第5章
思い立ったら即行動……といきたいところだが、不自由の身であることに変わりはない。
自身で動けぬ以上、違う策を用意しなければならい。
脱走してもいいが……誰にも悟られず出られるわけもなく、私の身勝手にハルが黙って待機するとも思えん。
どうするか。
「……やはり、他者を利用する他ないのだろうな」
だが、誰が使える?
こんな子供の言葉を、真に受ける愚兵などいるまい。
場所はマナに確認済みだとしても、そこまで……どうやって有力者を動かすか……。
むろん、中途半端な戦力ではダメだ。
敵数は数十人単位、手練れでなくとも数の暴力という言葉がある。
「……」
私自身の理想の為に、なるべくなら早々に……消しておきたいところだが……。
とりあえず、マナに導かれるように……私は街の軍事支部へと向かった。
「使い勝手のいい駒はないか?」という私の呟きを聞いてか、《こっちにきて》と道案内された先が、ココだったのだ。
たしかに、一般人よりは鍛練を積んだ兵が揃っているだろうが……、前にも述べたように、子供の言葉を鵜呑みにするクズなど居まい。
言葉の信憑性を証明しようにも、かなりの時間を無駄にしかねない。
そして忘れてはならないが、私はこの街の人間にことごとく疎まれている。協力者……というか、使用可能な駒は多くない筈だ。
……だというのに、どうするというのか……
「あー! あー! 君はたしかっ……えーっと……可愛くないマセガキ!!」
「……? あぁ、あの時私を保護した者達か」
施設の出入口から出てきては、即座に私を見分け出し騒ぎ立てる女性。
その後方から続いて、見覚えのないメガネをかけた軍人の青年と、隊長と呼ばれていた男性が出てきた。
はて……
彼らは近隣国専属の兵士であったはずだが、何故この街に来ているのだろうか? ……まぁ、どうでもいいか。
「おーおー♪ この数年ですっかり大きくなっちゃって~。あ、なんだか親戚の子供見てる気分♪ 元気してたか~?」
「君もまだ生きていたのだね」
「……いら」
「このような世界では、軍人とは短命な職業だと認識していたものでね。……君のような、短気で直情的な人間が生き残れているとは、意外だった」
「……あーー! ホンット可愛くないっ!」
「子供の挑発くらい平然と受け流せないのかい?」
「うっさいし! 君は知らないだろうけど、こう見えてアタシ――」
「実力自慢はいい。耳障りだ」
「……――っ!! ハっラっタっツゥウウウ!! 隊長! 隊長ー!! あのマセガキがアタシを虐めますー! 正当防衛で一発ぶん殴っても――」
「いいわけないだろうが……。落ち着けバカ」
騒ぎ立てる女性はひとまず無視し、私の視線は隊長へと。
私の見立てでも、そこらの軍人より遥かに有力であるように見える。落ち着いた物腰もだが、警戒しているように見えないのに付け入る隙のなさ。なにより、纏う空気や威圧感が別格だ。
雑兵と切り捨てる事は出来ない。
……ふむ。交渉の余地はあるか……
「……久しいね。軍人さん」
「仕事で寄ったついでに、君の様子も確認しておこうとしていたのだが……ソチラから来るとは驚いたな」
「まぁ、それは気にしないでくれ。たまたま近くを通りかかっただけなんだ」
「……」
「……疑うかい?」
「いや、コチラとしても手間が省けて助かった。無駄な詮索をするつもりはない」
「賢い選択だね」
信頼ではない。
あの男は私を信頼などしていない。
ただ、コチラの意図を察しているだけだ。
「何故か?」と問うても、彼の望む答えが返ってくる事はないとわかっているのだろう。
当然、答えるつもりはない。
「そうだ……。君達に頼みたいことがあるのだが」
「……すまないが、少年。僕達も暇でなくてね」
会話に横入るように、メガネの青年が入ってきた。
君に話し掛けたつもりはないのだが……。「達」と複数形にしてしまったから、自身も数に含まれると思ってしまったのだろうか?
それとも、子供の言葉に耳を貸すつもりはない……といったところかな?
