第6章
「この辺りで間違いないか?」
「……ん~、ガキンチョの情報通りならココら辺の筈なんですけど……」
車に揺られること数時間。
舗装されていない道による不快な振動に耐え、ようやく辿り着いたのは森林の一角。
彼らが言うにはこの付近のようだが、視認できる限り集落のような建物は見当たらない。
視界に広がるは、生い茂る大きな樹木と道なき道。獣道も少なく、落ち葉と雑草が足場を埋め尽くす。
ここからは警戒も兼ねて、車を降り徒歩で進むらしい。
当然かもしれないが、私が同行する事は許されなかった。接敵と同時に戦闘が始まるかもしれないのだ。一般人を巻き込むわけにもいかないのだろう。
私のワガママでここまでの同行は認めたが、戦闘への参加は許されないらしい。
車内で待機するように……との事。
バカ正直に従ってやる義理はないのだが、彼らの力量を把握しておく……という意味では、私は手を出さぬ方が良いのかもしれない。
まぁ、しばらくは様子見だな。
「……マナ、この場所で本当に間違いないんだね?」
《ここはきちじゃないけど、さんぞくさんは、じゅうさんにんいるよ。まだぐんじんさんたちには、きづいてないみたい》
「なるほど。ちなみに、周辺に罠などは?」
《あるよ》
「正確な位置を教えてくれ」
これだけ自然に溢れた場所ならば、油断を突く類いのトラップはあるだろうと思っていた。
殺傷能力は期待できずとも、落とし穴や落石、ロープと木々を利用した吊るしトラップや、尖らせた樹木を使った凶器の雨。糸と鈴を張らせた程度の警報トラップも、『敵の存在』という情報を与えてしまう可能性がある。馬鹿には出来ない。
車の窓から顔を出し、……先日の一件同様、視覚器官に人外の血を集中させる。
先程までよりも格段に鮮明になる景色。急速に解像度を上げた画像のように、視界から得られる情報量が格段に増える。
同時に……前頭部や目元へ半端ではない激痛が襲う。
「……っ、メガネ君。その場から二歩左に落とし穴がある。右手側の岩にもトラップがあるから、触れない方がいい」
「……もしかしなくても、僕のことでしょうか」
「おてんば娘。足元に糸がある。避けた先の足場にも二重で細い糸があるから、警戒して進みなさい」
「ちょ、おてんばってっ!?」
「隊長さんは……――」
痛みに耐えつつ視線で追うが、どんどんと進むアイザは……まるで、どこにどんな罠が設置されているのか正確に把握しているかのごとく、無事に迷い無く前へと歩んでいく。
自覚して避けているのか?
もしくは、無自覚でコレなのか?
興味深いが……今は気にしている余裕もない。
主に……激痛のせいで……。
「問題なさそうだね。そこの二人も彼を見習って、罠を避けるように……」
「言われなくとも」
「引っ掛かんないってのー!」
「ちなみに、今この付近の敵数は十三人。コチラの存在には気付いてないようだが、勢力は大きく分けて二つ。前方三十メートル先にバラけて五人。その先のテント付近に八人。……一人たりとも逃がさないよう、気を付けてくれたまえ」
さて、釘は刺した。
子供にここまで言わせて、まともな結果すら残せぬようなら無能と罵る他ない。
車内へと視線を戻す。
私の知るとおりの軍人ならば、車内にも何らかの備蓄を保管しているはずだ。……食料云々はどうでもいい。せめて、鎮痛剤くらいはないか……?
頭がかち割れてしまいそうだ。
《ゆう、だいじょうぶ? いたい?》
「……この車内に鎮痛剤はないかな? 少々、頭痛が酷くてね」
《いたいんだね! まかせて》
「任せる? 何を言っているか理解に苦しむが……解決案があるなら早急に頼む。この痛みはとても不快だ」
すると、何を思ったか……マナが集束を始め……一定値に達したのだろう光が私のデコへとピッタリくっついた。
ヒンヤリとした冷たさが接着面から広がっていく。
冷やした程度で痛みがひくとは思えなかったのだが、……不思議なことにゆっくりと、先程まで私を悩ませていた激痛が消えていくのが自覚できた。
どういう原理だ?
