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サバイバル

二人の居るマンションは、屋上に

ペントハウスがあって

さらにソーラーパネルが隙間なく

敷き詰められていた。

3階にスポーツジムがあって2階に雑貨屋があった。

それらの店舗は、2重のシャッターで

厳重に封印されていた


それぞれの店主が、荒らされないように

閉めていったのだ


そして、1階と地下1階は駐車場で、

それも2重のシャッターで閉められている。

つまり、外部から侵入することは

もはやできないのだ


ミカは、マンションの上階の自分の家に戻って

私物を取りに行きたいと言ったが、タロは言った



「もしかしたら、ミカのようにマンションに

 残っている連中がいるのかもしれない、

 住民たちが一斉に避難して行った後、

 俺はシャッターをロックしたんだけど

 例えば、ゾンビに噛まれてそのまま

 家に引きこもった住民がいたとしたら?

 もしくは生きていたとしても

 気が気が狂ってしまっていたら?

 このマンションの上階といつかは

 行き来できるようにするべきだけど

 万が一の危険を考慮して

 しばらくは外に出ないほうがいいだろう」



タロにとっては、2階と3階と屋上以外は

どうでもいいのだが

いつか、ミカが自分の家に戻れるように

してあげたほうが良いのだろう


ミカは、着替えを数着、

自分のリュックに入れていた。

寝袋が数人分、二人が居る地下2階の核シェルターに

保管されているので、

急いでミカが私物を取りに帰る必要もないだろう


とりあえず、二人で、空いている部屋を

ミカの部屋に改装することにした



「自作パソコンをやっていると、

 どんどんパーツが増えて行ってね。

 今使っているのと大して性能の変わらない

 ハイスペックマシンを

 何台も作れるほどなんだ」



パソはタロとミカにとって生命線のようなものだ


これからも文明が復興しないとしたら、

今の在庫で、これから数十年は

頑張ってもらうしかない


結局、空き部屋を改装するとは言っても、倉庫から

折りたたみ式のちゃぶ台と座布団と寝袋を

持ってきて、それはすぐに終わった。

しばらくの間、二人で自作パソコンを

組み立てることになった


完成したミカ部屋は、年ごろの女の子の部屋とは

思えないほどシンプルなものだった


フローリングの床の上に、ちゃぶ台があって

その上に、液晶ディスプレイとキーボードと

ゲーミングマウス、

ちゃぶ台の真横にミドルタワー型の

自作パソコン、前に座布団が敷かれ、

寝袋とリュックは、隅っこに置かれている



ミカは言った



「パソコンまで用意してくれて、

 本当にありがとうございます。

 本当に、どう感謝すればいいのか、

 わからないほどです」



タロは言った



「俺たちはパーティーの仲間だろ?これから

 ネトゲで組むんだから当然のことだよ。

 んじゃあ、今から夕飯の時間まで自由時間だ、

 ネットサーフィンするなり、

 ネトゲにログインするなり好きにしてくれ。

 でも、くれぐれも注意してほしいのは、

 今の自分の状況を他の人に

 ベラベラとしゃべっちゃダメだからね」



ミカは初めて笑顔を見せた気がした



「はい、こう見えても私は、

 十年くらいネットを使ってきてます。

 ネットリテラシーはちゃんとわかっていますから」



改めて見ると、眼鏡を掛けた小さな天使だ


タロは急いで顔を背けてそそくさと去っていった


自室に戻って机に座り、タロは考え事をしていた



「密閉された空間に二人の人間が閉じ込められている

 考えられる危険としては、閉塞感に耐えきれずに

 一人の気が狂って、もう一人を

 危険に晒してしまうことだ。

 特にミカは多感で精神が不安定な年ごろだ、

 こんなおじんと二人きりな状況に耐えきれるか?

 ネットで出会ったイケメンにそそのかされて

 俺を裏切る可能性は?

 いや、ミカも俺と同じ引き籠りだ、俺と同じく

 この状況を快適だと感じてくれるはずだ。

 過度な接触はせずに、お互いのプライベート空間を

 保ってさえいれば取り乱すことはあるまい」



...不安で気が重くなる


タロは、隣の制御室の操作パネルの鍵を

しっかり握りしめた



結局、二人とも夕食の時間まで、

ネトゲにログインすることはなかった


居間でタロとミカは再会した



タロはひどく狼狽していた



「ちょ、ちょっと、困るよ君、その恰好は困るよ君」



両手で頭を抱えようとする動作を途中で

何度も辞めるような、

意味不明の動作を繰り返すタロを

ミカはキョトンとしたような顔で見返した



なんとミカは着替えていた



「え?あ、ごめんなさい、変ですかね?

 私は家ではいつもこんな風なんですけど」



長い黒髪に眼鏡を掛けている。

しかし、身体に着けているのは

アニメキャラがプリントされた

薄水色のビッグTシャツ一枚だけだった


縞々模様のタイツも脱いで、素足だ


タロはあからさまにキョドリながら言った



「あ、ああ、まるで本当の家に居るようかのように

 くつろいでくれているならこちらも

 願ったりだ。

 と、とりあえず、ご飯を食べよう」



当然それはミカがあえてやっていることだった


14歳の少女とは言え、自分の置かれている現状は

理解している。

自分は何も持たないか弱い存在、

彼に嫌われてしまったらそれでおしまい


ゾンビのはびこる外界に放り出されて

生き延びる自信は全くなかった


それは、女性としての古い本能、そして

理性で導き出した結論との悲しい融合



自分を庇護してくれる存在に

気にいられなければならない

















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