「話すら聞けぬ程、多忙なようには見えないが?」
「無駄なことに使う時間はないと言っているのだが? 子供は子供同士で遊んでいればいいだろう」
「……。君達軍人は、周囲の賊の討伐も仕事の内なのだろう? 我々、『無力な民』の為に……力を貸してはくれないかい?」
「……はぁ、あのね。僕の話聞いてたかな……? 子供のお遊びに付き合っているほど、僕らは暇じゃないんだ。それに、この近隣に賊の存在は確認されていない。……わかるかな?」
「『グリード』と名乗る山賊をご存知だろうか?」
「……。A級指名手配中の危険集団だね。孤児院にいる子供達の何人かは、その『グリード』に両親を奪われたとか……。だが、残念なことに……奴等のアジトは判明していない。現在進行形で捜索中だよ」
コチラの説明は必要なさそうだね。
前以て知識を有しているというのならば、話は単純で早く済む。
「……知っている、と言ったら?」
「信用できない」
「……そうだろうね。愚かだ」
「この街に来てから、一度も街の外へ出ていない筈の君が、外の現状を把握できるわけがないだろう。大人をからかうのも大概にしないと……君自身の信用に関わってくるよ」
「もしも、拠点を直接攻め込むとして、完全制圧に必要な戦力はこの街にあるのだろうか? 敵数は百には届かずとも、少なくはないようだが……」
「……君、人の話を聞かないね。軍人ごっこがしたいのなら――」
「暇ではない君達の為に、わざわざ要点だけまとめて話しているのだが。聞く気がないのなら消えてくれて構わないのだよ? ……臆病な軍人さん」
「……っ。……隊長、行きましょう。聞くだけ時間の無駄です」
呆れて歩き出すメガネ君。女性もソレについていくが……隊長と呼ばれる男一人だけは、私をジッとその場で見ていた。
バカらしいと、私の言葉を笑うこともなく……。
その目で見極めようと、私を観察している。
「もし、その情報が真実だったとして、お前が『グリード』を制圧したがっている理由はなんだ?」
「隊長……!?」
「まさか、こんな子供の戯言を――」
「お前に直接的な恨みがあるようには見えないが……。他者の仇討ちか? もしくは、今後……この街へ攻めてくるのではと警戒しているのか?」
「……理由か」
ジッと……私の目を見据える。
正当な理由でも求めているのだろうか?
「そんなもの……『目障りだから』で十分だろう?」
「……」
「邪魔になりそうなものは早々に消しておきたい、と思うのは不思議なことだろうか?」
「お前は……何を考えている?」
「……子供の考えていることなど、大人には理解出来ないだろう? 言葉にしたところで、それこそ無駄だと思うが」
小馬鹿にしたような戯けた瞳で嗤い返す。
挑発にもならぬ、単なる言葉遊びだ。
よく大人は言うだろう?
子供にはわからない……と。
では逆に、大人は子供のことを……ちゃんとわかっていると言えるのかな?
