目覚め2
レインは目を覚ました。
やはり記憶が戻っても今までの習慣はそのままのようで、太陽が上がると同時に起床だ。
大きく伸びをした後、よしっと呟く。行動開始だ。
まずは村長を尋ねることにする。小さな村だからそれほど遠くなく、家を出て5分ほどで着いた。
「おはようございます」
「おお、レイン。よお来たのお」
入りなさい、と言う村長に従って他より大きい家に入る。
「して、どうしたのじゃ」
「質問があってきました。魔法学園の入学についてですが、能力を持っている者は誰でも入学できる、と言うのは本当ですか」
「ふむ、その前にお主……そのような話し方が出来たのじゃな」
眉毛に隠れそうになっていた目がわずかに大きくなる。
「村長、僕ももう十二歳ですよ。それくらいわけありません」
「他の家の子どもはそんな丁寧に話せなんだが……えらいのう。質問の答えじゃが、本当じゃ。入学式の前日に行われる能力試験で試験官に認められれば、入学できるぞ」
「本当ですか!それが聞けて安心しました!それでは!」
「待たんか。お主、能力を持っておるのか?もし狩りや農作物に影響があるなら能力について教えてくれぬか、是非、村の発展に役立ててほしい」
「残念ですが、まだ僕もよく分かっていないので教えられることがありません。それと能力については他言無用でお願いします」
分かったぞい、と言う村長に背を向けて家を出た。
「あやつ何を急いどるんじゃ……?」
内心昂っているレインにはその呟きは聞こえなかった。
村長宅を出てしばらく歩き村のはずれの森についたレインは早速、神からもらった能力を試すことにした。
「さてと。名前で決めてしまったがどんな能力だろうな」
「ふぬおおおおおおおお」
出ない。
「こおおおおおおお」
出ない。
「はっ!」
出ない。
「%△#?%◎&@□!!」
出るわけがない。
「くそぉ……発動方法聞いておけばよかった……」
神様に質問していた時は世界についての質問ばかりで、能力については全く聞いていなかった。何となくで発動すると思っていたからだ。
それからと言うものの、家の手伝いが終わればすぐ森にきて能力発動を試し、家に帰れば自室を真っ暗にして瞑想してみたりした。
一年が経過した。
「あっという間の一年だった……まじで……僕の異世界冒険譚、最初の一年ただただ無駄だった……」
そう嘆きながら不貞腐れていたレインに朗報が飛び込んできた。村長曰く、能力持ちの冒険者が隣村にやってきたらしい。
行くしかない、そう決めたら早かった。両親を勢いで半ば強引に説得し、村長にも頭を下げた。
両親は心配して粘ってきたが、村長は太っ腹にも村に一台しかない馬車を用意してくれた。
「わしは投資が好きなんじゃ」
その投資好きの結果がこのオンボロ村なのは皆知っていた。
それでも嘘ついているかもしれない若者の未来に投資するということは善人なのだろう。冒険者になったら、ちょっとばかし村にも金を贈ろうと思うレインであった。そのとき村長が生きてるかは微妙だが。
村長が馬の扱いに長けた者を呼び、その男と共に馬車で隣村に向かった。
隣村までは馬車で二時間、この世界ではそう遠くない、むしろとても近い距離だ。レインの肌感覚でもやはり到着まではすぐだった。
「よし、着いた。ありがとうおじさん!帰りはこの村の馬車に送ってもらうよ」
あいよ、と返事した男は帰っていった。
小さな村どうしではこうやって馬車を出し合うことでお互い無理なく長期滞在出来るようになっている。
ただし、簡単ではない。その分の費用は先に送った側が送り返す側に手間賃として金銭を払う必要がある。
やはり今回の馬車の手配は投資である。レインの未来のために村の金を使ったのだから。
そうであればその気持ちを無駄にするわけにはいかない。
それに、レインにとっても自己投資と言える千載一遇のチャンスなのだ。この機を逃してもう一年ただ農作業なんて、とんだ笑い種だろう。
改めて気を引き締めたレインは冒険者を探し始めた。
「酒場なんてあるわけないし……やっぱり村長宅を訪ねるのが一番か」
そう言って畑に挟まれた一本道をとりあえず進む。ついでとばかりに村の様子を観察しながらしばらく歩くと、村の広場らしき場所に出た。
「お、あれが……!?」