「……ありがとう。だいぶ、マシになったよ……」
《えへへ、よかった》
「君達に聞いても無駄かもしれないが……、この頭痛の理由に心当たりはないかい? 毎度コレでは、さすがに気が滅入る……」
人外の力に対する正当な代償だと言われれば、納得する他ないのだが……、使用する度に激痛に襲われなければならないのであれば、使用頻度の低下も視野に入れておかなければならない。
使い勝手の悪い力だ……。
《ゆう。あまり、ごはんたべてない》
「……? 貧しい孤児院での生活だ。獲られる食物にも限度がある。……それと私の疑問に何の関係がある? まさか、栄養不足による肉体の不調だとでも言うつもりかい……?」
《ゆうのからだは、にんげんと、『なにか』でできてる。にんげんとしていきるだけなら、いまのままでもだいじょうぶ。でも……『なにか』のちからをつかうなら、もっといっぱい、ねんりょうがひつようなの》
「その『なにか』の使用に、別途で対価を必要とする……というわけか。だが、この尻尾を動かすのに対し、激痛を覚えたことはないのだが?」
《それは、それですでにそんざいがかくりつしてるから。でも、いまゆうがやったのは、にくたいをぶぶんてきに、むりやりへんしつさせるこうい。むりにかえようとした》
「本来あるべきでない変化に対する代償、というわけか。……なら、今君達が私を治した方法は?」
《ゆうのなかでたりなかったぶんを、ぼくらでおぎなったの。ほじゅうできたら、いたくなくなったでしょ♪》
「…………ようするに、私に君達を『喰わせた』と、そういう表現であっているのかな……?」
《うん》
「……そうか」
わざわざ、私の痛みを和らげる程度の為だけに、なんの躊躇いもなく自らを犠牲にした……という事か?
押し付けがましい自己犠牲の精神か……。
だが、そうするだけの理由はなんだ? 少なくとも、今現在の私に……彼らが特別視するほどの価値があるようには思えない。
「何故、君達は……私にそこまでする……?」
《ゆうだから♪ ゆうは、とくべつだから!》
「だから、ソレを聞いている。何故、私が特別なのだ?」
《わかんない》
「……っ。合理性に欠けるな。理由の説明すらまともに出来ないのかい?」
《りゆーがないと、だめなの?》
「……」
いる、だろう?
他者に依存するにも、それ相応の理由がなければ……辻褄が合わない。証拠が、根拠がなければ……その発言に説得力など生まれるわけがない。
信じられる……わけがない。
種火がなければ火は起きぬ。
種をまかねば草木は芽吹かぬ。
それと同じだ。
「嫌われ者である自覚はあったつもりなんだが……」
《きらいじゃないよ!》
「でも、他者は私を嫌う。それが普通だ」
《ぼく、にんげんじゃないよ?》
「……。……はは、たしかに……そうだったね」
人のモノサシで計れる存在であるはずもない……か。
私達にとっての善悪など、彼らには関係あるまい。
「ではもし、私が君達を喰らい尽くすと言ったら……? 君達は私に恐怖し、嫌うのかな?」
《なんで? ゆうがそうしたいなら、いっぱいたべてよ♪ ゆうがよろこぶなら、ぼくらもうれしい!》
「……。まいったね。……完敗だよ」
《あれ? なににまけたの?》
「いや、気にしないでくれ……」
必要以上の食物、もしくはマナを喰らってから力を行使すれば、あの不快な激痛に襲われることはない。
彼らの言葉を鵜呑みにするならば、そういうことになる。
検証の余地あり……かな。
◇◇◇
「……隊長」
「敵地のど真ん中だ。私語は慎め」
「すみません……。ですがやはり、僕にはあの少年を信用することはできません。賊の情報が確かなものだったとしても、その情報を手にした経緯や、奴らを淘汰する動機など、不可解な点が……」
「二度も、同じことを言わせる気か……?」
「ですが隊長」
「黙れと言った。戦場に私情を挟むな」
「……っ」
「それに、オレはお前達についてこいと命令した覚えはない。勝手に来たのはお前達だ。……文句があるなら、車内で待機していろ。邪魔者は不要だ」
「……。……黙ります」
草木をかき分け道無き道を進む三人。
最前を進むアイザを追うように、ロイドとリリアがついていく。
巧妙なトラップの存在から、敵がいるという情報の信憑性は十分。
口を開く余裕はあるものの、警戒を怠ることはない。
たった三人の少数部隊ではあるが、そこに新兵や中堅程度の戦力はいない。各個人がそれぞれに精鋭であり、その中でもアイザは……若くして、ずば抜けた実力と経験を積んでいる。
だから、魔族の上位種などという非常事態でも無い限りは、心配する事もないのだ。
イレギュラーが、なければ。
「ぷっ、副長ってば怒られてやんのー♪ ウケる」
「うるさいよ」
「まぁまぁ、コッチに八つ当たりしないでくださいって~。副長の心配もわかるんですよ? あ~のガキンチョ……な~んか、考えてる事がわかんないっていうか~。それを疑いもせず、こんな所まで来ちゃう隊長も隊長で変っていうか~」
「いつもの隊長でしたら、他者の意見に対し、まず疑ってかかる……ってイメージですしね。上の命令にさえ、気にくわなければ無遠慮に噛み付くような狂犬だって、有名ですよ」
「だよね~……」
「……お前ら、聞こえてるぞ」
「「聞こえるように言ってますから」」
「……愚痴なら後にしろ」
ため息混じりに一言。
二人もまだまだ言いたいことは沢山あったのだが……
「「……」」
空気から察した。
……いる。
二人の目視圏内には見当たらない。
自然を利用したカモフラージュ? 木々の上? 草木の隙間?
