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救助者

一行は、ゾロゾロと階段を上って4階にまで

たどり着いた。

かつては、非常階段と居住階を繋ぐドアには

シャッターが閉められていたのだが

今や、ダイヤル錠だけが掛けられている


やがて、4階の廊下に外界を背にして、つまり、

腰壁沿いにズラリと暴走族6人が並んだ



ミカが言った



「行進辞め、気を付けい、脱兜、休め」



暴走族たちが流れるような動作で

フルフェイスヘルメットを脱いで脇に抱えた


特殊部隊のスーツにヘルメット、そして

AK-74を手にしたタロが言った



「さて、先ほどもカナエが言った通り

 ようこそリバーサイド同盟へ


 まずは、あなたがたがどこから来たのか、

 なぜ、ここに来たのかを教えて欲しい」



ミカが続けていった



「正直に答えないと、あなたたちの金玉の中に

 鉛の玉が埋め込まれることになります」



これ見よがしにマカロフを片手に持ちながら、

並ぶ6人の前をゆっくりと行き来するミカ


中学校のジャージ姿の

華奢な少女が前を通るたびに、

暴走族の背がシャキンとなる



カナエがあわててフォローした



「あ、ええっっと、私たちも

 自分達の身を守るために

 仕方なくやっています。

 気を悪くなさるでしょうが

 どうか、ご理解くださいね...」



暴走族6人の中の、リーダー格っぽい男が

答えた



「ああ、県知事ゴンドウが、

 あんたたちのことをボロクソに言ってたし、

 俺達だってこんなナリだ。

 警戒する気持ちは分かるぜ

 

 俺達は、向こうの団地の公民館から来た

 

 来た理由は、あの放送を見たからさ。

 誰にだって分かる、ゴンドウは

 生き残りを見捨てるつもりだって」



男の年齢は、タロやカナエと

あまり違わないくらいだろう。

他の連中も、

少なくとも20台半ばくらいに見える


これでも、高齢化の一途をたどる

暴走族の中では若いほうなのだ



タロが言った



「その公民館には他の避難者は

 居なかったのかね?

 彼らの人数は?食料や健康の状態は?」



ミカが続けて言った



「もしも、他の方々に対してひどい行いを

 していたのであれば、

 正直に言ってください。

 地獄のような目に会わせてあげます

 

 でも、正直に言わなければ、

 もっと地獄を味わわせてから

 本当に地獄に行かせてあげます 

 

 まずは、あなたたちの金玉をぶっ潰してから

 棒を切り取ってその口に突っ込みましょう


 本当のことが言いたくて

 たまらなくなるくらいに

 奥まで突っ込んであげましょうか?」



暴走族の何人かは泣きそうになっている


リーダー格の男が

ガクガクと震えながら言った



「おいおいおい、俺達がヒャッハーしたとでも

 思ってんのか?

 誤解だぜ、あの公民館は最近できた

 立派な建物でね、

 設備も整っていたから俺達はそこに

 立て籠もろうって決めたんだ


 んで、先客が居たんだが

 そいつらは、団地から避難所まで

 逃げることのできない独居老人どもでよ


 は?かよわい老人たちを

 俺達が虐待したとでも?冗談じゃねえ!


 集団になったジジババどもほど、

 手に負えない生き物はいねえんだ!

 

 さらに昨日、あのゴンドウの放送を見て

 俺達は完全に絶望の淵に落とされた


 でも、直後にあんたたちのことを知って、

 ふいに希望を抱いたんだよ!


 実は、公民館からこのマンションまで

 直線で700メートルくらいの距離だから、

 屋上から荷物が運搬されている光景が

 望遠鏡で確認できるんだ

 

 SNSとかで調べてよ、学校の書き込みで

 ロープウェイが使われているって知って、

 なら、このマンションしかねえって

 思ったらビンゴだったってわけさ


 そういうわけで、俺達は

 公民館から逃げてきたんだよ


 それとな、公民館の食料は、

 大飯ぐらいの俺達が居なくなったんで

 あと、2~3週間は持つんじゃねえかな?

 ジジババどもは

 健康ではち切れそうだったぜ」



マカロフの銃口を向けながらミカが言った



「あなたのその大ウソつきの金玉は

 ウソがバレるのにビビッて、

 萎んで小さくなりすぎてて

 狙いがつけにくいですよ」



凍えるほどに冷たい表情のミカ


キラリと光る眼鏡の中の目は

まるで死神のようだ


タロは密かにビビっている


カナエが、両手にそれぞれ持った日本刀と鞘を

ブンブンと振りながら大慌てで言った



「ミ、ミ、ミカちゃん、思い出したわ!

 ショッピングモールの避難者の中に

 団地の娘が居て、指定避難所に向かうのを

 拒否したお年寄りたちが居たって言ってた!

 彼らが言ってることは本当よ、信じてあげて」



ようやく、ミカが銃口を下げた



そんな光景を眺めながら、タロは思った



(だよなあ....暴走族とは言っても、

 所詮は、やってきたことは迷惑行為とか

 その程度だろう

 

 世界がこんなになって

 追いつめられたとしても、人はそうそう

 外道に走ることはない。

 ましてや、人殺しなんてな....


 そう、俺はすでに人間を25人も殺している

 

 親父に、会計士夫婦に息子、チンピラに

 重機レンタル会社のヒャッハー13人に

 BOSS団員7人....


 25人だぜ、どんだけ大量殺人鬼なんだよ)



本当に、自分のした行為は

許されるものなのか?



タロは、隣で心配そうにしているカナエの肩を

ポンと叩いて言った



「カナエ、彼らをどうするつもりだ、

 このマンションに住まわせるのか?

 条約の中には、出来るだけ君たちの手助けを

 するという条文が入っていたからな」



しかし、カナエが言った



「ええ、でも、そのかわりにタロちゃんは

 居住地の不可侵権を保有してるわ。

 プレッパーズが一番重視することを

 ないがしろにはできないでしょ、

 彼らは私たちが引き受けるから安心して


 そうね、ロープウェイで避難所の学校に

 送るしかないわね

 

 物資の代わりに彼らが来ることで

 学校の人たちはガッカリするでしょうけど」

 


こうして、暴走族6人は、

ロープウェイで運搬されることになった


運搬は最後の2便で行うことにして、

その間は屋上のペントハウスで待機させ

食事もとらせることにした


そしてタロは、暴走族の中の3人に

声をかけた



「なあ、缶詰を給与として支払うから

 一仕事請け負ってくれないか?」



缶詰と聞いて目を輝かせる暴走族



タロは言った



「大した仕事ではない、4階の

 とある一室にあるものを片付けて欲しいんだ


 2つあるんだが、

 ベランダに運んで、そのまま地上に

 投げ捨ててもらうだけでいい

 

 この缶詰は、アメリカの会社が製造した

 完全食でね...」



やはりタロは相当にクズだった.....




 

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