昔の子供と今の子供は違う。
そもそも、大人同士や子供同士でさえ……何もわかり合えはしないというのに……。おかしな問答を思い付くものである。
部下二人はあまり面白そうではないな。
対して、この男……。私の言葉に憤るでも不快感を面に出すでもなく、一点に私の目を見つめ返し……私の言葉をバカ正直に反芻しているようだ。
『たかが子供の戯言である』と、簡単に切り捨てたりせず……。
……扱い辛い、な。
「では、言葉ではなく……行動で判断させて貰うとしようか」
「……ほう?」
「リリア、ロイド。……今日、明日は空いていた筈だったな?」
「ちょ、た、隊長っ!?」
「……正気ですか?」
それが『普通』の反応だ。
根拠もない子供の言葉など、信じられるわけがない。
疑り深く、用心深く、思慮深い、賢き者ならば尚更……。
「……君は……こんな子供の言葉を、疑わず鵜呑みにすると言うのかい?」
「お前が俺を騙す事にメリットがあるようには見えない。……そして、俺がお前を信用して被るデメリットに心当たりがない。……子供には難しい言葉だったか?」
「……ふふ、いいね。徒労に終わりかねない選択だと自覚はあるんだろうね……」
「疲労程度で済む話なら断る理由はないだろう?」
「……上等だ」
その言葉が虚勢でないことは目を見ればわかる。
「隊長! 待って! 待ってください!!」
「……リリア、まだ駄々をこねているのか……。俺の決定に異論を唱える気か?」
「そーじゃなくって! アタシの……連休は? せっかく早く街に到着して、久々の二連休を堪能しようと思ってたのに!」
「……はぁ、そんな事か」
「そんな事じゃないですよ! 休日は大事っ!! 超絶大切ですー!!」
「ロイド、お前も同意見か?」
「……。正直、信用の置けない情報に踊らされるのは……勘弁願いたいところです」
「……そうか」
どうやら、やる気なのは隊長さんだけのようだ。
「どうするんだい? 部下二人にはフラれてしまったようだが……」
「……どうするもなにも、俺一人で行くしかないだろう」
「「――っ!?」」
「それこそ、正気かい? 敵数は少なくない、と……つい今しがた説明したと思うのだが」
「魔族の群れってわけでもないなら……まぁ、なんとかなるだろうさ」
「……愚策だよ」
「今、この街に、俺が個人的に動かせる兵は……そこの二人だけだ。二人が休息を望むなら、俺だけで動く他あるまい」
「他に兵を集めればいいだろう」
「この街の防衛に関わる」
「民から有志を募るとか」
「守るべき民を危地に連れていくわけにはいかないだろう?」
「…………」
「悪いな。子供には理解できない『大人の事情』ってやつだ。……不満か?」
私の言葉を返すように、子供扱いは変わらぬまま、男は何事もなく告げる。
余裕か? 蛮勇か? 自身の実力を傲っている? それとも、私の言葉などはなから信用していない? または、遠目にでも賊の存在を確認してから援軍を呼ぶ気か?
これだから、奇抜な思考をとる人間は……利用しづらいのだ……。
「わかった。では、賊の情報を提供する代わりに……私からもいくつか条件を提示してよろしいかな?」
「……条件ね。お前の望みは、賊の制圧ではないのか?」
「それは、君達軍人の仕事だろう? 私が望まずとも、君達にその賊を放置する選択肢はない」
「たしかにな。……その条件とやらを言ってみろ」
「まず一つ、私も同行させること」
「却下。さっきも言ったはずだ。民を危地に連れていく気はない」
「私を『民』の枠に数える必要はない。死して悲しむ者など……まぁ、兄一人くらいなものだ。この街にとっては、私という存在は疫病神のような扱いさ」
「だとしても――」
「当然、足手まといになるつもりはない」
隊長に右手を差し出す。
「君の持つ、その銃器……お借りしてもいいかな?」
「……これは子供の玩具ではない」
「知ってる。……他者を殺す『おもちゃ』だろう?」
無邪気に笑う。
その言葉に何を思ったのか、隊員二人の顔が急に強張った。鬼気迫る雰囲気……とでも言うのだろうか?
隊長に至っては、苦虫を噛み潰したような……痛々しい同情の目を向ける始末。
はて?
私は何か間違ったことを言ってしまっただろうか?
「隊長、わかってるとは思いますが……」
「ぜーったいに渡しちゃ――」
「ほら、使ってみろ」
「「……あー……」」
「ありがとう。君は話が早くて助かるよ」
すんなりと渡された拳銃は、このファンタジーな世界には不釣り合いそうな……自動式拳銃だとは……。
世界観的には、マスケット銃やリボルバーなどを想像していたのだが、ジープといいオートマチックピストルといい、中途半端に文明が進化……というか、私が元いた世界の文明を彷彿とさせるものがあるな。
マナの言っていた、招喚者や転生者、来訪者とやらが少なからず影響を及ぼしているのかもしれない。
銃の仕組みも……ふむ、やはり同じようだ。
弾倉、セーフティ、スライド、銃弾の構造まで同じとは……。
だとすれば……
……ガチン……、……パァンッ!!