武器に手を掛け、瞬時に姿勢を低くした二人。ロイドは上方を、リリアは草木の隙間を、注視する。
対してアイザは、一気に前方へと駆け出した。
右手には抜刀された直剣が握られ、左手には……
「ちょ、銃がないからって、その辺の石ころ握って走り出す!? ふつう!」
「……あの人に常識を諭しても無駄ですって……。それより、リリアさん」
「わかってるって♪ ……四人、見っけた」
アイザの突貫に反応した敵は四人。
一人の元へとアイザが駆ける。相手も一瞬動揺を見せるもすぐに戦闘態勢へと移行するあたり、戦闘経験はそれなりにある。
そして、その近くに一人。左右、少し離れた位置に一人ずつ。大きく草木が揺れた。
「な、なんだ!? お前ら――」
言葉よりも早く、アイザの直剣が一閃。
命を奪うことはしない。
剣閃は相手の右手を切り裂き、返しの二閃目で腿を深々と切りつける。その間、一秒にも充たぬわずか一瞬。
「口より先に手を動かせ」
「――っ!!」
当然ながら激痛に叫ぼうとする賊だったが、瞬時に当て身で意識を狩り取る。
「叫ぶな」
まずは一人。
そして、間髪を置かず……近くで棒立ちを決め込んでいたもう一人の眉間へ拳サイズの石を投擲。命中。昏倒。
「……よし」
一応、近寄って生存確認。
「問題なし」
敵であろうと、命まで奪うつもりはない。
生きて罪を償わせる。それが当然の選択である。
「タイチョ~。いきなり突っ走るのはいいんですけど、いきなり顔面目掛けてデカイ石投げ付けるって……軍人の戦い方としてどうなんすか?」
「加減はしてる」
「だとしてもですよ!」
「それより、……ソッチは?」
荷物でも持ってくるように、ボロボロの大男二人を引きずって合流したリリア。
「だいじょーぶい♪ 殺してないっすよ!」
リリアに目立つ外傷はない。
アイザと同じ様に、上手く不意討ちで無力化出来たようだ。
「……ロイド」
「わかっています。……あと一人、ですよね」
少年が言っていた情報通りなら、この場にはもう一人……計五人の敵がいるはずなのだ。
今、この場には四人。
「警戒を解くな」
「……ほーい」
「…………」
見渡すが、コチラへ向けられる敵意ある視線は感じられない。だが……人の気配がないわけではない。
「……そこかっ」
パァンっ!!
ロイドはホルスターから拳銃を抜き、一本の樹木を撃ち抜く。
「逃がしませんよ」
確認がてらにロイドが近寄ると……――
◇◇◇
……体感として二十分程度は経過しただろうか?
車内で待機し熟考していた私は、複数の足音により現実へと意識を引き戻された。
やっと戻ってきたのだろう。
たかが十名程度の戦力を制圧するのに、これだけ時間を無駄にするとは……あまり喜ばしい戦果とは言いがたいな。
「おーい! ガキンチョー、無事か~? 死んでないか~?」
「リリアさん、まだ近辺の安全が保証された訳じゃないんです。大声は控えてください」
「あ、さーせん♪」
車内から出て、ソチラを確認すると……
……おや?
人数が増えているな。
一、二、三…………ふむ、気を失った大人が十名弱と……
私と変わらぬ程度の子供が二人?
