と親に伝える為だけに、貴方の足の裏から鋏で繋がりを切って逃げ出した。


 話が逸れました。それで、私の子供達は一人残らず無事かしら?怪我はしてないかしら?お腹が空いてひもじい思いをしていないかしら?貴方の元にこの手紙が無事届いているならば、私の愛しい子供達にお母さんとお父さんがとっても心配していると伝えておいて欲しいの。

 


 勿論、この手紙を妖精が気紛れなしで全部を無事に届けてくれるなんて、全く期待してはいないけど。だから用件を封筒を開ける時に破られても残っていそうな折り方をして、ずぅっと後ろの方に書いておくことにするわ。








拝啓 子供部屋の窓を開けた不用心な子供を攫ったピーター・パン様。この度ネバーランドに宣戦布告を致したくこの手紙を妖精に託しました。あの時皆で走った草原も、深い森も、荒れ狂う海も変わりなく存在している事をお慶び申し上げます。

 つきましては陽が海に沈み辺りが真っ暗な日、貴方の秘密基地を占領する事に致しました、あの時入らせて貰えなかった謎の部屋の中がようやく見れると年甲斐もなくワクワクしております。

 もう何代目かも分からぬと紳士に微笑むフック船長の船に乗り、裁縫道具を入れた小さなハンドバッグ片手に貴方の地につかない足を影と共にしっかり縫い付けてやろうかと向かっている所です。


 子供の貴方はまだ知らないのかしら、結婚すると、苗字が変わることがあるのよ。

                      敬具

               ウェンディ・フック

                     


ピーター・パン様

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