渇いた弾薬の炸裂音が、どこか懐かしい。
撃ち出された銃弾は目に追えぬ高速を以て……少し離れた樹木の幹へ深々と傷痕を残した。
「……ほぅ、使い方は熟知しているようだな……」
狙い通りの的に命中させたはいいが、やはり子供の身では反動が少々響くが……連射することに支障はない。
今の一発で銃の感覚もだいたいは把握できた気がする。
変なクセもなさそうで安心した。
「使い心地も悪くない。よく手入れされているようだね。見てわかるように、自己防衛行動くらいは問題ない。少なくとも死ぬ気はないよ」
「…………はぁ」
「同行を許可していただいても?」
「……しょうがない。そのかわり、その銃は護身用にお前が持っていろ。それと防護服……はサイズがない、か。同行は許すが……戦場に首を突っ込むことは許さん」
「自ら危険をおかすようなことはしないさ」
「ちょっと! 隊長、待って!! 味方もいない上に、装備まで減らすなんて……いくら隊長でも無謀ですって! 無茶ですよ!!」
「それに、その子がもし事実を述べているのだとすれば、敵の罠である可能性もあるかもしれません」
付いて行く気もないのに、ベラベラとうるさい部下だね。
「だとすればその時だ。それで死ぬようなら、オレはその程度の実力だったというだけ」
「……わざわざ死にに行くおつもりですか……!」
「まさか。死ぬ気で戦場に赴くつもりはないさ……。だが、万一の場合は……そうだな。副官のお前に隊の指揮を任せる」
「――っ!?」
「隊長命令だ」
「…………わかりました」
まるで、駄々っ子を躾ける親のような会話だな。
その程度の口約に言葉を必要としている時点で、そこに信頼関係などありはしないだろうに……。
もしも、今の状況が……私とあの子だったなら……――
彼女ならばそもそも、自分だけ安地で待機する……なんて選択はとらないか。
……彼女……か。
「……まさか、私ともあろうものが……。昔の女を思い出してしまうとは……」
誰に聞かせるでもなくポツリとこぼれた言葉。
生前、私なんかを慕い……死ぬ時まで共にいてくれたあの子が脳裏をよぎる。
彼女は有能であった。
有能であり、とても扱いやすい人材だった。
こんな風に……私の行動を一々阻害する事もなく、むしろ成功確率を上げる為に良案を提案してくれる。
くだらん感情論で物事を判断せず、慨嘆を吐くような事もない。
「やれ」と言えば、必ずやりとげる。
自身や他者の命よりも、私の言葉を優先する。そんな女性であった。
……はぁ
アレは、よかった。
それに比べ、この者達は……
「隊長はもっと命を大事にしてくださいよ! いつもはもっと、……なんて言うか……もっとクールじゃないですか!? どうして、こんな子の話を間に受けるんですっ!?」
「……仕事に私情を挟むなんて、貴方らしくもない」
「……ふむ」
二人の部下に説得を受け、男はうんざりとしている模様。
たしかに、二人の意見は正論であり、その二人から見れば……この隊長の選択は理解できないのかもしれない。
むしろ私でさえ、何故この男が私の言葉を信じようとしているのか、わからん。
「ならこう考えてみろ」
「「……?」」
「この二日間の休日、俺はこのガキと外で戯れる為に使用する。その最中に、『たまたま』賊と遭遇する。俺が俺の休日をどう使うかは俺の自由だ。……これで文句はないな?」
「「大ありです!」」
「……ちっ、めんどくせえ……」
あ、本音が出た。
本気でめんどくさそうな顔をしてるな。
「お前らが何を言おうと俺は行く。説得は無駄だ諦めろ。……行くぞ」
「あぁ。一応、それなりに距離もある。移動に車を利用することをオススメするが」
「リリア、車の鍵を」
「……」
「……リリア」
「行きます」
「……は?」
「アタシも行きます! あぁ、行ってやりますともさ!! きっ……ちょぉおおな休日返上して! 隊長の気まぐれに振り回されてやろうじゃん!! つーか、隊長の危なっかしい運転じゃ車が駄目になっちゃいそうで、普通に預けたくないです」