「……ソチラの方々は……拉致監禁されていた人質の者達、もしくは奴隷の類いかな?」
「いや、討伐した賊だ」
「見たところ、息があるようだが……」
「……? 生きているのだから当然だろう。これから、拘束したまま国へ運び牢に入れる。その後の処遇は国が決めるよ」
「…………」
……そうか。
この世界でも、『命を大事に』なんて法があるわけか。
当たり前のように命の賭し合いを強いられる、こんな世界でも……、他者を殺せば後ろ指をさされる、と。
「ほれほれ! ガキンチョ達の相手はガキンチョがしてよ♪」
「「……っ」」
リリアに背中を押され私の前へと出された二人の子供。
私よりもみすぼらしい格好をしているが、二人ともそれなりに肉付きはいい。
ようするに、ちゃんとした飯を食していたということだ。
賊である親から恵まれたモノを、疑うこともせず……罪悪の意識を抱くこともなく……喰らって生きてきたのだろう。
その目からは、少しばかりの怯えと……溢れんばかりの敵意や殺意が見て取れる。
『賊の子』だ。
「聞いてよ。ソッチの男の子! 木の陰に隠れてた所を、副長が誤って狙撃しちゃって腕に怪我しちゃったんだよ! ありえなくない!?」
「ちょ、仕方ないでしょう!? 僕だって、こんな幼い少年だって知っていたら、もっと方法を考えて対処してましたよ!」
「……一々騒ぐな」
軍人さん達は……すでにお気楽ムードである。
年端もいかぬ少年と少女であるからか、拘束具すらしていない。
何故、腕を縛らない?
何故、脚を縛らない?
何故、自由なままにしている?
たしかに、こんな子供ならば……どうあがこうと、軍人を相手取ることは出来まい。
まともな戦闘にもなるまいよ。
だからと言って、何故……油断する?
「……ぜったい……」
「ん?」
「……絶対、頭が助けてくれる……」
「……」
「お前らなんか! 頭が、一人残らずぶっ殺して! 俺達を助けてくれるんだ!!」
「……ふむ」
「お前らなんか……、お前らなんかっ!!」
敵に拘束され、打つ手すらない状況下でさえ……戦意を失わぬ、強い意思。
仲間に対する絶対的信頼。
世が世ならば、きっと素晴らしい仲間愛だったのだろう。
……だから、なんだというのか?
「言いたいことは言えたかな?」
「……っ、頭は俺達を絶対に見捨てない! すぐに助けて――」
……ザシュッ……
小さな頭が、宙を舞った。
「同じことを何度も続けずとも理解くらい出来る」
きっと少年は、自身に何が起きたのかさえわからなかっただろう。
私自身も少々驚いている。
子供とはいえ……人の首とは、あんなにも簡単に千切れてしまうものなのだな、と。
血濡れた尾っぽを見つめ……ゆっくりと口元を歪める。
「……存外、脆いものだね。……人間って」
悦に歪む、汚い笑みで……。
「――っ!!?」
隣に立っていた少女は、その光景に……理解など追い付かないか。
悲鳴も忘れ、悲痛に歪んだ表情で言葉すら忘れ……
何もせず、いや……何も出来ず。
恐怖に怯えることも、その場から逃げ出すことも出来ぬまま……その場で立ち尽くす。
ただ……眼前の『死』だけを見つめて……。
「――っ!? ――っ! ――っ!!!?」
呼吸が荒いな。
子供が見るには、ショッキング過ぎただろうか……?
「ふふ、安心してくれ……」
「……っ! ……ぇ?」
「すぐに会えるよ♪」
……ズンっ……
その小さな体躯を……、鳴る鼓動を……、私の鋭い尾が深々と貫く。
皮も肉も骨も関係なく、易々と貫いた凶尾は……確実に、その命を狩りとったはずだ。
子供二人。
予測していたよりもずっと、……簡単だった。
「……ぇ? ちょ、え? あ……アンタ……なに、して――」
「…………っ!?」
おいおい。
軍人ともあろうものが、なんだいその反応は?
一人は呆然、一人は驚愕……。
たかが……二人死んだくらいで、なんて有り様だ。
予想外の事態にも臨機応変に対処出来なければ、失うしか選択肢はなくなるんだよ?
