目覚め
僕が12歳になった日、僕は目覚めた。
いや、意識は元々覚醒していた。それでもなお、目覚めた。
奇妙な感覚だった。いつもの農作業にひどく違和感を覚える。離れた場所にいる父親が他人のように思える。
知らないものを知っている、知っているものを知らない。僕が誰かも疑わしい。
突如、耐えられないほどの頭痛が僕を襲った。
「っぐ……うお…っ……」
うずくまる僕に父が駆けつける。
「レイン!」
父の声と足音が聞こえたが、到着を待たず僕の意識は深く沈んでいった。
「ううん……」
頭がスッキリしている。色々思い出した。そうだ、僕はレイン=コルドで、農民の息子で……転生者だ。
「僕はレイン=コルドだ」
うん、発音も違和感ない。
ふと周りを見渡した。ここは僕の部屋だ。気を失った僕を父がここまで運んだのだろう。窓の外を見るともう夕方で、太陽が山に隠れようとしていた。
太陽の様子を認めた僕は、そのまま頭を整理することにした。
あの太陽は地球と変わりない。空の様子は全てそうで、この世界にも宇宙があるんだろう。文化レベルからして関わりを持つことはないのだろうけど。大地もそうだ。特に変わりはない。
少し違うのは生き物だ。ミミズやバッタなどはいない、似たような生物が代わりにいるけど。それに猪みたいな奴もいる。
そして決定的に違うのは魔法だ。幸か不幸か、農民だから見たことないけど。その分見たときの感動は格別だろうな。
こうして考えると、慣れた仕組みの世界に転生させてくれてありがとう神様、と言いたくなる。
ふと、下の階からいい香りが登ってきた。夕飯ができたらしい。
「いくか」
階段を降りていくと両親と目があった。
「あら、レイン。大丈夫なの?」
「うん、もうすっかり」
「俺一人でも仕事は問題ないから、明日はゆっくりしておけ」
「そうするよ」
誕生日とあって少しばかり豪勢な食事を楽しんだ僕は、自室に戻って考えをまとめることにした。
テーマは、これからどうするか、だ。
ゆっくり農民ライフを楽しむつもりはない。せっかくこの世界に来たんだから、剣と魔法は外せない。
もったいないことに今日までの僕は農民で過ごすつもりだったらしいが。
それも理解はできる。剣と魔法の学校に入るには才能を示す必要があるため、普通は無理だからだ。体格に恵まれた者が剣を練習したならなんとか、と言うレベルだ。
だが、剣と魔法以外にも一つだけ道がある。能力だ。
風の噂だが、能力を持つ者なら誰でも入学できるらしい。
つまり、僕がやることは、噂の真偽を確かめ、それが真ならば、入学までの三年間で能力の発動を覚えること。
試験で能力を見せられれば僕の入学は確実だ。
まあ学園に入らなくても冒険は出来るんだけど……それはナンセンスだ。
よし、明日から行動開始だな。今日は希望と共に眠ろう。