「……僕も付き合います。これ以上、ただでさえ少ない人員を失う訳にはいきませんし……。正直、僕はその少年を信用できません。……罠や裏切りの警戒は僕の仕事ですし」
「……ふん。勝手にしろ」
やれやれと肩を竦める隊長さん。
随分と遠回りをしたものだが、結局はこの三人が同行するという結果になったわけだ。
しょうもない茶番を見せられているようで、コチラとしてはとても不快なのだが……、またダラダラと会話を続けるのはこりごりなので、口には出さない。
「うわ、メッチャ眉間にしわ寄せてるんですけど! このガキンチョ……」
おや、顔には出てしまっていたらしい。
自重しなければ……。
「そういえば、名を聞いていなかったな……」
「コチラから名乗らなくとも、どうせ知っているのだろう?」
「あぁ、知っている。……だが、お前から聞いたわけじゃない」
「……君も大概、めんどうな性格をしているね」
「言われ慣れてる」
「……ユウリスだ」
「俺はアイザック・ヴェルカ。アイザで構わない。この二人は……」
「こちらから名乗れと頼んだ覚えはないのだが? どうせ覚えるつもりもないから、必要ないよ。……記憶要領の無駄だ」
「そうか」
あからさまに眉をしかめたのは部下二人か……。
もちろん、事実を述べただけで挑発や侮蔑の意図はない。生前でも、他者の名を覚えることはなかった。
「そうだ、この周囲の地図はあるかい? 口頭で説明するよりも、図面で説明する方が楽だ」
「……。……どうぞ」
「ありがとう」
さて、不機嫌なメガネ君から中々に精密な地図を受け取ったはいいが……どうせ、私にはどこに何があるかなど理解できない。
そもそも、この世界の文字すら理解できていない上に、地理を把握する為の外出すら阻害されていた為、現在地すら不明だ。
「……マナ、聞こえているね?」
《やっと、ゆうがよんでくれた♪ よんでくれたー♪》
「この地図に、例の山賊の集落を示してほしい。可能かい?」
《まかせて!》
私の拡げた地図に、他人からは不可視である優しい光が集まってくる。
ソレは淡く、小さな輝きとなって……いくつかの点へと変わる。数にして……五つ。それぞれバラバラの場所に別れていた。
縮図の度合いが不明であるため、点毎の距離は正確ではないが……
コレが各拠点を表しているのであれば、電話などの通信手段がない世界で……長距離間隔で拠点を置くとは考えづらい。
「……憶測で判断するだけ無駄……か」
「……? まさかとは思うけど、地図の見方もわからないのかい?」
「いや、字は読めないが図は理解できるよ。すまないが、書くモノはあるかな? 銃弾で貫いてもいいが、数ヶ所拠点があってね……。何なら、血で汚そうか?」
「やめてくれ。貴重な地図なんだ……」
受け取った羽根ペンで地図に拠点の地を記し、メガネ君へと返す。
「……あぁ、この地図に賊の拠点は記したが……、もう用済みだと私を放置する事は許さないよ? ……そんなズル賢い大人には……」
……ガチャン……カチャ
「いたぁいオシオキだ。……言っておくが、私は他者を殺す事に情は挟まない主義でね……」
「……っ、最初からそのつもりはない。だから、銃口を下げてくれないかな」
「うん、賢明な判断だ」
「君、本当に子供なのかい?」
「見た目通りさ。……将来、『良い大人』にならない事だけは保証するよ♪」
「…………」
ああ、君の言いたい事はわかるよ?
「気味が悪い」だろう?
それこそ聞き飽きた……。
「そういえば、ユウリス。お前の言っていた条件……当然一つじゃないんだろう? 情報の提供を受け取った手前、叶えてやる義務がある。言え」
「……君は随分と律儀だね……」
「ギブアンドテイクだ」
「……では――」
私は、もう一つの『ちょっとした要求』を彼らに伝えた。
そして予測していた通りに、彼らの顔には嫌悪感がベッタリと浮かんでいた。
やはり、普通の人には理解できないのだろう。
私の目指す『悪』とは、他者の不理解の先にあるようだ。