少しは……アイザを見習うべきだ。
「……本当に、君は模範的な軍人である、と称賛するよ。……隊長さん」
「なんの真似だ……」
瞬く間に突き付けられた刃が、私の喉元に当てがわれる。
持ち主はアイザ本人。
判断からの行動の早さ、子供相手でも凶器を躊躇いなく利用した、私の行動の抑止。
……見事だ。
だが……足りない。
「隊長さん。凶器を使うなら、有無を聞かず斬るべきだ」
「……っ。何が言いたい……」
「ソレは……他者を脅す程度の道具じゃないだろう?」
私は、突き付けられた切っ先に手で触れる。
鋭く、硬く、冷たい凶器。
「二度……言わせるな。……なんの真似だ、と聞いている」
「賊を殺した。……それだけさ」
「……相手は、子供だった……」
「だが賊だった」
「だとしても、無力なガキだった!」
「今は無力でも、数年後にはそれなりに力を付けている可能性があっただろう? 賊の芽を若いうちに摘んだだけだ」
「将来、彼らが賊になるとも限らないだろう! 改心の余地はあった!」
キャラに似合わず、大声で吠える。
生死に限っては、やはり感情的にならずにはいられないようだ。
「確かにそうかもしれないし、そうではないかもしれない」
「……それを、お前は……っ」
「だが、『賊の子』だ。親が他者から奪ったモノを喰らい、親が他者から奪ったモノを着、親が他者から奪うことで生きてきた子供だ」
「親と子は関係ないだろう……!」
「だが、被害者はそう思わないだろう? 自身から奪ったモノで出来た子供だ。……存在そのものが、さぞ恨めしいだろうね」
「親の罪だ」
「ソレを容認した子も同罪だ」
「……っ」
「罪に対し、共に償うのも『家族』というものではないのかい?」
「……っ、無関係だった可能性も……」
「それを言うなら、彼らも既に手を汚していた可能性もあるだろう?」
「…………ふざけるな」
「……。あぁ、それと……」
私が取り出したのは、アイザから護身用にと借りた拳銃。
スライドは引いてある。
セーフティも外し、銃弾の装填も確認済み。
その銃口を向けるのは……既に気を失い、倒れ付した大人の賊達。
「相手は人殺しなんだ。……生かしてやる理由はないだろう?」
「……っ!!」
私は躊躇いなく、引き金を――
「……おや、今度はコチラが言う番かな……。なんの真似だい?」
引こうとした矢先、その前に二人の大人が立ちはだかった。
メガネくんとおてんば娘。
どうやら、私の邪魔をしたいらしい。
「相手は賊だよ? 何故、かばう?」
「いや、……おかしいじゃん! アンタ、変だよ!」
「たとえ罪人であろうと、彼らだって生きているんです。殺すのは……やりすぎです!」
「……他人から、散々……命や尊厳を奪ってきた畜生以下でも、かい?」
「だからって、アタシ等が殺していい理由にはならないでしょ!!」
「……ふむ。殺されたのに、殺し返すのは駄目。奪われたのに奪い返すのは駄目。傷付けられたのに……傷付け返すのは駄目……。なるほど、『善い人』というのは……本当に難しいね」
銃口は下げよう。
こんな所で弾を無駄にするのも、あまり良策と言い難いしね。
大人しく拳銃をホルスターへなおし……――
手を上げ、ゆっくりと歩く。
一歩、二歩と……
ゆっくり前へと。
私の様子から何かを察したのか、やっと剣先をおさめたアイザ。他二人も、緊張を解く。
そして、賊の目前へと辿り着いた。
――……ザシュ……ベキバキッ!
「「……っ……ぇ……?」」
私の選択は……もちろん、先程のなぞり書きだ。
「……お前」
「おいおい、彼らを護りたいなら、なんで私を解放するって選択に行き着くんだい? 何を勘違いしたのか知らないが、……殺さないわけないだろう? そもそも、私の目的は彼ら賊の殲滅だ。最初から、一人たりとも生かしてやるつもりはない」
「……っ!!!」
「そう恐い顔をしないでおくれ。……私からの要望を忘れたのかい?」
そう。
出発前にちゃんと、言っておいたはずだ。
「「お前の邪魔をしない」……だったか」
「ああ、その通りだ。今更だが、やっぱりやめる……なんて言わないよね? 軍人さん」
「……人の命を……なんだと思って――っ!」
「悪いね。他者が言うには、私は『人』では無いらしい」
「っ!! だとしても、人として生きていきたいのなら――」
「勘弁してくれよ。……私は子供なんだ。難しい大人のルールなんてわかんないのでね」
「「「……っ」」」
「ほら、あと四ヶ所だ。……止めたいなら、止めてみなよ……」
私は嗤った。